ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウイークのおすすめゲームを語る連載企画。第2回で取り扱う作品は、Nintendo Switch用ソフト『G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.2「海楼館殺人事件」』です。

【こういう人におすすめ】

  • ミステリーが好きな人
  • 自分の推理力に自信がある人
  • ガラケーの名作を遊びたい人

まさんのおすすめゲーム

  • 『G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.2「海楼館殺人事件」』
  • プラットフォーム:Nintendo Switch
  • 発売日:2021年4月8日
  • 発売元:ジー・モード
  • 開発元:And Joy(2004年配信 And Joy(旧社名:元気モバイル)作品)
  • 価格:500円[税込]
  • 公式サイト

G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.2「海楼館殺人事件」 紹介動画

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ガラケーには隠れた名作が数多く眠っているのだよ!

 いまから10年以上も前。当時普及していた携帯電話・フィーチャーフォン(ガラケー)では、コンシューマーハードやPCでも遊べない専用のゲームが数多くリリースされていました。しかしながら、時は流れてスマートフォン全盛のこの時代。配信サイトも消滅し、そうしたガラケー専用のゲームは遊べなくなってしまいました。

 もともと機種を変更するとプレイできないものでしたが、各社のサービスが終わったいまでは買い直すこともできません。たった10年ほど前なのに、大流行していたゲームが何ひとつ遊べない……。ゲームの歴史にとっても、空白の時代が生まれてしまったのです。

 そんな現状に危機感を抱いていたのが、ジー・モードというメーカー。近い将来、フィーチャーフォンのゲームアプリはソースが失われて復刻も困難になってしまいます。いまのうちになんとかしなければならない……。そんな想いから“失われゆく、すべてのアプリを救う”をテーマに、ガラケーのゲームを現行のコンシューマ機に復刻するプロジェクトとして“G-MODE アーカイブス”が始まりました。

『探偵・癸生川凌介事件譚』を知らない人は、人生を10割損していると思いませんか?【GWおすすめゲームレビュー】

 これは、ゲーム史にとっても偉大な事業です。当初はジー・モードのタイトルを配信する“G-MODE アーカイブス”のみでしたが、いまでは他社の版権も取り扱う“G-MODE アーカイブス+”も存在。ジー・モードさんのおかげで、幻となっていたガラケーの名作が復活し始めたのです。

 本当に……本当に、なんて素晴らしい試みなのでしょう! もう二度と遊べないと思っていたガラケーの名作が、まさか令和の世にSwitchで遊べるなんて……。そんな日が来るなんて夢にも思いませんでした。

 今回紹介する『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズも“G-MODE アーカイブス+”のタイトル。ガラケーで非常に人気が高かったミステリーで、復刻が決まった時点でも「いままで、どこにこれだけのファンが潜んでいたんだ!?」と、ファンの自分でも驚いたくらい盛り上がっていました。というわけで、何が素晴らしいのか。なぜ、ここまで『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズを推したいのか。全力で語らせていただきます!

ゲフー! 騙された……と毎回うなるひねりが効いたミステリー

 『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズは、元気モバイル(現:And Joy)がガラケーで展開していたコマンド選択式の推理アドベンチャー。20作以上(ひとつだけニンテンドーDSで展開)リリースされており、元気モバイルのなかでもとくに人気が高かったシリーズです。

 主人公は、タイトルにもなっている癸生川凌介(きぶかわりょうすけ)……ではなく、その友人でゲームシナリオライターの生王正生(いくるみまさお)。彼と癸生川探偵事務所の助手を務める白鷺洲伊綱(さぎしまいづな)のタッグで、事件を調査するのが主な流れになっています。

『探偵・癸生川凌介事件譚』を知らない人は、人生を10割損していると思いませんか?【GWおすすめゲームレビュー】

 え? じゃあ、肝心の探偵はその間に何をしているのかって? それはもう、エキセントリックな言動と突飛な行動で周囲を困惑させながら……いや、やめておきましょう。推理物なので、実際に遊んで確認したほうが後悔しないと思います。

 それくらい、シナリオが魅力的。このゲームがいまでもファンの心を掴んで離さないのも、間違いなくキャラクターとシナリオが良いからです。推理小説なら驚かないかもしれませんが、それをゲームでやってくるのか……という仕込みを毎回、毎回、手を変え品を変えてやってきて、プレイヤーを驚かせてくるんですよ。1作目の『仮面幻想殺人事件』の時点でも「そんなのアリ?」と思うくらい、予想外の方向から決着をつけてきます。もう、とにかく自分で遊ぶべき。

『探偵・癸生川凌介事件譚』を知らない人は、人生を10割損していると思いませんか?【GWおすすめゲームレビュー】
1作目の『仮面幻想殺人事件』もG-MODEアーカイブスで配信中です。違う方向でとがった台詞があるのも時代を感じておもしろい要素。

 ゲームとしてはオーソドックスな総当たり式のコマンドアドベンチャーですが、先が気になってグイグイ惹きつけられるんですよ。とはいえ、正直1作目の時点ではまだ助走といえるエンジンのかかり方。人によっては、少し(ゲームとして)強引に感じる部分があるかもしれません。それでも、遊んで損はしないはず。当時としても、かなり完成度の高い推理アドベンチャーですから。

 では、今回なぜ1作目ではなく2作目の『海楼館殺人事件』を取り上げたのかといえば、2作目から推理物としての完成度が一気に増したからです。もちろん1作目から遊んだほうがいいですし、最終的には全部遊んでもらいたいと言いたいところですが、まだ2作(5月6日に3作目配信)しか移植されていないので……。はやく、あの傑作『永劫会事件』まで一気に出してください!

 思わずジー・モード社がありそうな方向へ向けて叫んでしまいましたが、今回取り上げている『海楼館殺人事件』も単体でおもしろい作品です。クローズド・サークル系のミステリーとして秀逸で、当時遊んでいなかった人にもまず体験してもらいたい内容。ちょっぴり意地が悪くて呆気に取られつつも、まあいいかな……と納得する『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズらしさが味わえます。

 海中に建てられた奇怪な建物・海楼館で起きる凄惨な殺人事件をグイグイ読ませる筆力と、さりげなくまかれた伏線を華麗に回収する構造の巧みさは、容量が制限されていたガラケーの短編とは思えないほどの完成度。2作目にして、すでに『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズとしてのお約束がほぼ完成しています。長期シリーズとしての伏線は次回作の『死者の楽園』から目に見えて入ってくるのですが、じつはこの時点でも、のちの作品で語られる伏線が仕込んであったりするのです。

『探偵・癸生川凌介事件譚』を知らない人は、人生を10割損していると思いませんか?【GWおすすめゲームレビュー】
何が本当で何がウソかもわからない、閉鎖された状況で起きる殺人事件。不謹慎ですが登場人物も全員疑わしくて、いかにもなシチュエーションにワクワクしちゃう!

 もちろん、まだまだ『癸生川』シリーズ全体を見ると内容としては物足りないところもあります。5月6日に配信が決まった3作目『死者の楽園』では、シリーズ全体への興味を持たせる物語の強度が増し、その後の作品も加速度的に面白くなっていくんですよ。

 自分の好きな『対交錯事件』まで、いやファンの間でも人気が高い『五月雨は鈍色の調べ』も配信してほしいですし、そこまで行ったら『永劫会事件』も……と、出してほしい作品があとを尽きません。それくらい、すごいシリーズなのです。

 単品としては本作の時点で十分すごいのですが、たぶん『永劫会事件』まで遊んだ人は「お願いだから、G-MODEアーカイブスが売れたら新作も出してくれ!」と叫びたくなる衝動に駆られるでしょう。出ないかな〜。出てほしいな〜。

短編くらいの短さでサクッと終わりますよ、くふふっ

 興奮しすぎてシリーズ自体の魅力を語ってしまいましたが、そろそろ『海楼館殺人事件』の話に戻りましょう。本作は、2〜3時間程度で終わるボリュームの元・携帯アプリ作品。2作目ですが独立したエピソードになっており、単体でも問題なくストーリーを堪能できます。

 劇中ですら指摘されるほど何か起きそうだし、怪しげなギミックも満載な建物・海楼館という建物に閉じ込められるシチュエーション。主人公たちを取り巻く、ひとクセもふたクセもあって疑わしすぎる登場人物たち。推理物としての御膳立ても雰囲気作りも素晴らしく、選択肢を間違えてもゲームオーバーにはならないので気軽にプレイできます。

『探偵・癸生川凌介事件譚』を知らない人は、人生を10割損していると思いませんか?【GWおすすめゲームレビュー】
事件解決後にプレイヤーの行動を評価してくれるちょっとしたオマケ要素もありますが、とくに気にする必要はありません。癸生川先生に褒められても、どこまで本気なのかわからないし……!

 その後のシリーズでは選択肢の選び方などで足止めされる要素があったり、そもそもシナリオ自体が長すぎて分割で配信されていたりと、携帯電話のゲームとは思えないほどのボリュームになっていきますが、今作は程よい長さ。とりあえず、お試しで遊ぶのにも良いタイトルです。値段も500円なので安すぎ。

『探偵・癸生川凌介事件譚』を知らない人は、人生を10割損していると思いませんか?【GWおすすめゲームレビュー】
部屋割りを記した見取り図が出てくると、いかにも閉鎖空間の事件って感じでゾクゾク! 最後まで読めば事件解決までたどり着けますが、こういうゲームが好きな人は自分でいろいろと推理しながら読み進めていくのも楽しいですよ。

 レギュラーで登場するキャラクターの顔見せもありますし、『癸生川』シリーズとはどういうものかを理解する意味でもオススメの1本です。クリアしたあとは、ガラケーでこんなミステリーが出ていたのかと驚くかもしれません。マジで。ちょっとズルいゲームではあるんですけどね……。もう、毎回ズルいんだよな〜。

 たぶん、1作目とこの作品を最後まで遊べば、私が言っている“ズルい”の意味がわかると思います。いや、3作目まで遊んで……ああ、もう! ミステリーだからネタバレできないのがもどかしいですよ、先生!! エキセントリックでムチャクチャな探偵・癸生川さんの言動も遊べば遊ぶほどクセになると思いますし、周囲からの扱いがなかなか酷い主人公・生王と、割とイイ性格をしているヒロイン(?)の白鷺洲さんのコンビも良し。いま遊んでも楽しめることは保証します。

 いや、もうこんなレビュー読んでないで遊んでください! お願いします!! まだ、ゴールデンウィーク中に終わるくらいの数しか移植されていないから、余裕で追いつけますよ。あと、G-MODEさんはシリーズを全部……までは無理だとしても、絶対に『永劫会事件』までは移植してください。本当にお願いします!!

『探偵・癸生川凌介事件譚』を知らない人は、人生を10割損していると思いませんか?【GWおすすめゲームレビュー】
ファミ通.com編集者&ライターによるゴールデンウイークおすすめゲーム