ファミ通.comの編集者&ライターが2021年夏のおすすめゲームを語る連載企画。第2回で取り扱う作品は、『サガ フロンティア リマスター』(以下、『サガフロ リマスター』)です。

【こういう人におすすめ】

  • オリジナル版『サガフロ』発売当時、夢中でプレイした
  • サガ』シリーズを初体験してみたい
  • 一風変わったRPGを遊びたい

ごえモンのおすすめゲーム

『サガ フロンティア リマスター』

  • プラットフォーム:プレイステーション4、Nintendo Switch、PC(Steam)、iOS、Android
  • 発売日:2021年4月15日(※Steam版のみ4月16日配信)
  • 発売元:スクウェア・エニックス
  • 価格:4800円[税込]/iOS、Android 4780円[税込]
  • パッケージ版:なし
  • ダウンロード版:あり
  • 公式サイト

8分でわかる『サガ フロンティア リマスター』

 真っ当なレビューは発売日に掲載した記事をご確認いただくとして、すこしおじさんの自分語りに付き合ってほしい。

 まだ小学生だったころ、クラスメイトの中に、私と同じ『サガ』シリーズ好きの友だちがいた。その友だち、Mくんとは休み時間や下校時に『ロマンシング サガ』~『ロマンシング サガ3』の話題で盛り上がり、よく家に遊びに行ってはいっしょに『サガ』シリーズをプレイしていた。

 学区が違った関係で別々の中学校に進学した私とMくんは、小学生のころよりも会う頻度は減ったものの、休日になると公園で遊んだり、家でゲームをしたりして遊ぶこともあった。

 Mくんから「新作の『サガ』を買ったから、いっしょに遊ぼうよ」と連絡をもらったのは、『サガフロ』が発売された中学2年生の夏(1997年7月)。親がゲーム嫌いでプレイステーション(PS)本体を買ってもらえなかったこともあって、ワクワクしながら自転車をこいでMくんの家に向かったのを覚えている。

 初めて見た『サガフロ』は、混沌の中に存在する数多の世界“リージョン”が舞台となっていたり、主人公の中にヒーローや半妖がいたり、グラフィックが3Dになっていることもあって、これまでのどの『サガ』とも印象が異なる作品に感じられた。

 とくにヒーローのレッド編は、特殊な“ヒーロー技”を覚えられたり、自分がヒーローであることを隠さなければいけないため、戦闘時に自分ひとりでないとヒーローに“変身”できなかったり、自分以外の仲間がメカだったり戦闘不能だったり、はたまた状態異常の“暗闇”となって目が見えなくなったりすると“変身”できるようになるなど、“ヒーローもの”をゲームで再現するという並々ならぬこだわりが感じられて、すぐに夢中になった。

『サガフロ リマスター』の魅力を紐解きつつ、オリジナル版発売当時を振り返る【夏のおすすめゲームレビュー】

 中学2年生の夏休み、数時間のプレイで『サガフロ』の虜になっていたものの、PS本体を持っていないため続きをプレイできず、悶々とする日々を送ることに。ある日、ダメ元でMくんに「本体ごと貸してくれないか」と頼み込んでみたのだが、悩んだ末にオーケーをもらうことができた。

 約束の日、天気は大雨だったが、喜び勇んでMくんの家に向かった私。玄関のチャイムを鳴らして彼を呼ぶと「ちょっと待ってて」とMくん。大雨の中、ルンルン気分で待ちながら、レッド編の続きをプレイするか他の主人公を選ぶか、家に帰ってからのゲームプレイに思いをはせていた。

 外で待つこと4時間。Mくんは家から出てきて、PS本体と『サガフロ』のソフトを貸してくれた。たぶん、カッコつけてみたかったものの、本当は貸したくなかったんだろう。それでも大雨の中、苦もなく待っている私を見て、断腸の思いで貸してくれたんだと思う。いま振り返っても、私はなんて気持ちの悪い子どもだったんだと、申し訳ない気持ちになる……。

 自転車を爆速でこいで帰宅し、さっそく『サガフロ』を起動。もちろん、選ぶのはレッド編だ。それからしばらくゲームに没頭し、たぶん2日くらいたって、ブルー編の途中だったと思う。突然、家のチャイムが鳴り、「ドンドンドン!」と激しいノックも聞こえてきた。ドアを開けると、肩で息をするMくんが立っていた。

『サガフロ リマスター』の魅力を紐解きつつ、オリジナル版発売当時を振り返る【夏のおすすめゲームレビュー】

 「いますぐアレを返してくれ」。なんとなく事情を察した私は、すぐにPS本体と『サガフロ』を返した。Mくんには『サガ』シリーズ好きの兄がいる。詳しい事情は聞かなかったが、おそらく兄に烈火のごとく怒られたのだろう。あたり前の結末だ。Mくん、PS本体と『サガフロ』を返したら、部屋ががらんとしちゃったよ。

 このあと高校受験もあり、Mくんとは疎遠になってしまった。現在まで一度も会っていない。しばらくたってから、PS本体と『サガフロ』を購入し、全主人公のシナリオをクリアーしたり、RTA(リアルタイムアタック)に挑戦したり、書籍『サガ フロンティア 裏解体新書』内の小説“クレイジー捜査日誌”(ベニー松山氏執筆)を読んで涙を流したりしていたが、そのあたりは割愛する。

 夏になると、『サガフロ』が楽しかった思い出と、Mくんに対しての懺悔の気持ちがよみがえる……。過去の特別な体験によって、その当時好きだったゲームが一生忘れられないゲームになることがある。たぶん、皆さんにも経験があると思うが、私にとってはそれが『サガフロ』だった。

プレイヤー独自の体験、ドラマがゲームプレイに彩りを添える

 現実世界での体験もそうだが、ゲームプレイ時の体験もゲームを特別なものにしてくれる。

 『サガフロ リマスター』には複数の主人公が存在し、どの順番でクリアーするかはプレイヤーの自由だ。それぞれの主人公で大筋のストーリーは用意されているものの、途中の選択によってその後の展開が変化する“フリーシナリオシステム”により、自分だけのストーリーが展開する。

『サガフロ リマスター』の魅力を紐解きつつ、オリジナル版発売当時を振り返る【夏のおすすめゲームレビュー】

 戦闘中に頭に浮かぶ電球マークとともに新たな技を習得する“閃き”や仲間と連続して技や術を繰り出す“連携”、特徴的な育成システムなどによって、バトルでもプレイヤー独自のドラマが生まれていく。

 強敵に負ける寸前、強力な技を閃いて逆転。いままでは4人での“連携”が限界だったのに、ラスボス戦で初めて5人での“連携”が発動し、特大のダメージを与える。種族“モンスター”の仲間が、敵の能力を吸収したとたんに変な姿に変身してしまう、などなど。

 『サガフロ』に用意されたさまざまな“ランダム性”がドラマティックな体験を与えてくれて、ゲームプレイに彩りを添えてくれる。本作の大きな魅力のひとつだ。

『サガフロ リマスター』の魅力を紐解きつつ、オリジナル版発売当時を振り返る【夏のおすすめゲームレビュー】
『サガフロ リマスター』の魅力を紐解きつつ、オリジナル版発売当時を振り返る【夏のおすすめゲームレビュー】

 “連携”は参加する人数によってエフェクトや音が派手になっていく。カメラワークもダイナミックで見ていて非常に気持ちいい。“連携”すると技や術の名前がつながるのだが、おもしろい名前やカッコいい名前の“連携”を作るという遊び方もあった。個人的にもっとも夢中になったのは、見栄えのいい“連携”の発見だ。

 使う技や術によっては、小気味よいテンポの“連携”もあれば、少しもたつく“連携”も作れる。技の発動中に別の技が乱入するようなものや、空中への打ち上げと打ち下ろし系の技を入れるなど、よりカメラワークが派手になるような“連携”を探し出すのも楽しかった。

システムを理解するにつれて霧が晴れていく感覚が気持ちいい

 ゲームを多くプレイすればするほど、たとえ初見のゲームであっても新鮮さを感じられないことがある。それは、豊富なゲーム経験からくる“既視感”が原因だと思うが、『サガ』シリーズは独特なシステムが多く、既存のRPGの知識を利用できないことも多い。

 とくにシリーズ初見のプレイヤーだと顕著で、おそらく霧の中を歩いているような感覚を覚えるはず。どこに行けばいいのか、何をすればいいのかわからず、「なんだこのゲーム」とストレスを感じることもあるだろう。

 その状態から、「もしかして……」と世界やシステムに対しての理解がだんだんと深まっていく、「そうだったのか!」という発見、霧が晴れていく感覚も『サガ』シリーズ、そして『サガフロ』の魅力だと思う。最初のころは超高難度に思えていたゲームが、システムを理解できればものすごく簡単だったことがわかる感覚、やめられない。

 『サガフロ リマスター』ではさまざまなヒントが得られるようになり、オリジナル版よりも“わかりにくさ”からくる難易度はだいぶ下がっている。それでも、技の覚え方や種族ごとの効率のいい育成方法、シナリオの最短ルート、強力な武具の入手方法など、“発見”の楽しさは損なわれていない。

『サガフロ リマスター』の魅力を紐解きつつ、オリジナル版発売当時を振り返る【夏のおすすめゲームレビュー】

好きなゲームのリマスター版が発売される幸福

 別の媒体で『サガ』シリーズの25周年を祝う特集を担当していた当時、『サガフロ』を振り返る機会があり、DLCがあるこの時代に『サガフロ』が生まれていたら、没主人公であるヒューズのシナリオもDLCとして配信できたのではないか? 遊べたのではないか? と妄想していた。

 それは絶対に叶わないからこその妄想であったため、まさか発売から24年たった現在に、主人公の追加、没イベントの実装、プレイしやすくするさまざまな調整が施され、リマスター化されるとは思いもしなかった。ファンとしてなんて幸福なんだと思うし、なんて幸せな作品なんだろうとも思う。

『サガフロ リマスター』の魅力を紐解きつつ、オリジナル版発売当時を振り返る【夏のおすすめゲームレビュー】

 数えきれないほど周回プレイをした作品だが、いま遊んでもT260G編のエンディングでは涙を流すし、レッド編の最終決戦では血がたぎる。あるイベントでヒューズがレッドをぶん殴るシーンがあるが、当時はヒューズのことを「キレている人だなぁ」と感じたが、いまプレイすると捜査の邪魔をするレッドは殴られて当然だし、ヒューズは瞬時に状況を利用し、“good cop / bad cop”の亜種のような戦術を用いて情報を得ようとしたのだろうと考えることができた。

 引き継ぎプレイにより、次回に選ぶ主人公とその仲間たちを事前にパーティに入れて育てておく、なんていう新しい効率プレイも生まれた。新主人公のヒューズ編ではキャラクターたちの新たな一面を見ることもできた。

 願わくは、他のシリーズ(とくに『サガフロ2』)も本作のようにリマスター化されて、多くの人が楽しむ未来があらんことを。そのためにも、オリジナル版をプレイした人、そして未体験の人も、ぜひ『サガフロ リマスター』を手に取ってみてほしい。

ごえモン
 ファミ通.com副編集長。TYPE-MOON、『サガ』シリーズ、『マブラヴ』が好きで、スクウェア時代のSFC・PS作品に詳しい。大学生時代には引っ越しのアルバイトをしながら、その日給で必ず美少女ゲームを購入していたADV好き。スマートフォン向けゲームに毎年100万円以上課金していたが、最近は老後のために貯蓄している。

 2007年から2017年まで電撃オンラインに編集スタッフとして所属。その後、2年間所属したAppbank.netにて編集長を経験。2019年よりファミ通.comに所属し、現在に至る。
『サガ フロンティア リマスター』(PS4)の購入はこちら 『サガ フロンティア リマスター』(Switch)の購入はこちら 『サガ フロンティア リマスター』(Steam)の購入はこちら 『サガ フロンティア リマスター』(iOS)の購入はこちら 『サガ フロンティア リマスター』(Android)の購入はこちら
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