ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームを紹介する連載企画。今回は、セリフがいっさい存在しないラブストーリーを描くアドベンチャーゲーム『When the Past was Around 過去といた頃』です。

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When the Past was Around 過去といた頃

  • プラットフォーム:NintendoSwitch、PS4、Xbox One
  • 発売日:2020年12月16日(NintendoSwitch)、2020年12月17日(PS4)、2020年12月18日(Xbox One)
  • 発売元:コーラス・ワールドワイド
  • 価格:900円[税込]
  • ダウンロード専売
  • 『When the Past was Around 過去といた頃』公式サイト

When the Past was Around 過去といた頃

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ひとつひとつの“想い出”から紡がれるストーリー

  • もう、二度と会うことのできない大切な人はいますか?
  • 別れた恋人が、いま何をしているか知っていますか?
  • 学生時代の親友とは、いまも遊んでいますか?

 40も半ばを過ぎると、結婚の報告よりも、訃報のほうが多くなる。そして、それは時に人伝に、周回遅れで訪れて「アイツ、亡くなっていたんだ……」と驚くことも少なくない。そんな時、ふいに頭によぎるのは決まって当時の思い出――。それは、大体一緒に笑ったり、喜んだりしているシーンだ。

 永遠に続いていると思っていた一本道はいつの間にか分かれ、現在一緒に歩いているのは別の人――。振り返るとカノジョ及び彼らたちが、当時の姿で無邪気に笑っている。前を歩くしかできない僕を見ながら、ずっとずっと笑っている。

 『When the Past was Around 過去といた頃』は、最愛のパートナーを亡くしたであろう女性が主人公のアドベンチャーだ。"であろう”と書いたのは、本作にはセリフもテキストもなく、プレイヤーが絵と音で物語を"想像”する形を採っているから。そして物語は、ふたりの関係性はもちろん、主人公のこともほとんど分からないところから静かに幕を開ける。

【静かな感動作】“失くしたもの”がある大人たちに送るストーリー『When the Past was Around 過去といた頃』【年末年始おすすめゲームレビュー】

 ゲームはひとりの女性の日常の一風景をステージとして切り取った形で構成されており、プレイヤーは画面の気になる所をポイント&クリックしながら、次の部屋(ステージ)の扉を開くキーアイテムを見つけていく。カッターを探してダンボールを開けたり、カーペットをめくって鍵を見つけたり、時計の針を探して時計を動かしたりと、その仕掛けはさまざまだ。

 チェックできるものは、ボタンひとつで画面に表示できるので、難度はあってないようなもの。基本イジワルな謎解きがないため、ウインドウに表示された絵などを手掛かりにすることで、ほとんどの謎が解けるだろう。そして、哀しみに包まれた主人公の心の扉を、傷つけないように少しずつ開けていくように物語を進めていくと、プレイヤーは気づくはずだ。各ステージの謎や、その謎解きに必要なアイテムの数々が、“彼女の想い出”だということに。

【静かな感動作】“失くしたもの”がある大人たちに送るストーリー『When the Past was Around 過去といた頃』【年末年始おすすめゲームレビュー】
【静かな感動作】“失くしたもの”がある大人たちに送るストーリー『When the Past was Around 過去といた頃』【年末年始おすすめゲームレビュー】
ベースシステムは“脱出ゲーム”。アイテムを集めて、謎を解き、ステージをクリアーすると、ふたりのイベントシーンが挿入されます。

 両親との写真、洗濯物、異なる好みの飲み物、ふたりで夏の砂浜で分けて食べたアイスバー……。その多くが、かつてあった穏やかで幸せな日常を感じさせる品物だ。"アイテム”や"フラグ立て”という名称が似合わない、“想い出”が詰まった体温を感じるものたち。そのひとつひとつに眠るそれぞれの記憶――。

 セリフがないからこそ、主人公たちが何も語らないからこそ、プレイヤーである僕たちは、静かに流れるピアノやバイオリンの音色に身をゆだねながら、見つけた想い出の品々や風景から紡がれるふたりの物語に思いを馳せていく。そして、僕たちはやがて彼女の深い哀しみに触れるのだ。

【静かな感動作】“失くしたもの”がある大人たちに送るストーリー『When the Past was Around 過去といた頃』【年末年始おすすめゲームレビュー】
パートナーの顔から、部屋にある調度品などの小物までが、プレイする人たちの想像力を背中からやさしく押します。

ゲームだからこそ没入できた物語

 “喪失と再生”をテーマにした作品は、小説や映画、マンガでも多く描かれており、その普遍性からすでに数々の名作が生まれている。それゆえプレイする人によっては、ありふれた物語に感じてしまうかもしれない。

 ただ、本作はコントローラーを握って世界に直接介入するというゲームだからこそのスタイルが、物語への没入感を高めてくれる。だからこそ、ダンボールを開けるとき、机の引き出しを調べるとき、窓の風景を見るとき、まさに自分が体験しているように、僕は彼女の大切な日々と、深い哀しみの両方に寄り添うことができたような気がした。

【静かな感動作】“失くしたもの”がある大人たちに送るストーリー『When the Past was Around 過去といた頃』【年末年始おすすめゲームレビュー】
クリアーまでの時間は、3~4時間。映画を観るような気軽なスタイルと時間でプレイできるのも魅力です。

 幸せなことに、まだ僕はパートナーを亡くした経験はない。ただ、一緒に夜通しバカ騒ぎした友人の何人かは、すでにこの世を去ってしまった。SNSで名前を検索しても出てこない大学時代の仲間、携帯の電話帳に残るかけることない元カノの電話番号……。

 多くのものを失くし、忘れ、ときに思い出さないようにして、いまを生きている。ゲーム画面の中の彼女が“想い出”に触れ、美しいメロディが流れるエンディングを迎えたとき、僕も自分のかつて歩いていた道に思いを馳せる。あの時の笑顔、涙、ともに一緒の時を過ごした掛け替えのない日々に。そして、世界のどこかで生きているであろう大切な人たちのいまに――。

 『When the Past was Around 過去といた頃』は、何かを"失くした”ことのある大人たちに、プレイしてほしいビター&スイートな1本です。

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