男性にもおすすめできる“アイドル”もの

 過去の名作アニメの中からおすすめの作品をご紹介する【なつかしアニメレビュー】。今回ご紹介するアニメは『少年ハリウッド』です。

 本作は「人はなぜアイドルに惹かれるのか?」、「アイドルになるとは、どういうことなのか?」といった部分を、極めて真摯に描いており、何らかのアイドルや、アイドルを題材にした作品がお好きなすべての人におすすめしたい作品となっています。

 端正な男性キャラクターたちが立ち並ぶ、男性アイドルが主人公のアニメということで女性視聴者向けの作品のように思う方もいるかもしれません。しかし、筆者は男性なのですが、周囲のアニメファンからの性別問わない評判を聞いて本作を視聴したところ、見事に夢中になってしまいました。

 このアニメを観れば、あなたの好きなアイドルや作品への理解は、きっとさらに深まるはず。女性だけではなく、男性にもおすすめしたいアニメです。

 なお、『少年ハリウッド』の見放題配信は2020年10月現在、dアニメストアでのみ行われています。dアニメストア for Prime Videoなどでの配信はありませんので、ご注意ください。

アニメ『少年ハリウッド』(dアニメストア)

意味不明な自己紹介が、心の底からカッコよく思えるように

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主人公・風見颯(画像は公式サイトより)

 2014年~2015年に分割2クールで放送された本作の正式タイトルは、第1期が『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-』、第2期が『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 50-』。各13話の、全26話で放送されました。

 原宿にある劇場“ハリウッド東京”を拠点に活動するアイドルユニット“少年ハリウッド”に所属することになった5人の男の子たち。彼らを主人公とした成長物語である本作。

 物語はそのうちのひとり、“風見颯(かざみ かける、声:逢坂良太)”が奇妙な男性にスカウトされ、成り行きでアイドルをはじめることで始まります。

 この奇妙な男性こそ、ハリウッド東京を取り仕切る、通称“シャチョウ(声:浪川大輔)”。独自のアイドル哲学を持っており、彼が出す指示に、少年ハリウッドの面々はいつも困惑させられます。

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謎の人物・シャチョウ(画像は公式サイトより)

 第1話『僕たちの自意識』で颯たちが練習させられるのは、驚くほどに恥ずかしい自己紹介。

「君の宇宙は、僕の宇宙。僕の宇宙は、君の宇宙。つまり僕は君に夢中! 夢をカケルよ、風見颯。高校二年生の、十七歳です!」

 ほかのメンバーも「座右の銘は、仏恥義理魂(ぶっちぎりだましい)」、「少し前まで、星の国にいたんだよ」、「君の運気上昇担当になりたい」、「この八重歯にかけて、君の最後の彼氏になることを誓います」などなど……。

 思ったこともないような意味不明かつ歯の浮く自己紹介フレーズを練習させられ、戸惑う少年たち。しかしハリウッド東京では「シャチョウの言うことは絶対」なので、従うほかありません。

 そんな颯たちですが、さまざまな出来ごとを経験し、アイドルとして“ファンが見たい人物像を演じ切る”という意識が芽生えるにつれ、それまでやらされていただけだったアイドルとしての自分に、みずからの意志で成り切ることができるように。

 第7話『人生に人生はかけられない』で、ついに颯は見ているこっちまで恥ずかしくなってしまったあの自己紹介を、胸を張って言い切れるように。そのころには僕たちもそんな颯たちのことを、心の底からかっこいいと思えるようになるのです。

 丁寧な心情描写や、不思議な説得力を持つシャチョウの考えかたを通して、彼らが本当の意味で“アイドル”になっていく過程に、自然と納得させられてしまうのが『少年ハリウッド』のおもしろいところ。

 この、視聴を続けるにつれじんわりと感動が広がっていく感覚は、ぜひとも実際に体験していただきたいところです。

アイドルを辞めた人間は、輝きを失ってしまうのか?

 このアニメでおもに描かれる“少年ハリウッド”、実は2代目。この作品には、アニメに先駆けて配信、文庫化された小説版『少年ハリウッド』という前作が存在し、こちらではアニメの15年前を舞台に、“初代少年ハリウッド”の活躍が描かれます。

小説『少年ハリウッド 完全版』Kindle版(Amazon.co.jp)

 そしてアニメ『少年ハリウッド』にも、ユニット解散を経て、おじさんと呼べる年齢になった初代少年ハリウッドの面々が登場。アイドルに必ず付きまとう、卒業や引退。彼らに夢中になっているあいだは考えたくない事実ですが、それを本作は真正面から描きます。

 「アイドルを辞めた人間は、輝きを失ってしまうのか?」――新しいキャリアを歩む初代少年ハリウッドを通して、本作はこの問いに、いくつかの解答を示すのです。

 彼らの生きかたに触れることで、颯たち2代目少年ハリウッドも、その想いを受け継ぐことに。かつて同じ道を歩んだ先輩たちは、アイドルという特殊すぎる青春を選んだ颯たちにとって、ときにそのゆく道を明るく照らす道標となります。

 これは“アイドルの終わり”という目を逸らしたくなる現実に、真摯に向き合わなければできない描きかたです。

 いつか終わってしまうからこそ、いまこの瞬間のアイドルとしての彼らは、ファンにとっても、そして本人たちにとっても二度とない掛けがえのない瞬間。そういった意識が、颯たちの成長をよりいっそう尊いものだと感じさせてくれます。

1話まるまる歌番組、ミミズク視点……風変わりエピソードの数々

 ほかのアニメではなかなか観られない“風変わりなエピソード”がいくつかあるのも『少年ハリウッド』の魅力のひとつ。

 全編を通して少年ハリウッドの面々が演じる劇の公演という形で物語が進行し、モノローグなどは一切なし。まるでハリウッド東京を訪れた観客のような立場から彼らを見守れる第5話『エアボーイズ』。

 今度は全編歌番組として構成され、“何組かのゲストのうちのひと組”としてテレビに登場、パフォーマンスを披露する少年ハリウッドが描かれる第10話『ときめきミュージックルーム』。

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画像は公式サイトより

 基本的にはステージから降りているときや練習中などの彼らの日常が描かれる『少年ハリウッド』。しかし日常の中での悩みや葛藤、そこから導き出した答えは、ファンに見せる“アイドルとしての姿”をも変えていきます。

 そんな、“ファンが見る少年ハリウッド”と同じ視点で彼らを見ることとなるいくつかのエピソードは、“生身の人間が望まれる姿を演じる”というのがどういったことかを強調します。

 さらに風変わりなのは、ハリウッド東京で飼われているミミズク、“キャット”の視点で描かれる第15話『守り神が見たもの』。初代少年ハリウッドの活躍から現在まで、ハリウッド東京のすべてを見てきたキャットが何を思ってきたのかが、明らかになるのです。

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画像は公式サイトより

 “見られる職業”であるアイドルを、ときに一般的なファンの視点、そしてまたときにはすべてを俯瞰して見届けてきた存在の視点によって見つめ直すこと。風変わりで楽しいだけでなく、これらのエピソードからはアイドルとは何かについて改めて考えさせられます。

アイドルは神か、いけにえか?

 第21話『神は自らの言葉で語るのか』では、アイドルの本質とも思える言葉がシャチョウの口から語られます。

 アイドルとしてさまざまな理想を求められ、祭り上げられるのは、“神様”に対するものと似ている。けれどそれは同時に、“いけにえ”にも似ている。これに応えようとし続けるアイドルたちは、幸せか? それとも不幸なのか?

 無邪気にアイドルに夢中になっている身としては、少し身につまされます。それでもアイドルになりたい人がいて、アイドルを必要としている人もいる。両者の奇妙な関係について、一度立ち止まって考えてみたくなるエピソードです。

 ここではご紹介しきれないくらい、たくさんの出来ごとを通して、悩んだり、まわり道をしたり、ときには恋をしてしまうこともある『少年ハリウッド』の5人の物語。

 それでもアイドルであり続けようとする彼らの姿は、アイドルのことが好きな僕たちに、もっとアイドルを好きにさせてくれたり、アイドルについていままで以上に真剣に考えてみたくなる切っ掛けをくれます。

 ここまで読んで気になった方ならば、きっと視聴して後悔することはないはず。本当におすすめのアニメですので、ぜひご覧になってみてください。

作品情報

  • タイトル:『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-』、『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 50-』
  • 全26話(2014年~2015年放送)
  • 配信サイト:dアニメストア

スタッフ

  • 原作・シリーズ構成・脚本:橋口いくよ
  • 監督:黒柳トシマサ
  • キャラクターデザイン:土屋圭
  • 美術監督:平間由香
  • 美術設定:緒川マミオ
  • 色彩設計:佐藤直子
  • 3D監督:佐藤敦
  • 撮影監督:本台貴宏
  • 編集:平木大輔
  • 音響監督:田中亮
  • 音響制作:スタジオマウス
  • 音楽:林哲司
  • 音楽制作:スターチャイルドレコード
  • 企画協力:小学館
  • アニメーション制作:ZEXCS
  • 製作:ノエルジャパンエージェンシー

キャスト

  • 風見颯:逢坂良太
  • 甘木生馬:柿原徹也
  • 佐伯希星:山下大輝
  • 富井大樹:蒼井翔太
  • 舞山 春:小野賢章
  • 勅使河原恭一:新田将司
  • シャチョウ:浪川大輔
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