コーエーテクモゲームスの人気和風ホラー『零』シリーズ。本作は2014年にWii Uにて発売されたシリーズ5作目(※)となる、『零 ~濡鴉ノ巫女~』のリマスタータイトルで、2021年10月28日に発売予定。対応ハードはNitendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)。
※外伝的作品『心霊カメラ ~憑いてる手帳~』は、公式的にはシリーズ作品数に含めないとのこと。
本作はホラーアドベンチャーゲームで、プレイヤーは霊感や特殊な力を持つ主人公・不来方夕莉や雛咲深羽、放生蓮といった人物たちの視点から、さまざまな怪異と遭遇していく。シリーズ通して最大の特徴は、“射影機”と呼ばれるカメラ。射影機は“ありえないもの”を映し出せる重要アイテムであり、怨霊の姿を撮影することでダメージを与えて除霊しながら、真夜中の世界を探索していく。
『零 ~濡鴉ノ巫女~』(Nintendo Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『零 ~濡鴉ノ巫女~』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)本記事ではリマスター版『零 ~濡鴉ノ巫女~』について、『零』シリーズ1作目から本作まで、そのすべてに関わっているコーエーテクモゲームスの菊地啓介氏へのメールインタビューをお届け。本作の開発経緯や追加要素に関することを、詳しくおうかがいした。
菊地啓介(きくち けいすけ)
コーエーテクモゲームス所属。これまでに『零』シリーズ、『影牢』シリーズ、『アトリエ』シリーズ、『よるのないくに』シリーズなどを担当している。(文中は菊地)
20周年の節目に再始動
――『零 ~濡鴉ノ巫女~』をリマスターすることになった、その経緯を教えてください。
菊地2001年12月に1作目の『零 ~zero~』が発売され、2021年で20周年を迎えることになりました。2014年に発売したオリジナル版の『零 ~濡鴉ノ巫女~』以降も、ファンやメディアの方々にご支持いただいており、その感謝も込めて、何か皆さんに提供できないかといろいろな方向で検討を重ねて、この節目の年に、『零 ~濡鴉ノ巫女~』のリマスター版を発売することに決定いたしました。
――発表された際には、『零』シリーズファンが多くの声を挙げて喜んでいました。発表を経て、反響をどう受け止めていますか?
菊地2014年にオリジナル版を発売して以来、かなり時間が経ってからの発表だったので、正直不安がありました。ですが、想像以上に温かく迎えていただき、 素直にうれしかったです。また、北米・欧州の方からも、今回、初めてリリースするアジア地域の方にもご期待の声をいただいています。和風ホラーが、海外でも受け入れられているんだなと改めて感じました。
――今回は5作目のリマスタータイトルになりますが、たとえば過去シリーズ作品を集めたタイトル案なども考えていたのでしょうか?
菊地いえ、まずはシリーズとしては最新作である『零 ~濡鴉ノ巫女~』を、たくさんの方に遊んでいただくことに注力したいと考えていました。なぜならば、本作は初めて『零』シリーズを遊ぶプレイヤーにも、新鮮な驚きをもって受け入れてもらえるようなタイトルだと自負しているからです。
――『零』シリーズは2014年以来音沙汰がありませんでした。そのあいだに、新作のプロジェクトが、社内であがることはありましたか?
菊地シリーズディレクターの柴田(誠氏)と話をしたり、『零』シリーズが好きで入社した若手社員と意見交換することもありましたね。ですが、そこからプロジェクトにまで昇華するには、残念ながらいたりませんでした。今回は20周年という節目に、リマスターという形で、ようやくひとつのプロジェクトにできました。やっと皆さんに再び『零』シリーズを遊んでもらえると思うと、うれしい限りです。
――オリジナル版はWii U限定タイトルでしたが、 今回はさらに対応ハードが増えています。やはり多くのプレイヤーに遊んでいただきたいからこそ、対応ハードを増やしたのでしょうか。
菊地その通りです。20周年の記念企画ですから、本当により多くのプレイヤーに遊んでいただきたいですね。これまで遊んでくださったファンの方はもちろんのこと、シリーズ作品のいずれかは遊んでいた人、 または本作が初めてという人にも、ぜひ楽しんでもらいたいです。
フォトモードなどの新要素もあり
――『零』シリーズといえば、カメラをテーマにしたアクション要素、和風ホラー要素、そして女の子たちのセクシーな要素など、多彩な魅力が詰まっていますよね。改めて、『零 ~濡鴉ノ巫女~』の魅力を教えてください。
菊地『零』シリーズは、和風ホラーのじわじわした怖さを凝縮した体験が味わえるゲームです。ただ怖いだけではなくて、霊が封印できるカメラ“射影機”を使った謎解きや戦闘も楽しめるところです。また、魅力的なキャラクターたちが多数出てきますから、ホラーゲームではありますが、多くのプレイヤーが入り込みやすいと思っています。
本作は、“水に濡れる恐怖”をフォーカスしたタイトルですので、服が濡れていくと、より怖くなるといったキャラクターの変化も見どころです。そして、設定やストーリーも魅力のひとつです。本作では、日本各地の心霊スポットを、“日上山”というひとつの舞台に凝縮したような設定となっています。その中で、死の山”、“幽婚”、“神隠し”と、謎めいたキーワードが少しずつ解き明かされていきます。“自殺”という重いテーマを扱っているため、気軽に楽しめるものではありませんが、プレイした人の心に何かを残せるタイトルになっていると思います。
――オリジナル版の、当時のプレイヤーの反響というのはいかがでしたでしょうか?
菊地『零』シリーズは作品ごとにテーマや怖さの方向性を変えています。そこを突き詰めて毎回制作しているため、反響としてはいい面も悪い面もありました。本作のホラーのテーマ、怖さの質、アクション性が増したことや、遊びやすいようにミッション制にしたことについても、賛否両論いただいています。
――海外では『Fatal Frame』シリーズ、欧州では『Project Zero』シリーズとしても発売されています。オリジナル版も海外で発売されましたが、その際の海外評価はどうでしたか?
菊地和風ホラーの独特な世界観や物語、そして魅力的なキャラクターたちは高い評価をいただきました。ただ、操作性や、“彷徨う”要素は、ご指摘を受けることもありましたね。
――『零 ~濡鴉ノ巫女~』と言えば、Wii U ゲームパッドを射影機に見立てた、独特のプレイフィールが特徴的でした。 今回は対応ハードにNintendo Switchがありますが、たとえば携帯モードで、Nintendo Switchを射影機を模したようなプレイには対応しているのでしょうか?
菊地はい、Nintendo Switchの携帯モードでは、ジャイロ機能で射影機を模したプレイが可能となっています。ちなみに、Wii U ゲームパッドは、実際の射影機と同じくらいの重さと想定して作っていました。Nintendo Switchのほうが軽いですが、今作も射影機との親和性はあると思います。
――オリジナル版には、『デッド オア アライブ』シリーズとのコラボシナリオがありました。PVの最後にもあったように、リマスター版にも含まれているんですよね。
菊地はい。オリジナル版同様に、本編クリアー後にあやねの章が遊べるようになります。
――では今回、新要素としてフォトモードを実装した理由を教えてください。
菊地フォトモードを実装しているゲームは、昨今多いですよね。本作では一般的なフォトモードの機能に加えて“心霊写真を作れる”という、『零』らしさが特徴となっています。実装した理由ですが、私が『アトリエ』シリーズのプロデューサーを担当している際に、プレイヤーの皆さんがフォトモードで、キャラクターやコスチュームの魅力を楽しく伝え合っている反応を見て、素直に「いいなぁ」と思いまして。そこで、これはぜひ『零』シリーズにも取り入れてみたい、と思ったのです。本作では怨霊の怖さや、それを使ってのコメディータッチな写真も撮影できます。カメラと幽霊が鍵となっている、『零』シリーズらしい要素になりました。
――キャラクターたちには新規衣装もあります。実装を決めた理由を教えてください。
菊地一度プレイしていただいた方にも、新たな気持ちでプレイしていただきたかったからです。コスチュームの選定理由ですが、たとえば、夕莉の趣味はサイクリングですので、その際に着用するトライウェア、深羽と夕莉の白黒ゴスロリペアルックなど、よりキャラクターたちの魅力が引き立つものを選びました。
本プロジェクトが次回作につながる?
――オリジナル版の時点でグラフィックはかなり綺麗でしたが、今回のリマスター版ではどのような部分が進化していますか?
菊地まず、画面解像度が向上しています。そして、影や懐中電灯の明かり、水のエフェクトなどをブラッシュアップし、より没入感が向上しています。また、背景がより綺麗になるように手を入れた部分もあります。
――ほかにも進化している要素、細かな追加要素などはありますか?
菊地はい、あります。ゲーム的にも、いくつか細かい改善もしています。ただ、そこは今後の続報をお待ちいただければと思います。
――ちなみにですが、ホラーゲームの開発といえば、“ヤバイことが起きた”エピソードをよく聞きますが、今回、またはオリジナル版で“ヤバい”ことが起きた……なんてことはありますか?
菊地私は霊感がないので、とくに体験したことはないですね。ただ、シリーズの制作時は毎回“ヤバイこと”が起きているとディレクターの柴田が言っていましたね……。 ただ、 私は怖いのでなるべく聞かないようにしていまして……。柴田いわく、その“ヤバイこと”はゲームの演出に反映されているとのことなので、ぜひそちらで感じていただければと思います……。
――『零』シリーズ再始動というところで、本作の反響などによっては、たとえばシリーズ続編などが生まれることもあるのでしょうか。
菊地そう願っています。 今回は20周年の記念企画として提供させていただきますが、これを機会にたくさんのプレイヤーに遊んでいただき、ぜひにつぎの作品につなげたいですね。
――最後に、読者の方々と、本作に期待を寄せるファンたちにメッセージをお願いします。
菊地私が初めてプロデュースしたゲームを、20年も多くの人に楽しんでいただけたことに、非常に感謝しています。本作は2014年のタイトルと少し古めではありますが、時間を経てプレイするからこそ感じる怖さや新しい発見もあるのではないでしょうか。世の中にはすばらしいホラーコンテンツがたくさんありますが、ほかでは味わえない『零』の持つ、独特な和の怖さにぜひ触れていただければと思います。