2021年3月にSteamでフルリリースされ、好評を博した『ロードス島戦記』の2Dアクション『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』が、家庭用ゲーム機向けとして発売される。対応プラットフォームはNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox Oneで、発売日は12月16日を予定している。

 本稿では、本作の開発を担当しているTeam Ladybugと、本作のプロデューサー・斉藤大地氏、そして、メトロイドヴァニアの隆盛に大きな影響を与えた五十嵐孝司氏、五十嵐氏とともに多くの作品を手掛けてきた飯田周太郎氏の4名による座談会をお届けする。

『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』が家庭用ゲーム機向けで発売決定! 開発スタッフ陣と五十嵐孝司氏、飯田周太郎氏による“メトロイドヴァニア座談会”をお届け

Team Ladybug氏(左上)

2D横スクロールアクションゲームを多数手掛けるインディーゲーム開発者。代表作に、『Touhou Luna Nights』、『Fate stay night RUN! RUN! ランサー』、『真・女神転生 SYNCHRONICITY PROLOGUE』、『この素晴らしい世界に祝福を! 復活のベルディア』など。

斉藤大地氏(右上)

Why so serious代表。本作のほか、『Touhou Luna Nights』など、Team Ladybugの多くの作品のプロデュースを務める。

五十嵐孝司氏(左下)

ArtPlay 代表取締役。“IGA”の愛称でゲームファンに親しまれているゲームクリエイター。数々の人気作を手掛ける。直近の代表作は、『Bloodstained: Ritual of the Night』。

飯田周太郎氏(右下)

ArtPlayディレクター。五十嵐氏とともに、『Bloodstained: Ritual of the Night』など、著名タイトルの開発に多数携わる。

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作品の没入感を高めるためにキャラクターにあったアクションを開発

――まずは、『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』の開発経緯を教えてください。

斉藤原作の『ロードス島戦記』が2018年に30周年を迎えたこと、そして2019年に12年ぶりの原作新シリーズ『ロードス島戦記 誓約の宝冠』(以下、『誓約の宝冠』)が刊行されたということで、担当編集の方に「何か、おもしろい企画はないですか?」と相談されまして。そこで、「すばらしいゲーム開発者がいる」ということで、お話しさせていただいたんです。

 その後、Ladybugさんが描かれた本作のプロトタイプのドット絵を、原作者の水野良先生に見ていただいたところ、とても気に入ってくださり、本作の開発が決まりました。

――なぜ、Ladybugに開発をお願いすることにしたのですか?

斉藤Ladybugさんは、前作では『東方Project』の二次創作ゲーム『Touhou Luna Nights』を手掛けられたのですが、IPの大きさや作品のクオリティーも相まって、若い世代を中心に、多くのユーザー様に手に取っていただけました。インディーゲーム界隈において、Ladybugさんに注目が集まっているなと僕自身も感じていた折に、今回のお話をいただきまして、大きなチャンスだと思い、お声がけさせていただきました。

 『ロードス島戦記』という、とても大きく、かつ幅広い世代に人気のIPの作品をLadybugさんが手掛けられたら、これまで以上に彼らの作品のすばらしさや技術力が世に伝えられるのではないかと考えたんです。

『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』が家庭用ゲーム機向けで発売決定! 開発スタッフ陣と五十嵐孝司氏、飯田周太郎氏による“メトロイドヴァニア座談会”をお届け
Team Ladybug氏の前作となる『Touhou Luna Nights』は東方二次創作の2D探索型アクションゲーム。2018年にPC向けにリリースされたのちに、Xbox OneやNintendo Switchでも発売されている。

――なるほど。斉藤さんとしては、Team Ladybugさんの実力を高く評価していたということですね。では、本作の開発はどのようにして行われたのでしょうか?

Ladybug『ロードス島戦記』のゲームを開発しようとなったときに、まず必要な要素として連想したのは、パーティーを組んで冒険するRPGの要素でした。

 ですが、本作は『ロードス島戦記』の新しいシリーズ『誓約の宝冠』と、これまでの作品とのあいだに生まれた空白の100年の期間の物語を、ディードリットの視点から描く作品という企画となっています。そうすると、ディードリットはエルフなので、永遠の生命があるような状態ですが、ほかの登場人物たちは寿命を迎えて、その生涯を終えています。100年間に何があったのかは、ディードリットひとりの視点からでしか描けないわけです。

 それで、ひとりで冒険ができるメトロイドヴァニアというジャンルに自然と決まり、開発が進行していきました。

斉藤ひとりで迷宮を彷徨いながら冒険するということは、すごく孤独なことだと思います。『ロードス島戦記』というのは、“ディードリットの孤独”というのがひとつの大きなテーマとしてあると考えていました。水野さんからも「その一面はすごく強くあるし、ひとりで迷宮を探索していくゲーム構造は、的を得ているのではないか」とお墨付きをいただきました。

――開発でとくにこだわった点はありますか?

Ladybugディードリットが主人公のアクションゲームを想像してみたときに、“飛べること”が大きな魅力なのではないかと考えました。開発にあたって、『ロードス島戦記』のアニメなどを全部見直したのですが、ディードリットが空中を漂うようなシーンがたくさんあるんです。空中をホバリングするような、自由に動くような……。

 そんな彼女の特性をアクションゲームに落とし込みたいという想いがあり、空中を自由に飛べて、かつアクションゲームとして楽しめる作品を作ろうと考えたんです。結果、それは本作ならではの魅力となったと感じています。

――まさに、ディードリットにピッタリのアクションゲームということですね。

Ladybugあと、“没入感を高める”という意味で、私は動きにもこだわっています。ディードリットのモーションですね。たとえば本作では、ゲームの冒頭で、ディードリットがとある場所で目覚めて起き上がるシーンがあるのですが、そこでの筋肉ひとつひとつの動きは、すごく意識して作りました。

 また、本編で彼女が悪夢の中に入り込む場面があるのですが、そこでは、これまで簡単に振り回せていた剣が突然重くなり、動作が遅くなります。思うように力が入らなくて、これまでどおりの動きが難しくなるんです。これらのように、本編の状況に合わせて、モーションをしっかり作り込み、彼女の冒険に没入できるようにしています。

『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』が家庭用ゲーム機向けで発売決定! 開発スタッフ陣と五十嵐孝司氏、飯田周太郎氏による“メトロイドヴァニア座談会”をお届け
2021年3月にSteam向けに配信され好評を博した『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』。この12月16日にはNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One向けに発売される。

――開発において、苦労された点はありますか?

Ladybug私自身のゲーム開発において、キャラクターに合ったゲームデザインを行うことと、最近だとほかのゲームでは最後に手に入るような便利な能力を最初から持っていて、それありきで遊ばせる、ということを意識していました。

 たとえば、前作の『Touhou Luna Nights』だと、最初から時が止められる能力を持っていますが、この能力によってプレイヤーが無敵にならないように、この能力があることを前提に、さまざまな調整を行いつつ、遊び応えのある作品づくりを心掛けています。

 本作ですと、ディードリットには属性の概念があり、敵と同属性のときにはまったくダメージを受けないというのと、先に挙げた、ステージ内を自由に滑空できるシステムがあります。とても便利な要素ですが、これらの要素が最初からあることを踏まえて、どのようにプレイヤーに楽しんでいただくか、ということを重要視しており、そのバランス調整には気を使いました。

――なぜ、最初からプレイヤーに便利な能力を与えるのですか?

Ladybug私は、どのような作品にも、独自の特徴的なゲームシステムが絶対に必要だと考えています。ほかの人には真似できない、作り手こだわりが感じられるようなものや、ひと目見たら、どのようなゲームかすぐにわかるものですね。

 本作においては、ディードリットの属性と、空を飛ぶという要素がそれに当たります。プレイヤーにとっては便利な能力ですが、ディードリットを操るという点において、このふたつの要素は欠かせないものですので、ゲームに組み込んでいます。それが、独自のゲーム性にも現れていると思います。

――ディードリットというキャラクターの特性をゲームで再現するには、欠かせない要素であったと。そのバランス調整は、どのように行っていったのですか?

Ladybugディードリットの飛行に関して言うと、序盤のステージでは、飛んでいればラクラク突破できる場面が多々あります。ですが、ゲームが進んでいくと、敵も飛びながら攻撃をしてくるようになりますし、飛んでいるディードリットを狙って技を発射してくる敵も多くなってきます。そうすると、飛んでいるあいだは動きが遅いので、敵からの攻撃が当たってしまうこともあるんです。

 一方で、地上で歩いて移動しているときのほうが、空中を飛んで移動しているときよりも移動速度は速いので、敵の攻撃を避けやすいんです。このように、それぞれでメリットやデメリットを用意することで、一辺倒なゲームプレイとならず、ゲームバランスを壊さない状態で、ディードリットを飛ばしてあげることができました。

『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』が家庭用ゲーム機向けで発売決定! 開発スタッフ陣と五十嵐孝司氏、飯田周太郎氏による“メトロイドヴァニア座談会”をお届け
ほかのゲームでは最後に手に入るような便利な能力を最初から持っていて、それありきで遊ばせることを意識しているというTeam Ladybug氏。『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』では、それを踏まえたうえでのバランス調整に気を配ったという。

Team Ladybug氏のゲーム作りは五十嵐孝司氏の作品に大きな影響を受けている

――Ladybugさんは、これまでに手掛けられた『Touhou Luna Nights』もメトロイドヴァニアの作品となっていますが、Ladybugさんの活動において、五十嵐さんの作品から受けた影響は大きいのでしょうか?

Ladybugめちゃくちゃ大きいです! 今日もお会いできて、とても光栄に思っています。『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』(以下、『月下の夜想曲』)は、僕にとても大きな影響を与えてくれています。『月下の夜想曲』の圧倒的な没入感には感動しました。ゲーム内のキャラクターの動きや仕草、背景ひとつひとつに至るまで、とても繊細に、丁寧に描写されていて、まったく手抜きがない。それによって、画面の向こうに、主人公のアルカードが本当に生きていると感じさせてくれるんです。ゲームの中の世界をリアルに体感させてくれる、そんな『月下の夜想曲』が大好きだったんです。

 あと、すごく細かなところですが、アルカードは椅子に座るときに、ふだんは腕や足を組んで、少し偉そうに座るんです。それが、礼拝堂という場所では、膝に手をおいて、行儀よく座ります。そこにすごく感銘を受けまして。

――礼拝堂だと態度が変わるんですね(笑)。

Ladybug僕も作り手ですのでわかりますが、ふたつモーションを描くのは面倒臭いんです。でも、そこで手を抜かずに、しっかりとキャラクターを描写しているのは、本当にすばらしいと思いました。

飯田描いている方は、すごく面倒臭がっていましたよね(笑)。

五十嵐モーションを描いたのは、当時の開発者の中でもトップクラスに優秀で、天才的なクリエイターが担当していましたが、気分が乗ったらガンガン作業を進めていくタイプでして。面倒臭がってはいましたが、作業中はノリノリで描いていた覚えがあります。

Ladybugそうだったのですね! いまお話に挙がったクリエイターの方が描かれたキャラクターの仕草ひとつひとつが、キャラクターに息を吹き込んでいるなと感じまして。アルカードは、礼拝堂では行儀よく椅子に座るけど、ふだんは腕を組んでリラックスして座る。このひとつのモーションの使い分けだけでも、このキャラクターがどういう性格をしているのかということが、画面の向こうから伝わってくるんです。ふだんはニヒルだけど、格式は重んじるタイプと画面から訴え欠けてくる。

 あと、ほかの作品ですと、空中に足場が浮いていたりするケースをよく見かけますが、『月下の夜想曲』の足場は、ゲーム内の背景とリンクして、違和感なく設置されていますよね。ゲーム内の足場が強引に空中に設置されるというのは、作り手の都合もあるので仕方ないなと思う部分もありますが、『月下の夜想曲』では、作品の世界に合わせて足場を作って、プレイヤーに違和感を抱かせない。こういったこだわりぶりが、より没入感を高めているのかなと考えています。

飯田足場が浮かないように、背景に合わせて設置するということには、すごく気を使っていましたね。

五十嵐ちなみに、背景を担当したのも、これまた天才肌の人間でして。

一同 (笑)。

五十嵐そもそも、『月下の夜想曲』の開発が始まる段階で、背景の天才とドットのグラッフィックの天才が開発チームに入ってきまして。これはよい作品が作れるぞと、開発におけるさまざまな制限があるなか、彼らにはかなり無茶をお願いしました。

 いまでは考えられない話ですが、プレイステーションの解像度は横が360ドットでしたが、256ドットにすることで少しでも処理速度を稼ごうとしたり、色数も16色に抑えて描いてもらったり。たくさん大変なお願いをしましたが、彼らは見事に達成してくれて、いまお褒めいただいたことが実現できたんです。

Ladybugたまに、浮いている足場もあるのですが、その足場には魔法がかかっているようなグラフィックになっていて、浮くべくして浮いているようになっているんです。

五十嵐そこは、すごくこだわっていました。

飯田私は浮いている燭台が好きではなかったです。ゲームの遊び的には浮いている燭台を活用することがあるのですが、『月下の夜想曲』では、一部浮いている燭台があるんですよ。それ以降のシリーズでは、ちゃんと背景に合わせて足場や燭台を設置してくれと指示しましたね。

Ladybug3Dグラフィックのゲームのように、フォトリアルで現実的な奥行きのある作品に比べて、2Dグラフィックのゲームはドットのイラストで描かれているので、ある種、嘘がある作品だと思います。ですが、『月下の夜想曲』では、仕草や背景の描き込みによって、その世界が実在しているように感じさせてくれる。その没入感というものに、当時若かった私は本当に感動しました。

 私は若いときからひとりでゲームを作っていましたが、このころから、いつか『月下の夜想曲』のような次元の作品を作りたいと考えるようになりました。ほかにも感銘を受けたポイントがあるのですが、まだお話しても大丈夫ですか?

――どうぞ、どうぞ!

Ladybugドットのイラストの作品でリアルさを追求すると、処理速度の都合上、アクションにおける操作性は失われる場合がありますが、『月下の夜想曲』では、仕草などによってリアルさにアプローチをしているので、操作性もしっかりと担保されているんです。

 たとえば、ほかの作品ですと、キャラクターがいまいる足場からほかの足場へジャンプするときに、ふつうだと落下しながらジャンプは行えないのですが、『月下の夜想曲』の場合は多少落下しながらでもジャンプができるんです。

飯田そうですね。落下しながらでもジャンプできるようになっています。これは五十嵐さんの要望によるものですが、その後のシリーズでも、このシステムは導入されているはずです。

五十嵐私自身が下手だからということもありますが、操作性と遊びやすさに気を使った結果、いま挙げていただいたシステムは入れました。

Ladybug『月下の夜想曲』は、背景はもちろんキャラクターのモーションまでものすごくリアルに描き込まれているのに、操作性も失われていない。この両立もすごいなと思いました。僕のゲームは、そこまでのリアルさと操作性の両立はできていませんが、プレイヤーが遊びやすいよう、操作性も大事にしないといけないなと教えてもらった作品です。

――非常に興味深いお話です。そうすると、Ladybugさんは、五十嵐さんのゲームをお手本として、これにより近づきたいという想いのもと、作品作りを行っていらっしゃる?

Ladybugおっしゃるとおりです。高い評価を受けている作品には、評価されるだけのすばらしい要素があります。私も参考にしている作品は多々ありますが、五十嵐さんの作品もそのひとつです。私の作品作りにとって、非常に大きな存在となっています。

――お話を聞いていると、五十嵐さんにとっては、Ladybugさんが精神的な弟子のような感覚になるかなと思うのですが、五十嵐さんはいまのお話を聞いて、どのように感じましたか?

五十嵐とても光栄です。また、ひとりの人生を狂わせてしまったなと(笑)。以前、『ときめきメモリアル』を手掛けたときもそうだったのですが、『ときめきメモリアル』によって人生が変わった人がいるというお話をたくさん耳にしていまして。我々が作ったものが、誰かの心に残って、それによって人生が変わるというのは、作り手冥利に尽きますね。

――そんな五十嵐さんの影響を大いに受けて、こだわり抜かれた本作の家庭用ゲーム機版がリリースされますが、改めて現在のお気持ちをお聞かせいただけますか?

Ladybugとても嬉しいです。前作の『Touhou Luna Nights』も家庭用ゲーム機向けにリリースされましたが、今回はパッケージ版も発売されるそうなので、大変興奮しています。

――現在リリースされているSteam版が大変好評ですが、ユーザーからのフィードバックで印象的だったものはありますか?

Ladybug本作の実況プレイをたまに拝見するのですが、その中で、コアな『ロードス島戦記』ファンが遊んでいるのを目にしまして。その方が心から感動してくれていたのが、本当に嬉しかったです。あと、ファンの方からメッセージをいただくことががあるのですが、最近「涙しました」というメッセージをいただきまして、そこまで私の作品で感動してくれるなんてありがたい、と思いましたね。

いま改めて考えるメトロイドヴァニアらしさとは

――それは、喜ばしいことですね。五十嵐さんと飯田さんは、本作をプレイしたとのことですが、いかがでしたか?

五十嵐とても完成度が高いですね。

飯田これほどの作品を少人数で作っていらっしゃるとお聞きして、感動しました。私は『ロードス島戦記』のファンで、とくに山田章博先生がお描きになったマンガが大好きだったので、「フラウスやシューティングスターと戦えるんだ!」と、ときめいていました。あと、とある隠し部屋を開けたときに“塊砕き”が出てきたときは、思わずニヤリとしてしまいました。

五十嵐プレイフィールも、とてもよかったです。あと、アニメーションもすごくこだわっていらっしゃるのが見て取れました。そのクオリティーの高さに、とても感動しました。ほかには、ボスの近くにセーブポイントが設置されていたのも、ありがたかったです。ボスに倒されてもすぐリトライできるので、ユーザーが遊びやすいように配慮されているんだと感心しました。

Ladybugありがとうございます! そう言っていただけて、とてもうれしいです。

――近年では、本作を始め、メトロイドヴァニアというジャンルが、とくにインディーゲーム業界で大きな盛り上がりを見せています。この現状を、五十嵐さんはどう考えていますか?

五十嵐メトロイドヴァニアというジャンルが好きな人や、作品を作ってくれる人がどんどん増えているこの状況は、やはりうれしいです。

 盛り上がっているということは、作品が数多く世に出ているということだと思いますが、僕は昔のような、たくさんのゲームが出ている状況というのが、大好きだったんですよ。「今週は何のゲームを買おうかな?」と、数多くの作品の中から選んだりすることがとても楽しくて。ファミ通さんでも、発売するゲームのリストを作っていると思うのですが、あれを見るのが好きでした。

 そうしてたくさんのゲームが世に出で、活気が出て、業界が盛り上がっていくのはすごくよいことだと思います。

――メトロイドヴァニアのゲームが人気の理由は何だと思いますか?

五十嵐やはり、おもしろいからだと思います。僕は、ゲームのプレイ時間とお金の話をよくするのですが、昔のアクションゲームは、うまい人だと1~2時間ぐらいで遊べるものがほとんどでした。でも、ゲームはお金がかかるので、お金の価値分、長く遊べて、かつちゃんとクリアーしてもらえるような作品であることが、ゲームを作るうえで重要だと考えていました。そんなゲームのおもしろさを体現しやすいのが、メトロイドヴァニアなのかもしれません。

――Ladybugさんは、メトロイドヴァニアに惹かれて、作品を制作しているのですか?

Ladybugじつは、メトロイドヴァニアというジャンルを意識することはほとんどないんです。自分としては、2Dアクションゲーム、もっと言うと2Dのオープンワールドという意識でゲームを作っています。“どこへでも行ける”というイメージですね。

 実際のところ私は、“このジャンルは、こうあるべきだ”という考えかたよりは、おもしろいと思う要素があるなら、ジャンルを問わず、何でも挑戦して入れてみたくなるタイプかもしれません。

――なるほど。ところで、皆さんは、メトロイドヴァニアというジャンルをどのように定義していますか?

Ladybug私はやはり、どこにでも行けることなのかなと思っています。一般的な2Dゲームは基本一方通行で進行していって、戻ったりはできない。自由にステージ内を行き来できるのが、いわゆるメトロイドヴァニアの魅力でしょうか。

飯田五十嵐さんとよく話しているのは、“探索して何かを発見して、拡張し、成長する”ことが、メトロイドヴァニアに当てはまるのかなと。僕としては、探索を通じてマップがどんどん埋まっていくとメトロイドヴァニアをプレイしているという感覚を強く覚えます。

五十嵐メトロイドヴァニアという呼びかたは、アメリカから始まりましたよね。そういう呼びかたをされていることを僕が初めて知ったのが、2015年の『Bloodstained: Ritual of the Night』のKickstarterキャンペーンのときなんです。そんな呼びかたがあるということでびっくりしまして(笑)。スタッフからメトロイドヴァニアという名称を使いたいと相談されたときは、「他社の商標ではないのか」ということで、当初は自主規制して、“IGAヴァニア”と称していました。

――確かに、当時は“IGAヴァニア”と呼んでいましたね!

五十嵐そうなんです。それからしばらくして、メトロイドヴァニアというジャンルもすっかり定着しました。

『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』が家庭用ゲーム機向けで発売決定! 開発スタッフ陣と五十嵐孝司氏、飯田周太郎氏による“メトロイドヴァニア座談会”をお届け
『Bloodstained: Ritual of the Night』は、2019年にリリースされ、マルチプラットフォームで展開されたゴシックホラーの探索型横スクロールアクションゲーム。錬金術師によって結晶を体内に宿す秘術をかけられた孤児ミリアムが、人類と自分自身を救うために、超常現象によって悪魔が召喚された城で戦うことになる。

――五十嵐さんと飯田さんが、メトロイドヴァニア作品の開発において大事にしていることはなんですか?

五十嵐ユーザーに最後までプレイしてクリアーしてもらうことです。

飯田この話は五十嵐さんともよくするのですが、たとえどんなによい作品でも、最後まで遊んでいただけないと楽しめていただけなかったのではないか、と私たちは考えています。

 そのため、RPGのような成長要素を入れたりして、クリアーしやすくしています。また、最後までプレイへのモチベーションを維持していただきながら、我々がクリアーへと導くことも重要だと考えていまして、ゲームを通して、ユーザーのモチベーションをコントロールするということを、いつも意識して開発しています。

――そうだったのですね。Ladybugさんはいかがですか?

Ladybug私の場合、ゲーム開発すべてに共通することですが、早く作ることをもっとも大事にしています。

――早く作るですか?

Ladybugそうです。ゲーム作りには、モチベーションを保つことがすごく重要だと考えていまして。ゲーム作りに対するモチベーションが維持できないと、作品のクオリティーに影響してしまうんです。

 私はゲームを開発するときに、基本的にはスタートからの順番通りに作っていきます。ステージ1を作って、つぎにステージ2、ステージ3……というように。開発をスタートさせた当初は、新鮮な気持ちで作れますので、テンションの高いまま作業でき、クオリティーも高いものができますが、ゲームの開発は、同じような作業のくり返しが多いので、だんだんと作るのがおもしろくなくなっていくんですね。そうすると、「早く作品作りを終わらせたい」という気持ちになってしまいます。

 でも、ゲームを作るのに妥協はしたくない。そして、プレイヤーが最初にゲームを始めたときに楽しいと感じた気持ちを、クリアーするまで体感し続けてほしいという想いもあります。

 ですので、作業感を感じる前に、モチベーションを維持したまま作り終えられるよう、早く作ることを意識しています。

――なるほど。早く作ることと、こだわることは矛盾しないのですか?

Ladybug矛盾するかもしれないです。ですが、納期がないと、私の性格上、延々と作り直してしまうので、つぎの作品作りに移れないと思います。ですので、自分の中でモチベーションを維持できるだけの制作期間を決めて、この期間中の作業は一切妥協せずに開発を行うようにしています。それが結果的に、早く作ることに繋がっていると思います。

五十嵐早く作るということは、すごく共感できます。かつ妥協もしたくないので、我々も『月下の夜想曲』のときは、とくに妥協したくないところは、先に作りました。

Ladybugそうですよね! とくに僕は、最後のステージになってくるにつれて、これまでに出てきた色違いの敵が出てくるのは好きではないので、ちゃんと最後まで作り込むようにしています。

五十嵐たしかに、『月下の夜想曲』でもそこはちゃんとしていて、色替えの敵はほとんどいないです。

飯田でも曲は使いまわしですよ。

五十嵐そうだね(笑)。ところどころで妥協するのはやむを得ないところですが、作り手側として妥協が許せないところは、徹底的に作ります。

Ladybug僕の理想としては、プレイヤーがもう少しプレイしたいと思っているぐらいで終わるぐらいがよいのかなと判断して作っています。最後のエンディングのシーンにたどり着いたときに、最初から最後まで同じことのくり返しだなと思ってほしくなくて。そのためには、自分が開発へのモチベーション保って、こだわり抜くことが大事だと考えています。

――ちなみに、最近のメトロイドヴァニア作品の中で、感銘を受けた作品はありますか?

Ladybug私は、ゲームを作ることにすごく時間を費やすので、なかなかほかの方のゲームをプレイするというのがなかなかできなくて。そのかわり、ふだんは映画を観て過ごしています。

――映画は、ゲームに活かそうと思って観られるのですか? それとも、単純に好きだから?

Ladybug好きだということもありますし、活かそうとも思って観ています。

――では、最近見た映画のなかで、ゲーム作りに刺激になったような作品はありますか?

Ladybugゲーム作りに活かせるかはわかりませんが、最近見た映画ですと、『プロミシング・ヤング・ウーマン』はおもしろかったですね。これを、ゲームにどう活かそうかというのは、作っているときにならないとわからないのですが、観た映画が活かせるときというのは、これまで映画を観て得た知識の中から、ぽっとアイデアが出てくる感覚です。

――本作において、この映画のこの部分が活きるな、と浮かび上がったものはありますか?

Ladybugいろいろありますが、有名な作品ですと『マトリックス』ですね。詳細を話してしまうとネタバレになってしまうので、ここでは控えさせていただくのですが、映画からは、とくに背景の作りかたや色使いなどを参考にすることが多いです。

 ゲームをプレイできたら、そこから知識を吸収するのがベストだとは思うのですが、時間は有限ですので、映画は作りながら観ることができるということもあり、ふだんからチェックしています。

――五十嵐さんと飯田さんはいかがですか? 

飯田Ori and the Will of the Wisps』ですね。

五十嵐あれはすごかったね。

飯田成長要素という部分で考えると、薄いかもしれないですが、非常によくできていた作品だったかと思います。

五十嵐ビジュアルもよかったよね。

――ビジュアルがとくに心惹かれたのですね。

飯田演出やビジュアル表現ですよね。すごく難しいですが、最後までがんばらせてくれるゲームデザインもすばらしかった。諦めずに、ずっとトライできる難易度というのが非常によかったです。

『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』が家庭用ゲーム機向けで発売決定! 開発スタッフ陣と五十嵐孝司氏、飯田周太郎氏による“メトロイドヴァニア座談会”をお届け
『Ori and the Will of the Wisps』はMoon Studios開発によるアクションゲーム。2020年3月にXbox OneとPC向けにリリースされ、同9月にはNintendo Switch版、11月にはXbox Series X|S向けにも発売されている。精霊オリの冒険が、美麗な映像で描かれる。

――わかりました。そんなメトロイドヴァニア作品ですが、今後どのように発展していくと思われますか?

Ladybug私は、メトロイドヴァニアというジャンルにとらわれずに、おもしろいと思ったことは、ジャンルの枠組みすら外して、自由作っていけばよいと思っていますし、そうすることで、さらに新しい、魅力的な作品が誕生していくと考えています。本作でも、作中でギャンブルができたり、弓のミニゲームが遊べたりしますが、そういった、ゲームの中でまた別のゲームが遊べるのも、楽しいかなと思います。

飯田私も、まだまだやれることはたくさんあると思います。

五十嵐昔に比べて、いまはどんどん技術が発展していて、いろいろなことができるようになってきているので、それによって、できることも増えていくだろうと思います。そして、新しいことにチャレンジした作品が増えていくと、ふだんメトロイドヴァニアをプレイしない層にも届いていくのではないでしょうか。

――いま、メトロイドヴァニアゲームは世界中で人気ですが、まだまだ伸び代はあるし、やれることや、やるべきことはあるということですね?

五十嵐やれることは、まだまだ残っています。

飯田最近ではないかもしれませんが、ローグヴァニアと呼ばれる作品も生まれていますし。

五十嵐メトロイドヴァニアというジャンルはかなり曖昧なものだと思いますので、ほかのジャンルのいろいろな要素が流入してくるのもありではないでしょうか。かなりいろいろなことができそうですよね。

――それでは、最後に皆さんから、読者へメッセージをお願いします。

斉藤本作は、『ロードス島戦記』ファンの皆様、また、Ladybugのファンの皆様双方にとって幸せな作品になっていると、プロデューサーとして自信を持っていますので、今後の展開を含め、ぜひ楽しみにしていてください。

Ladybug本作をたくさん買ってください!(笑)

一同 (笑)。

五十嵐本作のような、横スクロール型の2D探索アクションゲームは、遊びやすいということ、新しい発見や驚きがある、ということが特徴だと思っています。

 本作にもその特徴は受け継がれていて、とても遊びやすい作品になっています。ぜひ、お手に取っていただき、合わせて『Bloodstained: Ritual of the Night』も遊んでいただければと思います。

飯田メトロイドヴァニアというゲームジャンルは、芯となる部分は古いものだと考えています。それが、新しい要素などが取り入れられていて、いまでもこのジャンルの多くの作品が人気を博しています。私自身、2、30年前に遊んだゲームがいまでも愛されていて、そして、自分でも遊べて、作り続けられているということに、とても感動しています。

 本作は、そんな熱心なメトロイドヴァニアファンをしっかりと楽しめる作品になっているので、ぜひプレイしていただければ、同じメトロイドヴァニアの開発者としても、とてもうれしいです。

※[2021年11月25日午前4時]一部タイトルの発売日の記載に誤りがあったため修正させていただきました。