2020年末より開催された全国の高校生を対象としたeスポーツ大会“第3回全国高校eスポーツ選手権”。2021年3月13日~14日には『ロケットリーグ』部門、『リーグ・オブ・レジェンド』部門の2タイトルの決勝大会がおこなわれ、激戦がくり広げられた。
“第3回全国高校eスポーツ選手権”は、主催・毎日新聞社、JHSEF(ジェセフ)こと一般社団法人全国高等学校eスポーツ連盟、共催・サードウェーブで開催された。本記事では、プロデューサーである毎日新聞社のスポーツ事業部・清野悠介氏にインタビュー。本大会での運営を総括しつつ、今後の展望などをお聞きした。
清野悠介(きよの ゆうすけ)
毎日新聞社事業本部に所属。全国高校eスポーツ選手権を担当。
高校生活をeスポーツとともに
――まずは本大会を終えて、いまのお気持ちを率直にお聞かせください。
清野新型コロナウイルスの状況下により、本当にどうなるのか分からない中、主催である毎日新聞、JHSEF(ジェセフ)とともに走りながら進めてきた大会でした。決勝大会では選手全員がマスクを着用していましたが、本来は試合中はマスクなしの予定でした。緊急事態宣言の延長などもあり、最大限の感染対策を取る必要が出てきたので、直前まで本当にどうなるのか分からなかったです。ですので、無事に大会を終えられてホッとした気持ちです。
――今回は決勝大会もオンラインベースで進行していましたが、本来はオフラインの予定だったのでしょうか?
清野はい。第1回、第2回ともに決勝大会はオフラインでの試合でしたし、今回もその予定でした。ですがそのプランは崩す必要が出てきまして、いろいろな方面でご協力をいただきました。たとえば、選手たちは基本的に在学している学校に近い、最寄りのNTTさんの施設をお借りして試合を展開しました。予選はこれまで通りできましたが、決勝は結果的には新たな取り組みにはなってしまいましたね。
ただ、オンラインでも開催できることはもとから分かっていたので、中止にするという考えはありませんでした。ですが、オフラインなら演出面もノウハウがあるのですが、決勝大会をオンラインベースでやるという中で、いかに試合を魅せていくのか、工夫を模索しながら進めていきました。
――たとえば、試合中や試合前などに、選手たちのボイスチャットが配信に流れて聞けるというのは、ほかのeスポーツ大会でもなかなかない演出で、見ている側としても楽しめる要素のひとつでした。
清野ありがとうございます。まさに工夫を凝らした要素のひとつでした。じつは発端として、第2回の大会中、運営サイドは選手たちのボイスチャットが聞ける状態でした。それがすごく試合とマッチしていて、とても良いなと思ったんです。それをぜひ活かそうと、第3回大会ではボイスチャットの内容を配信に載せることにしました。
仰る通り、ボイスチャットを生でそのまま流すというのは、ほかのeスポーツ大会では採用されていない要素です。おそらく内容的に公開すべきではないと判断されているのかもしれませんが、第2回の内容を聞いた限りでは大丈夫だろうと思い、出してみようということになりました。
――ああ、たとえば試合の中で、選手が普段のノリで軽口を叩いてしまうですとか。
清野大会の中でも、選手がついマズそうな発言をしてしまい、すぐ気づいて反省するシーンもありましたね。そこも人柄が見える要素のひとつだとは思いますし、選手の魅力が伝わるのではないでしょうか。今後もぜひ続けていきたい演出です。
――今大会では両部門ともに、N高等学校のチームが優勝を果たしました。その勝因はどこにあると思いますか?
清野チーム一丸となって、選手たちが努力したというのがすべてだと思います。まさに強豪校と言える存在でしょう。「N高等学校は強すぎるのではないか?」などという意見があることも把握していますが、たとえば甲子園常連の高校があるのと同じように、強豪高校というのは出てくるものだと思います。
――ここまで3回開催し、そういった強豪校という存在が生まれたことについて、どう感じていますか?
清野早くもここまできたか、と思いました。第1回ではまだそこまでで、第2回でN高等学校さんは強いなと感じ始め、第3回で花開いたように感じました。ただ、コーチングなど、しっかりとしたサポートがなくても、自分たちの力で進出したチームも少なからずいます。eスポーツ界の底がどんどん上がってきているように感じています。
――しかも、優勝を目指すために、ほかの学校からN高等学校に転校された選手もいるそうですね。
清野はい。決勝大会に進出したチームで2名は把握しています。
――N高等学校もそうですが、全体的に通信制の高校がとくに強かった印象があります。
清野『リーグ・オブ・レジェンド部門』では決勝大会に進出した3校が通信制です。ただ『ロケットリーグ部門』では3校が全日制で、タイトルによって違いが出ました。
――今後、参加したい高校はどのようなことに注力すれば勝因につながると思いますか?
清野もちろん普段からチーム間での練習に取り組むのも大事ですが、その環境が必要ですよね。そういった設備面で、我々としてもサポートしていかないといけないと考えています。また、eスポーツ部を作るとなっても、先生や学校にeスポーツのことを理解してもらわないと、難しいという問題があります。たとえば、東海大学付属札幌高等学校さんは、これまで同好会のような扱いだったそうですが、2021年4月から部活動として正式に認められたそうです。
――単なるゲームを遊ぶ部活動として見てしまうような……?
清野たしかに以前まではそうでした。本大会は必須ではありませんが、顧問の先生がいれば顧問を登録して参加申請をします。今回の大会は、全346チームのうち8~9割は顧問登録がありました。もしかしたら部活動ではなく、名前貸し的な顧問登録かもしれませんが、少なくとも先生の理解が得られている学校がほとんどだということです。部活動となると、部室からパソコン、さらにはインターネット回線まで、設備を揃えるのも大変です。そうした中で、サードウェーブさんがパソコン、回線を1年間無料でレンタルするというサポートプログラムをやっていますので、ぜひ申請してみてください。
――サポートプログラムを利用する高校は多いのでしょうか?
清野多いです。サードウェーブさんのおかげで成り立っている部も多いと思うので、気兼ねなく申請してみてほしいです。
――大会に参加したい生徒というのは、やはり先生などに交渉して参加しているのでしょうか?
清野おそらくそうだと思います。1回目のときはなかなか大変だったようですが、2回目以降は全国高校スポーツ選手権の実績がありますので、選手たちもそれを見せることによって交渉しやすかったというお話をお聞きしています。
また、主催が“毎日新聞社”、“JHSEF”(ジェセフ)である、ということも大きいようです。まあその、毎日新聞社は業界的には大手ですし、お堅い会社のイメージがあるじゃないですか(笑)。だから、先生たちも安心して許可が出せたのかなと。加えて、JHSEF(ジェセフ)が掲げる理念も後押しになっていますね。
――たしかに、毎日新聞社さん、JHSEF(ジェセフ)さんの信頼感は大きいですね。第1回から3回目の開催を経たということは、1回目から参加していた1年生の生徒は3年生となり、これで卒業ということになります。全国高校スポーツ選手権としてもひとつの節目になると思うのですが、どんなお気持ちでしょうか?
清野3回出場した生徒はたくさん居ます。きっと3年間の高校生活をeスポーツとともに過ごしてきたと思うのですが、その環境を作ってあげられたことは、本当に感慨深いです。これは個人的な思いですが、これから社会人や大学生になるOBがたくさん出てくると思うんです。ぜひ、母校に協力してあげてほしいです。また、OBの人たちがこれから社会でどう活躍していくのか? というのも個人的に楽しみです。……完全に親目線です(笑)
第4回の新規部門はどうなる!?
――第4回大会も発表されました。今年は2回決勝を迎えることになりますが、これはやはり第3回大会の日程がズレ込んだ、ということでしょうか?
清野はい。新型コロナウイルスの影響により決勝大会が2021年にズレたため、2回開催となります。高校生を対象にしたスポーツの大会って、だいたい年中に終わるじゃないですか。なぜならば、3年生は大学受験が控えている生徒もいるので。そういった中で、第4回は2021年内に終わらせてあげたいです。
――第4回の決勝はオフライン大会の予定ですか?
清野いまのところはそのつもりです。ただし、新型コロナウイルスの状況によっては、今回のようにオンライン大会になる可能性もあります。また、予想ではありますが、おそらくまだまだ終息はしていないのかなと。いままでのような感じではなく、オフラインだとしても感染対策をおこなったうえでの開催になるでしょう。高校生たちの思い出として、最後の大会が“オンラインのみ”となるのは、やはりちょっとかわいそうですから。
――ちなみに新規部門の設立を検討中とのことですが、タイトルは……!?
清野もちろん、言えません(笑)。そこは続報をお待ちください。また、“検討中”なのでなくなる場合もあります。規模が大きくなればなるほど大変なので、じわじわとタイトルは増やしていければなと。
――たとえばなんですが、ゲームにはCEROの対象年齢というものがありますよね。それも選考基準として考慮いるのでしょうか?
清野はい、気を付けています。もし仮に対象年齢17歳以上である“CERO D”のタイトルを選ぶとなったら、17歳以上、つまり3年生限定の大会になるでしょう。もちろんCERO Dの『エーペックスレジェンズ』やCERO Cの『フォートナイト』も小学生や中学生でも遊んでいることは把握しています。主催が毎日新聞社、JHSEF(ジェセフ)だからこそ、そういった部分はしっかりしないと……という感じです。ヒントとしては、高校生が遊んでいるタイトルかつ、全国高校スポーツ選手権はすべてのジャンルを網羅したいという気持ちがあります。
――『リーグ・オブ・レジェンド』はMOBAで、『ロケットリーグ』は……サッカーゲームなんですかね?(笑)。
清野そう言われるとジャンルとしては難しいですね(笑)。サッカーゲームというジャンルとして捉えたとしても、おそらく普通のサッカーゲームも候補に入れると思います。
――わかりました。それでは最後に、今後の展望について教えてください。
清野全国高校スポーツ選手権は、eスポーツを文化にしていきたいという思いが発端でした。浸透しつつはありますが、たとえば先生の理解が得られないですとか、まだまだ文化と言える努力が足りないのかなと感じています。努力の結果のひとつとして数字になるのが、参加チーム数だと思います。第3回は300を超えるチームが参加してくれました。これからも、より多くの高校生に参加していただけるように努力していきたいと思います。