505 Games(ファイブ・オー・ファイブ・ゲームズ)という名前を、最近目にする機会も増えてきたのではないだろうか。『DEATH STRANDING』(デス・ストランディング)のPC版や、Remedy Entertainment開発による『CONTROL』(コントロール)のワールドワイドのパブリッシングを担当していることでおなじみのゲームブランドだ。インディーゲームの発掘にも積極的に取り組んでいることでも知られている。

 そんな505 Gamesが今年創業15周年を迎えるという。同社のCEOであるラファエル・ガランテ氏に、これまでの軌跡と今後の戦略を聞いた。

 その前に、まずは、505 Gamesの15周年を記念して公開された2本の動画をご覧いただこう。“505 Games 15周年記念トレーラー”は、505 Gamesのパブリッシングタイトルをバックに、(おそらくはラファエル氏自身?)同社の理念を語るというもの。一方の“505 Games 15th Anniversary - パートナー・セレブレーション トレーラー”は、505 Gamesゆかりのクリエイターからのお祝いのコメントが寄せられたもので、小島秀夫監督や五十嵐孝司氏など豪華な顔ぶれが勢揃いしている。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」

ラファエル・ガランテ氏(文中はラファエル)

505 Games CEO/共同創設者
505 Games の親会社である Digital Bros Group (デジタル・ブロスグループ)の共同 CEO および共同創設者。1989年、兄弟のラミ・ガランテ氏とともにミラノにDigital Bros Groupを設立し、ゲームの販売に従事。2007年には、兄弟でプラットフォームを越えたゲームのパブリッシングを専門とする505 Gamesブランドを設立した。この5年間は、スタジオの買収やインディーデベロッパーとの長期契約に取り組み、製品ラインアップを拡大している。2015年には中国・深圳にオフィスを開設。2020年には日本支社・505 Games Japan株式会社を設立した。


「おもしろいゲームを世に広めたい」との思いから会社を設立

――まずは改めての質問となりますが、日本のゲームファンに向けて、505 Gamesがどのような会社なのか教えてください。

ラファエル505 Gamesのおおもととなったのは、ゲームの販売を行うDigital Brosという会社で、私と弟のラミィとで1989年に設立しました。ゲーム業界のテクノロジーとエンターテイメントへの情熱に動かされて会社を作ったんです。ゲーム業界に関わるようになって30年以上経ちますね。Digital Brosにとって重要なマイルストーンとなったのは、2000年にイタリア株式市場で上場したことです。ファミリーカンパニーからマネージメントカンパニーに移行したことは大きな変化でした。それまでは私とラミィ氏だけで取り組んできましたが、上場した2000年以降は、会社を運営していく上で組織を整える必要がありました。

 すぐれたゲームをすべてのプラットフォームで全世界に向けて販売することを目標に、505 Gamesを設立したのは2007年です。私たちは、当初はディストリビューターとしてスタートしたのですが、パブリッシャーとしてIP(知的財産)を展開していきたいと思ったんです。重要なIPを取得するにあたり、当初は欧米のパブリッシャーとして体制を整えましたが、近年はアジアにも目を向けています。

 そのため2015年に中国の深圳に初のアジアオフィスを設立しました。もちろん、すべてのビデオゲームの歴史が始まり、この業界が生まれた場所である日本は、もっとも大事な市場であると考えていましたので、日本オフィス設立はもっとも重要なマイルストーンでした。

 2020年には、日本オフィスを法人化して、バランスの取れた多様性のあるコンテンツポートフォリオを持ち、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアに拠点を持つグローバルな会社となっています。

 私たちの戦略は単にIPを取得することだけではなく、スタジオも対象としています。それはIPだけでなくて、テクノロジーも取得したいと考えていたからです。体制が整いグローバルに活動するようになっても、それぞれの市場に対応できる柔軟性と敏捷性を持つことはとても重要なことです。

 なお、Digital Brosはいまも505 Gamesの親会社であり、開発やパブリッシング、流通をグローバルで行っています。

――2007年に505 Gamesを設立されたとのことですが、なぜパブリッシング事業に参入することを決めたのですか?

ラファエル私たちが事業をスタートした1989年は、まさにゲーム業界の初期で、トイビジネスに深く関わっていました。任天堂のNES(ファミコン)やセガのマスターシステムの時代ですね。私たちは、「これは何かもっと大きなものの始まりなのではないか」と感じました。実際、数年後にはソニーがゲーム市場に参入し、ゲームはトイビジネスから独立していきました。私たちの年代は当時まだ若いゲーマーだったわけですが、進化の早い業界にとても驚き、かつワクワクしましたね。「おもしろいゲームを世に広めたい」と思ったのは、自然の流れだったとは言えると思います。

――当時、とくに印象的だったゲームはありますか?

ラファエル私は『ウイニングイレブン』の大ファンでした。プレイステーションで最初にプレイしたのが、このゲームでした。『バイオハザード』も衝撃的だったなあ。

――ちなみに、サッカーがお好きなのはイタリア人だからですか?

ラファエルイタリア人なので、もちろんサッカーは魅力的です。私はサッカーがうまくなかったのでゲームは友人に挑戦する機会を与えてくれました。サッカーはイタリアではとても重要なスポーツです。ゲームの素晴らしい世界観、その中でのマネージメント、そしてソーシャル性も魅力的で、昼夜を問わず友人たちと『ウイイレ』をプレイしましたね。

――少し話を膨らませてしまうと、『ウイイレ』のおかげで505 Gamesがあると言えるかもしれない?

ラファエル(笑)。スタート地点となったとは言えます。『ウイイレ』のおかげでゲーム業界を知ったわけですから。また、『メタルギア ソリッド』も忘れられないゲームです。つねに私のライブラリに入っていますし、このシリーズはいまもプレイしています。

――それが、『DEATH STRANDING』のPC版をパブリッシュすることにつながったのですか? 小島監督に対するリスペクトもあってのことです?

ラファエルこの2作はゲーム業界のマスターピースです。私の年代は『メタルギア』をプレイしますが、『DEATH STRANDING』は新しい世代の革新と言えると思います。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
505 GamesがPC版のパブリッシングを担当した『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』は、ラファエル氏にとっても、大きな手応えとなったようだ。

――設立当初から、グローバル企業を目指した理由はなんでしょうか?

ラファエルそれは簡単です。イタリアはファッション、デザイン、フード業界ではよく知られていますが、クリエイティブな業界の中でも、ゲーム業界はそこまで知名度がありません。そのため、パブリッシャーになるにはイタリアだけでは成立しないんです。言語の壁もあります。企業方針としてつねにインターナショナルであることを目指しました。イタリアでビジネスを展開するのは難しいと考えたので、そんなわけで私たちは、まずはイギリスとヨーロッパに、その後カルフォルニアからアメリカ、そして最近だとアジアに進出しました。業界で大事な箇所は押さえていると思います。

 パブリッシングというのは、グローバルにすぐれたゲームを求めていくことでもあります。私が505 Gamesの社長として誇らしいと思っているのは、私たちが日本や中国、北欧、ポーランド、カナダ、アメリカ、スペインなど世界中からゲームを見つけ出していることです。パブリッシャーはオペレーションだけでなくて、本当の意味でグローバルにゲームを見つけられる能力が必要なのです。

 また、イタリアでは才能を発掘するため新しい世代の教育にも着手しています。6年前にDigital Bors Academy を設立して、才能を見出してたくさんの人材をゲーム業界に送り込み、イタリアのエコシステムの一部となれるように努力しています。Digital Bros Academy に入学を希望する学生はたくさんいますよ。

――IPを獲得するうえでポイントになるのはどのような点ですか?

ラファエルユニークなセールスポイントがあり、ゲームの柱となる部分を短時間で説明できることはとても重要です。これはテクノロジー、ストーリーなどが該当するかもしれません。いずれにしても強力なアイデンティティーを持っていることはとても大事です。すぐれたゲームでも強力なアイデンティティーを持っていないことがあります。強力なアイデンティティーとユーザーへの明確なメッセージを持っているゲームを見つけたときは、うれしくなりますね。

 また、すべての市場でプレイすることができるクロスマーケットという要素も重要です。ゲームの人気は市場によって差がありますが、私たちはアジア、日本、アメリカ、ヨーロッパなどで成功できるIPを探しています。

 IPの周囲にあるコミュニティーも重要です。将来続編を出し、この業界でIPを長く維持していくためには、コミュニティーに何かを提供できる方法を見つけることが不可欠なんです。

――“わかりやすく魅力的なタイトル”といったところでしょうか。

ラファエル私たちは、グローバルにゲームを販売することを目標にしているので、世界中の人たちが魅力を感じるゲームを求めています。これは簡単なことではないので、直接接することのできない市場についてはローカライズやカルチャライズを強化しています。そのままでグローバルに通用するゲームを作ることは難易度が高いので、妥協する必要があるのです。ローカライズやカルチャライズによって、その市場の嗜好にある程度合わせることはできるわけです。

 日本のオフィスはゲームのローカライズやカルチャライズのクオリティーを改善するために作られたとも言えます。これは日本で行うほうが効果的です。ゲームを出して運営していく際にはゲームによってそれぞれ戦略もその実行方法も異なります。

 ローカライズやカルチャライズは、ゲームのクオリティーを反映しています。その土地にオフィスを持つメリットは、ファミ通のようなメディアを通じて地元ユーザーやファンとコミュニケーションを取れることです。505 Gamesのオフィスが東京にあることで、このようなインタビューも可能になりますし、メディアを通じてユーザーに弊社のゲームのよさを納得してもらえるという利点もあります。これは、グローバル企業として重要な側面だと思います。

――スタジオを買収する際にはテクノロジーを重視するのですか? それともゲームですか?

ラファエル両方です。さらに言えば、スタジオの従業員も重要なポイントです。弊社との相性やフィーリングも大事ですし、いっしょにきちんと仕事を進めることができて、同じ理念を共有できることも重要です。ゲームだけではなく、そこでどんな人たちが働いているかはとても大事なのです。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
ラファエル・ガランテ氏(右)とラミ・ガランテ氏(左)。505 Gamesの親会社となる Digital Bros Groupを兄弟で執りまとめる。

日本はゲーム業界で大切な市場、オフィスを設立するのは自然の流れ

――505 Gamesは今年15周年とのことですが、この15周年を振り返ってみての率直なご感想をお教えください。

ラファエル15周年は私たちにとってとても重要な節目ですが、グループとしては30年以上の経験があります。そのあいだゲーム業界が急速に進歩を遂げていて、この進化の歴史に参加できたことは、私たちにとって、とても興味深く魅力的なことでした。

――会社としての達成してきたことで、とくに記憶に残っていることは?

ラファエル私たちは何かを達成したときにワクワクし過ぎないように気をつけています。失敗した時にがっかりしないようしっかり地に足をつけていることも大事ですね。ヨーロッパの会社、イタリアの会社には達成できないだろうと言われていたにも関わらず、うまくいったこともありました。すべての達成したことを挙げることはできませんが、上場したこと、重要なIP、スタジオの取得は印象に残っています。とはいえ、これらは時間がかかることで、全体として達成したらつねにつぎのステップを考えています。

――地に足をつけて展開している感じですね……。激動の激しいゲーム業界で、15年間継続できた理由はどこにあると思いますか?

ラファエル成功するためにもっとも重要なポイントは、優秀な人たちを選ぶことです。会社はコンテンツやテクノロジーはもちろんですが、何よりも人が大事です。どんなすばらしいコンテンツであっても、熱心に取り組む適任者がいなければ大きな成功は望めません。適切な人材を選ぶことはとても重要です。

 人材に関して言うと、私たちはイタリアで才能を発掘するための、新しい世代の教育にも着手しています。6年前にDigital Bros Academyというゲームの学校を設立して、人材発掘に取り組んでいるんです。そして、たくさんの優秀な人材にゲーム業界に入ってきてもらい、ホームであるイタリアゲーム業界のエコシステムの一部となれるように努力しています。ありがたいことに、Digital Bros Academyに入学を希望する学生はたくさんいます。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
『CONTROL(コントロール)』はフィンランドの実力派スタジオRemedy Entertainment開発による超能力とガンによる攻撃が融合した新感覚のアクション。新作プロジェクトが2本進行中とのことだ。

――それはすばらしいですね。ところで、前から気になっていたのですが、505 Gamesの名前の由来を教えてください。

ラファエルそれは簡単です(笑)。私にとって“5”というのはラッキーナンバーで、斬新な社名にしたいと思い、ラッキーナンバーを入れて、幸運を祈る気持ちで、ラッキーナンバーをふたつ入れて、“505”と付けました。

――15周年を迎えたということで、まさにラッキーナンバーだったと言えそうですね。

ラファエルいえいえ(笑)。先ほどもお話した通り、数字ではなく人だと思います。当社は人材に恵まれていますからね。

――なるほど。日本法人のことについて聞かせてください。日本法人を設立した狙いは?

ラファエル数年前からアジア展開を考えていて、2015年に中国の深圳に初のアジアオフィスを設立しました。もちろん、すべてのゲームの歴史が始まり、この業界が生まれた場所である日本は、三大重要地域のひとつであると考えていましたので、日本オフィス設立は自然な流れでした。ゲーム業界の日本のパートナーにも尊敬の気持ちを持っています。グローバルでビジネスを展開しようと思ったら、現地で直に受け取れる情報が必要であり、ユーザー、パートナー、メディアなどのエコシステムに参加する必要があります。日本市場は私たちにとって重要であることを考えた場合、日本展開は必然でした。

――日本人の嗜好にあった、より決めの細かい対応ができるということですね。

ラファエルそうですね。私たちはグローバルで展開するにあたって、ローカライズやカルチャライズに力を入れているのですが、そのクオリティーアップのためにも、日本のオフィスは必要でした。現地でローカライズやカルチャライズをハンドリングしたほうが、当然のことながらクオリティーは高くなるわけですからね。

――日本で展開してきての手応えは?

ラファエル難しいというよりは、違う、異なる市場だと感じました。欧米や中国の市場とも違います。異なるルールと日本の文化には従わなくてはなりませんが、これは当たり前のことです。いまは日本でどのように成長できるかを学びたいです。もちろん、学ぶだけではなくて、ゲーム業界とアニメーションが始まった日本で、私たちは貢献したいです。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
『Bloodstained: Ritual of the Night』は、ArtPlayの五十嵐孝司氏がプロデューサーを担当する横スクロール2DアクションRPG。2019年に発売され、世界累計出荷・ダウンロード販売数が100万本を突破している。日本における505 Gamesの知名度アップに大いに貢献したタイトル。

日本発のゲームは今後一層支援していく

――『Bloodstained: Ritual of the Night』や『DEATH STRANDING』など、日本開発タイトルのパブリッシャーを担当されていますが、日本のデベロッパーを評価してのことでしょうか? 日本のデベロッパーに対する印象を教えてください。

ラファエル私たちは日本に進出して数年になりますが、それ以前からも長いあいだ、日本のゲームを研究して、多くを学びました。1990年代から日本のゲームをライセンスし、イタリア市場に広めてもきています。日本のクリエイターやメーカー、関係各所にも敬意を抱いています。この重要な市場に敬意を持ちつつ、日本のコンテンツを世界中に届けていきたいと思っています。もちろん、欧米のコンテンツも、日本のファンにお届けしたいです。

――505 Gamesが『百英雄伝』のパブリッシングを担当することが発表されたときは日本でも大きな話題になりましたが、パブリッシングを担当するにいたった経緯は?

ラファエル優秀な人たちが動いてくれて、とてもよい機会が生まれました。『百英雄伝』のストーリーを読んだときに、私は大きな可能性を感じ、このプロジェクトに自信を持ちました。当社が日本に拠点を持ち、しっかりと情報交換ができていたので、手応えを感じたときに、素早い決断ができたのだと思います。先ほど、“会社を支えているのは人材”というお話をしましたが、こういったすばらしい機会に恵まれたのは、まさに優秀な人たちの尽力のおかげです。

――これからも日本のタイトルを出していきたいと考えていますか?

ラファエルもちろんです! 私たちといっしょに仕事をしたいと思ってくださる素敵なスタジオやプロジェクトに出会いたいです。私たちは、日本のパートナーと組んで成長し、日本での存在感を高めたいと考えています。

――具体的にはどのようなタイトルを考えていますか?

ラファエルそれは言えませんが(笑)、つねに探していますので、オススメがあったら教えてください。私たちはこれまで日本のデベロッパーさんと仕事を積み重ねてきたことで、より体制の整ったチームで動いています。ローカライズマネージャーやプロデューサーも採用しており、これまでよりもさらに充実したサービスが日本で提供できるようになります。これは現地にスタッフがいる大きなメリットですね。日本でゲームを開発している人たちと時差なく、対面でスムーズに仕事が進められ、世界に発信することができます。これは大きなステップです。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
『幻想水滸伝』シリーズに関わったスタッフからなるRabbit & Bear Studios開発による新作JRPG。個性豊かな100人以上のヒーローたちによる、JRPGならではの冒険要素満載のタイトル。ドットで表現される生き生きとしたキャラクターによる群像劇が魅力だ。『百英雄伝』の発売は2023年で、前日譚を描くアクションRPG『百英雄伝 Rising』 が2022年発売予定。

インディーゲームとフリー・トゥ・プレイタイトルに対する取り組みは?

――505 Gamesは、大作を手掛ける一方で、インディーゲームを出し続けている点も興味深いです。インディーゲームについてどう思いますか?

ラファエル505 Gamesは最初にインディーゲームのパブリッシングで成功したという経緯があります。中には、シリーズ作が徐々に規模を拡大していったケースもあるので、インディーゲームをきちんと展開することは重要です。会社として新しいアイデアを取り入れるということでもありますし、商業的に大きな成功ではなくても、機会を提供し、リスクを取ることは私たちの仕事のひとつだと思っています。いろいろなスタジオが持っているアイデアを世界に発信して、認めてもらう可能性の機会を提供するということです。これらのスタジオは日本、ヨーロッパ、アメリカなど、どこにあってもおかしくありません。そして私たちに機会を与えてくれます。いま多くのすばらしいアイデアは、インディーゲームから生まれています。

――インディーゲームが、ゲームの新しい可能性を広げるということは、たしかにありますね。

ラファエル会社として規模が拡大するとともに、タイトルのバランスを取る必要があります。ダブルA、トリプルAのゲームだけでなく、インディーゲームも含めることはラインアップに多様性をもたらすことになります。当社が重視している人材育成という見地からも、インディーゲームは重要な役割を果たしています。当社でも、『テラリア』のように、インディーゲームから業界でも有数のIPに育ったものもあります。もちろん、日本のインディーゲームシーンにも参加したいと考えています。京都のBitSummitや最近だとIndie LIVE Expoにも参加したことがありますが、とても貴重な体験でした。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
広大なフィールドを探索しながらさまざまな敵と戦う。アイテム作成や建築要素もあり……と、いわゆるサンドボックス型ゲーム。世界中で人気を博している。日本ではスパイク・チュンソフトから発売。

――ちなみに、イタリアのインディーゲームはどのような感じなのですか?

ラファエル日本と比べると、イタリアのインディーゲームはまだまだ歴史が浅いと言えますが、ポテンシャルがあります。イタリア政府もインディーゲームの支援には積極的で、おかげさまでこれからさらなる発展が期待できそうです。近年、イタリアのゲーム文化は急速に成長していて、先ほどお話した、Digital Bros Academyの卒業生がいっしょにインディーゲームスタジオを設立しているのを喜んでパブリッシングサポートしています。

――505 Gamesでは、基本プレイ無料の『Puzzle Quest 3』を2021年に配信予定ですが、フリー・トゥ・プレイ(F2P)タイトルにも注力していくのですか?

ラファエルゲームプレイの間口を広げるという意味でも、F2Pゲームは、ゲーム業界にとって重要な部分を占めていると思っています。F2Pゲームは、従来の有料ゲームとは、まったく違ったアプローチが必要になりますね。今日のF2Pゲームは、とくにモバイルゲーム市場で有効なわけですが、データの分析と追跡が、F2Pゲームを構築し戦略を立てるカギになるのです。『Puzzle Quest 3』を開発しているのは、オーストラリアのInfinity Plus Twoというスタジオなのですが、パズルRPGの絵先駆者である『Gems of War』など、F2Pタイトルに対する造詣が深い開発会社です。この1月に同社を買収したことで、505 GamesはF2Pに対する戦略をさらに加速させています。

――日本でもF2Pゲームを出す予定はありますか?

ラファエルはい。F2Pはデータ主導で分析の時間も要するため、ビジネスとしては有料ゲームよりも難しいので、多くはリリースできませんが、もちろん日本は重要な市場ですので、適宜出していきたいと考えています。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
海外では、Steamとスマートフォン向けに2021年配信予定の基本プレイ無料ソフト『Puzzle Quest 3』。国内での配信は明らかにされていない。「2007年に発売された『パズルクエスト~アガリアの騎士~』から500年後の世界が舞台となる、マッチ3パズルにロールプレイング要素と、1vs1のバトルシステムを組み合わせたシリーズ原点回帰のゲーム」とのこと。

気になる5Gの普及、業界の動向をにらみつつ戦略を練る

――505 Gamesの今後の戦略をお教えください。いまのゲーム業界をどのように捉えて、どう対応する予定ですか?

ラファエル今後の戦略を判断するうえで、テクノロジーとコンテンツのトレンドを的確に捉えることはとても重要で、当社はそれを前もって把握して迅速に対応します。

 今後のゲーム業界に関して言えば、サブスクリプションサービスやストリーミングのビジネスモデルはさらに成熟し、両者は統合されていくでしょうね。デジタル化への流れはさらに加速すると考えています。

 また、有料ゲームでも、パブリッシャーがゲームの拡張や長寿化を求めて、ますますサービスとしてのゲームにフォーカスしていくことでしょう。つまり、単にゲームを売ることでは終わらずに、収益化を図るためにゲームのクオリティーを上げ続けて、コンテンツそのものを育成する努力に力を割きます。小さなコミュニティーから始まったゲームが、パブリッシャーが多くのコンテンツを提供していく中でサービスとして成長し、大きなゲームになっていくわけです。

――タイトルが徐々にサービス型に移行していうのが、IPの未来ということですね?

ラファエルおっしゃるとおりです。もうひとつ、今後の重要なマイルストーンは5Gです。5Gの普及はこれからですが、5G対応によって業界に何が起きるのか、いつ5Gが普及していくかに興味を持っている人はたくさんいます。5Gは、業界のつぎの大きなステップとなるでしょう。新しいテクノロジーによる新しいプレイの仕方でそれに見合うコンテンツが求められるようになると思います。当社では、こういった業界の動向を判断しつつ、今後も優良なコンテンツを提供していきたいと思っています。

――そんな中、505 Gamesさんの日本市場における戦略をお教えください。

ラファエル日本市場は、とくにラインアップ戦略に関して、ある程度独自に展開していく必要があると認識しています。ユーザー、パートナー、メディアと長期的な関係を保って、良好なエコシステムを構築することです。日本オフィスでは、短期的な戦略ではなくて、中長期的な戦略で考えています。重要な日本市場にコンテンツを届けるために、日本人の心や考えかた、やりかたに少しずつ適応していけたらいいなと思っています。

――今後の505 Gamesのタイトルラインアップ戦略を教えてください。とくに、日本向けのタイトルはどのような感じになりますか?

ラファエル現在複数の日本発のタイトルを準備中です。もちろん、これらのタイトルはグローバルでも展開します。お話できるところでは、『百英雄伝』は2023年に、その前日譚を描く『百英雄伝 Rising』 は2022年にリリース予定です。『百英雄伝』は当社にとっても重要なタイトルです。

 もうひとつの重要なIPとしては、五十嵐孝司さんが手掛ける『Bloodstained』があります。2019年に『Bloodstained: Ritual of the Night』をリリースしましたが、日本のファンはもちろん、世界のファンをさらに増やしていきたいです。今後のアップデートにも期待していただきたいですね。

 さらに、『Project Condor』にも注目していただきたいです。同作はRemedy Entertainmentとの共同プロジェクトとなります。『CONTROL』のスピンオフで、最大4人が協力してのプレイが楽しめるタイトルとなっています。『CONTROL』フランチャイズも、将来に向けて育てていきたいです。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
『Project Condor』はRemedy Entertainmentによる、『CONTROL』のスピンオフタイトル。4人協力プレイによるマルチプレイが楽しめる。発売時期は明らかにされておらず、対応プラットフォームはプレイステーション5、Xbox Series X|S、PCを予定している。なお、『CONTROL』シリーズに関しては、さらなる大規模なプロジェクトが予定されているとのことだ。

 そのほかにも、『Grow: Song of the Evertree』やJRPGの『Re:Legend』といったインディーゲームタにも期待しています。『Re:Legend』を開発するのはマレーシアのMagnus Games Studioで日本のゲームに影響を受けた1作ですね。いくつかのゲームを挙げてきましたが、ほかのタイトルについてはつぎの機会にまたお話しできたらと思います。

505 Games創立15周年の軌跡と今後の戦略をCEOに聞く。「今後も日本発のタイトルを含め、おもしろいゲームを提供していく」
『Grow: Song of the Evertree』は、プレイヤーが自由に世界を作り上げていくサンドボックスゲーム。謎の“枯死”によって荒れ果ててしまった、“アラリア”を舞台に 偉大な錬金術師の末裔である主人公が、荒廃した大地に恵みの生命を再び吹き返すことが目的となる。プレイステーション4、Xbox One、PC向けに2021年発売予定。

――最後に、日本の読者に向けてメッセージをお願いします。

ラファエル私たちは日本のユーザーの皆さんに感謝しています。これまで皆さんからたくさんのことを学び、また、喜んでいただけるものをご提供してこようと努力してきました。日本はとても重要な市場であり、東京の地でオフィスを構えられることを誇りに思い、光栄なことだと実感しています。日本のゲーム業界の一員でいられることに感謝します。 今後ともよろしくお願いします。