スクウェア・エニックスの『サガ』シリーズ30周年を記念して、2020年に結成された『サガ』オフィシャルバンド“DESTINY 8(ディスティニーエイト)”。同バンドのセカンドアルバム『DESTINY 8 - SaGa Band Arrangement Album Vol.2』が、2021年8月11日に発売を迎えた。
2021年2月に発売されたファーストアルバムを経て、セカンドアルバムはどのような方向性で作られたのか? DESTINY 8のリーダー兼バンドマスターである上倉紀行氏と、DESTINY 8のメンバーであり、『サガ』ではおなじみの作曲家である伊藤賢治氏に、楽曲の聴きどころや今後の展望などをうかがった。
伊藤賢治氏(いとう けんじ)
『サ・ガ2 秘宝伝説』以降、数多くの『サガ』シリーズ楽曲を手掛ける作曲家。愛称は“イトケン”。昨年、活動30周年を迎えた。
上倉紀行氏(かみくら のりゆき)
作曲家、アレンジャー。『インペリアル サガ』シリーズや『ロマンシング サガ リ・ユニバース』(以下、『ロマサガRS』)の楽曲のアレンジを担当。伊藤氏とともにライブに出演することも多く、トークコーナーでの伊藤氏との掛け合いは名物となっている。
セカンドアルバムで、アレンジの幅が広がった
――DESTINY 8は上倉さんがバンドマスター兼リーダーを務めていますが、ファーストアルバム、セカンドアルバムと活動してきて、いまはどのようなお気持ちですか?
上倉『サガ』公式バンドのバンドマスター兼リーダーを任せてもらったということで、すごく光栄だと感じています。楽曲のアレンジについても一任してもらっていて、自分がやりたいと思っていたことを、100%表現できるメンバーが集まってくれて。すごくいい場を与えてもらえて、純粋に楽しいですね。
――プレッシャーを感じるというよりは、うれしさが勝る?
上倉もちろん、プレッシャーがまったくないとはいいませんが、「楽しい」という思いのほうが強いです。
――収録曲や曲の順番は、上倉さん主導で決めているのですか?
伊藤周りにいるスタッフの皆さんも、このDESTINY 8のプロジェクトを楽しんでいて、「あの曲をやりたい、この曲をやりたい」というアイデアを持っていたので、話し合いの中、上倉くんがそれを揉んで、自分はチェックさせてもらうという形でしたね。
上倉曲の候補を話し合いながら、僕が「その曲を入れるなら、この曲も入れてみては」と提案したりして、収録曲を決めていきました。曲順決めは、アレンジの作業とリンクしているところがあります。アレンジしているときに、自分の中で、ざっくりと曲順ができるんです。1曲目なら勢いがある曲がよくて、ノれるアレンジがいいなとか。逆に終わりはクールダウンできるものがいいなと思って、セカンドアルバムでは「メインテーマ」(『魔界塔士サ・ガ』)を選んだりしています。
――ファーストアルバム、セカンドアルバムと続けてリリースされましたが、上倉さんの中で、このふたつのアルバムに違いをもたせた部分、コンセプトを変えた部分はありますか?
上倉ファーストはバトル曲が多めで、“激しいハードロック・ヘビーメタル系”を意識してアレンジしましたが、セカンドはそこから幅を広げようと思いまして。ファーストアルバムの収録をしたとき、「このメンバーなら、違うジャンルの曲でも演奏できる」と実感したこともあり、少しポップ寄りのアレンジを織り交ぜました。そのバリエーションを聴いていただけるとうれしいですね。
――どこまでアレンジの幅を広げるか、さじ加減に悩むこともあるのでしょうか。
上倉「Last Battle -T260G-」(『サガ フロンティア』)は、自分としてもアレンジに迷ったところがありまして。イトケンさんにデモを聴いてもらって、「原曲を完全に踏襲しなくてもいいよ、いろいろと変えてもオーケーだよ」と言っていただいたこともあり、ラテンの要素を入れて、スパニッシュ系のアレンジをしてみました。とはいえ、自分がいち『サガ』ユーザーということもあって、「ここは外してほしくない」というユーザー目線を自分の中に持っているので、原曲がわからないようなアレンジにはしていません。コード進行ですとか、外せないコアな部分は原曲を踏襲して、外側をアレンジする、ということを意識しました。最終的に、「Last Battle -T260G-」のアレンジはうまくハマって、DESTINY 8の違う一面を出せたと思っています。
――違う一面といえば、セカンドアルバムの「死闘の果てに」(『サ・ガ2 秘宝伝説』)も、前奏が入っていたりして、遊び心のあるアレンジだと感じました。
上倉『サ・ガ2 秘宝伝説』を当時プレイしたときに思い出深かったシーンなのですが、アポロン戦では、「新しき神のテーマ」がまず流れて、アポロンが秘宝で進化を遂げたところで「死闘の果てに」が流れるんですよね。あの一連の流れを、バンドアレンジで表現したくて。ぜったいにやりたいところだったんです。
――「きたぞ きたぞ!」を表現したわけですね。
上倉はい。もちろん、『サ・ガ2 秘宝伝説』をプレイしていない方が聴いても楽しめるものを目指してはいるんですけど。プレイした方の思い出とリンクするように、意識してアレンジしましたね。
――ゲームプレイヤーならではの視点ですよね。
上倉曲の順番も、ゲームプレイを意識しているところがありますね。セカンドアルバムで言うと、最初の1曲目は、通常バトルの曲である「バトル~Adel」(『インペリアル サガ』)にしていて、2曲目にメインテーマ的な曲「侯国の旗のもとに」(『ロマサガRS』)が流れて、それからフィールド曲、ボス曲……と、ゲームプレイと同じような流れを意識しました。
DESTINY 8らしいライブパフォーマンスへの意識
――DESTINY 8にはギターとキーボードがふたりずついますが、そういったバンドの編成はめずらしいですよね。
上倉確かに、キーボードがふたりというのは、少しめずらしいと思います。最初にDESTINY 8の話が立ち上がったときは、ギター2本で、キーボードは1台でいいんじゃないかという話もありました。「そうすると、キーボードはイトケンさんだから、自分は何を担当しよう」と考えたら……自分がギターをやるよりは、キーボードをやるほうが、みんなと話をしやすいなと思ったんですよね。たとえば「このフレーズを入れてほしい」というとき、キーボードで弾くほうがさっと伝えやすい。それと、ライブの絵面も考えまして。僕がショルダーキーボードを使うことで、立って演奏するメンバーが4人になるわけです。その中心に、据え置きのスタンドを使ってキーボードを弾くイトケンさんがいて、その後ろにドラムがいる。そう見えるとカッコいいなと。
――ステージでの見えかたも意識して編成したとは、さすがバンマスですね!
上倉昨年、『ロマサガRS』の2周年のときにステージで演奏しましたが(DESTINY 8 Mini Live)、ねらった通りの見えかたになったなと思っています。それと、ショルキーを使うバンドはあまりなくてユニークなので、そこでも『サガ』らしさを出せているかな、と勝手に思っています。
――DESTINY 8 Mini Liveで演奏されたのはファーストアルバムの曲でしたが、もしつぎのライブがあれば、セカンドアルバムの曲も演奏できますね。
伊藤前回のアルバムは全編エレキ系でしたが、セカンドアルバムでは、たとえば「Last Battle -T260G-」がスパニッシュ系のアレンジになっていたりするので、曲のあいだに楽器を持ち換えたり……という、変化のあるステージングが可能になると思います。バリエーションがどんどん豊かになるんじゃないでしょうか。
※2021年8月16日に配信された『ロマサガRS』夏フェスライブ放送にて、「Last Battle -T260G-」も披露された。詳細はぜひアーカイブで。
上倉ただ、アレンジした僕が言うのも何ですが、これを生演奏するのはたいへんだろうなと思っています(笑)。
伊藤譜面については、「レコーディングのときは何とかなるけど、ライブのときはなるべく簡単にしてね」と伝えています(笑)。
上倉「これを全部弾くなんて、みんな体力もつのかな?」とも思ったりも……。
伊藤どうしようもなくなったら、(自分たちの代わりに)みんなのマネキンを置こうか(笑)。
――(笑)。
イトケンさんがまさかの『ロマサガRS』参戦! そして今後は?
――ところで『ロマサガRS』に、なんとイトケンさんが“ITOKEN”として実装されるそうで……。
※本インタビューは、ITOKEN実装前に実施。
伊藤そうみたいです(笑)。
――ご自身のイラストやドット絵などを見て、どう思われましたか?
伊藤こんなところに倉持くん(『ロマサガRS』アートディレクター 倉持諭氏)を使うなんてもったいない、と(笑)。スタッフも楽しんでくれているなと思いますが。バトルでのモーションも見せてもらったのですが、派手な演出になっているので、早く(実機で)見たいですね。
――ところで『ロマサガRS』では、ホーム画面にいるキャラクターをタッチすると、何パターンかのセリフが読めますが、イトケンさんにもセリフが用意されている?
伊藤はい、それは自分で考えました。まあ……笑ってください(笑)。
上倉そんな、笑うような内容なんですか(笑)。
伊藤それはお楽しみということで。
※2021年8月17日(火) 12時から、『ロマサガRS』にて“祝!大型コラボ開催記念!DESTINY 8”キャンペーンがスタート。
新スタイル“SS[聖魔の響奏]ITOKEN”などが登場する限定ガチャ、限定クエストなどが開催。
一部の施策はすでに終了しているが、ログインボーナスなどはまだゲットできるので、お見逃しなく。
――気が早いですが、“ITOKEN”の別スタイルが出るのも楽しみですね。そして気が早いと言えば、やはりアルバム3枚目のことが気になりますが……。
上倉3枚目を作るとしたら、入れたい曲はたくさんありますが、方向性をまた変えるなら、たとえばボーカルを入れたりしたいですね。それと、イトケンさんの作曲されてるバトル曲の中には、オーケストラ調のものもあるので、それをロック調にしてみたらどうなるだろう、というのも気になりますね。
伊藤新しいものでいうと、『ロマサガRS』のイゴマール戦の曲などを入れたらどうなるかな、と思いますね。
――イゴマール戦は、ライブで盛り上がりそうですね! では最後に、セカンドアルバムの見どころについて、改めてひと言いただけますでしょうか。
上倉じつは、これはスタッフさんにもイトケンさんにも伝えていなかったのですが、セカンドアルバムの曲順には、ひとつ仕掛けをしていまして。
――仕掛けと言うと?
上倉10曲目の「メインテーマ」はシンセサイザーの音色(おんしょく)のフレーズで曲が終わるんですが、それから改めて1曲目の「バトル~Adel」を聴くと、(「メインテーマ」のシンセの音と)同じ音色から始まっていることがわかるかと思います。これには、最初の『サガ』から、新しい『サガ』へと音が周り続ける、“永遠に続く”という意味を込めていたんですが、細かい部分ではあるのでメンバーは誰も気づいていないと思います(笑)。
伊藤初耳ですね(笑)。曲順の最終確認をするときに、もし僕が「変えよう」なんて言っていたら、このプランが台無しになるところでした。
上倉イトケンさんは、曲のテンションやアレンジのテイストを踏まえて監修してくださるので、これでいけるだろうとは思っていたんですが。もし「曲順を変えよう」と言われたら、話し合いをしていたかもしれません(笑)。……という仕掛けもありますので、よろしければ、アルバム全曲を購入していただいて、一連の流れを聴いていただけるとうれしいです。
――イトケンさんからもひと言お願いします。
伊藤上倉くんはいつも、毎回ベストなものを出してくれるんです。そのうえで、信頼できるメンバーを集めて作ったので、これはとても強力なアルバムになっていると思います。音楽好きな子たちが、「コピーしてみよう」、「カバーしてみよう」と思うくらいのクオリティーになっていると思うので、ゲームファンはもちろん、ゲームファン以外の皆さんにも広まってくれるといいなと思います。
DESTINY 8 - SaGa Band Arrangement Album Vol.2 概要
発売日
2021年8月11日
価格
3300円[税込]
収録内容
01 バトル~Adel (インペリアル サガ)
作曲:伊藤 賢治 / 編曲:上倉 紀行
02 侯国の旗のもとに (ロマンシング サガ リ・ユニバース)
作曲:伊藤 賢治 / 編曲:上倉 紀行
03 未来への旅立ち(時空の覇者 サ・ガ3[完結編])
作曲:笹井 隆司 / 編曲:上倉 紀行
04 バトルテーマ1 (アンリミテッド:サガ)
作曲:浜渦 正志 / 編曲:上倉 紀行
05 星神・守護者たち (サガ スカーレット グレイス)
作曲:伊藤 賢治 / 編曲:上倉 紀行
06 戦え!アルカイザー (サガ フロンティア)
作曲:伊藤 賢治 / 編曲:上倉 紀行
07 Last Battle -T260G- (サガ フロンティア)
作曲:伊藤 賢治 / 編曲:上倉 紀行
08 Besessenheit (サガ フロンティア2)
作曲:浜渦 正志 / 編曲:上倉 紀行
09 死闘の果てに(サ・ガ2 秘宝伝説)
作曲:伊藤 賢治 / 編曲:上倉 紀行
10 メインテーマ(魔界塔士サ・ガ)
作曲:植松 伸夫 / 編曲:上倉 紀行
『サガ』シリーズ公式生放送が2021年8月27日19時より配信
『サガ』シリーズの最新情報を紹介する公式生放送が、2021年8月27日19時より配信される。『ロマンシング サガ リ・ユニバース』のゲーム内新情報も公開予定とのことだ。『サガ』ファンはこちらもチェック!