6月24日に同社が手掛ける初タイトルとなるスマートフォン向けアプリ『The Pegasus Dream Tour(ザ ペガサス ドリーム ツアー)』が配信されたのを皮切りに、田畑氏の周辺が賑やかだ。ファミ通では、そんな田畑氏を直撃。いま現在の取り組みや、今後の展望などを聞いた。
(聞き手:週刊ファミ通編集人/林克彦)
新しいビジネスを作り出したいとの思いから独立。『The Pegasus Dream Tour』を開発することに
――今回は田畑さんが立ち上げたJP GAMESのビジョンや現在関わっている案件、タイトルについて伺っていきたいと思います。まずは改めてのご質問となりますが、どういった経緯でJP GAMESを設立されたのか教えてください。
田畑スクウェア・エニックス在籍時、『FF零式』に携わっていたときくらいから、僕は開発者としての仕事だけでなく、ビジネス的な部分にも関わるようになっていました。『FFXV』のときは開発とビジネスが半々でした。そういう流れから、自身のキャリアの後半戦としてゲームを使った新しいビジネスに挑戦したい気持ちが生まれていきました。具体的に言うと、それはゲームの可能性をもっと広げて、ゲーム以外の産業の人たちといっしょに、社会貢献とか課題解決とかソーシャルグッド(※)とか呼ばれる分野で、新しいゲームビジネスをイチから作り出していきたいということでした。
※地球環境やコミュニティー、社会にいい影響を与えることやもののこと。
――従来のゲーム制作だけでなく、新たな挑戦に踏み出したかったのですね?
田畑はい。そのためには独立するしかないと決断しました。それで、JP GAMESとしての仕事をスタートしたのが2019年の2月からになります。いまはスクウェア・エニックス時代から挑戦していた、エンターテインメントとしてのゲームづくりと、『The Pegasus Dream Tour』のような、ゲームによる社会貢献ビジネスという挑戦を、会社としては半分半分で進めている状況です。
――田畑さんは以前から異業種コラボのようにゲーム業界の外側も巻き込む、新しい方法でゲームを作りたいとおっしゃっていましたね。
田畑僕はゲームを、そのおもしろさや価値がわかるユーザーだけではなくて、もっと多くの世の中の人たちにも「ゲームってすごいな」と思ってほしいんです。海外も含めてさまざまな場所で『FFXV』を知ってもらう活動をしていた中で、ゲーム自体の役割をもっと広げられるのではないかと感じていました。
――まだまだゲームには可能性があると感じたのですね?
田畑ゲームはすでに“今日や明日をがんばるパワーの源”になっていると思います。それをもっと進化させると、“世の中をよくする”や“未来をよくする”になるのかなという。いまでこそ日本でもダイバーシティ(多様性)やサステナビリティ(持続性)という言葉が浸透してきましたが、そういう社会的な役割をゲームで担う仕事をしていきたいのと、従来のエンタメとしてのゲームをもっと進化させたいというのと、そのふたつが僕のやりたいことです。
――ゲームを使った社会への仕掛けを自分の責任で行えるように、JP GAMESを立ち上げられたわけですね。
田畑そうです。しかし、ゲームを遊んで社会貢献をしよう、みたいな作品を出しても、それが一般的なゲームのように売れるとは思いません。ですので、まずはどうすればそれをビジネスにできるのか、というところから考えていきたかったんです。それは、ゲームの中身のマネタイズやマーケティングでなくて、そもそも新しいゲームビジネスを作り出したい、という自分の欲求とも合致していました。
――JP GAMESとしては『The Pegasus Dream Tour』が最初に世に出たプロジェクトですが、いわゆる従来のゲームではなく、そういった社会性のあるプロジェクトを先に出す、というのは当初から予定されていたのですか?
田畑そこは独立する前から悩んでいました。従来のゲーム開発から動き出せばすごく分かりやすいのですが、そうすると数年はその新作ゲームの仕事に付きっ切りになって、新しいことはできないだろうなと。そんなときに、IPC(インターナショナル・パラリンピック・コミッティー)の前CEOのシャビさん(シャビ・ゴンザレス氏)と打ち合わせをする機会があり、「IPCはパラリンピックをゲーム化することに興味があり、あなたが推薦されている」と打診をされました。
――そこから『The Pegasus Dream Tour』につながるわけですね。
田畑はい。先方の話を聞いて、僕もおもしろそうだと思いました。オリンピックもパラリンピックも何大会か見てきましたが、パラリンピックはロンドン大会から目に見えて近代化していました。競技や選手の見せかた、マーケティングなどが進化して格好よくなっていたんですね。そんなパラリンピックが東京での開催に課題を抱えていると聞いて、それをゲームで解決できるならおもしろいな、と思ったんです。
――課題というのは何だったのですか?
田畑日本は欧米諸国に比べて、パラリンピックへの認知度や関心度が低いことです。そういう僕も、パラリンピックをちゃんと理解しているとは言えませんでしたから、IPCがどれくらいのリアリティでゲーム化を考えているのかをまずは知りたくて、実際に会って話をしました。そうしたらシャビさん個人は、ゲーム化に対しては反対派だったんです。
――あちらから提案があったのに、反対派だったのですか。
田畑「私はゲームが好きではない。私の子どもは本来勉強に投資すべき時間をゲームに使っているが、それが彼にとってプラスになるとは思えない」みたいなことをおっしゃっていました(笑)。逆にそれで「JP GAMESの最初の仕事はこれ(パラリンピック公式ゲーム)にしよう」という気持ちが固まりました。
――闘争心に火が付いたのですね?
田畑ちょっと悔しかったんですよね。ゲームは、遊ぶことでそれが自分自身の体験になりますから、記憶させる力がとても強いメディアです。ということはいろいろなものに役立てられるはずなんです。
――それを証明するためにも、パラリンピックをテーマにした作品を作ってみせることになったということですね。
田畑その場で「中途半端なものでなく、シャビさんの考えを変えられるような、社会性のあるゲームを出すので、私にやらせてくれませんか」という提案をしたんです。向こうも、「そこまで言ってくれるなら、お願いします」、となって、引くに引けなくなりました。
――なるほど。それはいつごろのお話ですか?
田畑2018年の年末ごろですね。スクウェア・エニックスを退職したのが10月で、ありがたいことにその直後からいろいろな新作プロジェクトのオファーもあったので、どうしようかと考えていたタイミングでした。気持ちとしては、それまでの仕事の延長となるゲーム作りからJP GAMESをスタートしてしまうと、新しい事業は事実上できなくなるなと思って、最初の一歩は無理やりでも新しい分野にしたかった。その中で何をやるかの決め手になったのが、そのシャビさんとの打ち合わせでした。
バーチャルシティをパラリンピックの世界観で作ったらおもしろいのではと発想した
――パラリンピックをテーマにするうえで、不安などはありませんでしたか?
田畑こう言うと関係者の方には怒られてしまうかもしれないのですが、パラリンピックはマネタイズという意味ではきびしいなとすぐに思いましたよ。IPCの公式YouTube動画の再生数を見ても、そのほとんどが200~300再生で、大きく注目された大会の動画でも数千くらいなんです。それを見たときに、パラ競技を単純にゲーム化しても、それをコアに支えてくれる人はその再生数と同じくらいだろうと認識しました。なので、コンテンツとビジネスを切り分けて取り組むことにしました。
――オリンピックとは別のアプローチが必要だったということですか?
田畑はい。どうやってこれを成立させるか考える必要があったので、独立してやりたいと思っていた、新しいゲームビジネスを組み立てるということと噛み合ってはいました。
――最初からパラリンピックならこうしよう、という案があったのではなく、パラで行くことを決めた後に田畑さんのなかにあったアイデアと組み合わせて考えていったということですか?
田畑そうですね。コンテンツのほうも、パラリンピックとは別軸で、ゲームの技術を使った街づくり、バーチャルシティみたいなモノづくりをやりたいという考えがありました。それで、バーチャルシティをパラリンピックの世界観で作ったらおもしろいのではと発想したんです。パラリンピックを単純にゲーム化しても、広い層には存在すら届かないものになってしまうので、それよりも、JP GAMESの仕事として仮想の世界を構築する第一歩目の取り組みにしたいなと。
とはいえ、IPCの役員たちには、それはなかなか理解されませんでした。彼らは、「オリンピックのゲームは競技のミニゲーム集なのだから、パラリンピックもそうしてほしい」と考えていましたから。
――それも無理もないかなというところもありますね。
田畑彼らとしては、パラリンピックのゲーム化は東京大会のレガシーとなる取り組みであって、やったかどうかが重要なのであるという考えがあったんです。しかし、僕としてはせっかく作るからには、多くの方に知ってもらいたいし、楽しんでもらいたい。そこで、彼らと直接お会いした機会に、「なるべく多くの人に知ってもらうためには、オリンピックとまったく同じやりかたではいけないと思う」と、時間を掛けて具体的に詳しく説明をして、理解してもらいました。
――田畑さんは、もともとバーチャルシティを考えていたとのことですが、それはどういったきっかけからなのですか?
田畑『FFXV』は世界同時発売だったので、発売日に同時にソフトを起動していた人数が全世界で500万人以上いたんですね。それは一夜にしてメガシティができあがるような感覚でした。自分のゲームの取り組みかたというのは、世界を作って、それをブラッシュアップしながらたくさんの体験を盛り込んでいって、プレイヤーにその世界に来てもらうというものです。これって、ゲームではない世界でもたぶん同じだなと感じていました。
――世界を作り上げて、そこに人を呼び込むという意味では確かにそうですね。
田畑これからのバーチャルライフスタイルというのは、ゲームのテクノロジーやノウハウがかなり活きる方向に進むだろうなという感覚がありました。実際『FFXV』の発売後には、スーパーゼネコンとか、都市のシミュレーション技術を持っている会社など、さまざまな企業から“街づくりで協業する可能性”についての問い合わせがありましたしね。
――『The Pegasus Dream Tour』では、“ペガサスシティ”という仮想の都市があって、プレイヤーが自由にコミュニケーションを取れるんですよね?
田畑アバターが勝手にコミュニケーションしていますね。プレイヤーは自分のアバターに会いにペガサスシティに行くというデザインです。遊んで終わりではなくて、その場所にときどき行くこと自体が目的になるように発展させていきたいと思っています。
ただ、『The Pegasus Dream Tour』は、コロナ前と現在とでは、ゲーム性が大きく変わりました。
――どのように変わったのですか?
田畑当初は自分で操作するのがメインだったのですが、去年の春の東京五輪パラ延期とともにプロジェクトを休止して、秋ごろに再立ち上げすることになって、そこから自律したアバターをメインに据えたゲームになりました。プレイヤーがアスリートになる、ということは変わらないのですが、去年版のサイドストーリーは、ギアを駆使して敵と戦って強くなっていき、ヒーローになるという内容だったんです。しかしこれだけ世界的なパンデミックの中で、2021年に東京大会が開催されるとしたら、パラアスリートが敵と戦闘してヒーローになっていくゲームは出せないなと思いました。2021年に開催できるとなれば、テーマは“分断を乗り越えてみんなが集まる”ということになると考えたんです。
――それは、昨年まで考えていたゲーム性から大きく転換しましたね。
田畑アバターを通してつながることを強調して、それ自体がこれからの世の中に向けたちょっとした実験になっている、という内容にしています。ある種アート作品というか、従来のゲーム性重視ではなく感性による表現に寄っている部分が強いです。実際のところ、いまメインで開発に関わっているのは、若い女性が多いんですよ。弊社だけでなく、若い女性のアーティストやクリエイターをたくさん擁している会社さんに協力してもらっています。若い女性たちが考える、“世の中の役に立つゲーム”といったテーマに振り切っています。
――ちなみに、『The Pegasus Dream Tour』はいわゆるゲームファンが触っても楽しめるものなのでしょうか?
田畑楽しめると思います。変なので(笑)。ゲームファンから見ても変わったものになっていると思います。自分も含め、これまでゲームを作っていた人たちから出てくる発想ではないと思いますね。そこにおもしろさ、新しさがある。もちろん方向性として、こういう要件を満たすものにしよう、というのは決めていますが、その中身を作っているのが僕の子どもでもおかしくないぐらいの世代の人たちなので、けっこう驚くと思います。
ちなみに、本作はブリジストンとも協賛しているのですが、あちらの若い女性たちにはすごく受けがいいです。「がんばれ!」って応援したり、見守ったりする距離感がいいのだと思います。確かに感情移入するんですよ。アバターもかわいいですし。
『The Pegasus Dream Tour』はいくらかゲームの枠からはみ出してしまってもいいと思った
――ペガサスシティ内でアーティストがライブを行うというお話もありましたが、こちらはどういったものになるのでしょうか?
田畑ライブはまた別会場で行うのですが、ライブが始まると、その期間中はライブに向けたストーリーが入ってきます。シティのみんなでライブ会場の設営をしたりするのですが、それも社会貢献の体験みたいになっていて、がんばって貢献すると、特典やご褒美が付くイメージです。
――ライブ自体はどのようなものに?
田畑単にアーティストのアバターがライブをして、それをファンが見るとかではなくて、もうちょっと実験的なものになっています。ピコ太郎さんの場合はPPAPで、分断された人たちや世界を元に戻すアッポーペンみたいな感じで、エンタメになっていますね。かなり尖っていると思います(笑)。
――それはおもしろそうですね(笑)。
田畑あとは、パビリオンなんかも出てくるのですが、特殊な場所なので、どこでもドアで移動したりします。不思議なパワーはドラえもんのひみつ道具で解決しているんですよ(笑)。
――この世界にドラえもんが出てくるのはちょっとシュールですよね。
田畑最初はドラえもんの22世紀の世界にしようかと話していたのですが、藤子プロとも話し合って、やはりオリジナルの世界でいくことになりました。ただ、ドラえもんには市長代理という立場で登場してもらうことになり、アバターカメラやPEG(パーソナル・エコ・ガイド)というガイドキャラクターもドラえもんの道具として出してもらうことになりました。道具のデザインも藤子プロに監修してもらっています。
――『The Pegasus Dream Tour』は、いろいろな意味でおもしろいものになりそうですね。
田畑ソーシャルグッドという目的のために生まれたゲームは、いまのところこれぐらいしか僕は知りませんので、まずは勇気を持って出してみることが重要で、いくらかゲームの枠からはみ出してしまってもいいとは思っています。ある意味ちゃんと実験作になっていて、JP GAMESの第一弾としてもふさわしいものになったと思います。
――手応えはありということですね。
田畑はい。パラリンピック公式ゲームのミッションで言えば、パラリンピックというものを新たにブランディングして、社会に少しでも大きなインパクトを残すことが目標なので、それができれば一応成功ということことにはなると思います。一方で、JP GAMESとしては、それをビジネスにしていくという企業としてのテーマがあります。
――いかにマネタイズしていくかですね。
田畑アプリ自体にもマネタイズは多少入っています。アーティストのライブが有料だったりする部分です。ただ、それは出演者への還元や寄付に使われていくので、こちらの収益というわけではありません。JP GAMESとしてビジネスするのは、『The Pegasus Dream Tour』に使われた技術やアセットを拡張した、“PEGASUS WORLD KIT” という企業向けのDX支援ツールの販売です。ペガサスシティのような仮想シティをツールで簡単に作って、企業と顧客が新しい関係を構築するためのキットですね。
――対ユーザーからではなく、対企業でのマネタイズを行っていくということですね。
田畑そうですね。それが僕なりの、ゲームで社会貢献ビジネスをするなら最初の一歩はこれ、という答えです。
――“PEGASUS WORLD KIT”では、エピック・ゲームズやJCB、ソラミツと提携しているようですね。
田畑はい。“PEGASUS WORLD KIT”は、Unreal Engine上でRPG系のゲームづくりと、さらにはECなどの外部サービスとつなげる機能をフレーム化しています。我々だけで販売してサポートをしようとしてもカバーしきれない部分も出てきます。導入先によってはキットの機能だけでモールを作るかもしれないし、自分たちでUnreal Engineのコードを書いて新機能を入れることもあるかもしれません。そのあたりでエピック・ゲームズさんにご協力いただくことになっています。
一方で、JCBさんや、ソラミツさんというブロックチェーン技術の会社は、少し違います。仮想ワールドサービスを進めていったときに、それを統合的に管理する仕組みが必要になってくるので、ID機能や決済機能、重要な情報をブロックチェーン上で管理していくシステムなどを、その2社に作ってもらっています。
――なるほど。
田畑言ってみれば、越境プラットフォーム的な感じです。すでにβ版を、ANAと共同で進めている仮想旅行プロジェクトの開発に導入しています。例えばファミ通さんであれば、 “ファミ通タウン”みたいな街を作って、そこに読者の皆さんを呼んで情報交換をしたりできる、そして皆でANAの仮想旅行ワールドに出掛ける、なんてこともできるんです。
――そこで雑誌や本を売ったり、といったこともやろうと思えばできると。
田畑そうです。ゲームの世界からゲームのルールを取り除いて、残った空間を、企業のDXのためにいろいろと活用してもらえるように考えました。
――おもしろいですね。そうやって広がっていくのですね。
田畑ゲームのテクノロジーはとても優れていて、幅広いニーズに対応できるんですよね。キャラクターを動かす仕組みひとつ取っても、ゲームとそれ以外とでは質に雲泥の差があります。ゲームユーザーは要求がシビアで、それに応えようと開発者もブラッシュアップしていきますよね。コントローラーに神経が通っているようにゲームを動かせないと、まともに遊んでもらえませんから。画面の遷移も、迷わないように作られていますしね。日常で触れるもののUIがひどかったりすると、ゲームはやはり凄いなと実感します。
大作2タイトルをただいま準備中
――『The Pegasus Dream Tour』などに関してお話を伺ってきましたが、ゲームファンとしてはいわゆるゲームらしいゲームの制作に関しても気になるところです。
田畑はい。ゲーム開発は2本進めています。1本はプリプロダクションの段階まで終わっていて、もうひとつはまだ立ち上げたばかりの段階です。どちらもJP GAMES単体ではなく、大きな企業と協力してのプロジェクトになります。
――タイトルの規模感としては、それぞれどのようなものですか?
田畑どちらも大作です。先行タイトルの方は実験的な尖ったゲームで、後発タイトルはいわゆる世界的AAAゲームです。
――どちらももともと田畑さんがやりたいと考えていたプロジェクトなのですか?
田畑そうですね。どちらも以前からやってみたいと思っていました。『The Pegasus Dream Tour』のような社会貢献事業は、かなりビジネスライクに考えていますが、こちらは自分の趣味に近い部分があります。“ゲームはこう進化するべきだ”、みたいなものを突き詰めています。ちなみに、どちらもコンセプトを示す仮のジャンル名があります。
――おお、ぜひお聞きしたいです。
田畑1本目はハイスピードRPG。2本目はノマディックRPGです。ハイスピードRPGは、RPGというジャンルのプレイ時間がどうしても20~40時間くらいかかるのを、ワンプレイをもっと短くしてみたいと思って挑戦しているタイトルです。RPG体験がギュッと凝縮されていて、それをマルチプレイで何度も遊ぶような感じです。
ノマディックRPGは、ノマドワーカーみたいに使われているノマド(遊牧民)のように、自由に放浪することをゲームに取り入れて、大作のゲームにしていく予定です。こちらは、プロトタイプを全て社内で作ろうとすると人をすごく増やさないといけないので、この段階から何社かとの協力体制で作っていく準備を進めています。
――JP GAMESの開発体制はどのようになっているのですか?
田畑従業員という意味では、現在30名ちょっとで、社内にはゲーム事業とサステナブル事業のふたつのセクションがあります。フリーランスとして契約している人なども含めると、60人程度がコアで動いています。この先はAAAプロジェクトのために、社内の規模がもう少し大きくなると思います。
――社内のメンバーは昔から田畑さんとお仕事をされている方が多いのですか?
田畑そういったメンバーもいますが、そうでない人のほうが数は多くなっています。例えばプログラマーは若い人や海外の人が多く参加していますね。一方で、開発協力してくれているパートナー各社は、スクエニ時代から一緒に仕事していた会社がほとんどです。
――それにしても、田畑さんがAAAと挑戦的なタイトルとふたつのプロジェクトを走らせているのは興味深いですね。
田畑いまの家庭用ゲームやPCゲーム市場は、欧米のメインストリームに食い込むようなゲームにするか、逆にもっと趣向を絞った、尖っていて新しくておもしろいゲームでないと、結果の見通しが立ちにくいと感じます。予算をたくさんかけても、それだけでは世界のAAA志向のゲーマーゾーンには入れません。ちゃんとテクノロジーの塊にして世界水準のAAAゾーンに入るゲームにするか、または自分たちの作るゲームの個性を好きでいてくれる人たちに向けて作るか、どちらかに振り切るべきと考えて、今回JP GAMESとしては、それぞれの方向性で2本走らせることにしました。
――AAA級のプロジェクトについては、ゲームに興味がない人にも伝わるものにしたいということですか?
田畑そうしたいですが、まずAAA志向のゲームユーザーに訴求できるようにするのが先ですね。そうでない方向性の場合は、“こういうものが遊びたい”と思っている人たちに対して、“もう一歩先”のものを作って提供する、という感じです。
――ゲームでもAAA級とそうでないものとで、狙うべき層もアプローチも変わってくるということですね。
田畑そうなりますね。JP GAMESの事業を乱暴に分けると、街づくりとゲームづくりの2種類です。街づくりは限りなく一般向けです。誰にとっても公平な場であることや、お互いが尊重されて、譲り合えるシステムが大事。そうやって安心して個が集まれる“みんなの場”をちゃんと作って提供するという、“場”のサービスです。
――まさに場を提供するサービスですね。
田畑一方でゲームは、自分ひとりがどこまで満足できるかが重要です。ゲームも一見“みんなの場”に思えますが、僕はオンラインゲームであっても、自分が最高の体験をできていることが重要だと考えています。つまりゲームは、“ひとりのプレイヤーにとっての最高の世界”という、“体験”のサービスです。作り手によって考えかたは異なると思いますが、僕にとってのゲームは、ひとりのプレイヤーにとって最高の世界を突き詰めるという方向性ですね。
――それぞれ違う難しさもありそうですね。
田畑ですね。でもゲームがおもしろいのは、テクノロジーでそれを実現しうるところです。いまは無理でも数年後には可能性がある。僕がゲームの仕事をずっと好きでいる理由は、そのようにどんどん進化していく業界だからなんです。
――バーチャルシティ的な取り組みをしている企業はほかにもありますが、そういったところとの連携などは考えていますか?
田畑すでにいろいろな企業と連携していますよ。これまでに一度も関わったことのない業界の大企業から問い合わせをいただいたりしてますしね。たとえば僕はゲーム業界で20年以上のキャリアがありますが、いま初めて総合商社と取引していますから。
――おもしろいですね。
田畑はい、おもしろいです。何年か前から“Society5.0”(※)が情報化社会のつぎの社会と定義されていますが、それはAIなどのテクノロジーの進歩によってサイバー世界が発達し、そこから現実の暮らしをよりよくしていく、といった内容です。僕はSociety5.0を実現していく上で中心にいるべきなのはゲームデベロッパーたちだと考えていて、それに賛同してくれるゲームデベロッパー各社との、技術や開発体制の連携も強化しているところです。
※「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」(内閣府『第5期科学技術基本計画』より)
――今後の田畑さんの活躍が楽しみです。ちなみに、JP GAMESにとって、社会貢献系とゲームのどちらが本業、というわけではなさそうですね。
田畑どちらも自分の判断ひとつでできるから独立した、という感じです。どちらかだけをやるなら、自分でリスクを取ってまで独立してなかったと思います。そして僕は経営者に徹したいわけでもないので、たとえば会社のお金の管理などに関しては専門家を入れて完全に任せています。基本的にこちらはノータッチで、好きにさせてもらっています。
――経営者目線で原価問題などに口を挟んだりはしないのですか?
田畑挟みません。それぞれの事業をどう成立させるか、という部分は自分の責任で考え、判断してやっていますが、会社として今期どういう数字を作っていくか、みたいなところは専門家に任せています。僕は自分の実現したいことに専念していて、そこにいっしょに向かってくれるスタッフたちがいて、さまざまな企業も協力してくれて、といういい体制とサイクルがいまはできています。本当によい人材とパートナーが集まっているので、今後にぜひ期待してほしいです。
――相変わらず田畑さんらしい、発想の飛んだお話が伺えましたが、とくに『The Pegasus Dream Tour』は若い世代からの反響が楽しみですね。
田畑『The Pegasus Dream Tour』は、8月からアーティストたちのライブが行われるんです。出演してくれるアーティストたちのファン層は、とても幅広いのですが、その中でもやはりまずは若いファンたちがどんな動きをするのかに注目しています。アーティスト側の方たちとは、おそらくいきなり多くのファンがアプリをダウンロードしてくれることはないだろうけど、その中からつぎに向けた課題を見つけて、改善しながら継続的に取り組んでいこうという話しをています。
――SNSでの拡散も期待できそうですね。
田畑そうですね。アンバサダーに就任してくれた羽生選手のファンの人たちの多くも、ゲームをダウンロードはしないまでもSNSで情報はキャッチしてくれていました。8月には『The Pegasus Dream Tour』に共感してくれたインフルエンサーたちとのSNSプロジェクトも準備しています。フォロワーの人たちも若いのですが、そもそもインフルエンサーたちが若いので、我々おじさん世代がどうがんばっても出てこないアイデアが、どんどん出てくるんですよね。
このような性質のプロジェクトに自分でした以上、僕の理解が及ばないからといってブレーキを掛けてしまうことがないように、若い女性クリエイターたちが、アーティストやインフルエンサーとも連携して、チームの中心で思い切った開発に挑戦できて、ベテランのクリエイター陣がそれを支えるという環境を整えました。まだ試行錯誤中ですが、まずは『The Pegasus Dream Tour』に触ってみて、ぜひ新しい感性に触れてみてください。