『ゴースト・オブ・ツシマ』や『The Last of Us Part II』といった世界の各種アワードで多くの賞を獲得したタイトルに発売に加え、新世代機・PS5(プレイステーション5)が発売されるなど、2020年のSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)は、ゲームファンにさまざまな楽しさ、喜びを提供してくれた。
だが、日本のゲームファンにとっては寂しさを感じることがあったのも事実。それが、SIE JAPANスタジオからの著名クリエイターの退職だ。
SIE JAPANスタジオはSIEワールドワイドスタジオ(WWS)のひとつとして、古くは『パラッパラッパー』や『サルゲッチュ』から『ICO』、『SIREN』、『ワンダと巨像』、『LocoRoco』、『Demon's Souls』、『グラビティデイズ』、『フリーダムウォーズ』、『Bloodborne』、『New みんなのGOLF』などなど、挙げればキリがないほどの名作、人気作を生み出してきた開発スタジオ。
だが、SIE JAPANスタジオは2021年4月をもって再編され、“Team ASOBI”の中に統合されている。“Team ASOBI”は、PS VRの『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』や、PS5のプリインストールタイトル『ASTRO's PLAYROOM』を制作した、新しいハードや技術を使った遊びを生み出す手腕に定評のある開発チーム。“Team ASOBI”の手掛けるタイトルはどれもすばらしく、このチームが強化されるというのは、ゲームファンのひとりとして楽しみにしている。
一方で、前述したような数々のゲームを手掛けた著名クリエイターの多くは、2020年度内にSIEを退職し、新たな動きを見せ始めた。2020年12月には、『SIREN』や『グラビティデイズ』などを手掛けた外山圭一郎氏を中心に、佐藤一信氏、大倉純也氏らによる新たなゲーム制作会社Bokeh Game Studio(ボーカ ゲームスタジオ)の設立を発表。
※Bokeh Game Studio(ボーカ ゲームスタジオ)へのインタビュー記事はこちら
そのほかにも多くの方が退職を発表しており、その一部を抜粋すると、2020年12月に『Bloodborne』プロデューサーの鳥山晃之氏、2021年3月に『ソウル・サクリファイス』などの本村健太郎氏が退職したことを明かしている。
では、SIEを退職した彼らはこれからどんな場所で、どんな動きを見せるのか。ボーカ ゲームスタジオのようにつぎの動きを発表しているところもあるが、まだ発表していない方も多く、ゲームファンにとっても気になるところだろう。そこで今回、SIEを退職された方の中で、新たな動きが決まっている方や、現時点で発表できる方を中心に、新天地などの動向を教えてもらいつつ、今後に向けての意気込みをいただいた。
これまでに手掛けてきたゲームを遊んだファンの方は、ぜひ皆さんの今後の動向に注目し、そして、新たな動きを応援してほしい。
※掲載は五十音順
飯島貴光氏
これまでの代表作
- 『ワイルドアームズ』(PS)/アーティスト
- 『サルゲッチュ』(PS)/アートディレクター、キャラクターデザイナー
- 『ピポサル2001』(PS2)/アートディレクター、キャラクターデザイナー
- 『ガチャメカスタジアム サルバト~レ』(PS2)/ディレクター、アートディレクター
- 『街スベリ』(PS3)/ディレクター
- 『フリフリ!サルゲッチュ』(PS3)/ディレクター
- 『KNACK』(PS4)/ゲームディレクター
- 『KNACK ふたりの英雄と古代兵団』(PS4)/ゲームディレクター
今後に向けての意気込み
私は現在、新天地となる新しい場所で、引き続きゲーム制作に携わらせていただいております。日本には素晴らしいセンスや才能を持った優秀なクリエイターさんがたくさんいらっしゃいます。また漫画やアニメなどの文化的な下地から生まれ出る日本独自のテイストや世界観は唯一無二であり、昔から大好きだったそれらの魅力を存分に感じられるゲームを日本発で生み出していく、というのが、いままでも、そしてこれからも私の目標です。素晴らしい環境と新しい仲間との出会いに感謝して、今後も全力で頑張ってまいります。
浦野圭氏
これまでの代表作
- 『Horizon Zero Dawn』(PS4)/ローカライズプロデューサー
- 『Days Gone』(PS4)/ローカライズプロデューサー
- 『Dreams Universe』(PS4)/ローカライズプロデューサー
今後に向けての意気込み
13年間SIEの海外タイトルを日本へとローカライズプロデュースしてきましたが、これからは海外側からゼロからゲームをプロデュースしていきたいと思います。次のお仕事はまだ決まっていませんが、今後はアジアまたは欧州側の開発スタジオからユーザーの皆さんに楽しんでもらえるゲームをお届けできるよう頑張ります!
大倉純也氏
これまでの代表作
- 『SIREN』シリーズ(PS2、PS3)/リードゲームデザイン
- 『グラビティデイズ』シリーズ(PS Vita、PS4)/リードゲームデザイン
新たな所属
株式会社 Bokeh Game Studio CTO/ゲームディレクター
今後に向けての意気込み
ひょんな事から外山と出会い、SIRENシリーズに関わり始めてから早20年、SIEでは1stパーティーという貴重な環境で様々な事に挑戦させていただきました。今回自分たちで作った新たな環境での挑戦ということで、絶賛奮闘しております。才能とやる気に溢れたスタッフ達のスピード感がとても心地よく、これからどうなっていくのかワクワクすると同時に、その熱気に負けないよう、私自身も尽力していきたいと思いますので、どうか宜しくお願い致します。
河野力氏
これまでの代表作
- 『レジェンド オブ ドラグーン』(PS)/プランナー。主にステージやイベントの設計、ポケステ用『モグ~ルダバス』のゲームデザイン&ディレクション
- 『ICO』(PS2)/プランナー。主にステージの設計を担当
- 『LocoRoco』(PSP)、『LocoRoco 2』(PSP)、『おいでよロコロコ!! BuuBuu Cocoreccho!』(PS3)/ディレクター。 ゲームデザイン、キャラクターデザイン、曲作りなど色々
新たな所属
現在、猫と遊んだり体を鍛えながら、起業準備してます!
今後に向けての意気込み
僕にとっては、SCE(SIE)は個性的な仲間がいっぱいいる楽しい学校のような場所でした。動物園と呼ばれることもありましたし。。。みんなバラバラになるのは少し寂しいですが、これからどんな風にSCEの遺伝子が広がっていくか楽しみです! 僕はこれから新しく作る会社で、今まで作りたくても作れなかったものを形にしていきます。海外の友人とコラボしたり、場所も人も自由に気の合う人と一緒に、人を癒したり笑顔にしたり、地球の平和に繋がるようなゲームを作っていこうと思います!!
斎藤俊介氏
これまでの代表作
- 『グラビティデイズ』シリーズ(PS Vita、PS4)/キャラクターデザイナー、モーションディレクター(1&2)、アートディレクター(2)
- 他、『サルゲッチュ』シリーズ、『どこでもいっしょ』シリーズなど
今後に向けての意気込み
全く新しいチームで、信頼できる人達と一緒に新しい企画を仕込み始めています。ツイッターなどでも徐々にお知らせしていけたらと思います!
佐藤一信氏
これまでの代表作
- 『SIREN』(PS2)/リードキャラクターデザイン
- 『SIREN2』(PS2)/リードキャラクターデザイン
- 『SIREN: New Translation』(PS3)/ゲームシステムディレクション
- 『パペッティア』(PS3)/リードゲームデザイン
- 『人喰いの大鷲トリコ』(PS4)/プロデュース
新たな所属
株式会社 Bokeh Game Studio
取締役社長 COO/プロデューサー
今後に向けての意気込み
私がSIE JAPANスタジオで働き始めたのは、Y2K問題やノストラダムスの大予言など異様に浮ついていた1999年の初冬でした。
当時の面接官がBokeh代表の外山だったと思うと感慨深いです(笑
振り返るとあっという間の21年でしたが、全てが私を構成する貴重な経験となりました。
今は新スタジオを立ち上げ、忙しくも充実した時間を過ごしております。
初タイトルのお披露目はもう少し先になるのですが、定期的に情報を発信していくのでご注目下さいませ。
土屋啓吾氏
これまでの代表作
- 『レジェンド オブ ドラグーン』(PS)/コンセプトアート
- 『LocoRoco』(PSP)シリーズ/アートディレクター
- 『near』(PS Vita)/アートディレクション
新たな所属
i.ROIRO / Creative & Design Lab 設立 代表
今後に向けての意気込み
昨年末「ゲーム制作だけに止まらず、もっと幅広い分野でクリエイティブな表現や活動に挑戦していきたいっ!」という思いが強くなり独立することに致しました。
しばらくはゲーム制作に携わるつもりはなかったのですが…。
まもなくして、あるゲーム制作プロジェクトの立ち上げのお話を聞く機会がありました。
そこに集結していたメンバーというのが、先に旅立っていった元SIE JAPAN Studioの方々を含め、なかなかの豪華な面々(笑)。そして「クリエイターには本当に作りたいモノを作って欲しいんですっ!」と熱く語るスタジオと興味深い座組。
「んっ?!なんか面白そう〜!一緒に作りたいっ!」
ということで、今、そんな皆さんとゲームを作っております。尖っていきます(笑)
具体的な報告が近々出来るように頑張りますので宜しくお願い致します。
外山圭一郎氏
これまでの代表作
- 『SILENT HILL』(PS)/企画原案、設定、シナリオ、ディレクション
- 『SIREN』シリーズ(PS2、PS3)/企画、ストーリー原案、設定、ディレクション
- 『グラビティデイズ』シリーズ(PS Vita、PS4)/企画、ストーリー原案、設定、ディレクション
新たな所属
2020年「株式会社 Bokeh Game Studio」を設立。
代表取締役 CEO/クリエイター
今後に向けての意気込み
初代から、PlayStationの進化の歩みとともに、ゲームディレクターとして成長させていただけました。
今後は何もかも自分たちで決めていく、という事にもちろんプレッシャーはありますが、それを遥かに勝る新鮮な刺激を日々楽しんでおります。現在はスタジオの総力をあげての初回作品の制作に奮闘しており、自分たちの強みを発揮した、独特の世界観やアートスタイルを確立し、ホラーのエッセンスを持ちながらも爽快なアクションを楽しめるエンターテインメント作品を目指しておりますので、是非ご期待ください!
鳥山晃之氏
これまでの代表作
- 『遠隔捜査 −真実への23日間−』(PSP)/プロデューサー
- 『ソウル・サクリファイス』(PS Vita)/プロデューサー
- 『ソウル・サクリファイス デルタ』(PS Vita)/プロデューサー
- 『V!勇者のくせになまいきだR』(PS VR)/プロデューサー
- 『ASTRO BOT : RESCUE MISSION』(PS VR)/プロデューサー
- 『Déraciné(デラシネ)』PS VR)/プロデューサー
- 『Bloodborne』(PS4)/プロデューサー
- 『Bloodborne The Old Hunters』(PS4)/プロデューサー
- 『Demon's Souls』(PS5)/プロデューサー
など
新たな所属
株式会社Thirdverse
プロデューサー / Game Design Division マネージャー
今後に向けての意気込み
現在は、VRゲーム開発の最先端企業である株式会社Thirdverseに参画し、プロデューサーとして、完全新作のVRゲームの制作に取り組んでおります。
Oculus Quest2が発売されたことで、コンソールやゲーミングPC、ケーブルが不要となり、VRゲームは更に身近な存在となりました。さらに今後はPlayStation5向けにハイエンドな次世代VRシステムも登場してくることですし、VRゲーム業界はさらにエキサイティングな市場になっていくと思います。Thirdverseでは過去の制作経験を活かしながら、VRならではの体験とゲーム性を追求したオンリーワンのVRゲームを制作し、全てのVRゲームユーザーにお届けしたいと考えておりますので、ご期待頂けますようお願い致します。
本村健太郎氏
これまでの代表作
- SIE制作のレベルファイブ作品全般
- 『ダーククラウド』から『白騎士物語-光と闇の覚醒-』まで
- 『ワイルドアームズ』シリーズ/シニアプロデューサー
- 『ソウル・サクリファイス』/シニアプロデューサー
- 『ソウル・サクリファイス デルタ』/シニアプロデューサー
- 『Bloodborne』/シニアプロデューサー
- 『Bloodborne The Old Hunters』/シニアプロデューサー
- 『Déraciné(デラシネ)』/シニアプロデューサー
- 『New みんなのGOLF』/シニアプロデューサー
- 『みんなのGOLF VR』/シニアプロデューサー
新たな所属
メディア・ビジョン株式会社
開発部 ゼネラルマネージャー
今後に向けての意気込み
SIEにいたからこそ出来た事はとても多く大変感謝しているのですが、逆に外じゃないと出来ない事にもチャレンジしたいという思いもあり、外制主軸の立場から、前職以上に開発に近く国内でも開発力の高いメディア・ビジョンに転職させて頂きました。メディア・ビジョンでは内制のみでなく、これまでの経験も活かせる様に、外部タイトルのお手伝いをする。という業務にも許可を頂いているので、今後は内制、外制と業務の幅を広げ、今迄とは別の形でゲーム業界に貢献出来る様、頑張りたいと思います。
山本正美氏
これまでの代表作
(株)アスキーを経て1996年SME入社。『立体忍者活劇 天誅』シリーズをプロデュース後、2000年SCE(現SIE)に入社。クリエイターオーディション「ゲームやろうぜ!2006」、「PlayStation CAMP!」を主宰し、全国から募ったクリエイターと『勇者のくせになまいきだ。』シリーズや『TOKYO JUNGLE』、『100万トンのバラバラ』、『rain』など、エグゼクティブプロデューサーとして数々のユニークなタイトルのプロデュースを手掛ける。2010年に外部制作部長に就任。『みんなのGOLF6』、『ソウル・サクリファイス』、『フリーダムウォーズ』、『俺の屍を越えてゆけ2』、『Bloodborne』他、多数のヒット作に関わる。
新たな所属
SME/SIEと合わせると、25年間もソニーグループでPlayStationのゲームソフト制作をさせていただいてきました。二十歳のころからゲームクリエイターとして仕事をし始め、運よくパブリッシャーでのゲーム制作を続けてこられたのは、僕たちが作ったゲームをたくさんの方々が楽しんでくれてきた結果だと思っています。
というわけで、大きな組織でのゲーム制作は十分経験させてもらいましたので、その知見を活かし、自分自身のセンスを限界までピュアに吐き出せる場所を作りたいと考え、2021年3月に株式会社エピグラズムを設立しました。ふと、これからはPlayStationに限らず、モバイル/Switch/PCなど、プラットフォームに縛られない制作活動ができるんだなあ……と改めて考えると、すごくいい方はヘンですが、なんか股間がスースーする思いです。よろしくお願い致します!)
今後に向けての意気込み
日々変化し続けるゲームシーンにおいて、日本という市場の特殊さもまた、より先鋭化してきていると思います。そんな中、欧米マーケットがゲームビジネスの主戦場となることは、ビジネス規模という意味では必然であり、ファクトリー型の制作手法から次々とビッグタイトルが産み落とされている現状は、技術進化という点からも本当に素晴らしいことだと思います。
一方で、ビデオゲームが根源的に持っている可能性もまた、あらゆる側面で広がっている時代でもあると思います。数人で作ったゲームが100万本を優に超えるヒット作となるようなことが頻繁に起こっている事実は、メジャースタジオの制作フィロソフィーだけが正解ではない、ということの一つの証明でもあると思います。そんな状況下、グローバルマーケットにストレートに挑めるゲームという分野で、日本人クリエイターとして何を芯に据えるべきなのか。長年経験してきましたが、欧米カルチャーに対して浸透圧の高いコンテンツを生み出すことは、日本人にとってそう簡単なことではありません。
だからこそ、日本人が、日本人に向けてしっかりと届くコンテンツを意識的に作ることが、一周回って今、何よりも大事なのではないかと感じています。ドラマでは「半沢直樹」が、アニメでは「鬼滅の刃」が、そしてゲームでは「桃太郎電鉄」が、日本に熱狂をもたらしています。自分という存在の基本に立ち返った、価値ある面白い提案をしていきたいと思いますので、どうぞ応援よろしくお願い致します!
以上、11名の方々について、今後の動向と意気込みをいただいた。既存の会社に入った方、みずからの会社を立ち上げた方、新たな動きかたはさまざまだが、皆さんのコメントからは新天地で挑むゲーム作りや新たな挑戦への期待感が伝わってくる。
ゲーム開発はとても時間がかかるもの。今回ご紹介した方々の新作がユーザーの手に届くには、おそらく数年の月日がかかるだろう。だが、皆さんの代表作にある通り、これまでに数々のタイトルを手掛けてきた方々だけに、それだけ待つ価値があるタイトルに仕上がるはずだ。
ファミ通.comとしては今後も皆さんの動向など新情報を追いつつ、またいちゲームファンとして新作が遊べる日を心待ちにしたいと思う。
なお、今回の記事の掲載にあたって、SIE JAPANスタジオの元プロモーション担当で、クリエイターの方々と同じく2020年度でSIEを退職された西島卓氏に、多大なるご協力をいただいた。記事の締めとして、西島氏への感謝を贈りたい。