『SIREN』シリーズや、『GRAVITY DAZE』シリーズのディレクターとして知られるクリエイター外山圭一郎氏、長年外山氏とともにゲームを作り上げてきた佐藤一信氏、大倉純也氏らによる新たなゲーム制作会社Bokeh Game Studio(ボーカ ゲームスタジオ)の設立が発表!
長年ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)で名作を世に送り出してきた3人は、新たな会社で何を目指すのか。独立の経緯から開発中の新規タイトル、今後の目標まで、新会社について詳しくお話をうかがった。
外山圭一郎氏(とやまけいいちろう)
Bokeh Game StudioのCEO(代表取締役)。クリエイターとしても新作のアイデアを生み出す。
佐藤一信氏(さとうかずのぶ)
Bokeh Game StudioのCOO(最高執行責任者)。会社運営の舵を取りつつ、ゲーム制作にもプロデューサーとして携わる。
大倉純也氏(おおくらじゅんや)
Bokeh Game StudioのCTO(最高技術責任者)。開発の指揮を執るゲームディレクター。社内のインフラ整備も担っている。
得意なことをするための独立という選択
――新会社を設立されたと聞いて驚きました。独立の経緯についてお聞かせください。
外山独立はもともと考えていたことでした。会社にいるといずれ定年が来てしまいますが、定年後にもまだまだゲーム制作の仕事を続けたいと思っていたんです。
ただ、定年してからその後の仕事について考え始めても、おそらく身動きが取れない状態になってしまいます。だからずっと、SIEを離れる前から何かしら態勢を整えておく必要があると考えていました。
それでもSIEがすごくいい環境だったので、いままで退社できずにいたのですが、今年はコロナウイルスの影響もあり業界に大きな環境の変化があったため、独立するならいましかないと思ったんです。
――コロナの影響があって、ということは、独立について具体的に考え始めたのは今年の3月あたりからということですか?
佐藤それよりも前から、飲みの席などで「そろそろ何かやりたいね」という話は出ていましたが、具体化して動き始めたのはそのくらいの時期からですね。
外山当初は個人会社という形での独立になるのかなと考えていたのですが、佐藤と大倉に独立について話すうちに、だんだんと賛同してくれる人たちも集まり、結果的にゲームスタジオと言っても申し分ない体制が整いました。
自分の得意とするスタイルが、万人受けするようなものを作ることではなく、どちらかというとふつうとは違った切り口で作ることなんです。
でも、昨今のコンソールゲームは世界で勝負できる大型タイトルを作るという方針が主流になりつつあります。その状況では、自分が得意なスタイルを活かしづらいと思い、そういう意味でもいましかないなと。
――クリエイターとして作りたいものを作るために独立という選択をされたということでしょうか?
外山もともと、僕がプレイステーションと関わるようになったのはプレイステーション2の時代からで、当時は旧“ゲームやろうぜ!(※)”のチームなどに間借りする形でゲームを作っていました。そうした背景もあって、どの機材で何を作るのかであったり、チーム運営やスタッフィングに関しても自分たちで決めることができたんです。
※ゲームやろうぜ!:1995年から1999年にかけてソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)が実施したクリエイターオーディション。ゲームの企画やプログラム、デザインを募集していた。
それでも、だんだんと会社全体の規模が大きくなるにしたがって、組織として動くことが求められるようになってきました。
その中で、僕たちも大規模なチームでのゲーム開発に対応するための勉強をさせていただき、クリエイターとして成長できたのですが、一方で、自分たちがやりたいことをやるだけではなく、周囲への影響であったり、全体の方針について考える必要も出てきて。
そうなると、昔のように、自分たちが考えたことをストレートに表現できる環境への憧れのようなものが芽生えてきたんです。
大倉ずっと外山といっしょに仕事をしてきたので、私も少なからず同じことを考えていました。会社の体制が変わり、ゲーム開発より大規模な開発を意識したやりかたで進める方針になってからは、とりあえず作ってみていろいろ試したり、事情が変わったら開発の方針を変えるといったことがやりづらくなってきたのです。
とはいえ、私としても大きな規模のチームでゲームを制作することについて勉強させてもらった部分もあります。そういった方針での制作が嫌だったわけではなく、あくまで、自分たちの得意なことを、自分たちの得意なやりかたで進められるようにするために独立という選択を取りました。
――では、ケンカ別れというわけではないんですね。
佐藤ないですないです(笑)。むしろこれからもお世話にならないといけないくらいですよ。振り返ってみても、すごく恵まれた環境でたくさんいい経験を積めたので、本当に感謝しています。
――安心しました(笑)。ところで、スタジオの名前にはどういった意味が込められているのでしょうか?
外山社名を決めるときに、まったく縁のないところから名前を持ってくるのはしっくりこないと思い、何かしら自分に関係があるものを付けたいと考えたんです。
僕は写真が趣味なので、そのまわりで何かないかと探したところ、“ボケ”、いわゆるピンボケという言葉に行きついて。もともと、ボケはただの失敗としか捉えられていなかったんですけど、日本の作家が情緒を醸し出す演出として意図的に使うようになったのが海外のメディアに取り上げられ、それが話題になって普及したという経緯があるんですよ。
みんなが気づかなかったものに魅力を見出して、その魅力を世界にも広げていくということに感銘を受けて、これを社名にしようと。写真用語のボケは英語で“Bokeh”という綴りなのですが、新語なので発音が定まっていないので“ボーカ”という読みかたもあり得るということで、社名の読みかたはボーカにしました。さすがに会社名がボケというのはちょっとな、というのもあって(笑)。
佐藤でも、英語圏の方々は「ボケ」って読んじゃいますよね(笑)。
――聞き慣れない言葉だったので、初めて聞いたときは聞き返してしまいました(笑)。
外山じつはそれも含めて狙っていて、覚えてもらいやすいのかなと思っています。
――会社としてはゲームの開発がおもな業務になるのでしょうか?
佐藤そうです。いわゆるデベロッパーとして運営していきます。
外山現状でも、SIEで僕たちが作ってきた作品規模のプロトタイプくらいは自前で作れるような布陣が整ってきたので、問題なくやっていけると思います。
――社内で開発スタッフも抱えたうえで運営していくと。ちなみに、起業されたのはいつですか?
佐藤今年の8月ですね。9月末に退社したのですが、辞める前に登記だけしていました。起業したときは3人でしたが、いまは徐々に人を増やしている段階です。
――スタジオ設立から約3ヵ月(※インタビューは11月上旬に実施)ということですね。いまの段階での感想をお聞かせください。
外山まだまだ慣れないことが多いですね。というのも、Bokeh Game Studioとしての拠点はまだ作っていないこともあり、テレワークで動いているので。
SIEでもテレワークが続いていたため、その体制には慣れていましたし、いま拠点を作っても集まりづらいのでメリットがあまりないんです。テレワークでどのくらいできるのかという実験的なところもあるですが、オンライン上でしかスタッフと話していないので、いまだになかなか独立したという実感が湧かず、会社をサボっているような気分になります。
佐藤まだスタッフ全員での集会もできないような状況ですからね。オンライン飲み会はやっていますが、オンラインだと一度に話せるのがひとりなので限界がありますし……。
SIEを退社するときも、通常だったら1ヵ月くらい送別会が続くことがよくありますが、テレワーク体制だったので今回はいっさいなかったですね(笑)。
外山最後は定年で花束をもらって拍手……みたいなものを想像していたんですが実際はぜんぜん違って、無人のフロアで黙々と荷物を整理していました(笑)。
――状況的にしかたないとはいえ、ちょっと寂しいですね(笑)。独立するにあたって、社内の方に相談されたりはしたのでしょうか?
佐藤話が固まるまで社内の人には言えなかったですね。SIEを退社していった先輩たちもたくさんいるので、その先輩たちに相談したりはしました。社内の人たちもだいたい勘づいていたとは思うんですけど、今回の記事で「ああ、やっぱりか」という感じになると思います。
――懇意にされている方に相談したときのリアクションはいかがでしたか?
佐藤私たちがそれぞれタイトルを受け持っていたので、なかなか飛び出しにくかったというのもありますが、私が聞いたリアクションとしては「やっとか」というものが多かったですね。
外山いろいろな人に相談して、たくさんのアドバイスをいただきました。それがなかったら、どのように振る舞えばいいのかもサッパリわからなかったんですけど、10年来の飲み友だちのクリエイターさんたちは、みんな自分のスタジオを持っていたりします。
そんな中で、なかなか一歩踏み出せずにいたのですが、やっと自分の番になったんだなという感じです。
スタジオ第1作もこれまでと同じ方向性のものを作る
――すでに動いているタイトルはあるのでしょうか?
外山はい。まだ詳しくはお話しできませんが、初回作に集中して開発を進めています。可能な限り多くの人に遊んでもらえるよう、手広くいろいろなプラットフォームで展開したいと考えています。
――プラットフォームはプレイステーションに限らず広く展開していくと。ちなみに、独立後のフラットな目線で見たプレイステーション5の印象はいかがですか?
外山超大作からインディーゲームまでリリースされるプラットフォームのハブとしてプレイステーションが世界中に広がっているので、これまで以上に多くの人が集まるプラットフォームになると思いますし、僕たちとしても期待しています。
――ゲームを作りたいと思えるハード、ということですね。
外山そうですね。まずはBokeh Game Studioとしてゲームをリリースさせていただけるところまでがんばらないと……!(笑)
――現在開発中という第1作で実現するといいですね(笑)。第1作がどんなゲームなのかについても、もう少しお話しいただきたいです。
外山僕の得意な、ストーリー性や世界観で勝負するアクションアドベンチャーです。最初は、いまよりもっとコンパクトな規模での開発を考えていたのですが、いろいろなところでご支援をいただいたり、賛同してくれるスタッフも集まっているので、これまでやってきたこととそれほど変わらないものができあがると思います。そういう意味では、方向性もこれまでと変わらないものになるはずです。
――ということは、企画書はすでにできている段階なのですか?
外山コンセプトはひと通り固まって、ゲームのデザインやシナリオの細かいところについて考えているところですね。初回なので、新規軸ではありますけど、多くの人が楽しめるエンタメ要素を盛り込む予定です。
佐藤開発にはあと2、3年くらいは掛かる想定ですね。
――続報を楽しみにしています! これまで外山さんたちが作ってきたタイトルはどうなるのかについても気になっているファンが多いと思います。
佐藤IP(知的財産)のライセンスはSIE Japan Studioにあるので、私たちが勝手に何かするわけにはいきませんが、これからも良好な関係を築いていきたいので、双方が合致すれば、これまで作ったタイトルの新たな動きも実現可能だと思います。
――では、実現することになったときにも対応できる環境になっていると。
佐藤はい。とはいえ、まずは自分たちの新規IPを立ち上げたいという思いが強いので、しばらくは1作目に集中する方針です。
――デベロッパーとしてIPを作る際はパブリッシャーにライセンスを渡すパターンが多いですが、IPホルダーとしてゲームを作っていくということですか?
外山最初は僕もそれは難しいと思っていたんですけど、いろいろな人に相談したところ、StadiaやApple Arcadeなどの新しいプラットフォームの登場で業界に大きな変化があったことで、デベロッパーを取り巻く環境にも変化が起きていると聞いて。
それなら自分たちのIPとしてゲームを作ることもできそうだと思い、IPホルダーとしてゲームを制作することにこだわりを持って1作目の開発を進めています。
――いわゆるインディー系だとパブリッシャーになることもできると思いますが、今回はその選択はされなかったのですか?
佐藤1作目が現状の自分たちでパブリッシュするには手に余る規模になっているので、今回は難しいかなと思っています。本当に、自分でもここまでの規模になるとは思っていませんでした。いろいろな人との巡り合わせもあって、うまい具合に話が進んだんですよ。
楽しいことをより長く続けるために
――第1作は外山さんらしいタイトルになるとのことでしたが、今後チャレンジしたいことはありますか?
外山将来的には、僕の企画を形にするだけではなく、自分がかつてそうしてもらったように若い人をバックアップして作品を世に送り出すようなこともしたいです。
本当に自由になったので、やりたいこともたくさん思い浮かぶのですが、夢ばかりが広がって佐藤や大倉から「いやいや……!」とストップをかけられています(笑)。
佐藤勝負できるタイトルであればぜんぜんいいと思うんですけどね(笑)。
――ゲーム制作の際、外山さんは自分の作りたいものと商業的な成功のバランスについてはどのように考えられているのでしょうか。
外山「世の中では○○が人気だけど、そのエッセンスを取り込んだゲームってないよね?」というようなアイデアからアプローチしていきます。だから、自分が作っていて楽しいものを作りつつ、成功も狙うという感じですね。これはいまも以前も変わらないです。
大倉売れそうなベースの要素があってから、そこに自分の趣味をプラスしていく感じですよね。
外山いまはスタジオ全体で1作目の制作に集中していますが、余裕が出たらいろいろなことに挑戦したいと思っています。個人的にはグッズなども作っていきたいですね。
――ゲームをもとにマルチメディアに展開したいという思いもあるのですか?
外山ゲームのストーリーや世界観を掘り下げるためにマルチメディアで展開する、といったアイデアはおもしろいかなと思っています。
佐藤ゲームを作った後にできるのなら挑戦していきたいですが、マルチメディア展開を目標にすることはないですね。
――では、スタジオとしての今後の目標はいかがでしょうか?
外山明確に設定しているわけではないのですが、ゲーム制作を長く続けたいという思いで動いているので、そのためには商業的な成功も必要になりますし、話題性を獲得するために賞も狙っていきます。
自分たちが楽しめる環境を維持するために必要なことが目標になるのかなと。
佐藤やっぱり、ゲーム制作が好きなんですよね。ずっと続けたいという思いが核になっています。
――これからも好きなことを続けていくと。第1作の発表を心待ちにしています! 最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
大倉皆さんのご期待に応えつつ、いい意味で期待を裏切る、新しいものを作っていくので、ぜひ期待して待っていていただければと思います。
佐藤タイトルの発表にはもう少し時間が掛かってしまうと思いますが、今後は制作途中の様子もSNSを開設して発信していくので、そちらも見ていただけるとうれしいです。
外山SNSなどでお気軽にお声掛けをいただけるとありがたいです。まずはとにかく、ユーザーの皆さんに楽しんでいただくことがすべてだと思っているので、ぜひご期待ください。