スクウェア・エニックスより、2021年4月15日(※)に配信された『サガ フロンティア リマスター』(対応ハードは、プレイステーション4、Nintendo Switch、PC(Steam)、iOS、Android)。
※PC(Steam)版のみ2021年4月16日配信予定
本作は、1997年に発売された名作RPG『サガ フロンティア』(以下、『サガフロ』)のグラフィックを高画質化し、さらに新主人公・ヒューズなど、さまざまな追加要素を加えたリマスタータイトルだ。
本記事では、そんな『サガフロ リマスター』のレビューをお届け。基本的なゲーム部分は『サガフロ』を踏襲したものとなっているので、新要素やリマスターならではの部分をメインにレビューしていく。なお、今回はプレイステーション4版でプレイした。
とはいえ、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』などで『サガフロ』のことを知り、本作から『サガフロ』を初めて遊んでみるという人も少なくないはず。まずは『サガフロ』がどんなゲームなのかざっくりと解説しよう。
『サガフロ』とは?
ゲームボーイからスーパーファミコンで展開されてきた『サガ』シリーズが、プレイステーションにプラットフォームを移して初めて発売したタイトルが『サガフロ』だ。混沌の中に存在する数多の“リージョン”(世界)を舞台に、物語が展開する。
プレイヤーは7人(※)の主人公の中からひとりを選び、主人公それぞれの物語に沿った冒険を進めていく。その合間に多彩なサブイベントを楽しめるフリーシナリオ制は、『ロマンシング サガ』シリーズを踏襲している。
※リマスター版では8人。詳細は後述
それぞれの主人公は尖った個性を持っており、まったく味わいの違うストーリーがたっぷりと楽しめるのが『サガフロ』の魅力。SF、ファンタジー、和風などなど、“リージョン”という何でもありの世界だからこそ成り立つ物語が堪能できるのだ。
バトルは、“閃き”によって技をくり出したりと、『ロマンシング サガ』シリーズに近いものとなっているが、技どうしをつなげて攻撃する“連携”といった新システムが搭載され、よりダイナミックなバトルが楽しめるようになった。
また、本作には複数の種族が登場。敵の能力を吸収して変身していく“モンスター”、装備によって強化される“ロボ”といった、『魔界塔士サ・ガ』を始めとするゲームボーイ3部作を起源とする要素も登場。
まさに当時の『サガ』シリーズの集大成とも言える作品が、『サガ フロンティア』なのである。
描き直された美麗なグラフィック!
以上が『サガフロ』の基本的な魅力。では『サガフロ リマスター』についてレビューしていこう。『サガフロ』のオリジナル版は、背景やモンスターなどは3Dグラフィックをプリレンダ(実機でリアルタイム描画するのではなく、予め描画しておいたものをゲーム内に投影すること)したものを使用し、キャラクターはドット絵で描かれていた。
本作では、背景・モンスターのグラフィックはすべて塗り直されており、当時のテイストは残しながらも、最新ハードに適応した美麗なグラフィックに進化。また、画面比率が4:3から16:9になったこともあり、新たに描き足されているところもあるとのことで、スタッフ陣の苦労が垣間見える。
またキャラクターは、もとのドット絵をベースに、新たに2Dグラフィックで描かれている。これにより、キャラクターの表情や衣装の細部を、より細かく見て取れるように。高解像度化されたことにより、動きのアニメーションの細かさがわかり、驚かされる部分も多い。
グラフィックが大幅に描き直されていると聞き、プレイする前は「もしかしたら、当時の面影を感じないかも?」と想像していたが、遊んでみると『サガフロ』らしさは一切失われていない。というか、当時もこれくらい綺麗だと思って遊んでいたように思うが、記憶とは美化されるものだなとしみじみ。
UIがより使いやすく!
ユーザーインターフェース(UI)はまず、装備やステータスを確認するメニュー画面がかなり使いやすくなったという印象。オリジナル版では、防御力などは表示されていたものの、属性ごと(斬属性、突属性など)の防御ステータスは表示されていなかった。本作では、表示されるステータスが大幅に増えたおかげで、攻略本などを参照しながら隠れたステータスを吟味する必要がなくなったのはかなりありがたい。
また、バトル中のUIも改良されている。まず、HPとLPが常時表示されるようになったため、わざわざステータスメニューを開いて確認する必要がなくなった。また、技や術なども、どのような効果があるのかコマンド選択時に表示されるのもうれしいところ。
フィールド画面やバトル画面では、右にボタンガイドが表示されるので、操作で迷うことは少ないだろう。とはいえ、ボタン表示は目立つため、グラフィックの雰囲気が損なわれると思うかもしれない。その場合は、コンフィグからガイド表示をオフにすればオーケー。オプションは、とにかくユーザーフレンドリーになっている。
なお、本作のフィールド画面では、別のマップにつながる場所には矢印が、ダッシュで飛ぶことができる場所にはブーツのマークを表示できるようになっている。オリジナル版では、マップの出入り口なのかそうでないのか、わかりにくい部分もあったので、こういった配慮もうれしいポイント。
ただ『サガフロ』は、プリレンダで描かれた背景の中に、“背景と思いきや、じつは宝箱だった”……というポイントもあったりあるので、そういったわかりにくい部分にもガイドを表示してほしかったというのが正直な気持ち。また、出入り口を示す矢印は、道中のギミックを作動させないとオープンしない箇所にも付いているので、初見の人だと「矢印があるのに入れないよ?」と、ちょっと迷ってしまうかもしれない点が気になった。もちろん、それがヒントになる側面もあるので、一概には言えないが。
倍速機能でテンポよし!
新機能の目玉のひとつとして、倍速機能が用意されている。フィールド、戦闘でそれぞれ設定を速度を変えることができ、それぞれ等速、2倍、3倍という3段階の中から設定可能だ。倍速機能はどちらも、ゲーム中のどんなときでも、ワンボタンでオン・オフできる。
バトルを等速でプレイすると、現代の感覚ではややテンポが悪い印象を受けるため、倍速で戦うのがオススメ。スピーディーに技をくり出しながら、ガンガン敵を倒してくれるので、爽快感も増しているように感じた。こちらはゲーム展開にさほど影響しないので、3倍でもいいだろう。なお、“技を閃いたときだけ等速に戻す”という設定もあり、これをオンにすれば、閃きの気持ちよさを損なわずにバトルを進められる。
フィールドで倍速を使えば、探索もサクサクに! 長い道もスッと進むことができるため、かなりテンポよくゲームを進められる。ただ、3倍にすると、動きが速すぎてかなり操作が難しい。フィールドで使う場合は、筆者としては2倍速度がオススメ。また、イベントシーンも倍速にできるため、テンポよく会話シーンを進めたい場合はオンにしておくといいだろう。
なお、本作は敵のシンボルに当たるとエンカウントするシステム。倍速では、敵シンボルを避けるのがなかなか難しいというのが悩みどころ。しかし本作のさらなる追加機能により、フィールドで常時倍速にしてもスムーズにプレイできるようになった。それは……
退却が便利……すぎる!
オリジナル版では、敵とエンカウントすると必ず戦う必要があったが、『サガフロ リマスター』では、退却コマンドが新たに登場。退却するとエンカウントがなかったことになり、敵シンボルも消滅する。よって、倍速で探索中、望まぬエンカウントをしてしまったら逃げればいいというわけ。
本作は敵とエンカウントすればするほどに敵が強くなり、ボスも強化される(いわゆるランク上昇)ので、エンカウント数が大事なシステムのひとつ。ゲーム性に関わる部分なので、退却できるのはファン心理として「どうなんだろう……」と思っていたのだが、実際活用してみると便利すぎてついつい使ってしまう(笑)。プレイステーション4版ならエンカウントした直後にL1ボタンを押せば、即エンカウントをなかったことにできるのである。
本作はスマートフォンでもリリースされるため、やはりバーチャルパッドなどでは敵避けがかなり難しいため、導入された要素なのだろう。使うのがイヤな人は退却しなければいいし、何なら新要素をオフにしてゲームを開始すれば、もちろん退却不可となるので、そこはお好みで。
なお、強制的に敵と戦うシーンや、“酔っぱらって移動が困難になるのでエンカウント避けが重要になる”などといったシーンでは、退却できないようになっていた。イベント等のおもしろさが、退却によって損なわれるというポイントはとくになかった。
装備おまかせ機能
装備画面で“おまかせ”を押せば、自動で強い装備に切り替えてくれる。『ファイナルファンタジー』シリーズの“さいきょう”のようなコマンドといったところ。剣・銃・体術・術のどれを優先するかを選べるほか、装備したものがステータスに影響を与えるロボの場合、“HP重視”などの設定も可能だ(アクセサリーしか装備できないモンスターには、この機能は適用されない)。
本作には多数の装備アイテムが登場するほか、仲間キャラクター数も多いので、ワンボタンでサクっと装備変更できるのはありがたい。もし装備に悩んだら、オススメを押せばオーケーだ。ただ、傷薬などのアイテムを装備していた場合、オススメを押した瞬間に外れてしまうので、改めて装備し直そう。
シナリオチャート機能
リマスター版では、各主人公専用のシナリオイベントがチャート化され、物語のあらすじと、“何をすれば次のイベントが始まるのか”を確認できるようになった。
これはかなりうれしいポイント。何をしたらいいのかわからなくなったら、これを確認すればシナリオを進めるヒントを得られるのだ。また、もしゲームを中断した後、しばらくぶりに再開したときに「つぎ、どこ行けばいいんだっけ?」と失念してしまっても、シナリオチャートを確認すればいいので、とても便利だ。
確実に明記されているものもあれば、ややボカされた目的が表示されることも。たとえば、アセルス編の刺客たち関連のイベントについては、本作では“1回戦闘をしたのち、いろいろなリージョンを旅してみよう。”と、ある程度のヒントが与えられる。これには、刺客イベントの驚きを楽しんでもらいたい、という制作陣の配慮が感じられた。
ライブラリー機能
こちらは一種のオマケ要素で、『サガフロ リマスター』のスタッフクレジットと、楽曲、イラスト、アイキャッチを楽しめるというもの。
楽曲はメインメニューに戻るまで流れ続けるため、好きな曲を流しながらクレジットやイラストを楽しめる。後述する“ヒューズ編”の新楽曲などもバッチリ収録。
アセルス編の幻のイベント復活
オリジナル版にて、開発が進められていたものの、残念ながら実装されなかったアセルス編のイベントが復活。どのイベントも、大きくゲーム進行に影響するわけではない(強力なアイテムが手に入るといったことはない)が、アセルス編の物語を深堀りしてくれる。また、ヒューズ編にも関わるものもあるので、ぜひ見てみてほしい。
引き継ぎが細かい&強力!
さらなる新要素として、ゲームを1度でもクリアーすると、引き継ぎ機能を搭載したニューゲーム“New Game+”が開放される。“New Game+”から開始すると、選んだデータからさまざまな要素を引き継いでゲームをスタートできる(もととなるデータは、クリアーデータでなくてもいい)。
キャラクターの成長具合から装備、所持金などにいたるまで引き継ぎが可能。引継ぎ不可能なのは、術の資質に関わるアイテムなど、おもにイベントに関わるものだけ。あとは“金獅子の剣”だろうが“幻魔”だろうと引き継いでくれるのが、メチャクチャに強力。閃いた技も引き継がれるので、いきなり最強武器を手にして、最強の技を使える状態でニューゲームが始められるというわけ。
引き継ぎ項目は任意で選ぶことができる。たとえば、あえて装備は引き継ぎたくない場合は、装備の項目をオフに。敵ランクを下げたい場合は敵ランクをオフにしよう。閃きの楽しさをまた味わいたいという場合は、技の引継ぎをオフにすればオーケー。
なにもオフにせずそのままゲームを進めていき、アイテムをどんどん引き継いで、最大数まで集めるといったやり込みも可能だろう。引き継ぎプレイの楽しみかたはプレイヤー次第だ。
あの裏技が……
『サガフロ』の有名な裏技として、“ジャンク屋のジャンク漁りが無限にできる”と、“金を売るときにいろいろやると無限に金稼ぎができる”というものがあった。
筆者はリマスター版を触るにあたり「いやまぁ……これは消えてんだろうね」と思っていた。おそらく『サガフロ』ファンの方々もきっとそう思っているに違いない。ただ結論から言うと、あった。そのままだった。残ってた!!
そのまま再現できたときは「ええええ!」と叫びながら、つい笑ってしまったのだが、有名なバ……裏技はだいたい残っている(ルージュにとある剣を装備させてから離脱させ……など)。
やりかたの詳細は割愛するが、ジャンク屋はそのままの形で残っている。もっと驚いたのは、ネルソンで金を買ってクーロンで……という無限にクレジット(お金)を稼ぐ方法。これは、クーロンでちょこちょこ金の価格をいじったりすると可能だったのだが、その必要がなくなったのだ。ネルソンで金を買って、クーロンで売ればそれでオーケー。まさかの便利な形で進化していたのである。
プレイヤーの有利になる要素をそのまま残すどころか、あえて昇華させるというのがなんとも『サガ』らしいというかなんというか……! ふつう直しちゃうようなところなのに! ワイルドすぎるリマスターに脱帽です。
最低でも7回は楽しめるヒューズ編!
ゲームを1度でもクリアーすると、新主人公・ヒューズ編が開放。ゲームライター・小説家のベニー松山氏による新規書き下ろしシナリオで、“もしも各主人公の物語にヒューズが介入したら?”という物語が展開されていく。つまり、7ルートぶんも用意されているのだ。
解放されるのはクリアー済み主人公のルートのみ。複数人クリアー済みの状態でヒューズ編を選ぶと、まだ遊んだことがないルートから、ランダムで選ばれたルートが始まる。
つまり、ひとりクリアーするごとにヒューズ編を遊べば、確実に、直前にクリアーした主人公のルートが遊べる。物語を把握しやすいので、筆者としては、いずれかの主人公でクリアーしたら、すぐにヒューズ編を遊ぶというスタイルがオススメだ。
ヒューズ編自体はシンプルで、シナリオパートは短め(もちろん7ルートぶんあるので、トータルでは長い)。自由行動の時間が多いので、リュート編にやや近い印象。ヒューズ編で描かれるエピソードの中には、クスリと笑えるものもあれば、「そういうことだったのか!」と、『サガフロ』自体の物語を深堀りしてくれるものもあり、どれも読みごたえバツグン。
また、ヒューズ編の特徴として、ほかの主人公含む全キャラクターを仲間にできることが挙げられる。好きなキャラクターを自由に集めてパーティを組めるのだ(IRPOの後輩であるレンも仲間にできる!)。また、IRPO絡みのイベントでは、ヒューズならではコメントが見られるのもポイント。
ちなみに、『サガフロ』オリジナル版ではキャラクターを15人仲間にすると、誰かがイベントで離脱しない限りは、その15人でパーティを組む必要があった(それ以降、誰かを仲間にしても、戦闘には参加させられない)。だがリマスター版では、16人目以降のキャラクターも、メニュー画面でチームメンバー入れ換えを行えば、バトルに参加できるように。ちょっとした新要素だが、仲間の数を気にしなくていいのはうれしい要素。ガンガン仲間を増やしていこう。
またヒューズ編では、オマケ要素として、そのルートのラスボスに挑む前に、ほかのラスボスに挑めるという要素がある。ほかの主人公のラスボスを倒せば倒すほど、ルートの最後に待つラスボスが強化されるというやり込み要素となっている。すべて倒せば超強力なボスに挑めるので、自信のある人はぜひチャレンジしてみよう。
ファンも新規も“買い”!
『サガ』シリーズは、これまでも何作かがリマスターされてきたが、『サガフロ リマスター』は、これまでのリマスターの域を超えたレベルで手が加えられている。とはいえ、リメイク……というほどではないという塩梅がいい感じ。「当時ボツになってしまった要素が実現する」というのは、ファンの夢を叶える、理想的なリマスターなのではないだろうか。
新規プレイヤーにとっては、『サガフロ』のシステムやストーリーを快適に楽しめるようになっているので、もし迷っていたらぜひご購入をオススメする。当時のファンからしてみると、手が加えられすぎて複雑……という部分もあるかもしれないが、現代ハードで遊ぶことを考えると、やはり快適さは重要。こちらも先述の通り、新規要素はオフにして遊ぶこともできるので、自分のプレイスタイルに合わせるといいだろう。そしてヒューズ編は、ファン必見の要素が満載だ。
なお、週刊ファミ通2021年4月29日号(4月15日発売)の開発陣インタビューでは、『サガフロ リマスター』開発秘話や、『サガ』の今後の展望などが語られているので、このレビューを読んで本作が気になった方は、ぜひ併せてチェックしてみてほしい。