2023年5月11日、VTuberグループ“ホロライブプロダクション”を運営するカバーは、都内某所に新スタジオを設立した。
新スタジオは、企業ミッションである“つくろう。世界が愛するカルチャーを。”に思いを込めて設計されたもので、約1年半を費やし、総工費27億円を投資して設立された場所だ。
最新鋭のモーションキャプチャー設備を構えるほか、レコーディング設備も併設。従来のコンテンツの開発スピードや制作自由度を向上させるだけでなく、より緻密な表現によって高品質なコンテンツの制作を可能にするという。
ファミ通.comはそんな新スタジオを紹介するメディアツアーに参加。モーションキャプチャースタジオからレコーディングスタジオなど、1フロアですべてのコンテンツを生み出す内部の様子を写真とともにお届けする。
【ホロライブ】カバーの新スタジオを取材! 最新鋭のモーションキャプチャースタジオやホロライブメンバーによるサインエリアまで公開
ラプラスさんのショートで見た壁画は想像以上にすごかった。その全貌に刮目せよ
エントランスに入ると、カバーのロゴと4枚のモニターがお出迎え。モニターにはホロライブオルタナティブのトレーラーなどが映し出されていた。
内装は基本的に明るい色合いが使用されており、落ち着いた雰囲気。内装は担当者が決め、1年半かけて作られたという。
スタジオは主にモーションキャプチャースタジオ4つ、クロマキースタジオひとつ、レコーディングスタジオふたつで構成されており、それらに繋がる1本の通路は体感で約100mほど。スタッフも移動するのがひと苦労なため、「移動用にセグウェイか宇宙を移動するリフトグリップが欲しい」という声もあるとのこと。
また、すべての部屋は2重扉を採用。大きな声で配信やライブをしていても基本的にどの部屋からも音は漏れないようになっている。
そしてホロライブリスナーなら見たことがある人が多いかと思うが、一部の壁にはホロライブメンバーのサインやイラストが描かれていた。現在は、このスタジオに訪れたことのあるタレントが自由に描いているようで、JPメンバーをはじめ、ホロライブインドネシアのクレイジー・オリ―さん、ホロライブEnglishのIRySさんなど海外タレントのサインも。
中でも印象的だったのは、宝鐘マリンさんのイラスト。よーくイラストを見てみるとうっすらと下書き線も描かれており、かなり本気で描いていることが分かる。白上フブキさんの一発描きイラストは目を見張る大きさ。スタッフさんは「そんな大きく描かないでしょ」と油断していたらこんなことになってしまったらしい。
この壁はライブハウスのような壁を想定しており、タレントやゲストなどのサインやイラストがこれからも増えていくようだ。10数名でもうすでに埋まってきているが……。
27億円かけてつくった事務所のスタジオに落書きしてみたWWW
新スタジオで最大の広さを誇るモーションキャプチャースタジオ。950万円のカメラ×100台が配置された最強のお部屋
まず案内されたのは、新スタジオ内のモーションキャプチャースタジオ4つのうち最大の広さを誇るスタジオA。モーションキャプチャー範囲は横幅が約23m、奥行きは14mで、大手ライブハウス“Zepp〇〇”のステージのステージと同じくらいの大きさとなっている。
肝となるモーションキャプチャーカメラは、VICON最新モデルの“VALKYRIE VK26”(1台約950万円)が100台配置。日本国内で“VALKYRIE”をここまで配置したのは最多数とのことで、この部屋だけで約10億円となる。
機材導入にはさまざまなサポートを行っているクレッセントが協力しており、これだけの台数を見て、とてもウキウキで組み立て作業をしていたとのこと。
これまで以上に映像のカクツキを抑制。より滑らかな動作データを取得できるようになっている。
なお、赤外線の照射精度がアップしているため、これまでよりも台数が少なくなっているらしい。測定の範囲も広がり、部屋の隅でも動きを捉えられるとのこと。ステージが広くなったことで、スタジオA内に複数のステージを設営でき、映像上ではふたつのステージの瞬間的な切り替えも可能。
このスタジオAは大きなライブイベントや公式番組収録での利用を想定しているとのこと。基本的には12名までのモーション稼働を前提としているが、事前に行った検証では23名を映し出すことに成功している。
現時点では、ときのそらさん、沙花叉クロヱさんのライブがAとは別のスタジオで実施されている。ステージが大きくなったことで、水を取りに行く際にかなりの距離を移動しないといけなかったりと、より本物のライブ感もアップしていように感じた。
ちなみに、担当者のこだわりポイントは"柱を置かないこと"。柱があると演者の動きが制限されるため、スタジオAのような広い場所でも柱は見当たらなかった。
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配信を裏で支えるコントロールルーム
裏で配信を支えるコントロールルームは各スタジオに併設。最新のスイッチャーシステム“KAIROS”を導入している。
PC本体は見当たらず、モニターなど必要な機材のみで構成されている。PCなどはほかの部屋にまとめられているようだ。
カメラの台数などもよるが、この部屋ではだいたい15人ほどのスタッフが稼働するという。
プロも唸るガチガチのレコーディングスタジオ。「そこまでする!?」と声が漏れるほどのこだわり
お次は楽曲やボイスの収録が行われるレコーディングスタジオ。今後はここでボイスの収録などが行われるようだ。
レコーディングスタジオはAとBの2種類があり、それぞれウッドカラーと青を基調とした部屋となっている。音のなりや機材は変わらないので、その時の気分で部屋を変えられるようだ。
入ってみて気づいたのは、エンジニアの作業スペースと音声収録部屋がガラスで仕切られていうわけではなく、完全に分かれている点。通常のレコーディングスタジオは、モニタリングする部屋と音声を収録する部屋はガラス越しに見えるようになっていることが多いのだ。これもVTuberの特性からくるものだろう。
レコーディングスタジオに入ると、音の聞こえ方に違和感があった。壁の吸音性能が非常に高く、近くのスタジオで大きな音や大声を出しても収録の妨げにならないようになっているようだ。実際に2重の扉を閉め、レコーディングスタジオ内で大声を発生してみたのだが、本当になにも聞こえないほど。
音を遮断する扉もかなり重く、成人男性でも開けるときにグッと力を入れる必要があるほど。小柄なタレントは扉を引こうとすると、逆に引っ張られることもあるとか……。ほかの地上が滅んでも、この部屋だけは残りそうな部屋となっていた。
この部屋は構造自体が特殊らしい。施工時には床を40cm下げ、ゴム床を貼ってからコンクリートを流し込んでいる。音を反響させすぎず防音しすぎない、エンジニアが作業しやすい環境を構築しているそうだ。エンジニアがここにくればすべて完結してしまうほどの部屋と言っても過言ではない。
機材もこだわりがあり、エンジニアが「これあるのか!」と驚くものを多く完備。バイノーラルステレオマイク"KU100"なども備えており、ASMRの収録も可能だ。
ちなみに、天音かなたさんの格付け配信で登場した80万円のマイクはこのスタジオのものだという(撮影場所は別)。
【VTuber】ホロライブ格付けスペシャル!!天音かなた爆誕記念
また、一見ただの装飾かと思っていた木のパーツ(下記画像)。これは音の反射をコントロールできるギミックで、動かすと音の聞こえ方が変わるのだそうだ。音のプロたちが少しでも作業しやすいように、細心の注意が払われている。
前述した遮音性能のほか、エアコンの配置にも気が配られており、環境音はまったく気にならない。部屋の上部は空間が空いていて、ダクトでつながった小部屋にエアコンがセットされている。「ASMRをしているとエアコンの音が気になる」といったタレントにもうれしい設計となっている。
タレントを第一に考えた控室と更衣室
各スタジオには控室と更衣室がセットで配置されている。スタジオと直接つながっているので移動時間も短縮される。
更衣室はかなりの広さがあり、ブランケットやウォーターサーバー、ヘアアイロンなどが常備されている。アメニティが充実しており、実際に訪れたゲストもかなり感動されていたという話も。
ときのそらさんや白上フブキさんは過去の配信にて、デビューしたときは控室がかなり狭かったと語っていたが、当時の控室と比べてもかなり大きくなっているようだ。
目がバグるクロマキースタジオは、どこを見ても緑一色なインパクト抜群な部屋
入ると目の前が緑でいっぱいになるクロマキースタジオ。壁と床が緑色のクロマキーのカーテンで覆われており、どこから撮影しても対応できるようになっている。
天井は通常の色だが、ほかの壁が緑一色のため、緑に見えてしまうほどだった。初見だと目がバグる。
ところで、ここまで広くする必要はあるのだろうか。疑問に思って質問したところ、「なんとなく」というまさかの答えが返ってきた。もちろん、この広さだからこそ、人数や機材を増やせるという利点もある。広さを活かして、半分を撮影に使い、半分に機材を置くといった使い方も可能。
用途は幅広く、実況ブースを配置してモーションキャプチャースタジオの映像と合成したり、撮影した実写タレントのデータをバーチャル空間に転送することも可能。いままでは実写タレントとのコラボは難しかったが、この部屋によってより簡単になるという。
現在はさまざまな企画を検討中とのこと。クロマキースタジオで生バンドに演奏してもらい、その前でVTuberが歌うARライブも実現できるとのことなので、この部屋を活用した今後のライブや企画配信に注目したい。
物理的な配慮も万全だ。床下は約40cm空いていて、ジャンプしても隣りのスタジオに響かない作りになっている。また、マイクの電波などが飛び交うので、電波遮断のカーテンや壁が全部屋に貼られており、部屋全体が見えないフィールドに包まれている。実際、このスタジオ内は携帯電話の電波も少し届きづらくなっていた。
まさに国内最大級のスタジオ。驚きっぱなしの1フロア
そのほかタレントやスタッフが休憩したりサインを書いたりするスペースやサーバールーム、音響機材置き場など、ホロライブプロダクションのコンテンツ制作を支える設備がすべて備わっていた。
すべて1フロアにあると、音や機材関係でさまざまな問題が起こるのではと思っていたが、さすがはカバー。すべてを配慮し、かつこれまでかとこだわり抜かれたスタジオとなっていた。
このスタジオを見ると「VTuberであんなことやってくれないかな」という妄想が簡単に実現してしまうと思えるほど。まだ、スタジオは設立されたばかりで、完全には移行していないようなので、このスタジオを使った今後のコンテンツ制作に期待したい。