ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームを語る連載企画。2020年12月31日に取り扱う作品は魔法少女をテーマにしたRPG『マジカミ』です。
【こういう人におすすめ】
- 意外と重いストーリーにぞくぞくしたい
- 王道の展開にスタンディングオベーションをしたい
- かわいい女子が好き
ミス・ユースケのおすすめゲーム
『マジカミ』
- プラットフォーム:PCブラウザ、iOS、Android
- リリース日:2019年6月26日(スマホ版は2020年6月11日)
- 配信元:Studio MGCM
- 価格:基本プレイ無料(アイテム課金制)
- パッケージ版:なし
- ダウンロード版:あり
- 『マジカミ』公式サイト
『マジカミ』OP -2020-
自分に合ったゲームを遊ぶと心が持っていかれる。
もし自分がそのゲームの世界にいたらどんな立場で、キャラクターたちとどんな会話を交わすのか。そんなことを想像する。バトルものだったら自分にどんな能力があるか考える。
たとえば、ディストピアに佇むバーを舞台にしたアドベンチャー『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』。全編に漂う気怠さとウィットに富んだセリフ回しが僕を魅了する。バーテンダーと常連客の会話に耳を澄ますような感覚がくすぐったい。あのとき、たしかに僕はカウンターの隅でグラスを傾けていた。
『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』もよかった。スタイリッシュなビジュアルが印象的な本作ではあるが、根底にあるのは社会風刺だ。主人公たち“心の怪盗団”の敵は現実にもいそうな権力者。法で裁けない巨悪に一泡ふかせるのは何とも痛快で気持ちいい。僕がこの世界の住人だったら怪盗団を支持するだろうな。
かっこよくて雰囲気のあるゲームが好きで、自分もその世界を構成するパズルの1ピースになりたい。このような状態になることを、僕は“心が持っていかれる”と表現している。
プレイヤーに向けられたメッセージ
さて。ふたつの例を挙げたところで『マジカミ』である。渋谷の街を舞台に、12人の魔法少女たちといっしょに悪魔や世界のシステムに立ち向かう物語。
メインストーリーとは別にキャラごとのシナリオも用意され、魔法少女が着るドレスを収集・強化する育成要素を楽しめる。いわゆる“ソシャゲ(ソーシャルゲーム)”と呼ばれるタイプのRPGだ。同時に、悪魔との戦いや女子たちとの恋愛を描いたアドベンチャーでもある。
僕は本作を2019年6月のPC版リリースからずっとプレイしている。最初は仕事で遊び始めたが、いまではすっかり日常生活の一部。それなのにふつうのレビュー記事を書いたことがないのは(企画記事は何本も作った)、よくわからないからだ。これを機に、魅力を整理しようと思う。
先述したように、僕は自分がゲームの世界に入り込んだときのことをよく想像する。『マジカミ』で活躍するのはかわいい女子たちだが、僕自身が魔法少女になりたいわけではない。個別シナリオのなかには恋愛要素もある。どきどきしたいのだろうか。それもゼロではないが、メインではない。
『マジカミ』のメインストーリーはどきどきの方向性が恋愛とは異なる。精神的に“くる”。魔法少女RPGを標榜しているものの、きらきらした雰囲気はほぼゼロ。彼女たちは生きるか死ぬかの状況を泥くさく戦い抜く。
もともと心をえぐられるお話に心惹かれる性分なのだが、つらいだけの展開は苦手だ。見たいのはか細い光に向かって懸命にあがく姿。未来をキッとにらみつける表情にひかれるのである。
きっと、僕にはそれができないことを心のどこかで自覚しているからだろう。成長の過程で諦めを覚えた大人には、勝利を信じる姿がまぶしい。だから憧れる。応援する。
『マジカミ』をプレイするときの僕は傍観者だ。これは主人公・量とびおの立ち位置に少しだけ似ている。
ひとり別の世界から、モニターを通して魔法少女たちを見守る量とびお。彼女たちとのコミュニケーションはマスコットキャラ型の端末“オムニス”を介して行う。
注目は、会話はできるが直接的な干渉は不可能という点だ。ストーリー上の戦闘では劣勢が続く。いちばん近くで見ているのに、ピンチに手を差し伸べることすらできない。もどかしい。
どんな苦境に陥っても魔法少女たちは諦めない。運命に抗う姿が、奮起するように量とびおとプレイヤーを焚きつける。魔法少女たちの必死な姿は、僕の心をいとも簡単に持っていく。
本作には重要な言葉がある。悪魔が出現すると女子たちのスマホから聞こえる「無限の可能性を信じますか?」という問いかけだ。承諾すると魔法少女に変身できるのだが、僕は『マジカミ』をプレイしている人へのメッセージでもあると受け取った。
もやもやを抱いて燻っている大人を挑発するように、『マジカミ』は言う。「お前の可能性はそんなもんじゃねえだろ?」と。
ゲームの中で、魔法少女たちは無限の可能性を信じて壁をぶち破っていく。そんな彼女たちに触発されて、プレイヤーも現実世界で困難に立ち向かったら、冗談抜きで世界が変わるかもしれない。
大げさなことは重々承知だ。だが、「クラナドは人生」という言葉があるように、ゲームに人生を変えられることはたしかにある。
オンラインゲームの特性とドレスを活かした演出
『マジカミ』はオンラインゲームなので、ストーリーは順次実装されていく。ちょうど本日(2020年12月31日)0時に第2部のクライマックスが配信されたばかりだ。
第1部の終盤で、量とびおたちは世界のシステムを知る。対人戦コンテンツ“サバト”でほかのプレイヤーと戦う理由も明かされるなど、コンテンツと世界設定がリンクしているのがおもしろい。
第2部では魔法少女たちが痛みを乗り越えて覚醒。ひとり、またひとりと秘めた力に目覚め、劣勢を徐々に覆していく。男子が好きな王道展開である。
と、興奮していたら、後半は前向きとは言えない理由で力が引き出されて動揺してしまった。感情のジェットコースターである。
また、覚醒すると公式サイトのキャラ紹介で描かれているドレス(人によってはもっと露出度が高くなる)を身にまとう演出もすごくいい。
ドレスは魔法少女の強さを左右する重要な要素だ。また、ドレスの種類の多さは“無限の可能性”の発露のひとつでもある。レアリティSR以上のドレスにはそれぞれ物語が用意されていて、レベル30まで強化すると解放される。
これらはメインシナリオとはつながりのない独立したお話だ。もしかしたらそういう可能性もあったのかもしれない、“if”が楽しめる。制限が少ないので、お話を多角的に作れるのは大きい。
キャラクターの掘り下げにもひと役買っているほか、ドレスが多ければビジネス(利益)にもつなげやすい。よくできた仕組みだなあと思うし、洋服が好きなのでいろいろ見られて楽しいという単純な気持ちもある。
ポップなビジュアルが目を引くとか、バトルBGMが歌あり楽曲でかっこいいとか、ソシャゲの大敵である周回のストレスがないとか、悪魔のデザインが淫靡でグロかわいいとか、12人の中では槍水りり(ギャル)と雪船エリザ(お嬢様)が好きとか、書くべき要素はまだまだある。それでも、冷静に本作を振り返った僕が語りたいのは物語についてだった。
『マジカミ』は、無限の可能性を信じた若者が、輝かしい未来に手を伸ばす物語だ。ある意味で新年にふさわしいゲームだと思い、この記事を書いた。