Quantic DreamとJo-Mei、Beepから2020年3月25日にパッケージ版が発売された、Nintendo Switch用ソフト『Sea of Solitude: The Director’s Cut』。そのプレイレビューを掲載する。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている
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 本作は、2019年に発売されたインディーゲーム『Sea of Solitude』のリメイク版。怪物になってしまった少女とともに、謎に満ちた世界を冒険していくアクションアドベンチャーだ。

 Nintendo Switchでリメイクされるにあたり、ジャイロ操作対応やフォトモードなどが追加。練り直された脚本や、新たなカットシーン、アニメーションなども楽しめる。本記事では、そんな本作のレビューをお届けしていく。

“ケイ”の目線で描かれる孤独な海の冒険

 本作の主人公は、黒ずくめの怪物のような姿に成り果てた少女“ケイ”。ゲームを始めると、ボートに乗ったケイが嵐の海に投げ出されている状態から始まり、彼女は謎の女の子の導きに従って先に進んでいく。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている
『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている

 広大な海を主人公ひとりで探索する様は、まさに“Sea of Solitude=孤独の海”といった感じで寂寥感がすさまじい。夜の海は視界も悪く、不安感がみるみる募っていったが、謎の女の子がボートの灯りを点けると途端に世界が一変。光に満ちた明るい光景が広がる。

 嵐のときはわからなかったが、周囲にあったのは海に水没した都市だったようで、この街並みが澄み渡る青空と相まってまた美しい。開始5分で、筆者はこのゲームにたちまち引き込まれていった。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている

 ゲーム中には全体マップやミニマップなどはなく、プレイヤーは自分の目や耳や足を頼りに進むことになる。とはいえ、目的地へのヒントがないわけではなく、道に迷った際に役立つのが“照明弾”だ。

 ZLボタン長押しで発射できる照明弾は、つぎの目的地に向かって飛んでいく。発射後もZLボタンを押し続ければ画面上で照明弾を追うことができ、つぎの目的地まで長距離だった場合でも位置を把握しやすくなる。こまめに照明弾を撃って行き先を確認すれば、つぎにどこに向かえばいいかわからなくなることはないだろう。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている
ZLボタン長押しで照明弾を追う際は、Lスティックやジャイロ操作で照明弾を操作可能。建物にぶつかって照明弾が消えてしまうのを回避できる。

海中の移動はつねに恐怖と隣り合わせ

 本作はケイの孤独な冒険がメインとなるが、そこに強烈なスパイスを加えてくれるのが海に潜む怪物だ。嵐の海を探索する際、海中には巨大な怪物が徘徊している。ボートに乗っていたり建物の上にいたりする場合は安全だが、ケイが生身で海に入った瞬間、怪物は存在を察知して襲いかかってくるのだ。

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 先に進むためにはどうしても海を泳がないといけない場面もあるが、はっきり言って怪物に対抗する手段はない。すなわち、怪物に捕まる前に駆け抜けるしかないということになる。Yボタンを押すとカメラが怪物を注視するので、これで怪物の位置を確認し、距離が離れたタイミングで素早く泳ぎ切ればOKだ。

 冒険を進めると海中を移動するポイントがちょくちょくあり、そのたびに筆者はドキドキハラハラすることに。怪物が近づいてくるとBGMも不穏なものに変化するので、まるでホラー映画を観ているような緊張感が味わえた。なお、怪物に捕まるとケイが食べられてしまうが、ゲームオーバーなどにはならず、直前からリトライできる。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている
おぞましい怪物に捕まった瞬間。すぐにリトライできるとはいえ、心臓に悪い……。

“闇”と“光”が不安と安堵を巧みに演出する

 プレイしていて特筆すべき点と感じたのが、グラフィックによる“闇”と“光”の演出の巧さ。ゲームを進めているとケイの力で腐敗を除去するシーンがあるが、腐敗を完全に取り除くと闇に覆われた世界が光を取り戻す。この明暗の映像表現が見ていてとても清々しく、ゲームにメリハリをもたらしている。

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 前述の海に潜む怪物の存在含め、闇に覆われた世界はひたすらに恐ろしく寂しい。一方で、光に満ちた世界は明るく温かで、ひとりぼっちの冒険でもどこか希望を感じられる。人間が心理的に抱く闇への不安感、光への安堵感を本作は巧みに表現している印象だ。

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 グラフィックに関しては闇から光への転換点もそうだが、ほかにも“モーゼの奇跡”のように海が割れるシーンも美しく、個人的なお気に入りだ。作中には、これ以外にもビジュアル的に印象に残るシーンが多い。Nintendo Switch版で追加されたフォトモードで、ぜひベストショットを残してほしい。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている
『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている

海外ドラマのように続きが気になる作品

 ストーリー重視のアドベンチャーである本作において、物語も欠かせない見どころ。「なぜケイはひとりぼっちなのか?」、「この世界はなんなのか?」、「たびたび現れる怪物の正体は?」などの気になるポイントは、ゲームを進めるとともに少しずつ明かされていく。

 第1章は導入ということもあって謎だらけの展開だが、2章でケイの母親との回想という興味をそそられるシーンが入り、ケイの弟“サニー”に焦点を当てた3章以降はすっかり物語にのめり込んでいた。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている

 物語はわりとサクサク進むが、登場人物たちの内なる恐怖や悲痛な記憶を描くものなので、1章あたりの内容は濃い。どことなく海外の連続ドラマを観ているような感覚で、気づけば続きが気になってしょうがないカラダになっていた。

『Sea of Solitude: The Director’s Cut』レビュー。孤独な少女の冒険に、アナタはいつの間にか心を掴まれている

 なお、物語を追う以外にもやり込み要素として瓶集めや実績などが存在。瓶集めはマップ上に隠された瓶を収集するもので、取得するとケイの日記を読むことができる。物語への理解を深めるうえでも、瓶は積極的に集めていきたい。

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 孤独で不思議な冒険、美しいビジュアル、そして感情を揺さぶられる物語が楽しめる『Sea of Solitude: The Director’s Cut』。ニンテンドーeショップで体験版も配信中なので、興味を感じた人は気軽に手に取ってみて、気に入ったら製品版を遊んでみてほしい。

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