林斐子氏(はやし あやこ)
イーベイ・ジャパン マルチカテゴリーマネージャー
全世界190ヵ国で1.82億人が利用しているオンラインマーケットプレイスのeBay。世界中から多くの商品が出品され、常時出品数は14億点にも及ぶという。当然のことゲーム関連商品の取り扱いも多く、最新のゲームハードはもちろん、いまでは入手しづらくなった往年のレトロゲームなども取り引きされている。“eBayのオークションでゲームソフトが高値で売買された”といったニュースを聞いた方もいるのではないだろうか。そんなeBayで、いまゲーム関連商品が人気だという。これは、新型コロナウイルスの影響によるところが大きいと思われるが、どのようなトレンドがあるのか。イーベイ・ジャパンにてゲーム関連商品を担当するマルチカテゴリーマネージャーの林斐子氏に話を聞いてみた。
eBayには“越境EC”にも大きなニーズがある
――eBayでゲームが大人気とのことなのですが、その前にまずイーベイ・ジャパンのことを教えてください。eBayとイーベイ・ジャパンは違うのですよね?
林グローバルで展開しているeBayでは、各国ごとに異なるサイトを設けています。中でもやはり北米を中心としたeBay.comが人気で、世界のユーザーに向けて商品を出品したいという方も多いです。そんな“越境EC”をサポートする日本法人がイーベイ・ジャパンになります。私たちは出品者のことを“セラー”と呼んでいるのですが、“日本セラーの越境ECを支援する”のが私たちの役割になりますね。
――北米のeBayに出品しようと思ったら、イーベイ・ジャパンを介する必要があるのですか?
林そういうわけではありません。もちろん、ご自身で出品することも可能です。ただ、英語でのエントリーが基本になります。その点イーベイ・ジャパンでは日本語のサポートや困ったときのカスタマーサポートチームがいるので、安心して利用できるというわけです。
さらに言えば、eBayでは各国ごとに特集などを開いたりするのですが、そんな場合は、私たちカテゴリーマネージャーが「この国のeBayはいまゲーム特集をやっているので、出品するといいですよ」といったアドバイスをしたりもします。トレンドをキャッチアップしてのアドバイスも適宜おこなっています。手続きや審査もありますが、私たちのほうでコンサルティングをして、サイトで露出していく手助けができるわけです。
――なるほど。日本からの出品で売れている商品は何になるのですか?
林“ハイブランドの中古商材”と“世界に知られている日本メーカーの商材”、そしてゲームやアニメなども含む“日本のカルチャー商材”です。日本からは中古の商品が多くて、60%がリユースになるのですが、日本の中古品はニセモノが少なくて、クオリティーが高いということで評判が高いんですよ。eBay.comでは、昨年も今年も、日本が断トツで伸び率が一位ですね。世界中の人が日本のモノを欲しがっています。とくに日本でしか手に入らないユニークなものはいちばん人気がありますね。
――とくにいま、eBayでゲームのカテゴリーがとくに人気なのですね?
林その通りです。eBay.comでは、新品や中古に限らずゲームのカテゴリーは一定以上の市場規模がありまして、もともと市場は確立されていました。さらに、もともと日本はゲームが盛んな国で、市場にゲーム機や周辺機器などが、豊富に供給されるということもあります。日本限定品などもあったりして、そうなると、海外ユーザーからのニーズも高まりますね。実際のところ、ファミ通さん限定で出されたゲームボーイ ポケット スケルトンが、海外で高値で取引きされていたりもします。
――ああ、レアアイテムは人気があるということですね。
林あとは、先ほどもお話しました通り、中古品に関しては、日本のモノって保存状態がいいんですね。これはゲームに限らず中古のブランドバッグといったほかの主要カテゴリーの商材もそうなのですが、状態がいいので皆さん安心して購入していただけるというのがあります。ゲームは日本のセラーさんが販売するカテゴリーの中でも、一定以上の規模を占めていますね。
あと、eBayの特徴的な機能として、出品した方と購入する方とで直接メッセージのやり取りができるんですよ。気になるゲーム機があったとして、保存状態をもっと詳しく知りたいとなったら、出品者に直接問い合わせることができるんです。そんなやり取りを重ねて、「この人から買いたい」といった、信頼関係を築くことは、大いにあると思います。
――ああ、そのへんは商店街でお気に入りの店を見つける感覚に近いかもしれませんね。ゲームカテゴリーで言うと、セラーさんの内訳はゲームショップからの出品が多いのですか? 個人はいない?
林両方いらっしゃいますよ。法人としてゲームを販売されている会社さんが出品しているケースもありますし、個人事業主の方もいらっしゃいます。eBayでは個人も出品できるので、法人から個人まで、幅広い方に出品していただいています。
――個人で出品したいなと思ってイーベイ・ジャパンに相談することもなくはない感じですか?
林イーベイ・ジャパンがこれまでにサポートさせていただいて来たのが、法人と一定以上の金額規模の個人事業主の方が多かったりするのですが、これからは個人の方のサポートにも力を入れております。まだ若干発展途上ではありますが、もちろん出品いただけます! たとえば、記者さんが今日この話を聞いて「プレイステーションVitaって、こんなに高く売れるんだ。ちょっと家で眠っているから出品してみよう」という形で出品していただくことはできます。むしろ、この記事を読んだ読者の皆さんには、積極的に家の中に眠っている、しばらく使っていないゲーム機があったら出品していただきたいくらいです。
――とはいえ、あまりに人が増えすぎると、イーベイ・ジャパンのサポートにも限界がありそうですね。
林そうですね。eBayには個人から法人まで幅広いセラーさんがいらっしゃるのですが、イーベイ・ジャパンとして、そのすべてを手厚くサポートするには限界があります。ただ、個人セラーさんに対しては日本語の“セラーポータル”というサイトがありまして、
日本のセラーさんを対象に、特別にサポートしているんですね。“セラーポータル”は、情報サイトとして、マーケットリサーチや売上情報などを順次掲載しています。公認コンサルタントのブログなどもあります。その“セラーポータル”が知恵袋的に機能しておりまして、ある程度独学で学ぶことも可能となっています。これは、eBayのひとつの特徴となっているのですが、個人や副業からスタートして、法人化されている方も何名もいらっしゃいます。ゲーム機をてがけていらっしゃる方もいますよ。“セラーポータル”は、eBayのIDがあれば、誰でも参加可能です。
ゲーム関連商品に対する需要が高まる
――eBayでここのところ、ゲーム関連商品が人気とのことですね。
林はい。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、アメリカでも外出を自粛して家にいないといけないとなったときに、ゲーム関連商品の需要が高まりましたね。
――ゲームカテゴリーで人気の商材というのは?
林価格的な兼ね合いもあって、ゲームソフトよりもゲーム機や周辺機器のほうが、取扱い量は多いのですが、中でも人気なのがプレイステーション Vitaです。
――あら、それはちょっと意外ですね。
林プレイステーション Vitaはリージョンフリーなので、どの国のソフトでも遊べますよね。アメリカのゲームユーザーさんが購入されても、比較的気軽にソフトが入手しやすいんです。あと、プレイステーション Vitaは海外ではさほど流通しなかったという事情もあります。それで、比較的在庫がある日本から在庫が少ないアメリカへ……という流れがあるようです。これはeBayの特徴かと思うのですが、アメリカでも潤沢に供給されているようであれば、日本から商品を購入する必要はないわけですが、供給量にギャップがあるので、日本からの商品がよく売れているようです。プレイステーション Vitaは、日米で価格差の大きいゲーム機ですね。eBayだと直近90日で平均販売価格が155ドル(約16510円)ですが、日本国内のフリマアプリでは、8000円前後になっています。梱包して海外に発送したとしても、比較的利益が取りやすい状況にはあると言えると思います。
――そのほか、ゲーム関連商品の販売動向で動きが目立つものは?
林2020年4月~6月の取引数を振り返ってみると、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、当初はゲーム機本体が売れました。ただ、供給が追いつかなくなってくると、つぎは手元にあるゲーム機を複数人で遊びたいというニーズが高まったのか、コントローラも販売数をかなり伸ばしています。
――やはり、総じてゲーム機やコントローラのほうが人気は高いのですね。
林そうですね。コントローラを複数購入されて、ご家族でいっしょにゲームを楽しんでいるという印象ですね。あと、ソフトということでいうと、『あつまれ どうぶつの森』の人気が高かったです。同作は日本独特の世界観だと認識しているのですが、とくに関連商品は人気です。
これは少し蛇足になってしまいますが、ゲーム機やソフトに日本語が書いてあると、海外ではなぜか高く売れたりするみたいなんですよね。海外ユーザーは、「かっこいい」と言って、ひらがなや漢字の記載のあるパッケージに興味を示しますね。eBayの特色として、固定価格でも出品できますし、オークション形式でも販売できるんですね。日本国内のプラットフォームでも固定価格での販売が多くて、オークション形式で販売できるサイトってあまりないのですが、そもそも価格が分からないものに関しては、オークション形式で出品してみて……というのはひとつの選択肢ですね。意外に高い値段が付くこともあるので、個人セラーさんには狙い目かもしれません。
――ちなみに固定とオークションだとどちらの出品が多いのですか?
林比率でいうと圧倒的に固定の方が多いです。ただ、商材にもよるのですが、とくに中古品で相場が分からないものに関しては、相場の価格を理解するためにもオークション形式の出品をおススメしています。まあ、オークションのほうが販売しやすいというのもありますね。
実際のところ、過去にゲームを販売しているセラーさんに話を聞くと、意外なものに高値が付くケースも多いようです。私が子どものころに人気を博したネオジオの『メタルスラッグ』とかは、日本でも高値で取引されているのですが、海外だとさらにすごくて、100万円以上で販売されているようです。
最近だとレトロゲームが増えましたね。eBayの購入者さんって、“コレクター”とか“トレジャーハンター”と呼ばれる方もいらっしゃって、いわゆるお宝を探しにきている方も多いです。日本のファミコンソフトが10万円以上の価格がついて売れることがあったりします。この前も、ファミコンの『パンチアウト!!』が17万円くらいで落札されていました。そういった意味で言うと、eBayがほかのプラットフォームと違うのは、中古のレトロゲームが幅広く出品されていて、それを探しにきている海外のバイヤーさんが多いということです。とくに新型コロナウイルス以降は、そういったゲームを探しに来るバイヤーさんが増えている状況です。
――あら……。秋葉原のレトロゲームショップに海外の方がよくいらっしゃっていましたが、日本に来られないぶん、eBayで購入しているのかしら……。
林そうかしれませんね。
あと、これから年末商戦に向けてのトレンドということでお話をさせていただきますと、中古のゲーム機の中でも状態がいいものなどを出品していただいたりすると、プレゼント需要の一部を取り込めることも考えられます。
これから年末商戦に向けてさらなる盛り上がりが期待できる
――今後のトレンドをどのように分析していますか?
林世界的にどの国でも新商品とかがある程度の量が供給されるようなものになってくると、現地で買えるものをわざわざ日本から買うということにはならないので、何かしら日本から買う付加価値が見つけられるものだと現行品でも売れるとは思います。新しいものに関しては、そのへんも見定めながら出品をしていただいたほうがいいかなと思います。
全体間としては、古いゲーム機も供給量が日本のほうが多くて、日本から出品しやすいのもひとつの付加価値ではありますね。そういった形で、アメリカのマーケットで流通している以上の別の何かがあると、日本から“あえて買おう”という判断になるので、そのへんは国内のモールでの販売とは少し勝手が違うのかなと認識しています。
――たとえばですが、日本で発売されたマニアックなゲームがあるとして、海外の方が知らないよなぁというものでも売れたりするのですか?
林SNSなどで、日本のゲームやアニメの情報を以前よりも簡単に入手できるようになったので、「こういう新しいものが日本で出たから遊んでみたい」「見てみたい」という方もいらっしゃいます。そういうところは、同じ商品を大量に販売するほかのECショッピングモールとは違うところで、eBayにはいろいろな人が利用しているので、すこしニッチなものでも出品すると売れるチャンスがあります。
――SNSなどにより、日本の動向をつかみやすくなっているんですね。
林さらに、時期的なことでお話すると、11月にはeBayでも需要が大きく膨らむ年末商戦の時期、いわゆるブラックフライデーがきます(今年は11月27日)。もしお手元に、おもしろそうな商品がありましたら、9~11月くらいから出品を進めていただけるといいのかなと。日本の年末商戦よりは早いので、そのイメージでeBayに出品していただくと、また新たな発見があるのではないかと、私たちも思っています。ぜひチャレンジしてみてください!
――わかりました(笑)。ちなみにゲーム以外ではどのへんの商材が人気なのですか?
林日本のアニメのフィギュアとかも人気で、『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』などのフィギュアは、年末に向けて販売が期待できそうです。とくに『新世紀エヴァンゲリオン』はアニメの放送から今年で25周年となりますので、いろいろとにぎやかなことになるのかなと。
――『鬼滅の刃』とかはいかがですか?
林アメリカでもアニメは放送されていて、関連グッズも売れてはいます。ただ、日本のような爆発的な人気に追いつくのはもう少し先で、「これから来るだろう」と言われています。いまは、どれくらいの時期にブレイクするかというのを、注視しているところです。
――eBayは、そういったゲームやアニメ、マンガなどのカルチャーの最前線なのかもしれないですね。
林はい。見ているだけでも楽しんでいただけるかもしれません。なにはともあれ、もし、eBayへの出品を検討していらっしゃる方がいらっしゃったら、気軽に試してみてください。
ちなみに……eBayとは?
eBayは、1995年に設立された、世界最大規模のオンラインマーケットプレイス。世界中から1億8200万人ものバイヤーが集まり、取引高は約10.3兆円(2019年度)にも及ぶ。eBayの特色は、固定価格はもちろん、オークション形式でも出品できること。とくに希少な中古品などは、オークション形式で出品されることも多く、高値での取引がニュースで報じられることも多い。
そのeBayの日本法人となるのが、イーベイ・ジャパン。同社は、eBay.comへの出品、いわゆる“越境EC”を希望する“セラー”のサポートをおもな業務としており、法人、個人問わずにコンサルティングや情報提供などの支援を行っている。eBayセラー向けポータルサイト“セラーポータル”も運営している。“越境EC”としては、ゲーム関連商品のほかに、アニメのフィギュアなども人気とのこと。とくに、初回放送から今年で25周年となる『新世紀エヴァンゲリオン』関連消費に注目が集まっている。
なお、そのほかに日本での関連会社として、日本国内向けに展開するインターネット総合ショッピングモール“Qoo10(キューテン)”を運営するeBay Japanがある。
資料2020年4月~6月イーベイ・ジャパン 中古ゲーム機本体、周辺機器販売数ランキング
1位 PS Vita
2位 PSP
3位 ニンテンドーDS Lite
4位 ニンテンドーゲームキューブ コントローラ
5位 ニンテンドウ64
6位 ニンテンドーゲームキューブ
7位 ニンテンドウ64 メモリ拡張パック
8位 スーパーファミコン
9位 Wiiリモコン
10位 スーパーファミコン コントローラー