今回紹介するのは、2020年9月25日に2Kから発売された『マフィア コンプリート・エディション』(以下、『マフィア』)。その名が示す通り、犯罪組織として有名なマフィアの世界を題材とした、オープンワールドクライムアクション・アドベンチャーです。

 本作は、2002年に発売された同タイトルの完全リメイク版であり、開発はオリジナル版を手がけたIllusion Softworksではなく、『マフィアIII』のHanger 13が担当しています。(Hanger 13には元Illusion Softworksのスタッフも在籍)

 リメイク元が18年も前のゲームなので、グラフィックはもちろんのこと、ゲーム性としてもほぼ新作同然! オリジナル版をプレイしたことがあるプレイヤーは違いを楽しみながら、新規プレイヤーは純粋に新作ゲームとして楽しめる仕上がりになっています。

01

 『マフィア』シリーズは、裏社会で生きる者たちの生活を重厚なストーリーとともに描き出すことが高い評価を得ています。それは初代のリメイク作でもある本作にも、当然備わっている魅力。本記事では、そんな本作が持つ唯一無二の魅力をお伝えしていきます。

忠誠と野心としがらみと。裏社会で生きる者が抱くさまざまな感情を描く物語

 本作の舞台となるのは、1930年代の架空の町、ロスト・ヘヴン。アメリカ国内で施行された禁酒法によって、マフィアが力を得た時代です。禁酒法はアルコールの製造や販売、輸送などを禁じる法律で、マフィアはこの状況を利用し、違法に酒を製造・販売することで莫大な資金を得ることに成功し、大きく影響力を強めたと言われています。

 物語は、主人公のトミー・アンジェロが、刑事のノーマンにみずからの過去を語る回想形式で進んでいきます。トミーはもちろんマフィア……それも結構な幹部クラスの人間ですが、話の内容からして、どうやら身を置いていたマフィアである“サリエリ・ファミリー”から命を狙われていることがうかがえます。

02

 ストーリーモードでは、トミーが過去を振り返る形で、彼のマフィアとの出会いや行ってきた数々の犯罪、そしていま彼が追われている理由などを追体験していくことになります。

 本作はオープンワールドゲームなので、基本的にストーリー進行中も自由に町を散策することが可能です。現在の技術で新たに作られたロスト・ヘヴンの街並みは、まさにマフィア映画で観るようなレトロなビジュアルそのまま。この時代が好きな人にはたまらないでしょう。

03

 一方で、ストーリーミッション以外には、とくにアクティビティは用意されていないため、あくまでもできることは町を眺めて回るのみ。この辺りは物語体験を重視した『マフィア』シリーズならではのところで、好みはわかれるかもしれません。個人的には、せっかくフィールドをここまで作り込んでいるのだから、もう少しアクティビティがあってもいいのにと感じました。

 逆に言えばストーリーに集中できるため、映画感覚でプレイできるのがいいところ。急いで現場に向かわなければならないシチュエーションなのに、気になるアクティビティが多すぎてつい寄り道をしてしまう……といった、“オープンワールドあるある”な状況にはなりません。

04

 まだマフィアに属する前、トミーはごくふつうのタクシー運転手でした。この段階では、客を拾って目的地に運ぶ、といったミニゲーム的な要素も。しかし、ここから数奇な出会いを経てマフィアの世界に足を踏み入れることになります。

 トミーを拾ったのは、ロスト・ヘヴンでも大きな影響力を持つマフィア、ドン・サリエリが率いるマフィアでした。サリエリファミリーは、もうひとつの有力なファミリーである“モレロ・ファミリー”と長年ロスト・ヘヴンを分割支配していました。成り行きでサリエリファミリーに所属することになったトミーは、このふたつのファミリーの抗争に巻き込まれていきます。

05

 ファミリーどうしのつぶし合いは、クライムアクションではお約束の展開。本作を遊ぶうえで、別のファミリーとの抗争があることは想像できる人も多いかと思われます。

 しかし、本作最大の魅力はマフィアどうしの戦いというよりも、マフィアの世界に身を置くことで生まれる、ファミリーとの結束や義理人情といった絆を感じさせる要素。そして、そこから一転して出世欲や騙し合い、疑心暗鬼といった猜疑心をあおる要素。このふたつがない交ぜになった明暗のギャップを描く物語だと感じました。

 ここではストーリーのネタバレは控えますが、トミーを始めとした登場人物たちは皆個性的で、ストーリー全体を通してみたときの関係性や感情の変化という点がとくに見どころ。

06

 あまり派手にドンパチするわけではなく、マフィアの仕事風景を描きつつ、全体的にややしっとりとした演出が多い印象ですが、それがまたキャラクターの人間性をよく映しています。

 マフィアものは、どうしても人がよく死んでしまうので、「絶対に全員が幸せになるハッピーエンドしか見たくない!」という人にはオススメしにくいものの、友情の中に孕んだ野心や危機感といった複雑な人間模様が好きな人には、ぜひプレイしてみてほしい作品です。

1930年代アメリカという箱庭への没入感に重きを置かれたゲーム性

 先にも触れましたが、ロスト・ヘヴンの町はオープンワールドとして形作られているため、基本的には自由にフィールドを移動できます。ストーリーモードとは別に、しがらみなく町を散策できる“フリーライド”モードもあるため、本格的な探索はこちらで行うといいでしょう。

07

 一方で、フリーライドモードであってもアクティビティはほとんどなし。一部隠しミッション的なものはありますが、それも数が多いわけではありません。基本的には自由な服装で、自由にロスト・ヘヴンを歩き回るのが目的のモードとなります。

 もちろん、本作にはクルマの収集などのコレクション要素もあるので、それらを埋めるのも目標にはなるでしょう。しかし逆に言えば、それくらいしか目的がないのがやや気になりました。

08

 多くのクライムアクション同様、町中で銃を取り出して通行人を銃撃し、通報されて駆け付けてきた警官を相手に大立ち回りを演じる……といった遊びかたは可能です。ですが、1930年代のマフィアを題材としたゲームですから、ロケットランチャーのような派手にクルマごと破壊できるような武器はありません。まぁ、マフィア好きからすれば、トンプソン(トミーガン)を乱射できるだけで十分かも。

 結果、銃撃戦はやや地味めなものになるものの、逆にこの単調な銃撃戦こそが『マフィア』の世界観と合致しているとさえ思います。

09

 ちなみに、本作の銃撃戦の難易度はやや高め。体力は一定値までしか自動回復しないうえ、銃弾が1発当たっただけでも大きく体力を削られます。敵の射撃も正確なので、カバーアクションをうまく使い、銃撃の合間を縫って反撃していくのが基本的な戦術になります。

 ステルスキルや格闘攻撃などもあり、状況に応じて使い分ければ有利に進められることもありますが、大抵の場合はミッションによってステルスが必須だったり、強制的に銃撃戦になったりと、シナリオ優先のバトルになることがほとんど。

 総じて“ゲームを進める”という点においては自由度は高くなく、シナリオに沿って物語を楽しむタイプのゲームだと言えるでしょう。

10

 余談ですが、本作のこだわりが垣間見えた点として、警察の挙動があります。プレイヤーが罪を犯した場合、それが目撃者によって通報され、目撃された場所に警察が駆け付ける……という流れは割とスタンダードなもの。

 本作もその点は変わらないのですが、犯した罪によって警察の対応に幅があるのです。たとえば、危険運転や衝突事故の場合、警察が駆け付けるところまでは同じですが、その後厳重注意を受け、罰金を支払って終わりです。なお本作には所持金の概念がないため、罰金を取られるといっても、支払っているモーションがあるだけで、実際には何も失いません(笑)。

11

 町中での発砲や、銃を突きつけた脅迫行動では、警察の対応ももう一段階上がります。具体的には、銃をこちらに構えつつ接近してくるようになります。ですがまだ警告しているだけで「銃を降ろしなさい」と言って近づいてくるだけ。発砲してくることはありません。

 指示に従っていると手錠をはめられそうになりますが、一瞬だけ抵抗できる瞬間が訪れます。ここで抵抗すれば銃撃戦に発展するのですが、そのまま従うと捕まって収監(チェックポイントへ戻る)となります。

12

 そして人殺しなどさらに上の段階では、警告なしの即発砲案件に。というように、警察の対応のバリエーションがとても凝っているのが印象的でした。

 この警察官の対応はオプションで変更することもできて、通常であるレギュラーモードでは、町中を自由に爆走したところで、事故さえ起こさなければ警察は関与しません。しかし、シミュレーションモードにすると、速度違反や危険運転などでも警察の注意を引くことになり、よりリアルなマフィアライフを送れるようになります。

 好き勝手に暴れることを楽しませるよりも、犯罪に手は染めつつも、あくまでも社会の一員として振る舞う必要があるマフィアの生きかたを演出することに意味がある。それこそが、本作が持つ魅力なのだと思います。

13

 最後に、本作は『マフィア』シリーズ3作をひとまとめにした『マフィア トリロジーパック』にも収録されています。マフィアを描いた作品が好きな方はもちろん、アンダーグラウンドな人間関係が織りなす、濃密な物語を楽しみたい方は、この機会に遊んでみてはいかがでしょうか。

『マフィア コンプリート・エディション』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『マフィア トリロジーパック』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)