お米食べろ
ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。堅田ヒカルがおすすめするタイトルは、Nintendo Switch・プレイステーション4・PC(Steam)向けのアクション・シミュレーション作品、『天穂のサクナヒメ』(てんすいのさくなひめ)です。
【こういう人におすすめ】
- お米食べる
- 農村風景が好き
- テレビ番組『鉄腕DASH!!』とかマンガ『夏子の酒』みたいな米づくりコンテンツが好き
堅田ヒカルのおすすめゲーム
- 『天穂のサクナヒメ』
- プラットフォーム:Switch、PS4、PC(Steam)
- 発売日:2020年11月12日(Steam版は2020年11月11日配信)
- 発売元:マーベラス(Steam版はXSEED Games、Marvelous USA, Inc.)
- 価格:各4980円[税抜]
- パッケージ版:あり
- ダウンロード版:あり
- 『天穂のサクナヒメ』公式サイト
実るほどこうべを垂れるサクナヒメ
1年があっという間に過ぎていく、毎年思うわけですが、今年もいろいろありました。コロナはニュースを騒がせて、まだまだ先も見えません。どうなることやらわかりませんが、ともあれ暮れます令和2年。
……ハッ、気づいたら古式ゆかしい七五調でレビューを始めるところだった。
思わずこんな口調になってしまうのも、今年プレイしたゲームに“和”テイストのものが多かったから。ひとつは『ゴースト・オブ・ツシマ』。そしてもうひとつが本稿で紹介する『天穂のサクナヒメ』だ。
インディーズ制作のゲームながら、その尖ったコンセプトと高い完成度が評判を集め、地上波のニュース番組でも取り上げられたりした話題作なので、もう知っている方も多いことと思うけど、改めて説明をする。
本作は、“稲作”と、羽衣を使ったラバーリングアクションが特徴的な“横スクロールアクション”をミックスさせたゲーム。米を育てると主人公のサクナが強くなる。RPGでいう“レベリング(レベル上げ)”が、本作の場合は稲作になっているのだ。
「なっているのだ」、と言われてもやはりピンとこない方もいるかもしれない。ゲーム概要は下記関連記事をチェックしてほしい。
アクションステージを攻略しながら米を育てていく。秋に稲穂が実り米を収穫すると目に見えてサクナが強くなる。食事のメニューも豊かになる。
プレイ開始当初はヒエやアワなどの雑穀、そこらで狩ってきたスズメの炙り焼きばかり食っていたのに、稲作開始から3~4年経つと白米、餅、どぶろくなども食卓に並べられる。いいものを食べれば食べるほどバフが掛かり強化される。だから、アクションパートを進行するためにも稲作に精を出したくなる。収穫の喜びがゲーム的喜びに直結している。
農業経営シミュレーションゲームはこれまでにもいくつかあったけど、本作の何よりの特徴は作物を“コメ”に絞っていること。そこで描かれる稲作のディテールがとんでもない。
稲作パートがかつてないほど丁寧に作られている。テレビ番組『鉄腕DASH!!』のコーナー“DASH村”がお好きだった方はきっと楽しめるゲームだと思う。「ああ、これDASH村で見たなあ」という農作業がちょくちょく出てくるのだ。
本作における米づくりのおおよその手順は以下の通り。
- 田起こし
- 泥水選
- 田植え
- 雑草取り
- 稲刈り
- 稲架掛け
- 脱穀
- 精米
加えて、その都度田んぼの水量・水温を管理したり、自家製肥料を撒いたりする必要がある。その細かさは「農林水産省の公式ホームページが攻略サイトになる」とも言われるほどで、その評判を受けてか、農林水産省が本作の制作者にインタビューを行うという事態にまで発展した。
農林水産省にインタビューを受けたゲームクリエイターというのは、ゲーム業界史上初……かどうかはわからないが、とにかく異例であることは間違いない。
さて、この米づくりが何しろおもしろいのである。
爺さんは「米づくりがいちばん楽しい」と言った
米づくりというと思い出すことがある。僕は米どころ北陸・富山県の出身で、祖父は農家だった。僕が育ったあたりは、一面田んぼばかりという地域で、田のほかにあるものと言えば山と川と雲と空だ(いいところですよ)。
祖父が亡くなる前に僕は爺さんに訊いた。
「じいちゃん、生きとっていちばん楽しかったことちゃ、何け」
爺さんは
「若いころ、米を作っとるときがいちばん楽しかった」
と答えた。
90過ぎまで生きた爺さんの思い出は米づくりがいちばんエンターテインメントなことであったのだという。けっこう驚いた。それは祖父にとって収入を得るための“仕事”のはずで、「仕事がいちばん楽しかった」と、そこまで言い切る答えが返ってきたのは予想外だった。だって仕事じゃん。
僕は田に入ったことすらない。田んぼで汗を流す祖父を横目に見ながら、その収穫物をありがたく享受するだけだった。うまいうまい。
『天穂のサクナヒメ』では日本の典型的な里山の風景が描かれている(厳密には舞台は日本を思わせる別の世界なのだけど)。
農作業は早春の田起こしに始まり、歓びの田植えを終えると、春から夏にかけて稲はすくすくと育つ。田に雑草が生えたら必ずむしらなければならない。稲が出穂してしばらく経つといよいよ稲刈りだ。
このときサクナは、稲穂を見て「かわいいのう、かわいいのう」とつぶやく。それまで労力をかけて稲を育てたプレイヤーにはその気持ちがとてもよくわかる。目をかけて時間をかけて手をかけて育った稲は自分の子どものように感じるだろうな。
収穫した新米は食卓に並ぶ。刈ったばかりのお米を炊くときの喜びはほかに換えがたい。ゲーム画面で料理がアップになることはないけど、白米を炊いたとき、プレイヤーの脳裏には、茶碗いっぱいに盛られて白くつやつやと光る炊きたてご飯の輝きがきっと浮かぶ。
『天穂のサクナヒメ』を遊ぶとき、僕は故郷の田園風景を思い出す。そして「米づくりがいちばん楽しい」と言い切った祖父のことを思い出す。郷愁というものをゲームで感じる。
爺さんが語った米づくりのおもしろさが、収穫の喜びが、どうしたことだ、この田にも入ったことがなく、農作業もしたことがない、キーボードより重たいものは持てない、白魚のような指の持ち主の僕ですら、農が本来持つ楽しさを感じるみたいじゃないか。
米づくり、楽しい。
田植え唄歌うところ、いい。。。。
#SAKUNA #NintendoSwitch https://t.co/jqMh0V8yoR
— 堅田ヒカル@週刊ファミ通 (@katada_hikaru)
2020-11-20 01:08:38
本物の米農家の方からすれば「楽しいばかりじゃねえよ!」とお思いになるだろうけど、もちろん、ゲーム中の農作業はデフォルメされて、いい具合に簡略化されている。単純なミニゲームになっているものもあれば、シンプルな作業でもその判断が米の出来不出来に影響を与えるものもある。手間が掛かる。でもそのぶん、掛けた手間が出来上がりに反映されると、うれしい。
米の出来栄えはキャラクターの成長に影響を及ぼすけど、プレイした実感としては、そこまでシビアなものではない。米の食味にこだわり抜いて、米づくり職人になろうと思えばなれるだろうし、米作りはそこそこにCPUにお任せして、アクションをガンガン楽しみたいという遊びかたも(ステータス的に苦労はするかもしれないが)できるように考えられている。
米作りパートの造作には、制作者が実際にバケツ稲作キットで米を育てたというリアリティーが反映されている。作中には歴史の授業で習った“千歯こき”なんてものが出てきて使うこともできる(千歯こきが使えるゲームがこれまでありましたか皆さん)。
そのディテールが本作の特色ではあるものの、本作を傑作たらしめているのは、その“こだわり”にこだわりすぎず、全体としてゲームが成立するよう落とし込んでいるところにある。
何しろいい世界だ。田んぼに水を入れるとカエルが大合唱、秋には鈴虫がうるさいくらいに鳴く。冬は雪が積もって一面の銀世界。水道にはタニシやドジョウがいて捕まえられる。春には田のあぜにつくしや七草が生えて、摘めば食卓にのぼる。僕はそもそも田舎育ちで、そういう世界観で育ってきたことを強烈に思い出した。
郷愁と食欲をダイレクトに刺激する本作。年末の帰省をしている人も、今年は自粛された方も、この機会に遊んでみるといいのではないかなと思う。
アクション面について書く鋤が……いや隙がなかった
最後に。本作が語られるときは、稲作部分に焦点を当てて語られがちだけど、アクション部分もとてもおもしろいということを書き添えておく。
まず、僕がアクションゲームでもっとも重視する“触って(本能的に)気持ちいい動き”になっている。さらに、設定する技の組み合わせで自分のオリジナルコンボを考えるという奥深さもある。工夫して必殺パターンを見つけて、本来ならレベルがもっと上の敵に対しても独自の手順で細かい攻撃を加え続けるルーチンが決まったときには、「パターン入った……」と、心のなかでしたり顔をする楽しさもある。
本作をほかにない一作に高めているのは、米づくりとアクションの両輪による。