ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。

 ライターのヨージロがおすすめするタイトルは、プレイステーション4、Xbox One、PC用ソフト『Outer Wilds(アウターワイルズ)』および、同作の追加ダウンロードコンテンツ『Echoes of the Eye(エコーズ・オブ・ジ・アイ)』です。

【こういう人におすすめ】

  • 寝る間も惜しんでゲームをしたい人
  • 迷子になったとしてもその状況を楽しめる人
  • 壮大な物語を味わいたい人

ヨージロのおすすめゲーム

『Outer Wilds』

  • プラットフォーム:プレイステーション4、Xbox One、PC
  • 発売日:プレイステーション4版/2019年10月25日、Xbox One版/2020年5月1日、PC版/2020年6月19日
  • 発売元:Annapurna Interactive
  • 開発元:Mobius Digital
  • 価格:プレイステーション4版/2962円[税込]、Xbox One版/2900円[税込]、PC版/2570円[税込]
  • 備考:ダウンロード専売 DLC『Echoes of the Eye』は2021年9月29日配信で、プレイステーション4版とPC版が1650円[税込]、Xbox One版は1750円[税込]
『Outer Wilds』PS Storeサイト 『Outer Wilds』Microsoftストアサイト 『Outer Wilds』Steamサイト 『Outer Wilds』Epic Gamesストアサイト

『Outer Wilds』&『Echoes of the Eye』を年末年始に遊ぶべき理由

 『Outer Wilds』および、同作の追加ダウンロードコンテンツ『Echoes of the Eye』が年末年始のような大型連休にピッタリな理由はふたつある。

 ひとつは、このゲームはプレイヤーの知識の蓄積が重要なつくりになっているから。とは言っても、キャラクター名や専門用語、複雑な操作をたくさん覚えなければいけない、という意味ではない(まあ、それもある程度は必要だけど)。

 たとえるなら、近所を散歩していて気になるスポットを発見するような、そういったフィールドワーク寄りな知識の蓄積が重要なのである。当然それにはある程度の時間が必要だし、記憶は時間とともに薄れていくので、連休中に一気に遊べるにこしたことはないのだ。

 もうひとつの理由は、一度本作の魅力に気づいてしまったら最後、寝る間も惜しんで遊ばざるを得ないから。ふだんであれば、寝る間も惜しんでゲームを遊ぶなんてリスクが大きい行為だし、実際僕は本作を平日に遊んでいてひどい目に遭った。でも、大型連休中ならたとえ徹夜して翌日寝坊しようがほぼノーダメージである。

 つまり、いま遊ばなくていつ遊ぶの!? って話だ。

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 『Outer Wilds』は太陽の超新星爆発で消滅する恒星系の“最後の22分間”を、延々とループしながらその原因を探る一人称視点のSFアドベンチャーゲーム。作品の特徴をひと言で表すならば“放任主義”になるだろう。

 自由度の高さをウリにしたタイトルは数あれど、ことゲーム進行の自由度に関して言えば、『Outer Wilds』とそれ以外ではサバンナと動物園くらい差がある。

 動物園なら決まった時間になれば餌が出てくるし、園内散歩となれば係員たちが注意深く誘導してくれるだろう。しかし、サバンナでの生活はそうはいかない。食事は自分で調達しなければけないし、不用意な散歩はイコール死である。たぶん。

 宇宙の話をしているはずが、なぜかサバンナで生きることの厳しさを説いてしまったが、言いたいことはだいたいわかってもらえたと思う。

 放任主義の『Outer Wilds』は自由であるが故に難度が高い。この“難度が高い”は単純にゲームとして難しいという意味もあるが、それに加えて“楽しい”と感じるまでのハードルが高い、という意味でもある。

『Outer Wilds』の楽しさは散歩の楽しさに通じるものがある

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 『Outer Wilds』の楽しさとは何か? 本記事の冒頭でさらっと触れた“散歩”だが、これが意外と本作の楽しさを的確に説明できているような気がしないでもない。

 個人的な話で恐縮だが、半年くらい前から月数回のペースで散歩をするようになった。始めたころは自宅周辺を30分ほど歩く程度だったのだが、すぐに物足りなくなり、最近は自宅の最寄り駅から電車に乗って3〜4駅先で降りて、スマホの地図に頼らず数時間かけて家に帰るということをしている。

 自宅から3〜4駅っていうのは、よく知っているわけでもないが、まったく知らないわけでもない絶妙な距離感で(地域によって差はあると思うけど)、道に迷ってウロウロしているうちに「ああ、この道に出んのね!」という“つながり”の発見がけっこうな頻度で起こる。また、地域の歴史や文化を知ることも少なくない。

 僕の家の近くには3つの苗字が集中する地域があるのだが、それはかつてそこが漁師町だった名残であり、漁師町(だった)なのに海岸線から離れた場所にある理由は、50年以上前に大規模な埋め立てがあったから……ということを知っているのは散歩で道に迷ったおかげだ。

 道に迷うのは疲れるし、時間を無駄にしてしまった後悔も残る。でも、地図どおりに正しく効率的な道だけを進んでいては見られない景色や、見落としてしまうサムシングは確実にあるのだ。

 そして『Outer Wilds』には、そんなサムシングがアホみたいに詰まっている。あるいは、道に迷うことを楽しむようなマインドがあって初めて輝く作品と言ったほうが正しいかもしれない。

 だから、本作を購入したもののなにをすればいいのかわからず途方に暮れてしまっている人がいるなら、とりあえずループのこととかは忘れて、22分間の宇宙散歩を楽しんでみればいいと思う。

 たとえば、“灰の双子星”から砂が吸い上げられるのをずーっと追いかけてみるとか、崩壊し続ける“脆い空洞”でどこまでブラックホールを回避できるかに挑戦してみるとか……それくらいボンヤリとした遊びかたでも問題ない。その過程で、必ずひとつやふたつは「ん、なんだこれ」(ゲーム内の言葉を使えば“航行記録”の追加)が出てくるだろう。

 ただし、「ほかの人はどう遊んでいるのかなー」みたいな軽いノリで実況動画を観ることだけは絶対にしてはいけない。アレはこのゲームを“クリアーしてしまった”という呪いでゾンビ化した人たちを癒すために存在するものである。ゾンビ化していない人が観れば、強すぎる浄化作用で“ネタ腫れ”を起こし、一生消えない後悔を残すことになるだろう。

『Outer Wilds』本編の話をこれ以上するのは正直シンドイ

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 ……と、ゲーム内容について具体性に欠ける話が長くなってしまったのだが、これには深い理由と恥ずかしい理由がある。

 まず深い理由だが、『Outer Wilds』は制作者いわく“好奇心駆動型の冒険”であり(※)、本作はプレイヤーが抱く“気になる”や“わからん”の感情を推進力として物語が進んでいく。そのため「このゲームのおもしろいところはかくかくしかじかじかで、とくにあの謎解きにはマジしびれったす!」みたいなことを書こうものなら、それは本作をこれから遊ぶ人の楽しみを奪うことになりかねないのだ。

 だから、どうにも抽象的だったりたとえ話が中心の内容になってしまったのである。

 一方で、そんなネタバレ厳禁な内容であるにも関わらず、本作の熱狂的としか言いようがないプレイ体験は多くのゲーマーたちを“早口”にし、あまりにも多くのことが語られすぎている――というのが、本作を語りたくないもうひつとつの理由だ。

 検索すると出てくる複数の優れたレビュー記事はどれもじつに早口で書かれていて(褒めてます)読み応えがあり、それらを前にして、いまさら本作について何かを語るのは末席を汚すようで恥ずかしいのである。

 というわけで、具体的な話はなにもしないまま、追加ダウンロードコンテンツ『Echoes of the Eye』の話に進もうと思う。

※参考:訳文;「"好奇心駆動型の冒険"とでも言うべき特殊なタイプの冒険に報酬を与えるゲームをつくりたい、それが『Outer Wilds』の主目的です」A・ビーチャム氏の論文より(すやすや眠るみたくすらすら書けたら)

『Echoes of the Eye』を遊ばないのはドラマの最終回だけを観ないようなもの

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 “追加ダウンロードコンテンツ”と言われて、どんな内容を思い浮かべるだろうか? サブキャラクターの視点から本編外で起きていたことを描くものや、過去に遡るエピソード0的なものなどが比較的よくあるパターンだと思う。

 いずれもプレイすることで本編への理解がより深まるもの……だが、それは裏を返せば本編に満足している(あるいは不満足)なら、べつに遊ばなくても問題がないものとも言える。僕自身、いままでに多くの追加ダウンロードコンテンツをスルーしてきたし、それに後悔したこともない。

 しかし、『Outer Wilds』本編を終えたのに『Echoes of the Eye』を遊ばないのは大問題だし、絶対に後悔する。

 全10話あるドラマを第9話まで観て「よし、ほぼ観終わったな!」と言って鑑賞を終える人がいたらどう思うだろうか? 『Echoes of the Eye』を遊ばないってのはそういうことだ。

 新たな探索の舞台こそ登場するものの、プレイヤーを取り巻く環境は本編から地続き(というか、ごく一部を除いて何ひとつ変わっていない)で、相変わらず太陽は22分ごとに爆発するし、相変わらず誰もアレをしろコレをしろって指示してくれないから好奇心駆動は欠かせない。

 そしてこれがいちばん大事なことなのだが、『Echoes of the Eye』で起きることは本編にも影響を与える。ゲームの展開的にも、プレイヤーの感情的にも、だ。

 改めて言うが、『Outer Wilds』本編を遊んだのに『Echoes of the Eye』を遊ばないってのはドラマの最終回だけを観ないようなものである。


























『Echoes of the Eye』は物語もめちゃくちゃいい

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 我ながら大仰な言いかたをしてしまった気もするが、ドラマの最終回とかそういうのは抜きにしても、そもそも『Echoes of the Eye』は物語がメチャクチャいい、っていうことはしっかり言っておきたい。

 本編ではNomaiたちの交信記録(会話記録?)を翻訳機を通じて言語として読むことがてきたので、彼らが何を考え、なぜそんなことをしたのかについてはハッキリと理解できた。対して『Echoes of the Eye』に登場する種族の言語は翻訳機に対応していない上に、そもそも同種族はピクチャースライド(みたいなやつ)で記録を残す文化だったため、彼らが何を思い、考え、行動したのかについては最終盤までハッキリとはわからない。

 それだけに、最後の最後のショッキングな出会いから始まる怒涛の正解発表……穴埋めクイズの穴が勢いよく埋まっていくように彼らが何を思い、考え、行動したのかがわかる展開は興奮するし、なんとも感動させられるのだ。

 『Outer Wilds』で展開された、完成形がわからないままバラバラだったパズルのピースをちくちくと組み立てていたら、それが突然カチッと1枚の絵になるシナリオ構成は確かにほかに類を見ないほど鮮やかだった。

 でも、『Echoes of the Eye』のように、途中段階で完成形がわかるものの、肝心なところは隠されている絵が、最終盤でバシッと完成する展開もベタではあるが悪くないし、本作のように言語に頼らず物語を描くのであれば、ある程度はベタでないと「よく意味がわからない話」になりかねない。ベタでなにが悪いのか、って感じだ。

 それに、この『Echoes of the Eye』が本編に対する超巨大なパズルのピースになっている時点で、やはりこれは紛うことなき『Outer Wilds』なのだ。

『Outer Wilds』の冒険は“理解することの怖さ”と向き合う冒険だった

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 『Echoes of the Eye』を経てから見る『Outer Wilds』のエンディングはエモさ10倍増しに感じられるだろう。が、感動しつつも僕は「で、これってけっきょくなんの話だったんだろうか」と考えてしまった。

 『Outer Wilds』にはプレイした人の数だけ独自のゲーム進行があり、好奇心、探究心の強さ次第で世界に対する解像度も大きく異なってくる。だから、作品からどんな感動を得てエンディングをどう解釈するかは、ハッキリ言って人それぞれだ。

 その前提で(かつ、歯が浮くような気取った言い回しであることを自覚しつつ)言わせてもらうと、この物語は“理解することの怖さ”と向き合う物語だったのではないかと思う。

 “理解”ってのはポジティブなことと捉えられがちだが、実際には恐ろしいことも少なくない。好意を寄せている相手が、自分のことをどう思っているかを理解するのはとてつもなく恐ろしいことだ。同年代がどんどん出世していくなか、いまだ役職経験がない自分の立場を自覚するのも非常に怖い。だから事実から目を背けたり、理解を放棄したりすることもあるだろう。

 『Outer Wilds』のある登場キャラクターは、22分後に太陽が超新星爆発を起こすことを理解して考えることをやめた。『Echoes of the Eye』で描かれた“衝撃的な事実”が一族に巻き起こした恐慌。出した結論は現状維持だった。

 そんななか、理解する怖さと向き合い続けたのが、『Echoes of the Eye』の彼(彼女?)であり、Nomaiたちであり、Herrthianの新人パイロット(主人公)だったのではないだろうか。

 冒険を終えた僕らにとって、Nomaiたちは愛すべき隣人であり、生きた時代は違えど宇宙の謎に立ち向かった同志とも言える存在になった。だけど、初めは違ったはずだ。

 “脆い空洞”に建設された“空中都市”を初めて見たとき、僕らは少なからず不安を覚えたし、“巨人の大海”の彫像工房はただただ不気味だった。宇宙の各所で見つかる断片的なメッセージから、自分たちとは違う文化・常識で生きる存在に対して恐怖感、嫌悪感を抱いたことは一度や二度ではないはずだ。

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 なかでもいちばん怖かったのは、彼女との出会いだった。

 それは、ともすればホラーとも言えるくらいに鮮烈な出会いで、遠目にその姿を確認したときは幽霊を見たような気分になったはず。でも、それまでの冒険でNomaiの痕跡を追い続け、理解に理解を重ねてきた僕らは、恐怖の壁を飛び越えられた(あそこで引き返す人はいないと思うけど)。

 『Echoes of the Eye』に至っては、ほぼ全編が恐怖との戦いだった。とくに彼の登場の仕方なんて「ベタなホラー映画演出だな!」と笑ってしまいそうになるくらいだったが、それだけに直後に訪れる理解と共感に胸が熱くなってしまったのだ。

 だが、なによりも理解するのが怖かったのは、この素晴らしいゲームもやがて終わるという事実だった……というわけで、各種レビュー記事やSNSでの感想などでもさんざん使われた表現だが、やっぱり最後にこれを言わずにはいられない。

 できることなら、記憶を消してもう1回遊びたい。

執筆者紹介:ヨージロ
元ファミ通編集部ニュース班で現在はサラリーマンの兼業ライター。最近Xbox Series Xを購入したので、Xbox Game Passを毎晩ウヒウヒ言いながら遊んでいます。

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