遥か昔、隋代の“科挙”に始まり、日本の比ではないくらいの過酷さで知られている中国の受験戦争。その後の人生を決めてしまう一発勝負の全国統一試験に向けて、中国の人々は生まれた時から戦いが始まっているのです……。そんな中国のお受験事情やお国柄を、おもしろおかしく描いた中国式子育てゲーム『Chinese Parents(チャイニーズペアレンツ)』がNintendo Switchでリリースされました。1周は3~4時間でサクッと終わるのに、ついつい何周も遊んでしまう。不思議な魅力を放つ本作のレビューをお届けします。

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 『Chinese Parents(チャイニーズペアレンツ)』は、中国の墨鱼玩游戏(Moyuwan Games)が開発、PLAYISMから2020年8月20日に配信されたNintendo Switch用の育成シミュレーションです(PC版は2018年9月29日に配信)。プレイヤーは中国の家庭に生まれた子どもとなり、両親の期待に応えながら来たるべき大学受験に向けてスキルを習得。自分が目指す職業に就くため、赤ん坊から大学受験の期間まで奮闘することになります。

 中国の受験事情を疑似的に体感できる楽しさはもちろんのこと、子育ての難しさを実感させるようなランダム性を持った能力の獲得。成長するうえで起こるさまざまなイベントなど、育成シミュレーションとしての遊び応えもたっぷり! 1世代ごとのプレイは短めながら、気がつくと何回も繰り返し遊んでしまう中毒性の高いゲームとなっています。

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揺りかごから受験まで! 人生は幼少期から差がつく!!

 ニュースなどでも、たまに目に飛び込んでくる中国のお受験事情。とにかく苛烈で、日本の一般的な大学受験よりもきびしい(そもそも向こうのほうが人口も多い)と言われていますが、それを実感できるのが本作です。とはいえ、テーマこそ“受験”ですがそこまで真面目でお堅いゲームではありません。むしろ、中国の“あるあるネタ”がふんだんに詰め込まれたブラックユーモア満載のゲームで、遊んでいて笑っちゃう場面のほうが多いかも。受験戦争をユーモラスに描いているので、日本の大人や学生でも共感できるところがあるんですよ。おそらく、学生の目線で遊ぶと共感しつつも親の苦労がわかり、親の目線で遊ぶと子育てのたいへんさに共感できるような内容です。自分は子どもがいないので想像でしかないのですが、クリアーした後は自分を育ててくれた両親に対して、改めて感謝の気持ちが湧きました。

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 というわけで、さっそく始めていきましょう。このゲームは、ターン制で進行する育成シミュレーション。アイテムの購入やデートなどでは時間が進まず、学習の予定を組み立てて実行すると1ターンが経過する仕組みになっています。47ターン目の大学受験が来ると、泣いても笑ってもエンディングに。それまでにパラメータを上げてスキルを獲得し、難関中学の受験や超有名高校への受験を成功させたり、自分が目指す職業にあった才能を伸ばしていかなければなりません。

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 最初の数ターンは生まれたばかりなので、当然ながら赤ん坊の状態からスタート。両親の期待を一身に背負い、無垢な赤ん坊として生まれたプレイヤーが最初にするべきことは、行動力を消費して能力の元となる“カケラ”を吸収すること。カケラはパズルゲームのような画面に配置されていますが、ほとんどが隠された状態になっています。選んだカケラの周囲だけが表示されていくので、なるべく多くのカケラが表示される場所を選びつつ、欲しい能力に応じたカケラを手に入れていきましょう。このカケラ選びこそがプレイヤーの人生を決めるといっても過言ではありません。だから、適当に選ぶのはNG。限られた行動力のなかで、IQや想像力などの能力を伸ばしていかなければなりません。思うようなカケラが出ず、理想的なパラメータに育たなくてなりたい職業に就けないことも多いのですが、それもまた人生。俺も大学教授になれる数学の才能が欲しかったよ……!

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 カケラを入手してパラメータや理解力を伸ばすと、新たなスキルを習得できるようになります。スキルは理解力を消費すると習得できるのですが、体力やEQといったパラメータが高いほど覚えやすくなるので序盤は理解力のカケラを取る必要はありません。まずは自分の能力を上げることが先決。能力が低ければ、たとえ理解力が高くても勉強は身につかないのです。う~ん、いや~なリアルだ……!

 さらに、特定のパラメータを上げて親の期待に応えるとボーナスもゲットできます。赤ん坊のうちは“歩く”や“話す”といった基礎的な学習をしているだけで褒められますし、親の期待に応えるのもカンタン。ですが、成長するにつれて親の期待は重くのしかかり、求められる技術や知識もどんどん複雑に……。こういうところもやけに現実的です。楽しいけど、何かつらいぞこのゲーム!

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 しかしながら、無垢な赤子の時代はあっという間に過ぎ去ってしまいます。幼稚園に入ると受験の影が忍び寄り、何も考えずに生きられた時代は終わりを告げるのです。ここからは、自分の“ストレス”と親の“満足度”を調整して生き抜いていく日々がスタート。幼稚園児といえども容赦はしてくれず、最初の課題である小学校受験がのしかかってきます。ああ、あの無垢な日々に帰りたい。

 もちろん、名門小学校に合格するためには毎日学習して知識を蓄えなければなりません。とはいえ、学習するとストレスがたまってしまいます。だって、まだ子どもなんだもん。ストレスがたまりすぎると精神疾患をわずらってパラメータが一気に下がり、トラウマ領域の数値も上昇。トラウマ領域が100に達するとバッドエンドになってしまうので、たまり過ぎないように調整する必要があります。中国の子ども、大変だな……。というわけで、親におねだりして娯楽用品を買ってもらい、スケジュールに組み込んでストレスを発散しましょう。

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高いものほど要求が難しくなってきます。幼稚園児なのに、やたらと世知辛い。しかし、それは立派な大人になるための試練です。

 だがしかし! ストレスが溜まるからといって、遊んでばかりはいられません。娯楽の予定を組み過ぎると、今度は親の満足度が低下。満足度が下がりすぎると叱られてトラウマ領域が上がり……やっぱりろくでもないことに! 悲惨な未来を迎えないためにも、親の期待に応えつつ適度に息抜きしていきましょう。人間、結局はバランスが肝心なのね。幼稚園から世間のたいへんさを叩き込まれる中国の子どもたちに同情しつつも、なんだか共感できちゃいます。

 ちなみに、娯楽を要求するときにも必要な数値があります。それは“メンツ”。このゲームでは一定の周期で、近所のオバサンや親戚とお互いの子どもを自慢し合う“メンツバトル”が発生します。メンツバトルで親のメンツを守るとメンツの数値が増え、より贅沢な物を要求できるようになるのです。メンツバトルに備えて得意な学習をくり返し、他人に自慢するときの手札になるような特技を確保しておきましょう。うん。なんなんだ、このゲーム。

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子どもを自慢してマウントを取り合うミニゲーム「メンツバトル」は定期的に発生。相手もたいしたことがない中流家庭ばかりなので、低レベルな自慢合戦になることも。

恋も勉強もうまくいくとは限らない思春期……

 幼稚園を卒業して小学校に入ると、おこづかいがもらえるようになります。ここからは、娯楽品を自分で買うことも大切。お手伝いをしておこづかいを稼ぎ、親のためにプレゼントを買ってご機嫌を取るのも利口な子どもの生きかたです。ああ、世知辛さがさらにアップ! 5教科のテストが始まるので、自分の得意な分野とそうでない分野もわかってきます。

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テストで良い点数をとらないと親にメチャメチャ叱られます。満遍なく勉強して、すべてのテストで高得点を取るのは至難の業。みんな、いつ勉強してるの!? いつ寝てるの!? 
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おこづかいは少なく、高価な最新ゲーム機は欲しくても買えません。そんなとき、目に入ってしまうのが安い海賊版。少ないおこづかいでも買える海賊版は、思わず手を出したくなるかもしれません。海外で海賊版が蔓延する事情がなんとなく分かる気も……。もちろん、リアルで海賊版を買うのは駄目ですよ! 

 足の引っ張り合いをする学級委員長選挙を体験し、急激に増えた科目に勉強が追い付かなくなり……なんだか、自分の過去を見ているようで涙が出てきたぞ!? 集団生活のきびしさを学びつつ、やがてくる中学校での生活に胸を躍らせる日々。ああ、もう一度学生時代をやり直したいな~。自分もスキルを獲得し直したい。

 小学校に入るとお金の概念が出てくるので、正月には親戚からお年玉がもらえます。間違えました。もらえる“ことも”あります。お年玉は確実にもらえるわけではないのです。ここでぶち込まれる中国特有の文化。お年玉をあげようとする大人と、遠慮する子どもどうしの駆け引きを再現したミニゲームが始まります。

 欲を出して最初からもらおうとすると没収され、逆に遠慮し過ぎても相手がお年玉をくれなくなってしまいます。ゲージが真ん中に留まるように調整しつつ、相手の顔を立てながら遠慮がちにお年玉をもらいましょう。日本人からするとなんだこりゃ……と思うかもしれませんが、これも向こうの人からすると“あるある”らしいです。文化の違いを感じておもしろいけど、やっぱりなんなんだこのゲーム(2回目)。

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遠慮し過ぎてもいけないし、がっつきすぎてもいけない。ちょうど良いタイミングでお年玉をもらいましょう。

 小学生時代はあっという間に過ぎて中学校に進学。思春期になると、明確に男女を意識するようになります。子どもたちも恋の季節。中学時代では、好きな人と交流して好感度を高める恋愛シミュレーションのようなシステムが追加されます。

 そして、ここからが本作のおもしろいところ。なんと、この好感度を上げるシステム。主人公の性別が男か女かでシステム自体が異なるのです。女性の場合は、同性の友だちや意中の相手といっしょに帰って友情を深めるか、休日にお誘いを受けて絆を深めることができます。

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 思春期の女性は、同性との付き合いも異性との付き合いもうまくこなす。同世代の男子よりも大人の付き合いができちゃうんですね~。一方、男性のほうはいっしょに同性と帰ったりしません。友情になど興味なし! ある意味ストレートで欲望に忠実過ぎる。

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 男子はデートに誘うほうなので、行動力を消費するのはもちろん、選択肢によってはプレゼントもしなければなりません。出費が……出費がかさむ! 正しい選択肢がわかりにくく、デートに関しては男性のほうがちょっと難易度高めかも。ですが、将来の伴侶と結ばれるためには学生時代からの努力が不可欠なのです! なんなんだこのゲーム(3回目)。

果たせなかった夢は子どもに託せ!

 高校を卒業して残りターンも0。そうなれば、いよいよ大学入試です。泣いても笑っても、ここで人生が決まります。もしかしたら、なりたい職業への適性がなくて違う能力ばかり延びているかもしれません。それでも、運命の日はやってくるのです。

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 大学入試の結果をもらうとエンディングへ。自分が取得してきたスキルによってその後の職業が決まります。しかし! 受験は終わっても人生は終わりません。むしろ、ここからが本番。好感度の高かった相手にプロポーズして成功すれば、能力ボーナスを受け継いだ次世代が誕生し、ゲームはつぎの世代へと引き継がれます。

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 そうなんです。このゲームは子どもをひとりだけ育成するタイプの作品じゃないのです。親の屍を越えて世代を紡いでゆくタイプの家系図作成シミュレーションでもあるんですよ。たとえ、満足いかない結果だとしても、それならつぎの世代に託せばいいのです。世代を超えてセレブ入りを果たせ!

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 そうやって延々と子育てをくり返し、いつか子どもを一流の大学、一流の人間に育てる! そんな人の営みと想いが受け継がれていくゲームでもあります。イベントや友だちの見た目といったバリエーションはあまりないのですが、このくり返しのサイクルがハマっちゃうんですよね。

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 あの時は失敗したから、今度は優先してあのパラメータを上げよう。あの子じゃなくて、違う子とデートしてイベントを見よう。いっそのこと受験は諦めて芸術的な分野を伸ばそう。どんな風に育てるのも、育つのもプレイヤーしだい。何が正しい人生なのかなんて、誰にもわかりません。失敗したってそれもまた人生。せっかくゲームで何度でもやり直せるのです。好きなように生きてみましょう。

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 お堅いゲームでもなく、どこか自分たちの受験事情を自虐的なギャグとして描いている本作は、日本で受験戦争を経験してきた自分たちにも刺さるところがあると思います。中国の受験事情という異文化をおもしろおかしく描くだけでなく、育成シミュレーションとして純粋に楽しいのも好きなところ。空いた時間にサクッと楽しめるので、たまには子育てに夢中になってみるのもいいですよ。

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