2021年4月、セガが体制変更を行い、内海州史氏が取締役副社長 ゲームコンテンツ&サービス事業本部長に就任した。内海氏は今後、セガの副社長として同社の事業全般を広く見ていくことになるという。
昨年、コロナ禍という困難に見舞われながらも、セガのゲーム事業は業績を伸長させた。それを受けて、今年、セガはゲームタイトルをどのように展開していくのか。内海氏に話をうかがった。
内海州史氏(うつみ しゅうじ)
これまでに、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント/現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、セガ・オブ・アメリカ、ディズニー・インタラクティブ、キューエンタテインメントなどでゲーム事業に従事。2019年にセガサミーホールディングスに入社し、新規事業を担当した後、今年4月にセガの取締役副社長に就任。セガのゲーム事業の舵取りを担う。
“デジタルバックパッカー”なる内海氏のこれまで
――この4月に副社長に就任されましたが、昨年以前はどのような事業を担っていたの、これまでの経歴を教えていただけますか。
内海ゲーム業界歴はとても長いです。SCEが設立されたころから、ゲームに関わっています。アメリカでプレイステーションを打ち出していく際に、SCEアメリカの立ち上げメンバーのうちのひとりとして渡米しまして、その後ご縁があり、アメリカでセガに転職したんです。
――初代プレイステーションというと、日本で発売されたのは1994年12月ですね。北米では1995年9月に発売されています。
内海ソニーではプレイステーションのローンチに向けた3rd パーティへの営業、日本のゲームを米国向けに買付したり、米国のゲームの日本展開のお手伝いをしていました。セガに転職したのは1996年の終わりごろだったかと思います。しばらくはセガ・オブ・アメリカにいたのですが、ドリームキャストの立ち上げに関わることになって、日本に戻ってきました。ドリームキャスト立ち上げ当時は、セガが開発するタイトルの責任者として、『サクラ大戦』や『スペースチャンネル5』などのタイトルに関わっていましたね。
――ドリームキャストの代表的なタイトルに携わってこられたんですね。
内海それから2000年に、ディズニー・インタラクティブに籍を移しまして、『キングダム ハーツ』のディズニーサイドのプロデュースなどを行いました。その後、水口哲也さん(※)とキューエンタテインメントを立ち上げて、『ルミネス』や『メテオス』などのゲームを制作してきました。
※水口哲也氏:『Rez』や『ルミネス』、『テトリス エフェクト』などを手掛けたゲームクリエイター。ゲーム以外に音楽作品や映像作品、メディアアートなども制作している。
――さらにその後、2014年に、ワーナーミュージック・ジャパンの社長に就任されていますね。
内海ワーナーミュージックではデジタル化に関わる仕事を推進し、その後、モバイルゲーム事業などを手掛けているサイバードで社長を務めました。それから2019年にセガサミーホールディングスに入り、ライブエンタテインメント・オープンイノベーション担当を経て、去年からはセガのゲーム開発に関わっています。
――いまうかがっただけお話でも、かなり波乱万丈な人生だと感じます。
内海私自身は自分のことを、“デジタルバックパッカー”なんて呼んでいます(笑)。おもしろいことがあるところに、気軽に行っちゃうんですよね。
――これまでの経歴からも、小さな規模から始まったビジネスが大きくなる瞬間を、何度も見届けられているのですね。
内海この業界では小さなものがドーンと大きくなる、新しい文化が生まれて大きくなるということが、何度も起きるものだと思っているし、実際に体現しています。
――そういった経験を経て、2年前にセガサミーグループに戻られましたが、最初はゲーム事業ではなく、ライブエンタテインメント・オープンイノベーション部門で、新規事業を生み出す役割を担っていたんですね。
内海新しい文化を作っていくうえで、若手が活躍できる新しい事業は非常に大切ですし、新しい血が入って交流することで新しいものが生まれると考えていますので。そこに力を入れていました。
――では、この4月にゲーム事業の責任者に就任するのは、予想外でしたか?
内海もともとゲーム業界にいた身ですので、そういう可能性もあるとは理解していました。セガサミーグループに戻ってから、ゲーム事業に関して考えたことを社内で述べる機会があり、それがこの4月の人事につながったのではないかと思います。
セガのポテンシャルが海外でも花開く
――昨年は全世界が苦労を強いられた年でしたが、セガサミーグループにとっては、どのような年でしたか。
内海セガサミー全体で見ると、本当に凹凸のある1年でした。遊技 機やゲームセンター、リゾート事業に関するビジネスについては苦労もありましたが、ことゲームに関して言えば、追い風が吹いていました。もともと、2019年にセガに戻ってきたときに、「セガには、海外での展開も含めて大きなポテンシャルがある」と感じていたんです。現在、巣ごもり需要も手伝って、欧米を中心にセガの事業が大きく伸びました。そういったセガの持つポテンシャルが、思っていたよりも早く顕在化したと感じています。
――ゲーム事業に関して言えば、悪いことばかりではなかったと。
内海そのほかにも、たとえば海外法人のメンバーや取引先との会議は、以前ですと移動の関係もあって少人数での実施になりがちだったのですが、いまはオンライン会議が主流になったおかげで、お互いに多くのスタッフを集めて会議ができるので、かえって進行が早くなるといったこともありました。ゲーム事業に関しては、よい面もあった1年だったと感じています。
――海外でのビジネスの伸長が、ゲーム事業全体にとって大きなプラスになったのですね。
内海巣ごもり需要もありましたし、開発やマーケティングの努力が実った部分もあります。たとえば『龍が如く7 光と闇の行方』(以下、『龍が如く7』)は、『龍が如く』シリーズでは初めて本格的に マルチプラットフォームに対応し、海外でも以前より時間を空けずにリリースしているんです。これまでは日本のマーケットで、プレイステーションを中心に展開していたものを、世界規模かつXboxやSteamでも展開し、そこで高い評価を得ることができました。世界規模で見ると、『龍が如く7』はシリーズの中でいちばんヒットしたタイトルになっています。
――『龍が如く7』はローカライズにも力が入っていますよね。
内海プラットフォームや販売地域によって異なりますが、ロシア語やポルトガル語も含めて最大11言語に対応していますし、サブストーリーの細やかなローカライズなども評価していただけました。そういった努力が功を奏して世界に広がっていっているのではないでしょうか。
――『龍が如く7』のような家庭用ゲーム機向けタイトルに加えて、モバイル系のタイトルも好評だったとうかがっています。
内海『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロジェクトセカイ』)や『Re:ゼロから始める異世界生活 Lost in Memories』などがとくに好評で、これらのタイトルのヒットも大きな追い風になりました。
――とくに『プロジェクトセカイ』は、Twitterのトレンドに関連用語が頻繁に入るなど、勢いを感じます。
内海運営力も非常に高いですし、キャラクターも含めてIPの人気が伸びているので、これからも先が楽しみなタイトルです。また、最近のセガを見て、モバイルに比べて家庭用ゲーム機タイトルの新作が少ないのではと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、いまは組織の転換期ということもあり、いろいろなラインアップを見直しているところです。これから徐々に、そして来年以降にかけてどんどん充実していきますよ。
外の視点からわかるセガのよさ
――セガの転換期というお話が出たところで、4月の組織変更などを受け、今後セガがどのような方針のもとにゲーム事業を進めていくのか、教えていただけますか。
内海先ほどお話しした通り、コロナウイルスの影響もあって、とくに海外において、ダウンロード販売の比率がかなり高くなってきています。これによって、ニッチなタイトルが売りやすくなったと言えますし、さらにそれを受けて、よりファンの方々との距離が近くなるビジネスの構造を作りたいと考えています。また、国内と海外で、各タイトルのリリース時期はできるだけ揃えていくつもりです。
――先ほど、『龍が如く7』がマルチプラットフォームに対応し、かつ日本での発売からあまり離れずにリリースしたことで、売上が上がったとおっしゃっていましたね。
内海海外の方から、セガは“ゴールドマイン”、“トレジャーアイランド”だとたとえられることが多いんです。海外でもっと大きな展開ができるポテンシャルがあると、海外の皆さんも思ってくださっているんですよ。長年築いてきたブランドがありますし、熱量の高いファンを持つIPを豊富に持っています。そして何より、社内にいるクリエイターのレベルが非常に高いですからね。私も驚かされることが多いです。
――さまざまな会社での経験がある内海さんだからこそ、セガが持つ強みを客観的に見られるということでしょうか。
内海そうですね。まずセガには、本当にすばらしいIPがたくさんあります。海外のエンターテインメント業界の方々とお会いしたときに、「このIPはセガが作ったものだ」と言うと、皆さんとたんに目が輝いて、ファンの目になるんですよ(笑)。そういったIPを持っていることを、大切にしたいですね。
――とはいえ、もちろん昔のIPを大切にするだけではなく、新しいIPも作っていくと。
内海もちろんそうです。過去のIPを扱うにしても、ゲームとしてはいまの時代に合ったものにならないといけませんし。過去のIPと新しいIP、どちらか一方だけを大事にするということではありません。家庭用ゲーム機もスマートフォンも含め、幅広くタイトルを作れる開発力があり、しかもネットワークへのノウハウがある、というのがセガの大きな強みです。AAAクラスのゲームにも、もっと取り組めると思っていますので、人材の配置や資金の割り当てを、市場に合わせて調整していくつもりです。
――アーケードと家庭用ゲーム機の開発スタッフの交流や配属変更なども行っていくのでしょうか。
内海アーケードの開発者たちは、対戦などでプレイヤーどうしの絡みを持たせることや、素早くゲームを完成させて運営していくことなど、本当にプロフェッショナルなんです。いま、アーケードの市場は以前と比べると小さくなっていますが、その中で彼らにはもっと様々な場面で活躍の場を広げてもらうことを期待しています。
――では、これからは舞台を変えていく?
内海アーケードゲーム開発を止めるという意味ではありません。アーケードゲームの開発者たちはそこに携わりながらも、家庭用ゲーム機やモバイル、そして海外も含む市場にもそのノウハウを活かしていけると考えています。そういったことを考慮しつつ、人材配置の再検討を進めています。
――IPや開発力のポテンシャルを活かすためにも、人材をより活用していくことが課題になるのですね。
内海そういう言いかたもできると思います。もちろん、人材を活かすためには、さまざまなものがうまく組み合わさっていかないといけません。チームをリードするディレクターやプロデューサーの力も、非常に重要になります。そういった環境をどう整えるかが、私の役割だと考えています。
――昨年度まで、取締役CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めていた名越稔洋さんは、今回の組織改編で開発に専念されることになりましたが、これも、名越さんにゲーム開発に注力してもらうためでしょうか。
内海世界的なヒットタイトルを作れる人は、多くはありません。名越は新しいものに対してチャレンジできる経験と度胸があります。ひとつひとつのタイトルの規模が大きくなっているいま、世界規模で成功させないと利益を生むのが難しいという現状もあり、作品自体にパワーを持たせるためにも、ビッグタイトルの開発に専念してもらおうと考えています。
2021年度の注目タイトルは?
――2021年度のゲーム事業について、とくに注目してほしいポイントを教えてください。
内海まずは、『ファンタシースターオンライン2 ニュージェネシス』ですね。これは『ファンタシースターオンライン2』のアップグレード版なのですが、新作として展開するほど、かなり大規模なものになっています。日本だけでなく海外も含めて同時に展開するので、我々としては大きなチャレンジとなります。これまでの『ファンタシースターオンライン2』を止めることなく、そのデータを保持したまま新作を遊べるという、なかなか思い切ったタイトルです。
――新作としては『ジャッジアイズ:死神の遺言』の続編、『ロストジャッジメント:裁かれざる記憶』も発表されました。
内海はい。前作からボリューム感、アクション性、ストーリー性が増していますので、ぜひともチェックしていただきたいです。こちらも世界同時発売を予定していて、対応言語も前作からさらに増やしています。作品の魅力をキッチリと伝えるために、海外を意識したマーケティング施策も考えていますよ。
――『龍が如く7』で蓄積したノウハウを活かして、さらに意欲的なグローバル展開を行うということですね。
内海ゲーム本編の制作に加えて、グローバル展開を見据えた施策も同時に進めていくので、チームにとって非常に大きなチャレンジになりますが、発売に向けて大いに奮起してくれることを期待しています。この『ロストジャッジメント』は、今後のセガにとって指標のひとつになるタイトルです。また、まだ詳しいことはお話しできませんが、ほかにも水面下で動いているタイトルがいくつかありますので、そちらも楽しみにしていただければと思います。
――家庭用ゲーム機、モバイルともに、まだまだ攻めがいのある市場だと考えていらっしゃる?
内海日本ではゲーム市場は落ち着いてきている印象があるかもしれませんが、世界に目を向けると、非常に伸びています。それにここ数年で、ゲームがメディアに近い存在になってきたと感じています。ゲーム自体がコミュニケーションの場になっていたり、ゲームのプレイ動画がコンテンツ化して、それをきっかけに多くのユーザーが集まったり。ゲームがさまざまなものを内包して、その中心になってきていますよね。
――確かに、ゲームがいろいろなものを内包しているというのはその通りですね。
内海そういった中で、良質かつ、世の中の動きを捉えたコンテンツを作れるポテンシャルがあるのが、セガの大きな強みです。日本の人々は、昔からバーチャルなコミュニケーションに対する抵抗がないですし、海外でもようやく最近はそういう風潮になってきているので、そういった皆さんに向けて我々が提供できることはまだまだあると考えています。
若い世代へのアプローチ
――セガが持つIPのファンというと、年齢層は高めの方が多いイメージがありますが、これからは若い世代にも積極的にアプローチしていくのでしょうか。
内海そうですね。たとえば『プロジェクトセカイ』もアーケードの『チュウニズム』も若いファンの方が多いので 、もっとアピールしていきたいタイトルです。それと、私がセガに改めて入社して思ったのは、従来のゲームも若い方にも受ける可能性があるな、ということです。
――若い世代向けではないと思っていたものが、蓋を開けてみたら好評だったということでしょうか。
内海はい。たとえば『龍が如く』にしても、若い年代の方が遊んでも楽しめる要素がたっぷり詰まったゲームです。ゲーム自体は若い方にも楽しんでもらえる内容なのに、セガ側の発信方法によって、若い方が入りにくいような印象を与えていたのではないか、と思いましてもっと若いユーザーにも通じるようなコミュニケーションを考えてみよう、ということを社内でも伝えています。“伝承と革新”を軸に、セガにしか持てない強みを活かしつつ、時代に合った形で皆さんにお見せしていきたいですね。
――それはたとえば、SNSや動画を通じた発信だったり?
内海そうですね。この春、社内に本格的な動画スタジオを作りまして、さまざまな動画を作っています。おもしろいゲームを作るのが重要だということは念頭に置きつつ、今後もリアルでのイベントを開催しづらい状況はしばらく続くでしょうから、動画を多めに発信していきたいですし、昔からのファンの方とのコミュニケーションにも、若いファンの方に入ってもらうための情報発信にも、幅広く利用していくつもりです。
攻めの姿勢でグローバルに進んでいく
――セガは昨年60周年を迎えましたが、今年はソニックが30周年ですよね。
内海はい。ですので、ソニックに関わる企画も進めていますよ。映画の最新作や、Netflixでの新作アニメーションの制作が決まっていますし、もちろんゲームの新作についても何らかの発表が近くあるかもしれません。
――周年と言えば、アトラスの『ペルソナ』シリーズも今年で25周年です。
内海『ペルソナ』は、日本のファンはもちろん、海外のファンもすごく多い、すばらしいブランドです。セガとしても、『ペルソナ』をより厚くサポートできるように動いていきたいですね。
――『ロストジャッジメント』は世界同時発売を予定していますが、今後は『ペルソナ』シリーズなども、世界同時発売を目指すのでしょうか。
内海マルチプラットフォームで世界同時発売することは、タイトルにとって追い風となります。もちろん、タイトルごとに細かい調整をしなくてはいけませんが、セガだけでなく、アトラスのタイトルも世界展開を意識したいですね。テキスト量が多いので、スタッフは苦労も多いですが、それを克服することでお客様が喜んでくれるのであれば、苦労をする価値はあるはずだと考えています。
――国内外で、セガグループがどんな展開を行っていくのか、これからも楽しみにしています。では最後に、ゲームファンへのメッセージをお願いします。
内海発表やリリースが近いタイトルが多いこともあって、開発スタッフたちは現在、日々奮闘しています。セガはコロナ禍においてもひるまず、さらに打って出る姿勢で進んでいきます。発表したばかりの『ロストジャッジメント』は、対応言語数が増え、より多くの方に楽しんでいただける作品になっております。日本のユーザーの方には世界中の皆さんにお勧めしていただける作品として受け止めていただけると大変嬉しく思います。