スクウェア・エニックスがプロデュース、プラチナゲームズが開発するオンライン専用のアクションRPG『BABYLON'S FALL(バビロンズフォール)』。プラチナゲームズのアクションがハック&スラッシュをベースとしたオンラインマルチで楽しめるのが大きな魅力だ。クローズドβテストの実施も発表され、いよいよ本格始動する本作だが、まだまだ謎は多い。本稿はそんな『BABYLON'S FALL』の概要とその魅力について、開発者インタビューを中心に紹介していく。
齊藤陽介(さいとう ようすけ)
スクウェア・エニックス取締役兼執行役員。さまざまな作品のプロデューサーを務め、近年では『NieR』シリーズのほか、アイドルグループ“GEMS COMPANY”などもプロデュース。
江原純一(えはら じゅんいち)
『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』で齊藤氏とともにプロデューサーを務め、『BABYLON'S FALL』でも同氏とともにプロデューサーを担当。
齋藤健治(さいとう けんじ)
プログラマーとして『ベヨネッタ』や『ビューティフル ジョー』シリーズの開発に携わり、『メタルギア ライジング リベンジェンス』ではディレクターを担当。
謎に包まれた『BABYLON'S FALL』について開発スタッフに直撃!
念願だったハクスラ開発
――2018年のE3で発表された本作ですが、まだ情報があまり出てない、ということもあり、全般的にお話しをうかがえればと思います。まず、そもそもハクスラの作品を開発することにした経緯をお聞かせください。
齊藤P私はもともと『ディアブロ』がすごく好きで、20年ほど前に『クロスゲート』(スクウェア・エニックスが2001年にPC向けにサービスを開始した、中世ヨーロッパ風の世界を舞台としたファンタジーMMORPG)という作品を作ったのもその影響だったんです。その後もハクスラのゲームを作りたいとは思っていたんです。『NieR:Automata』でプラチナゲームズさんのアクションのスゴさを再認識し、もしあのアクションでハクスラを作れたらゲーム業界を引退してもいい、というくらいの気持ちでプラチナゲームズさんにお願いしたら、快諾していただき、開発することになりました。
――ハクスラは念願だったと。ところで、2019年のトレーラー公開からしばらく時間が空いたのは、コロナ禍やPS5への対応、といったところがおもな理由でしょうか?
齊藤PちょうどPS5の噂が聞こえてくるタイミングだったので、様子見をしていた部分はありますが、オンラインゲームということで、設計まわりを慎重に進めなければいけなかった、というのがいちばんの要因ですね。
江原本作は、P2P(ユーザーどうしで通信)ではなく、サーバークライアント型のネットワークシステムを採用しているのですが、そのため、サーバーに関する開発の難度が高めで、時間をいただきました。
齊藤Pアクションものでサーバークライアント型を採用した作品はスクウェア・エニックスでは、そんなに多くないかもしれません。
齋藤Dサーバークライアント方式ではレイテンシー(遅延)やレスポンスにも問題が出てくるので、マルチプレイのアクションとなると解決すべき問題がいろいろあって、課題が山積みでした。プラチナゲームズ自体、シングルプレイのハードなアクションを多く作ってきた会社ですから、その手触りをマルチプレイでいかに再現するか、というのは大きな挑戦でしたね。
――やはりあのアクションをマルチで実現するというのは、相当ハードルが高いんですね。リリース後の運営は、プラチナゲームズさんが担当されるんですか?
齋藤Dはい。
齊藤P難題をお願いしましたが、オンラインの運営というのは、時代的にも避けられなくなってきましたので、本作で培ったノウハウは今後に活かしてもらえるかと。
階層によって気候すら変化する巨塔バビロン
――ハイファンタジーの世界観は江原さんのこだわりですか?
江原スクウェア・エニックスが作るハクスラにユーザーが求めるものはなんだろうと考えたときに、やはりハイファンタジーじゃないか、という結論になったんです。それも、ひと筋縄ではいかないハイファンタジー。鎧のデザインひとつ取っても、ただの西洋甲冑ではなくて独自の世界観が感じられるものになっています。
――ひと筋縄ではいかないハイファンタジーとうのは……?
齊藤Pそれを明かしてしまうとすべてがつまらなくなるので(笑)、ぜひゲームで体験していただきたいですね。
――ふつうにイメージするハイファンタジーとは違う、何か秘密があるんですね? そのハイファンタジーの世界観を彩っているのが、“ブラシワークフィルター”を使った、本作独自の油絵のようなビジュアルですが、このタッチのビジュアルは当初から予定を?
齋藤D開発の途中からですね。グラフィックの方向性をフォトリアルにするかどうかの議論もあったのですが、ハイファンタジーの世界なのでコントラストが強い、存在感があるビジュアルをなんとか表現できないかということで開発され、採用することにしました。ひと目見ただけで『BABYLON'S FALL』だな、とわかるグラフィックになったのでよかったです。
――そんな独特のビジュアルで表現された世界となっている『BABYLON'S FALL』ですが、あらためて、物語の概要を教えていただけますか?
齋藤Dプレイヤーは、帝国に連れてこられた捕虜という立場なのですが、“機棺(ギデオンコフィン)”という装備を与えられ、“哨士(センチネル)”という戦士になります。その戦士たちが帝国の命により、莫大な遺産が眠るとされる巨塔“バビロン”の攻略に身を投じていくことになる、というのが大まかな物語です。
――バビロンの塔というのはひとつだけです?
齋藤Dはい。塔の中は複数の層で構成されていて、階層をひとつずつ攻略していき、頂上を目指すことになります。
――火山や雪山のようなロケーションがありますが、これは塔に到達するまでにもさまざまな難所がある、というイメージでしょうか。
齋藤Dいえ、それも塔の中です。バビロンの塔はとても広く、火山のような階層があったり、雪山のような階層があるんです。
――なんと。大自然が感じられるほど広大なんですね。キャラクターデザインは映画などで活躍されているコンセプトアーティストの田島光二さんですが、“ブラシワークフィルター”といい、アートにもかなり力が入っていますね。
江原田島さんは、プラチナゲームズさんに講師としていらっしゃったことがあって、紹介していただきました。
齋藤Dプレイヤーキャラクターの各種族のデザインやメインのNPCの何人かをデザインしていただきました。
齊藤Pデザインだけではなく、キャラクターのCGの監修もしていただいて、こだわりのデザインになっています。
主人公たちが背負う“機棺(ギデオンコフィン)”は本作のアクションの要であり、物語上のキーアイテム
――本作では両手に持つ武器のほかに、“機棺(ギデオンコフィン)”を介して、さらにふたつの武器が装備でき、つまり4つの武器を組み合わせたアクションを楽しめるとのことですが、そのギデオンコフィンを使ったアクションについてご説明いただけますか?
齋藤Dまず、プレイヤーキャラクターは両手に武器を装備し、弱攻撃、強攻撃のような2タイプの攻撃を実行できます。
――『NieR:Automata』でもあったような攻撃のイメージですね?
齋藤Dはい。それに加えて、ギデオンコフィンのギデオンアームズと呼ばれるところに武器をふたつ装備でき、ギデオンアームズに装備した武器は、本体がどういう状況であるかに関係なく振ることができるんです。たとえば、手持ちの武器の攻撃で敵を吹っ飛ばした後、ギデオンアームズに装備した武器で追撃といったアクションが可能になります。
――トレーラーなどで見る限り、すごくスタイリッシュでプラチナゲームズらしい、爽快なアクションになっている印象ですが、武器がそれだけあると操作も複雑になりそうな気もするのですが、それについてはいかがですか?
齋藤Dアクションが苦手な方でも楽しく遊べる操作、手触りで調整しています。
齊藤Pいまは、敵に近づいてボタンをガチャガチャ押してれば、何とかなる感じになっていますね。もちろん、手触りは最後の最後まで調整する部分なので、蓋を開けてみたら激ムズの可能性もありますが(笑)。
齋藤Dそこは大丈夫です(笑)。むしろ『NieR:Automata』よりも簡単かもしれません。ギデオンコフィンに頼らずとも気持ちよくプレイができるような操作感になっていますし。
――安心しました(笑)。
齋藤Dもちろん、アクションが得意な人もやり応えを感じてもらえるよう、特定の立ち回りによって発動するスキルが個々の武器や装備品に用意されています。たとえば、ジャスト回避をすると、何らかの効果が得られるスキルとか。敵の後ろから攻撃すると発動するスキルなどもあります。
江原装備の性能はもちろん、スキルを厳選していくのも楽しいゲームなので、空中コンボ時とかジャスト回避時とか、そういった特定のアクションを成功させたときに発動するスキルが揃ってきたら、そのスキルが発動できるように空中コンボや回避を多用してみる、といった楽しみかたもいいかもしれません。
齊藤Pギデオンコフィン絡みで言うと、ハクスラ系のゲームでは「自分が使わない武器種のレア武器が出たときの悲しみ」がつきものですが、ギデオンコフィンのおかげでその問題が解消できているのはすばらしいな、と思いました。
――ふだん使わないような武器でも、強ければとりあえずギデオンアームズに装備させる、といったことができるわけですね?
齋藤Dそうですね。プレイヤー本体とギデオンアームズで合計4つの武器が装備できるので、とても自由度は高いです。
――武器はソード、ハンマー、ボウ、ロッド、シールドの5系統がありますが、別の系統が追加されることは?
齋藤D予定はしています。
4つの武器の組み合わせによる戦略の幅は無限大
――武器には手持ち用、ギデオンコフィン用と分かれているんでしょうか。
齋藤D区別はありません。すべての武器を4ヵ所どこにでも装備できます。同じタイプの武器を4つ装備する、装備武器4つをすべてソードにして攻撃に特化するといった極端なことも可能です。
――現段階で、齋藤Dが好きな武器の組み合わせは何かありますか?
齋藤Dハンマーがお気に入りです。シールドもいっしょに装備して、近距離で立ち回るのが好きなんです。ギデオンコフィンにボウとロッドを装備しておけば、遠距離にも対応できますし、攻撃や魔法も使える魔法剣士のような立ち回りも可能です。
江原実際にリリースされたら、いろいろな武器を装備する全対応型の組み合わせが人気になるんじゃないかなと予想しています。もちろん、「自分は近距離特化でいくから、あなたは遠距離攻撃をよろしく」みたいな役割分担をして挑んでもいいでしょうし。
ギデオンコフィンから出る“機糸(ギデオンガット)”を操り、さまざまな特殊アクションも可能
――ギデオンコフィンには武器を装備する以外にも、機能があるようですが?
齋藤Dギデオンコフィンから出る“機糸(ギデオンガット)”を操り、さまざまな特殊アクションが可能です。たとえば、遠隔地に飛び移るグラップリングフックのような使いかたもできます。また、敵のエネルギーを吸収する、味方を強化する、などの能力もあります。ひとつのギデオンコフィンですべての能力が使えるわけではないので、目的に応じていろいろ付け替えることになります。
――ということは、ギデオンコフィンはカスタマイズできると?
齋藤Dはい。
――開発者インタビューの動画中にヴァルカンモード、マーズモード、ディアナモードという3つのモードが確認できましたが、これは?
齋藤Dひとつの武器に対してひとつのアクションしかできないのはもったいない、ということで導入した、私のこだわりのシステムです。モードを変えると、手触りや立ち回りが変わります。簡単に言うと、スタンダード、パワー重視、テクニカルの3種類から好きなアクションが選べるといったものになっています。モードは、4つの武器それぞれで変えられます。
――武器ごとに変えられるというのはすごいこだわりですね。似たような装備でも、プレイヤーごとに動きの個性が出そうです。ジョブやクラスのようなものはありますか?
齋藤D武器の組み合わせ次第で、アタッカーにもタンクにもヒーラーにもなれますので、プレイヤー次第で役割を変えることができます。
――塔の中では、ヒーラーが必要な場面も?
齋藤D基本的には4人が思い思いに暴れてもクリアーできるバランスになっていますが、一部のコンテンツではタンクやヒーラー的な役割分担が必要になるかもしれません。
――ストーリーを追っていく以外のコンテンツも用意されているということですか?
江原はい。ハクスラなので、ストーリーを終えてから、さらに遊び応えのあるゲーム性になっているので、そこは期待してください。
齊藤Pいままさにエンドコンテンツ的な物を作っている段階ですね。
――たしかに、そこがハクスラの楽しい部分ですからね。キャラクターの成長要素はありますか? たとえば、スキルツリーがあるとか。
齋藤D一部の要素にそれっぽいものを導入していますが、スキルツリーではないですし、基本的には、武器や防具によってキャラクターを強化していくゲームとなります。
追加されるゲームモードは追加料金なし! 『NieR:Automata』とのコラボの可能性は?
――ここからは少し細かい話をいくつかうかがいます。クラフト要素はありますか?
齋藤Dはい。装備の製作も可能です。
――作るものと拾うもので強さに違いはありますか?
齋藤D拾った装備とクラフトしたものと一概にどちらが強い、とは言えないと思います。
――手に入る装備の強さは、挑んだダンジョンの難度で決まるんでしょうか。
齋藤D基本的にはそうなります。ダンジョンごとにレベルのようなものが設定されていて、それに応じた装備が手に入ります。
――武器の強化などは可能ですか?
齋藤D可能です。
――マルチプレイをする際、ロビーのようなものがあるんでしょうか?
江原はい。拠点に集まって塔へ出発できます。
――マルチプレイは最大4人とのことですが、ひとりプレイ用のモードはありますか?
齋藤Dオンライン専用のゲームですので、必ずネットに接続して遊んでいただくことになります。
――ひとつの階層のクリアーには時間はどの程度かかるのでしょうか?
齋藤D1ダンジョンは10~20分程度ですが、1階層はいくつものダンジョンで構成されているので、1階層をクリアーするには、ある程度の時間がかかると思います。
――戦闘不能になった場合、デメリットはありますか?
齋藤D回数制限はありますが、その場で復活できるほか、仲間に助け起こしてもらうこともできます。全員が復活できない状態で戦闘不能になると攻略失敗となります。失敗の条件はコンテンツによって異なります。
――PS4、PS5、PC間でのクロスプレイは可能ですか?
齋藤Dはい、可能です。
江原補足になりますが、クロスプレイは可能なのですが、諸事情でクロスセーブとクロスペイはできませんので、ご注意ください。また、プレイにはスクウェア・エニックスアカウントが必須で、プラットフォームごとにゲームのデータが紐づく形になります。
―― PS4でプレイした続きをPCで、みたいなことはできない、ということですね。発売後は定期的なアップデートが予定されていて、一度ゲーム本編を購入すれば、追加されるゲームモードは、追加の料金を支払うことなくプレイすることができるとのことですが、課金要素はないのでしょうか?
江原バトルパスという、ゲームプレイに付随していろいろな特典が受けられるものを用意しています。無償のバトルパスもあるのですが、有償のパスを買い足すと特典が多くなります。手に入るものは、見た目に関わるものが多いですね。有償パスでのみ強力な装備が直接入手できる、みたいなことはありませんのでご安心ください。
――ありがたいです。季節ごとのイベントのようなものはお考えですか?
齋藤D考えています。
――ほかのゲームとのコラボ、たとえば『NieR:Automata』とのコラボなどは……?
齊藤Pプラチナゲームズさんが作っているからあるかもしれませんが(笑)、まだわかりません。
――PvPの要素はありますか?
齋藤Dいまのところその予定はありません。
――ハクスラ好きな齊藤さんや江原さんから見た、いまの『BABYLON'S FALL』はいかがですか?
齊藤Pアクションやオンラインでの手触りがどうなるかという調整がいま進んでいるので、まさにこれからが大事な時期ですね。マルチプレイで近接攻撃と遠距離攻撃の役割分担の醍醐味や楽しさなど、MOとしての楽しさはこれからのチューニングにかかっていると思います。ただ、そうした部分はプラチナゲームズさんの実績から考えても、大船に乗った気で安心はしています。
江原『NieR:Automata』を遊んだときに、アクションをすべて楽しまなくてもクリアーできる点はゲーマーとしてもったいないと感じていたんですよね。アクションをしゃぶりつくすという意味で、それに見合う『BABYLON'S FALL』という遊び場にゲーマーとして期待しています。
“FALL”には、このゲームにどっぷりハマってほしい、という願いも
――『BABYLON'S FALL』というタイトルにはどんな意味が込められているのですか? トレーラーには、敵らしき者から「貴公らの末路はふたつしかない。塔よりも高くASCENSION(昇天、上昇などの意)するか、我々のようにFALL(墜ちる、滅びるなどの意)するかだ」といったセリフがかなり意味深でした。
齋藤Dストーリーに関しては、シナリオライターの岩尾賢一さん(『FFXI』や『FF 』ではプランナーとして参加)が壮大な世界観を用意してくださいました。タイトルはその世界観に関連しているので、ゲームをプレイして確かめてほしいのですが、“FALL”には、プレイヤーの皆さんに、バビロンの塔を攻略してほしい、このゲームにどっぷりハマってほしい、という願いも込めています。
――いよいよベータテストが7月下旬から始まります。テスターも募集中ということで、最後にひと言ずつアピールをお願いします。
齊藤P注意事項からでいいですか?(笑) クローズドβテストの初期は“ある程度の人数”かつ“いろいろなPCやネットワーク環境の方々”に集まっていただいて、「どこどこに入ってね」とか「ログイン、ログアウトをくり返す」とか「マッチングのテストで、ゲームプレイはちょっとまってね」とか、そういったところからスタートします。ですので、最初からゲームに対しての期待値を高めて来られると肩透かしになる可能性があります。そういう意味で、「地固めをいっしょにやってやる」という心持ちで参加していただけるとうれしいです。もちろん、それだけではなく、少し経てばしっかりとゲームとしての『BABYLON'S FALL』のおもしろさを味わえると思うので、ご応募お待ちしております。
江原年明けの段階では通信が安定していなかったのですが、4月ごろにはしっかりと動く状態になりました。いま、まさに開発も終盤に差し掛かって、いろいろなことが整えられてきています。ゲームが形になっていく様子をいっしょに見られる、滅多にないチャンスでもありますので、ご協力を強いてしまうこともあるかもしれませんが、クローズドβテストに参加していただけたらと思います。
齋藤Dプラチナゲームズでネットワークゲームを作るのは初めてですので、ご迷惑をおかけする部分もあると思いますが、今回のクローズドβテストは『BABYLON'S FALL』を完成させるための第一歩だと考えているので、ご興味ある方はぜひ参加してください。