先日、日本マイクロソフトによるデジタルイベント“Microsoft Japan Digital Days”が開催された。マイクロソフトによる最新テクノロジーを、130のセッションでお届けする本カンファレンスにおいて実施されたのが、“本田翼プロデューサーに聞きたいゲーム開発プロジェクト「ほんだのげーむ」制作秘話”だ。

 ご存じの方も多いかと思われるが、「ほんだのげーむ」は、女優の本田翼さんと、マイクロソフトがタッグを組んだゲーム開発プロジェクト。ゲーム好きの本田翼さんみずからが、“ゼロから作り上げている”というところが強調しておきたいポイントで、2021年6月には、本プロジェクトにて開発されたスマートフォンアプリ向け『にょろっこ』が配信開始され、大きな注目を集めた。

 前述の通り、本田翼さんがゼロから作り上げた『にょろっこ』において、大きな役割を果たしたのが、Microsoft AzureといったテクノロジーやSurface、Teamsといったデバイス、ツール群だ。セッションでも言及されていた通り、「マイクロソフトのテクノロジーやツールがなかったら、『にょろっこ』は完成していなかったのでは」と思われる。

 本セッションでは、そんな『にょろっこ』開発の日々が、本田翼さんを特別ゲストに招き、日本マイクロソフトの米倉規通氏と小田健太郎氏を交えて語られた。マイクロソフトのテクノロジーやツールは、『にょろっこ』開発にどのように活用されたのか、セッションの内容から改めて紐解いていこう。

<登壇者>

・本田翼さん

・米倉規通氏
日本マイクロソフト
ゲーム&エンターテイメント営業本部 本部長

・小田健太郎氏
日本マイクロソフト
Azure ビジネス本部 プロダクト マーケティングマネージャー

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった

※この記事は日本マイクロソフトの提供によりお届けしています。

Microsoft Game Stack 特設サイト

本田翼さんの夢をマイクロソフトが支援すべきだと判断

 「マイクロソフトのゲームビジネスと言えば、誰もがXboxを思い浮かべることと思うが、実際のところはXboxだけではない」と米倉氏はセッションの口火を切る。マイクロソフトにはMicrosoft Visual Studioといった開発環境やMicrosoft Teamsといったツールがあり、ゲーム会社がいろいろなところで技術やサービスを活用している。そういう意味では、ゲーム業界への働きかけという意味でのマイクロソフトの強みは、「360度全方位で開発者を支援できること」だと米倉氏は自信を持って強調する。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった

 ゲーム開発に対する知識や経験がいっさいなかった本田翼さんの“ゲームを作りたい”という夢をかなえることができたのも、“360度全方位で開発者を支援できる”マイクロソフトの体制があればこそというわけだ。

 マイクロソフトが、本田翼さんのプロジェクトをサポートすることにした理由に関して米倉氏は、「“マイクロソフトってすごいな”と思ってもらえるために、業界の中でプレゼンスを高めるべく、本田さんとごいっしょすることで、“花火”を上げたかった」と、いささか率直に語りつつ、ふたつめの理由としては、「マイクロソフトには、“すべての組織がより多くのことを達成できるようにしたい”というミッションがありますが、本田さんがゲームを作りたいという夢をもっていて、そこに対してマイクロソフトが持っている技術やサービスで、それが支援できるとしたら、会社としてもやるべきなのではないか」と判断したからだという。

 「マイクロソフトがやらなければ誰がやるの?」という心境だったのではないかと想定されるが、最終的にはそういったマイクロソフトのスタンスが本田さんの求めていたものでもあったようで、両者が協力してのプロジェクトがスタートする。それが2019年6月のこと。

まさに産みの苦しみ、で最初はけっこう難航

 『にょろっこ』のプロジェクトがスタートした経緯などに関しては、発表会などでも語られていたが、セッションの皆さんのお話を聞いていると、最初は「ぜんぜんうまくいかなかった」(本田さん)、「産みの苦しみが半年から1年弱くらいありました」(米倉氏)という通り、けっこう難航していたようだ。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった

 その理由は、端的に言うと、お互いがどこまで関わったらいいか、距離を図りかねていたからのようだ。「本田さんがゲームを作りたいということを応援しようとは思ったものの、こちらが作ったものを監修してもらうのがバランスがいいのか、本当にゼロから作りたいのか、そのへんが僕自身も探り探りになってしまいました」(米倉氏)という。

 本田さんも、「“こういうのをどうですか?”と、何社もの方にプレゼンいただいたのですが、私もけっこう意思が強いほうの人間なので(笑)、“何か違うな”をごまかしていけるのかな……と思ってしまったんです」と、当時の心境を率直に吐露。

 それが、「これでいいのかな」という迷いがあるときに、ふとした雑談のおりに、「こんな感じのゲームがいいな」と描いたイラストが突破口になったという。米倉氏も、「あの瞬間に走り出しました。そこまでできているなら、“なぜ最初から言ってくれないの?”という感じでした(笑)。“じゃあ、これをやろうよ!”ということで、一気にまとまりました」と、当時を回想する。

 本田さんの「自分もゲーム開発の知識がなかったので、自分が考えていることが合っているのかどうか、けっこう不安が大きくて、プロの方々が考えたもののほうがいいのかなという思いもあって、どうしても言い出せなかった」という気持ちは痛いほどわかる。これも産みの苦しみということだろう。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった

本田さんも大いに重宝したMicrosoft Teams

 360度全方位で、マイクロソフトのテクノロジーやツールを駆使した『にょろっこ』のプロジェクトにあって、本田さんがいちばん恩恵を感じたと思われるのがMicrosoft Teamsだ。

 これは、いうまでもなく開発に着手してからしばらくして、新型コロナウイルス感染症の影響が拡大したことと密接に結びついていて、「コロナになって、“打ち合わせをどうしよう”と思ったときに、Microsoft Teamsのことを教えてもらったんです。これがなかったら打ち合わせもできなかったと思います。初めてテレビ会議のシステムを使ったのですが、とにかく便利で! 背景とかも変えられて感動しました」と本田さん。

 撮影の合間の控室からログインしたり、移動のクルマの中で打ち合わせをしたりと、忙しい身である本田さんからしてみれば、けっこう重宝したようだ。

 米倉氏も、「スタッフが集まってTeamsでミーティングをして、本田さんのイメージを“こういうのでいいですか?”と画面で共有して、フィードバックをいただいて……という感じです」と、Teamsにより打ち合わせがスムーズに行ったと語る。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった

 また、米倉氏の口からは、Azure PlayFabの開発者に対する利便性の高さも語られた。Azure PlayFabとは、相当はしょって説明すると、ゲームに必要なさまざまなバックエンドの機能をおおむねまかなってくれるというシステム。「開発会社の方もPlayFabを評価していただいて、PlayFabがあったからこそ、短期間で本田さんの思いを開発プログラムで実現できたというのはあります」という。セッションではくわしくは語られなかったが、あるいは360度全方位で開発を支援するための、キーとなるテクノロジーだったのかもしれない。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった

 なお、Azure PlayFabに関していうと、『にょろっこ』を開発したナウプロダクションの担当者の方に取材した記事が、日本マイクロソフトの公式サイトで公開されている。 “本田翼さん製作総指揮の本格スマホゲームを Azure PlayFab が開発支援! 短期間のリリースを実現できた理由とは?”と題されたこの記事では、限られた予算と時間のなかで、効率的にゲームを開発するために、いかにAzure PlayFabが有効に活用されたかが語られている。

 詳細は記事をご確認いただきたいところだが、開発者視点でのAzure PlayFabに対するコメントは、とても興味深い。

 「今回のような本格的なゲームの場合、開発期間だけで2年以上にわたるのが一般的です。しかし今回、Azure PlayFabを採用したことで、開発着手から1年数カ月でリリースすることができ、非常に短期間で開発することができました」(ナウプロダクション 執行役員 『にょろっこ』ゲーム開発プロジェクト統括 粟村剛敏氏)

 「通常、マルチプレイを実装していくには大きなコストがかかり、初期のプロトタイプでは完璧なものができません。しかしAzure PlayFabを用いると、プロトタイプ開発の初期段階で、最終系のマルチプレイのゲームスタイルを作ることができます。はじめはこれが大きな衝撃でした。さらに開発が進み、Azure PlayFabやMicrosoft Azureに触れてみると、他のクラウドサービスにはない、さまざまな魅力があることもわかりました」(ナウプロダクション ECDstudio技術開発部 課長 伊藤明男氏)

 「エンジニアでない方に開発手法やコードの話をしても、意思疎通に時間がかかってしまいます。Azure PlayFabの場合は、一般的なゲームで必要になる機能がわかりやすいかたちで揃っているので、特定の要望に対して『この機能を使えば実現できます』とシンプルに説明しやすい。本田さんも『それならこうしたい』と具体的に提案を行なってくれたことで、本田さんの希望に沿ったかたちで開発することができました」(粟村氏)

本田翼さん製作総指揮の本格スマホゲームを Azure PlayFab が開発支援! 短期間のリリースを実現できた理由とは?

自分の意志を通すには、ときに嫌われる覚悟も必要

 セッションの後半は、ユーザーの皆さんと日本マイクロソフトの社員からの質問に対して、本田翼さんがぶっちゃけて答えていくという趣旨で進行していったのだが、本田さんのコメントからにじみ出てくるのは、ゲーム作りに対するたいへんさ。

 「ぶっちゃけ、ゲームを制作されてみていかがでしたか?」との質問に対しては、「経験としてすごく楽しかったのですが、責任もありますし、時間にも追われます。とにかく自分の思考の共有がとても難しかったです」と返答。本田さんは、「もっとふわっと」とか、けっこう感覚的な言葉を使いがちなので、とくにデザイン担当の方は困っていたのではないかと、スタッフの心中を思いやる。「“青をぱきっとしてほしい”とか、へんな表現をしてしまって……色味や雰囲気、ちょっとした細かさだったりを伝えるのがたいへんでした」(本田さん)。クリエイティブの監修がたいへんなのは、無理もないところ。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった
ロゴの製作の際も、本田さんから細かい指摘があったらしい。「“ちょっときれいすぎますね”とか、“サイズが微妙ですね”とか、本当に細かいことを言わせてもらいました……」とのこと。

 そんな本田さんが『にょろっこ』の開発を経験していたった境地が「今回のプロジェクトを経て、心を鬼にしないとだめだという部分がたくさんありました。自分が作るものは、自分の意思と、“これは変えたくない”という強い気持ち、そして嫌われる覚悟が必要なんだということがわかりました」というから痺れる。

 最後にゲーム開発者へのメッセージを求められた本田さんは、「自分がゲーム開発を経験してわかったのは、“大切なのは自分の意志を曲げない気持ち”でしょうか。“こういうゲームを作りたい”という思いだけは曲げないように私は作りました。それがすごく大事だと感じたので」とコメント。それは、何によらずモノづくりには必要なことであるのかもしれない。本田翼さんがゲーム開発で得たものは多かったようだ。

 そんな『にょろっこ』は、6ヵ月間の期間限定配信(つまり終了するのは12月)。まだプレイしていない人で、本田翼さんがどんなゲームを作ったか気になる人は、気軽に触ってみてはいかが。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった

 さて、セッションの最後に米倉氏から改めて紹介されたのだが、マイクロソフトでは開発者を支援するための取り組みとして、ID@Azureを近日開始予定だ。詳細は明かされなかったが、このID@Azureでは、インディーゲームデベロッパーや、米倉氏いわく“シティズンゲームデベロッパー”に、開発支援の裾野を広げるという。つまり、本田翼さんのように360度全方位でのサポートを受けられるのではないかということで……開発者にとっては、革新的なものになりそう。サービス内容の正式発表が待たれるところ。

『にょろっこ』の開発事例に見る、本田翼さんがゼロからゲームを作り上げるには、マイクロソフトの360度全方位のサポートが不可欠だった
『にょろっこ』公式サイト

※一部を除き、画像は配信番組をキャプチャーしたものです。