サイゲームスより配信中のiOS、Android、PC(DMM GAMES)対応ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』で、2021年11月8日に新たな育成ウマ娘“トーセンジョーダン”が実装された。その能力や、ゲームの元ネタとなった競走馬としてのエピソードを紹介する。
※2021年11月8日16時44分追記:誤字を修正、トーセンジョーダンのクラシック期のライバルを修正、ナカヤマフェスタとの関係性を修正。
『ウマ娘』のトーセンジョーダン
公式プロフィール
- 声:鈴木絵理
- 誕生日:2月4日
- 身長:157センチ
- 体重:ノーコメント
- スリーサイズ:B82、W56、H84
おしゃれ好きでイミフな努力を嫌う、イマドキの都会っ子。バカだからわかんないとよくかわすが、フマジメというわけでもない。爪割れが理由でスランプに陥ったことがあり、それ以来、お手入れとカラーは欠かさない。
コミュ力が高いので、トモダチはかなり多い。出典:『ウマ娘』公式サイトより
トーセンジョーダンの人となり
ギャル系ウマ娘。いつもネイルを気にしているなど、ファッションに明るいようだ。ダウナーというほどではないが、ふだんは勉強やトレーニングに対してやる気を見せない。ただ、レースになると、泥にまみれてでも勝利を掴み取ろうと必死になる本性が表れる。
栗東寮所属でウイニングチケットと同室。リアルではウイニングチケットはトニービンの子、トーセンジョーダンはトニービンの孫という関係で、それが影響しているのだろうか。
また、リアルで年代が近く、同じレースで競い合ったエイシンフラッシュ(1歳下)やゴールドシップ(3歳下)との絡みがよく描かれている。『ぱかチューブっ!』でもたびたび名前が出てきてはトレーナーたちをニヤニヤさせていた。なお、同期のウマ娘にはナカヤマフェスタがいる。
リアルでの名前の由来がかの有名なバスケットボール選手ということもあって、バスケが得意。また、いつもネイルケアを欠かさないが、リアルでも蹄が弱かったようにしょっちゅうはがれているようだ。
トレセン学園では同じギャル系のダイタクヘリオスや、ファッションつながりなのかゴールドシチーとも仲がいい様子。ヘリオスらと違って陽キャというわけではないが、姉御肌なところもあり、ゴールドシチーの育成シナリオでは彼女を心配してトレーナーを牽制する場面も。
勝負服は、ギャルやバスケのイメージもあってか、ジャージのようなスタジャンにチョーカー、大きめのネックレス、腕時計などストリート系のデザイン。リアルのカラーリング(緑地、青菱山形、青袖)もパーツに取り入れられており、特徴的な青菱山形の模様はインナーや左足のニーソックスに見られる。
トーセンジョーダンの能力
トーセンジョーダンは中距離の天皇賞(秋)を制したということで、中距離の適性がA。また戦法は先行がAとなっている。
固有スキル“YEAH☆VIVID TIME!”は、“最終直線を走行中に追い抜くまたは詰め寄られるとテンションを上げて速度を上げる”という能力。そのほかにも先行用と差し用のスキルを持っている。
競走馬のトーセンジョーダン
トーセンジョーダンの生い立ち
2006年2月4日、北海道勇払郡安平町のノーザンファームで生まれる。父はジャングルポケット(父トニービン)、母はエヴリウィスパー(父ノーザンテースト)。
叔父にマイラーズカップを制したビッグショウリや中山グランドジャンプに勝ったビッグテースト、いとこにアルゼンチン共和国杯を制したレニングラード、天皇賞・秋やマイルチャンピオンシップなどGI2勝を含む12勝を挙げたカンパニーらがおり、血統的にも注目されていたこともあり、セレクトセールで1億7千万もの値が付いた。
馬体重は470~490キロ程度で馬格も標準サイズ。ウマ娘としての身体的スペックも(細いウエストを除いて)非常に標準的となっている。身体能力は高く幼駒時代から期待されていたが、父譲りの溢れるパワーが仇となったのか、蹄が弱く現役時代を通じて悩まされることになる。蹄=爪、ネイルにこだわる設定はここから生まれたのだろう。
また、性格はとてもマジメ。むしろ闘志が表に出てこないタイプで、休み明けのレースを苦手にしていた。そんな彼も、年齢を重ねてからは栗東トレセンのボス的存在にのし上がって多くの馬を従えていたという。コミュ力の高いギャル、という設定は上記の蹄やこのエピソードが由来だと思われる。
脚質は先行~差し。斬れ味はないが、父譲りのパワーとスピード、スタミナを受け継ぎハイペースのガマン比べに強かった。トニービン系の馬は東京コースで良績を残す傾向があったが、トーセンジョーダンにはそこまで得意不得意はなかったようで、平坦コースや小回りコースでも力を発揮していた。
トーセンジョーダンの血統
父ジャングルポケットはアグネスタキオン、マンハッタンカフェらと同期で日本ダービー、ジャパンカップを制したスターホース。種牡馬になってからもそのライバル関係は続き、自身はトーセンジョーダンを含むGI馬8頭(海外での産駒も入れると9頭)も輩出した。お笑いトリオ“ジャングルポケット”の名前の由来でもあり、先日メンバーの斉藤慎二氏(「はぁ~い!」というギャグでおなじみ)は自身のYouTube動画の企画として、最後の世代の産駒を購入している。
なお、ジャングルポケットはフジキセキと同じ馬主、同じ厩舎、同じ厩務員、同じ主戦騎手というつながりがあり、フジキセキがたどり着けなかった日本ダービーを制した時は大きな話題となった。一方、性格はとてもエキセントリック。ダービーに勝って大歓声に興奮して吼えまくったり、舌をブランブランさせながら走ったりと制御不能なところがあった。そんなところが子にも遺伝したのか、個性的すぎて大成できなかった子も多数いた。
母エヴリウィスパーは、全姉に先述したカンパニーなど4頭の重賞勝ち馬を出したブリリアントベリーがいる。自身も現役時代は15戦して未勝利に終わったが、繁殖牝馬としてトーセンジョーダンのほか、重賞戦線で活躍したダークメッセージ、京都新聞杯に勝ちダービーでも3着に入ったトーセンホマレボシなどいい馬を堅実に生んでいる。
レニングラードやカンパニー、トーセンジョーダンは父もしくは父の父がトニービン、母の父がノーザンテーストで、いわゆるニックス(相性のいい血統)が成立している血統構成となっている。
もうひとつ、競馬情報サイトなどの血統表を眺めていると、母の欄に“FNo”と書かれている数字があることに気付くだろう。これは牝系を分類する“ファミリーナンバー”の略。19世紀末にブルース・ロウという人物が、英ダービー、英セントレジャー、英オークスの第1回からの勝ち馬の牝系を調べ43頭の馬にたどりつき、その中で3大レースの勝ち馬を多く出している順番に第1族から43に分類し、各々の番号の直系牝馬と直仔をその番号で示したものだ。現在では番号も更に追加され、若い番号イコール優秀、とはいえなくなっているが、牝系分類上便利なので現在も利用されている。
なお、エヴリウィスパーはFNo.9の“9号族”。1670年代に生まれたというヴィントナーメアから始まる9号族は、現在1号族に次いで2番目に世界で繁栄している牝系。ウマ娘ではミスターシービーやサイレンススズカ、キタサンブラックなどがいる。
トーセンジョーダンの現役生活(表記は現在のものに統一)
2歳(ジュニア級:2008年)
池江泰寿厩舎に所属したトーセンジョーダンは、11月1日、京都競馬場芝2000メートルの新馬戦で武豊騎手を鞍上にデビュー。すでにかなり期待されていたが、まだ少し緩めの仕上がりで馬体重も492キロと太め残り。4番人気で勝ち馬から0秒5離された6着と、その実力を発揮するにはいたらなかった。
2週間後の福島での未勝利戦では、12キロ絞って見違えるような動きに。北村友一騎手を背にここを楽勝すると、12月にはフランスのオリビエ・ペリエ騎手と組んで葉牡丹賞、ホープフルステークス(当時はGIどころか重賞でもなく、オープン特別だった)も勝って3連勝を飾る。
3歳(クラシック級:2009年)
年明けは松岡正海騎手とのコンビで共同通信杯から始動。ここは2着と敗れるも内容は上々で、クラシックの有力候補として名前が挙がるようになる。しかしレース後に右前脚の裂蹄(蹄が割れる病気)が判明して皐月賞を回避。後年も悩まされるこの病気はなかなか治らず、けっきょくクラシックシーズンをほぼ棒に振ってしまうことになる。
ようやく復帰できたのは、菊花賞も終わった後の11月14日、京都のアンドロメダステークスだった。世界を股にかけて活躍するベルギー人騎手、クリストフ・スミヨンとの新コンビで、休み明けながら2着と健闘。続く中日新聞杯(当時は12月開催だった)は後方から進んだ作戦がよくなかったのか4着に終わる。
なお、この年の牡馬クラシック戦線は皐月賞をアンライバルド、日本ダービーをロジユニヴァース、菊花賞をスリーロールスが制覇している。
4歳(シニア級:2010年)
半年の休養を挟んで身体を作り込み、初戦には夏の函館、五稜郭ステークスを選ぶ。22キロ増と太め残りながらも藤岡佑介騎手を背に差のない5着と健闘すると、続く漁火ステークスは南アフリカ出身のダグラス・ホワイト騎手に導かれ、前目から押し切って1年8ヵ月ぶりの勝利。
10月には東京のアイルランドトロフィーを1分59秒2の好タイムで勝つ。鞍上の内田博幸騎手が「重賞級の馬だよ」と興奮気味に語るほどの手応えだったようで、続くGIIアルゼンチン共和国杯では堂々の本命馬に推されることとなり、期待に応えて初重賞制覇を果たす。三浦皇成騎手もうれしい重賞3勝目だった。
その勢いを駆って出走した初のGI有馬記念は、まだ実力不足だったようでハナを奪ってレースをリードするも5着に終わる。しかし、今後に期待の持てるシーズンとなった。なお、長らく競い合うことになるエイシンフラッシュ(7着)とはこのレースが初対戦だった。
5歳(シニア級:2011年)
初戦のGII、アメリカジョッキークラブカップ(AJCC)で重賞2勝目を飾ったトーセンジョーダンだったが、ハ行(歩様の不具合)で阪神大賞典を回避。その後適当なレースもなく次戦はぶっつけで宝塚記念に出走することとなる。鞍上は10人目となるイタリアのニコラ・ピンナ騎手。ここは久々の不利もたたってか、後方から抜け出せずに9着に終わるが、短期休養を経て8月のGII札幌記念では福永祐一騎手を乗せ重賞3勝目。あとはGIを制するだけとなった。
そして迎えた天皇賞・秋。再びピンナ騎手とのコンビで臨んだこのレースは、かつてないほどの死闘となった。好スタートから昨年に続き単騎逃げを打ったシルポート。しかしその勢いはまるで違い、1000メートル通過は59秒1から56秒5に上がっていた。これはとんでもないハイペースである。逃げ、先行勢にとっては消耗が激しく、最後の坂で失速するのは火を見るよりも明らかだった。そう、ちょっと競馬を知っている者なら。
そんなわかりやすい展開だからこそ、落とし穴が生まれたのである。好位でチャンスを伺っていた1番人気ブエナビスタ、2番人気ダークシャドウら有力どころは、仕掛けどころで後方から進出してくる追込勢とズルズルと下がってくる先行勢に進路を塞がれてしまい、出遅れてしまったのだ。そんな彼女たちを尻目に、外側からスルスルっと抜け出したのはトーセンジョーダンだった。一瞬の斬れ味こそ鈍いが、ハイスピードを長時間維持でき、しかも坂にも負けないパワーの持ち主。ハイペースの持久力勝負こそ最大の見せ場と、一世一代の粘り腰でゴールへと飛び込んだ。
走破タイム、1分56秒1。2008年ウオッカの記録を1秒1更新し、2019年のアーモンドアイも0秒1およばなかった、現在も残るスーパーレコードである。ピンナ騎手のハデすぎるガッツポーズも、翌年エイシンフラッシュでミルコ・デムーロ騎手が見せた最敬礼と対照的な“動”と“静”の名シーンとして記憶に残っている。また、あまりに桁外れな記録に、管理する池江師も「冗談(ジョーダン)かなと思った」とコメントをしていた。
2011年 天皇賞(秋)(GⅠ) | トーセンジョーダン | JRA公式
次走のジャパンカップでは12人目のパートナー、オーストラリアのクレイグ・ウィリアムズ騎手とコンビを結成。豊かなスピード、スタミナを活かすため2番手でレースを進めるが、最後はブエナビスタに差しきられて2着に。年内最終戦となった有馬記念は超スローペースとなり、力を出し切れずに5着。展開がハマったときの強さとハマらなかったときのモロさがハッキリと出たシーズンとなった。
6歳(シニア級:2012年)
栗東の馬をまとめるボス(ゴールドシップは蹴りに来るが……)というだけでなく、レースの実績でもトップへと躍り出たトーセンジョーダンは、年が明けても好調を維持していた。13人目のパートナー、岩田康誠騎手を背に、大阪杯(当時はGII)3着、天皇賞・春2着と、春競馬で貫禄を見せる。
しかし、ここで裂蹄が再発してしまう。スタッフの努力もあって何とか回復するも、ぶっつけで連覇に挑んだ天皇賞・秋は出遅れて13着と大敗。このレースでは、ハイペースの展開を制したエイシンフラッシュが復活の優勝を果たしている。
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一方、トーセンジョーダンは天皇賞に続いて得意の展開になったジャパンカップも6着と、輝きは失われてしまっていた。
7~8歳(シニア級:2013~2014年)
それでも、マジメでいっしょうけんめい走るトーセンジョーダンの再起を期待する声は大きく、現役続行が決まる。しかし、2013年のジャパンカップで3着に入り復活を予感させたものの、けっきょく5歳時の天皇賞・秋以降15戦してひとつも勝てず、引退が決まる。
通算30戦8勝、重賞4勝(うちGI1勝)、獲得賞金は約7億円と。蹄の病気に長らく悩まされたが、終わってみれば堂々たる数字が残る。また、岩田騎手の後も戸崎圭太騎手、スペインのイオリッツ・メンディザバル騎手、デンマークのウィリアム・ビュイック騎手、フランスのピエールシャルル・ブドー騎手とコンビを組み、30戦でなんと17人(うち8人が外国籍)もの騎手が乗ったという珍記録も残っている。ウマ娘としてのコミュ力の高さはこんなところも由来になっているのかもしれない。
引退後のトーセンジョーダン
引退後はブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬入りし、ジャングルポケットの後継候補として人気を集めた。現在も、現役時代の馬主だった島川氏が所有するエスティファームで種牡馬生活を続けている。
ブリーダーズ・スタリオン・ステーションにいたころは、放牧地では非常に人懐っこいところを見せていたという。誰かの姿が目に入るとすぐに寄ってきて、離れようとすると追ってくるかわいいところも。蹄もすっかりよくなり、馬体もふっくらして幸せに暮らしているようだ。
著者近況:ギャルソン屋城
リアル競馬&競馬ゲームファンでもある、週刊ファミ通『ウマ娘』担当ライター。誕生日:9月5日、身長:168センチ、体重:現状維持(サイクリングでダイエット!)。
ここ2ヵ月でマンガを200冊ほど大人買い。最近のお気に入りは『カナカナ』(西森博之作、小学館刊)。