PLAYISMから2021年7月27日に配信となるアイドル育成・事務所経営シミュレーションゲーム『Idol Manager(アイドルマネージャー)』。本作のレビューをお届けします。
“アイドル”という言葉を聞いて、あなたは何を想像するでしょうか? かわいくて、カッコよくて、キラキラしている存在。夢や希望を届けて、明日を生きるための活力をくれる存在。生きる理由。もしかしたら、語源である“偶像”という意味が頭をよぎる人もいるかもしれません。
けれどそんなアイドルも、そして彼女たちを支える事務所も、本来はひとりひとりが生身の人間。あまりに高い理想を抱きすぎるのも、考えものかもしれない――『アイドルマネージャー』をプレイしていると、そんな気持ちにさせられます。
『アイドルマネージャー』SteamページロシアのインディーゲームデベロッパーGlitch Pitchが開発した本作。プレイヤーは、女性グループアイドルの事務所に所属するプロデューサー。アイドルたちの管理のみならず、事務所の経営を一手に引き受け、日本のエンターテイメント業界でスターダムを目指します。
ここでは、アイドルグループをどんなコンセプトで売り出すのも自由。かわいくて、裏表がない(ように見える)天使のような正統派アイドルグループを目指すもよし。誰にも媚びない、クールなカッコよさを演出して、同性人気を獲得するもよし。“恋愛OK”、“SNSへの投稿自由”で、女の子たち本来の、ありのままの魅力で勝負するもよし。
しかし、ファンの反応は正直。アイドルたちの中身が、自分たちの理想と異なっていると気付いたら、幻滅して離れていってしまうかもしれません。そしてファンが減ってしまうことは、事務所の経営が傾くことにも直結してしまうのです。
トラブルを起こさないように、規則で縛るほうが彼女たちのためなのか? 問題を起こしてしまった場合、少女たちを、大人としてどのようにケアすべきか? 事務所のためにも、彼女たち自身のためにも、ときには綺麗事よりも大事なことがあるかもしれません……。
このゲームは、そんな“理想”と“現実”のジレンマにつねに悩まされる、“アイドル”の表と裏を余さず描き出すゲームになっています。アイドル事務所の、ぜんぜんキラキラしていない“内側”に踏み込む好奇心と、それを後悔しない覚悟がある方は、その世界をのぞいてみてください。
まずはオーディションで所属アイドルを選抜! サポートスタッフを雇い、夢への第一歩を踏み出そう
まずはプレイヤーの分身であるプロデューサーの見た目と氏名、そしてプロデュースするアイドルグループのグループ名を決定。ライバルの性別とチュートリアルの有無を選択すると、ゲームがスタートします。
導入部のストーリーで、主人公が不二本という男からアイドル事務所を任される経緯が描かれます。この不二本がかなりの曲者。主人公がプロデューサーとして持つべき“正しい価値観”を説きつつも、主人公が困っていると、時折“正しくない方法”についても提案してくる、油断ならない男です。
不二本から雑居ビルの1フロアを借りて、ここにプロデューサー用の部屋をつくることに。自分の仕事部屋ができたら、さっそく所属アイドルを集めるためのオーディションを開催できます。
オーディションは“地区”、“ブロック”、“全国”の3種類から選択。規模が大きいオーディションは実施費用のケタが変わってきますが、その分優秀な人材が現れる可能性が高まります。ちょっとスマホゲームのガチャっぽいシステムですね。
本作のアイドルグループは、最低でも3人体制にする必要があるので、最初のオーディションでは登場した5名の女の子のうち、3名以上を採用することになります。これ以降、追加でオーディションを行う場合は、1~2名だけ採用することもできますし、全員不採用にしても問題ありません。
プロデューサー室があって、所属アイドルがいれば、もうそこは立派なアイドル事務所。序盤のアイドル活動は、地道な積み重ねをコツコツとしていくことに。ゲーム内の時間はリアルタイムで進行していき(一時停止や早送りも可能)、1日に1回、“公演”、“宣伝”、“スパ”のうちいずれかの“アクティビティ”を行えます。
“公演”は収入になり、“宣伝”はファンの増加につながり、これらで消費したスタミナは、“スパ”で回復。“スパ”は一度利用すると、間隔を開けないと回復量が減ってしまうので注意しましょう。
そうして資金源を維持しつつ、より大きな舞台を目指すなら、ほかのスタッフも必要。CDを出すならば、あなたをサポートするマネージャーと、アイドルたちにダンスを教えるスタッフ、歌を教えるスタッフの、3名を新たに雇う必要があります。
彼らにも“新人”、“プロ”、“エキスパート”とランクがあり、ランクが高いほど高額な給料を支払わなければなりませんが、その分だけ有能です。高ランクのマネージャーは仕事の契約に長けていたり、ボイストレーナーなら歌唱指導によるアイドルの能力アップも大きなものになります。
その後も、スタイリストや医者など、必要だったり、いたほうが便利だと感じたスタッフは、都度採用し、事務所も増設していくことになります。
あの手この手で露出を増やして、業界の荒波を乗り切れ
流行り廃りの激しいエンターテイメント業界。地道な努力をコツコツ重ねつつも、新たな挑戦を続けなければ、すぐにその荒波の飲まれてしまいます。マネージャーが受けた仕事のオファーによって報酬を得たり、ラジオやネット配信の番組や、ファンのためのスペシャルイベントを企画したり。あの手この手で露出を増やす必要があるのです。
アイドルの華とも言えるCDの発売までには、スタッフが一丸となって歌詞、マーケティング、レコーディング、振り付けをそれぞれ考えるのに、何日も掛かることに。企画したからといって、すぐに発売とはいきません。
そうしてがんばっても、ファンの人数が数十人程度のうちのCD販売は、どうがんばっても赤字。けれど、そこで付いた新たなファンは、きっとその後もアイドルたちの味方になってくれるはずです。
キュートな正統派アイドルなら男性ファン、クールだったり個性派なアイドルなら女性ファンといった具合に、楽曲のジャンルやテーマでも固定ファンの傾向は変わっていきます。これによってメインターゲットを絞ったら、その後の活動方針も変えていくべきかもしれません。
初のCD発売、ファン数1000人超え、ウィークリーチャートへのランクインなど、ひとつひとつ目標をクリアしていくことで、“公演”と“宣伝”のアクティビティはレベルアップ。1度の“公演”での収入や、“宣伝”ごとに増加するファン数は、レベルアップのたびに増えていきます。
アクティビティとはまた異なる条件をクリアーしていくことで、メインストーリーも進展。これらの目標を達成するために試行錯誤をくり返していくのが、本作の基本的な流れになっています。
こうしたやりくりをくり返していれば、やがては大きなステージでのライブが決まったり、年に1回行われるアイドルアワードで、“最優秀新人アイドル”や“最優秀プロダクション”に選ばれるかも……?
ちょっとしたミスで取り返しのつかないことに……? シビアな資金ぐり
アイドルたちがさまざまな仕事をこなしていく中で、要注意なのが“スタミナ”と“メンタル”の減り具合。あらゆる活動でスタミナは消費され、スタミナがなくなるとメンタルも低下。メンタルが弱ると、回復にはスタミナ以上の時間を要します。
コンディションが悪いとケガをするリスクも増え、長期休暇が必要になってしまえば、数ヵ月ものあいだ、活動に穴が空いてしまうことに。本人の心配をしなければいけないのでしょうが、活動が軌道に乗る前だとこれが事務所にとってはかなりの大打撃で、一気に経営が傾いてしまうことも……。
ドラマのオファーなどを受けていると、数ヵ月にわたって仕事が続き、そのあいだはつねにスタミナが失われるので、ひとりのアイドルに複数の仕事をホイホイあてがうと、気付けば大変なことになってしまいます。というか、なりました。
当然のことながら、毎月アイドルにもスタッフにも給料を支払わなければならず、ビルの賃料も馬鹿にならないため、苦しい経営が続きます。アイドルたちの給料は任意で上げ下げできますが、給料が低いとこれまたアクシデントにつながる場合も……。
どうしようもなくなったときは、不二本や銀行から融資を受けることも可能。しかし調子に乗ると、返済で底なし沼のような苦しさを味わってしまうかも……。
あらゆる選択にリターンと同時に大きなリスクも存在するため、「これをやっておけばOK!」といった要素が存在せず、つねにジレンマに悩まされるゲームです。それがやりがいでもあるのですが、実際の弱小アイドル事務所もこうなんだろうか……? などと考えると、ちょっと暗い気持ちに(笑)。
また、序盤のチュートリアルは親切ですが、ここで教えてくれない要素も多いので、自分でいろいろと試してみる必要があります。シミュレーションゲームが得意でない場合、始めのうちはかなり苦戦するかもしれません(筆者もそうだったので……)。
一度や二度は破産で事務所をぶっ潰すくらいの覚悟でプレイするのが、このゲームへの心構えとしてはちょうどいいのかもしれません。
いじめがあったり、ひょっとしたら彼氏がいるかも……? アイドルたちの裏の顔
そうして事務所経営に頭を悩ませながらも、もうひとつ重要なのが、アイドルたちとの信頼関係の構築。両方やらなくっちゃあならないのがプロデューサーのつらいところです。
アイドルひとりひとりとコミュニケーションを取ることで、信頼度は少しずつ上がっていきます。信頼度が高まると、ちょっと言いづらいような頼みも聞いてくれるかもしれません。たとえば、いざというときのためにほかのメンバーの弱みを探させたりとか、誰かがメンバー間でいじめをしているなら、それをやめさせるとか。
彼女たちはアイドルである以前にひとりひとりが生きた人間なので、間違いを犯すこともあります。先ほどのいじめもそうですが、SNSの使いかたで炎上してしまうことも。
こうしたことを防ぐため、事務所の方針としてSNSの使用を禁止することも可能です。投稿前に事務所で内容をチェックする決まりにすれば、リスクを最小限にもできます。けれど、ここでの自由な振る舞いが、対応次第では新たな支持を受け、ファン増加の一因になる場合も。
恋愛スキャンダルやメンバー間の不和など、アイドルのマネジメントには、つぎからつぎへと問題が生じます。それらがパフォーマンスの質やファン離れにもつながり、ひいては経営にもダメージがあるわけですから、こちらも気は抜けません。ほかにも、予想外の出来事がたくさん待ち受けているかも。
なんでも自分の思い通りにできるゲームが好きだったり、女の子のかわいくてキラキラした部分だけを見ることができれば満足、という方には、『アイドルマネージャー』よりもぴったりのゲームがあるかもしれません。
けれど、彼女たちの「なんでそんなことするの~!」と思わず叫びたくなるような行動も含めて楽しみ、愛着を持てる方ならば、本作は夢中でプレイできる作品になっているはず。
自分好みのアイドルユニットの育成から、自分の思い通りにはならない裏の顔まで、ぜひとも存分にお楽しみください。