『薄明の翼』は、2020年1月からYouTubeのポケモン公式チャンネルで公開されているWEBアニメ作品(全7話のうち、2020年8月5日時点では第6話まで公開中)。

 Nintendo Switchソフト『ポケットモンスター ソード・シールド』と同じガラル地方を舞台とした物語が展開する同作だが、放送中のテレビアニメ新シリーズ『ポケットモンスター』とは別に、ゲームの登場人物たちに寄り添った作品が作られるということで、発表時から大きな話題になっている。

 アニメーション制作は、劇場映画『ペンギン・ハイウェイ』を筆頭に、温もりのある親しみやすいビジュアルとダイナミックな映像演出を得意とするスタジオコロリドが担当。ゲームを遊んでいる人はもちろん、ポケモンファンでない人にも楽しめるような作品を目指したという。

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 そんな『薄明の翼』の最終話となる第7話「空」が、いよいよ2020年8月6日22時より公開される。そこで、本作の企画・プロデュースを担当したポケモンの古家嘉之氏へのインタビュー取材を実施。その企画意図やこだわり、そして最終話の見どころについて語ってもらった。

古家嘉之(こいえ よしゆき)

株式会社ポケモン宣伝企画部。『薄明の翼』では企画・プロデュースを担当。文中では古家。

多くの視聴者を魅了した作品の舞台裏

【ポケモンアニメ】『薄明の翼』最終話公開直前インタビュー。作品へのこだわりやラストエピソードの見どころについて企画・プロデュース担当に聞く_08
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――『薄明の翼』はどのような層をターゲットにされていたのですか。

古家企画の段階から、ポケモンファンだけでなく、幅広い層に見てもらいたいと考えていました。作品のタイトルを『ポケットモンスター 薄明の翼』ではなく『薄明の翼』としたり、メインビジュアルにポケモンを描いていなかったりするのは、そのための工夫なんです。

――確かに、最初にビジュアルやタイトルを見たときには「なんだろう?」という驚きがありました。

古家『薄明の翼』は大人にも楽しんでもらえるように意識して作っていますので、そうした先入観がない状態で見てもらいたかったんです。

――動画の公開時間も夜22時と大人向けの時間設定ですね。

古家ええ。ですが、もちろん大人だけでなくお子さんが見ても楽しめるものになっています。たとえば、子どもの目線からはシンプルでわかりやすいストーリーになっていますが、大人の目線で見るとセリフの裏側に隠されたキャラクターの細かな心情が想像できる、というような作りになっていたりとか。この多重的な構造にはかなりこだわっていて、脚本会議でも山下清悟監督や脚本家の木下爽さんを筆頭に、スタッフのみなさんと入念に話しあいを重ねました。

――確かに、本筋のストーリーはシンプルですが、「これってこういうことなのかな?」と想像できる余地がいくつも散りばめられている印象です。

古家もともと動画の尺が短いので、すべてを丁寧に説明することはできないんですよね。ですが、その尺の短さゆえに“くり返し何度も見られる”というYouTubeの特性とうまく合致させられたと思います。実際、多くの視聴者さんが何度も動画を見直してさまざまな考察をしてくれていたようです。

【ポケモンアニメ】『薄明の翼』最終話公開直前インタビュー。作品へのこだわりやラストエピソードの見どころについて企画・プロデュース担当に聞く_10
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――そのほか、企画段階からこだわっていたポイントはありますか。

古家企画のテーマである“人間ドラマを見せる”ことにとにかくこだわっていましたね。ポケモンが当たり前に存在している世界ですが、そこに住む人々は私たちとまったくおなじ人間です。その彼らにフォーカスして物語を作ることで、より幅広い人たちの共感を得られると考えたのです。また、原作の『ポケモン ソード・シールド』に登場する人物たちがかなり魅力的なので、それを存分に表現したいと思っていました。そこに、山下監督や木下さんのアイデアを盛り込んでストーリーを作っていきました。

――視聴していても、随所から作り手の愛が感じられます。ちなみに、山下監督やスタジオコロリドを起用した理由は何だったのでしょうか。

古家スタジオコロリドさんの親しみやすい絵柄や現代的なカメラワークなどに惚れこんでおりまして、ぜひ制作をお願いしたいと思っていたんです。『ペンギン・ハイウェイ』では人間と動物の関係を素敵に描かれていたので、きっと本作でも人間とポケモンを魅力的に見せてくれるだろうと容易にイメージできました。

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――ポケモンのアニメーション作品はこれまでにもテレビアニメや劇場版シリーズが枚挙にいとまがないほど作られていますが、本シリーズは一目でそれらとはまったく別のものなのだとひと目で認識できる個性があります。

古家これまでの作品との差別化はかなり意識をして作っていますが、実際にそう認識していただけるのは山下監督のレイアウトやカメラワークが素晴らしいからだと思います。

――ちなみに、制作はどういったスケジュールで行なわれていたのですか。

古家毎回月の中旬くらいに動画を公開していますが、だいたいその前月末に完成するくらいのスケジュール感でした。ただ、本シリーズは全世界でローカライズ版を同時公開しているので、そこからローカライズの作業が行われることになります。そこだけはすこしタイトなスケジュールでしたね(笑)。

――これまでを振り返って、いちばんたいへんだったのはどのあたりだったのでしょう?

古家これは制作に携わった方々の役割によって異なると思いますが、自分としてはどのキャラクターでどういうストーリーを作るのかというのを考えるのがたいへんでした。魅力的な登場人物たちがたくさんいる中で、ゲームとはまた違った彼らの魅力が見せられるようなストーリーにしたかったので、ここは悩みましたね。脚本の制作段階ではかなり密にやりとりをした覚えがあります。ただ、そこでしっかりとコンセプトを共有できていたおかげで、絵コンテ以降の作業ではほとんど修正もなく、とてもスムーズに進行できました。

――第1話が公開されたときはどのようなお気持ちでしたか。

古家公開されてすぐにSNSなどをエゴサーチしたんですけど(笑)、とても追いかけきれないくらいたくさんのコメントが流れていて。どれも好意的なコメントばかりだったので本当に嬉しかったです。感触としてはゲームをプレイしている人の反応が圧倒的に多かったのですが、中には「『薄明の翼』を見て『ポケモン ソード・シールド』の購入を決めた」といった内容のコメントもいくつか見られたのでよかったな、と感じています。

――本当にすごい盛り上がりでしたし、好意的なコメントが多かったですよね。

古家物語の内容に関する考察をしてくださる方が最初から大勢いて、それも印象的でしたね。まさにそういった考察をしてほしくて作っている部分もありましたので。『薄明の翼』というタイトル名も、どういう意味なのか考えてほしくて付けたんですよ。“薄明”ってあまり聞きなれない言葉ですし、“薄”はなんとなくネガティブなイメージですが、“明”とか“翼”はポジティブなイメージがありますよね。そういう言葉の意味も探ってほしいと思ったんです。個人的には、英語にすると“Twilight Wings”ですごく美しい響きになるところも気に入っています(笑)。

――ストーリーやキャラクターの背景に関する考察は、『薄明の翼』の楽しみかたのひとつになっていますよね。

古家そうですね。それもあってか本当に皆さん勘が鋭くて、こちら側で仕込んだネタはことごとく見つけられています。中には、意図していない部分について詳しく考察されているものもあって、それはそれで興味深く見させてもらっています(笑)。

――意図していないものまで(笑)。でも、そうやって想像を自由にめぐらせたり、それを聞いたりするのが楽しいんですよね。

古家それに、山下監督もおっしゃっていたのですが、制作中は無意識に描いたものが、後で振り返るとそのシーンでのキャラクターの心情を暗喩的に表現していたり、重要な意味を持ってたりすることがあると。そう考えると、作り手が意図していなかったとしても、もしかしたら正しい考察である可能性もあるんですよ。なので、皆さんどんどん自分なりに考察してみてほしいです。

最終話ではバトルシーンに注目! 毎回登場する“あの人物”の素顔も初公開!?

――現在は第6話までが公開されていますが、個人的にお気に入りのシーンを教えてください。

古家ぜんぶです! ……というのが正直なところなのですが、敢えて選ぶとすると第4話“夕波”でルリナがミロカロスといっしょに海を泳いでいるシーンがとくに気に入っています。あそこはセリフがなくて、映像と音楽のみでルリナの感情を表しているんですよ。だから台本上はほぼ何も書かれていなくて、山下監督に完全にお任せしていたのですが、映像ですべてを物語る素晴らしいシーンに仕上げていただけました。

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――確かにあのシーンは映像も本当に綺麗で、つい見入ってしまいました。

古家あとは、シリーズ全体をとおして第1話のタイトルにもなっているジョンの手紙がいろいろなところへ渡っていくので、それを追いかけてもらいたいですね。また、毎回その話のメインキャラクターから見たダンデの姿が描かれています。それを改めて見直してから最終話を見ると、より楽しんでもらえると思います。

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――ジョンの手紙の行方は、エピソードを見直すと存在感が際立ってきますよね。8月6日には『薄明の翼』の最終話が公開されますが、ずばり見どころはどこでしょうか。

古家すごく胸が熱くなるシーンが何か所もあります。このお話を単体で見てもおもしろいエピソードになっているのですが、やはりこれまでのお話を見直してから見ていただきたいですね。それから、これまではバトルシーンがしっかりと描かれてこなかったのですが、最終話ではダンデがガッツリとバトルをしているシーンがあります。山下監督の真骨頂とも言えるカメラワークが存分に発揮されていますので、ぜひ楽しみにしていてください。

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――おおー! ついにバトルシーンが見られるんですね。楽しみです!

古家それと、じつは裏の主人公のように全話に登場しているタクシー運転手の素顔がチラッと見えるという小ネタが仕込まれています(笑)。ゲーム内でも素顔は見えないので、本作オリジナルの描き起こしなんです。

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――貴重なタクシー運転手の素顔まで! これはまた何度もくり返し見ることになりそうです。

古家最終話は8月6日22時にプレミア公開(※)いたしますので、皆さんいっしょにコミュニケーションを取りながら楽しんでいただきたいと思います。もちろん、プレミア公開後は通常の動画とおなじようにくり返し再生いただけますので、気になった部分を見直してみてくださいね。

※プレミア公開……あらかじめ設定された公開時間に集まった視聴者たちと投稿者が同時に動画を楽しめる機能。テレビの地上波放送のようにリアルタイムで同じ場面が観られるので、より臨場感が高くなる。

古家また、全話をとおして音にもかなりこだわって作っています。もちろんスマートフォンなどで見ていただいても楽しめますが、大きなモニターといい音響設備を用意して見ていただくとまた違った体験ができるはずです。環境が用意できる方はぜひ試してみてください。

――最終話が楽しみな反面、あと1話で終わってしまうことを残念がる声も非常に多く聞かれます。『薄明の翼』の続編や今後新作ゲームが発売された際に、またWEBアニメが制作される可能性はありますか。

古家そうしたお声をいただけて、本当に光栄です。こうした形式のWEBアニメ自体はできれば今後も作っていきたいです。まだお約束はできないのですが、実現できるように皆さんの応援をいただければ幸いです。


ファミ通ドットコムでは最終話公開後にアンケート企画を実施!

 文中でも触れたように第1話から第6話まで素晴らしいクオリティーのエピソードの連発で、大盛り上がりの中で最終話を迎える『薄明の翼』。ファミ通ドットコムでは、そんな作品のフィナーレに合わせて、熱いファンの皆様の声をお聞きするアンケート企画を実施します。

 アンケート企画では、『薄明の翼』でいちばん好きなエピソードや登場人物について、お聞きする予定です。記事は2020年8月6日に公開いたしますので、奮ってご参加ください!

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 なお、ポケットモンスター公式サイトの『薄明の翼』ページでは本作に関わったクリエイターへのインタビュー企画が掲載されている。最終話の公開前にはこちらをチェックしてみると、より深く作品を堪能できるかも!?

『薄明の翼』制作陣インタビューページはこちら