BitSummit初のオンラインイベントとして、2020年6月27日~28日の両日に開催された、BitSummit Gaiden。新型コロナウイルスの影響により、開催延期となってしまったBitSummit The 8th Bitの代替として、会場に出展できなかった開発者のゲームを、オンラインを通して国内外に発信することを目的として実施された同イベントでは、通常のステージイベントをライブストリーミングに、開発者のブースをチャットアプリ“Discord”での交流に、さらにはゲームの試遊をUtomikでのプレイにと、さまざまな趣向を凝らして行われた。

 3月にBitSummit The 8th Bitの見送りが検討されてから3ヵ月あまりで、開催にこぎつけた主催者の尽力には並々ならぬものがあると思われるが、イベントを終えてみての感触はどうだったのか? ファミ通.comでは、一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会(JIGA)に「主催者としてのコメントを……」とお願いしたところ、コアメンバーの4名から、しっかりとしたお返事をいただいてしまった。以下、4名からのコメントをインタビュー形式にして合体してお届けする。

 なお、今回のコメントに合わせて、BitSummit Gaidenの集客状況の速報が公開されているので、以下に紹介しよう。

【BitSummit Gaiden Discord会場】
来場者数:3012人(現在3087人)

【BitSummit Gaiden公式放送】
3つの公式番組と12の公式メディア番組
視聴合計:15万7538再生

【BitSummit Gaiden Utomik対応状況】
78タイトルのDiscord出展中、57本がUtomikに対応

富永彰一氏

日本インディペンデント・ゲーム協会 (JIGA) 理事長
キュー・ゲームス クリエイティブディレクター

小清水史氏

日本インディペンデント・ゲーム協会 (JIGA) 副理事長
ピグミースタジオ 代表取締役

村上雅彦氏

日本インディペンデント・ゲーム協会 (JIGA) 理事
スケルトンクルースタジオ 代表取締役

ジョン・デイビス氏

日本インディペンデント・ゲーム協会 (JIGA) 理事
BlackSheep Consulting

BitSummitらしさを残したまま、オンラインでイベントを開催することを目標に

――BitSummit The 8th Bitの中止を受けて、実施されたBitSummit Gaidenですが、そのコンセプトを教えてください。もっとも注力していたポイントは?

富永BitSummitは、クリエイターありきのイベントです。なので、Discordのチャンネルを会場出展ブースと見立てて、いつものBitSummit同様に、各クリエイターさんがどれだけ自分でお客さんにアピールできる場にできるかがポイントでした。

小清水BitSummit Gaidenは初めての試みですので、分かりにくい方も多かったかもしれませんが、これはインディーゲームの放送企画ではなく、オンラインで仮想的にゲーム展示を行うイベントの企画なんですね。本当はリアル会場で行えるのがベストだったのですが、今年は新型コロナウイルスの影響でそれが叶いませんでした。我々は急遽3月に企画を始め、なんとか実現に至ったのですが、これはとんでもないチャレンジで!

 まず、BitSummit会場に入るのにDiscordというアカウントを作らなければいけないということだけでも大変なのに、さらに脳内補完でみやこめっせ会場を歩き回るのと同じような感覚でテキストで並んだブース(チャンネル)に入りイメージを膨らませなければいけないのですが、ブースを訪れ、ゲームをして、クリエイターと話し、楽しむということをオンラインで実現するのはそんなに簡単ではありません。しかし、UtomikでゲームがPCで遊べるようになり、Go Liveでクリエイターとビデオ通話できる環境を作ることができたについては、よく短期間で実現できたなと思っています。

村上集団で集まってイベントを開催する事が難しい状況下で、BitSummitらしさを残したまま、オンラインでイベントを開催するということに注力していました。

ジョンコンセプトは、通常のイベントを可能な限り再現しようというものでした。これは、ゲーマーと開発者を結びつけ、ほかの人のプレイを見るだけではなく、週末にみんなでゲームをプレイできるようにすることを意味していました。DiscordとUtomikは、これらの目標を達成するために素晴らしい仕事をしてくれました。

BitSummit Gaidenの成果と課題をJIGAコアメンバーに聞く。オンラインイベントのひとつの形を示すことができた_01
公式ストリーミングチャンネルのオープニングに登場した富永彰一氏。1回目のBitSummit MMXIIIのTシャツを着ていたところに、“初心忘るべからず”のスピリッツを見た(まあ、BitSummit GaidenのTシャツがないという事情もある)。

視聴者数15万再生、Discordの来場者3000人以上はつぎへの大きな指標になった

――BitSummit Gaidenを終えての手応えをお教えください。

富永想像以上の盛り上がりだったと思います。Discordはご存じではない方もいるので、正直、集客は少し心配してました。 あくまで、BitSummit The 8th Bitで出展予定だったクリエイターさんへのねぎらいぐらいの規模を想像してたのですが、蓋を開けてみたら、いつものBitSummit並みの規模になっていた気がします。

小清水BitSummitは、クリエイター、パブリッシャー、スポンサー、メディア、そのほか著名なクリエイターの呼びかけにより同じ会場にゲームファンが一堂に集まる点が設計として重要なのですが、今回はオンラインですので、いままで以上に多くのメディア様に呼びかけ、放送を設けることで、BitSummit GaidenというイベントがDiscordで行われているということをゲームファンに周知してもらうことをひとつの仕掛けにしていました。ライブ放送のそれぞれの単体としては、視聴数は分散されあまり見られていないような印象を受けられた方もいるかもしれませんが、公式配信番組のすべての視聴数合計は15万再生を超え、Discord会場への来場者も3000人を超すという結果は、つぎに活かせる指標となったと思っております。

村上初めてのオンラインイベントで、開催前にはイベントの成功に関して確信を持てませんでした。実際に開催してみて、思った以上にうまくいったと手応えを感じています。オンラインでしかできないこと、逆にオンラインではできないことが明確に見え、今後のイベントに活用できるアイデアがたくさん得られたと思います。

ジョンホッとしました! イベントは予想以上にうまくいきました 開発者とパブリッシャーの両方から多くの肯定的なフィードバックがありました。

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村上雅彦氏は、SWERY氏と“Discord ぶらり旅”で、参加クリエイターとトーク。まったりとした感じで味わい深かった。

Utomikでオンラインイベントとしての形が作れた

――DiscordやUtomikを導入されましたが、期待した通りの成果を上げることができましたか?

富永Discordはチャンネルが多すぎてかなりカオスにはなりましたが、いい意味でいつものBitSummitの熱気に近いものを感じられた気がしてます。

 Discordだけでは出展ゲームの試遊ができない問題がありましたが、Utomikさんのご協力で、試遊体験をカバーすることができるのではないかと予想しました。そして、その通りの成果だったと思います。

小清水国内ではDiscord、Utomikともに使うことが初めての方も多かったと思いますが、その中でこれだけの方がアカウントを作って入っていただいたことについては、ひとつの成果は達成できたのではないかと思っています。

村上Discordについては、それ自体を扱うのが少し難しく、期待した以上の結果が出せなかったです。イベント主催側が使いかたを丁寧に教えてあげるなど、改善できる点は多くあると思います。とはいえ、今回のイベントの結果、BitSummitのDiscordには、3000人ものユーザーが集まっており、非常に価値の高いオンラインコミュニティーが形成できたと感じております。

 今回は、Utomikに手伝っていただけたことで、BitSummitのオンラインイベントとしての形が作れたと思います。BitSummitをオンラインで開催するにあたり、懸念点のひとつにゲームの試遊ができないということがありました。オンライン上で、出展ゲームの試遊ができる仕組みを作ることができたことが、今回のイベントの成功に大きく寄与していると思います。

ジョン期待以上でした! 週末のDiscordサーバーでのアクティブな人の数は3000人以上のときもありましたし、イベント中にゲームのダウンロードが多かったと、Utomikさんが報告してくれています。

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Utomikでは、期間限定で56タイトルが試遊できた。

Discordでの運用には課題も……

――BitSummit Gaidenを終えて、課題として残った点などありましたら、お教えください。

富永Discordチャンネルの数が多く、よく迷子になってしまいました。それらをどう分かりやすく使いやすくするか。Web、Gameカタログページ、Map、Discordチャンネル、タイムテーブル、Streamチャンネル、これらをもっとうまく連携させる必要があると思いました。

小清水詰めきれなかったところや実現できなかったことはたくさんありますし、後で分析して改めて見えたところなど、課題は多くあるのですが、やっぱり集客導線はもっとやれたと思うので、次回開催できるとすれば、ここをもっと議論し設計できればと思います。

村上初めてのオンラインイベントだったので、課題はたくさんありました。Discordを使って、出展者ごとのブースを再現しようとした点においては、よりよい方法があったのではないかと感じております。また、公式のチャンネル内で、出展ゲームと開発者さんを紹介するコンテンツが十分に用意できなかった点も少し残念です。BitSummit Gaidenは、いつものイベント以上に、開発者さんにフォーカスした応援イベントにすべく、準備しておりましたが、結果は開発者さんの力をお借りしてようやく成立する形となりました。

ジョン私たちは、つぎのイベントまでDiscordサーバーにいるすべての開発者やパブリッシャーをサポートし続けるつもりです。次回のイベントまで、BitSummitのコミュニティーとインディーゲームファンの皆様のご参加をお待ちしております。

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Discordにはチャンネル数が多すぎたのでは……との意見も。

「すべてのオンラインイベントは、BitSummit Gaidenを参考にすべき」

――出展者や参加者で印象的だったフィードバックがありましたら、お教えください。

富永「すべてのオンラインイベントは、BitSummit Gaidenを参考にすべき」というコメントを見ました。Discordを使ったイベントとして、BitSummit Gaidenの試みを理解して、称賛してくれる方が多かったのが印象的でした。Discordでこういう使いかたをするイベントはないか、あらかじめ参考にしたくて探していたのですが、見当たらなくて。じつは、「世界初の使いかたなのでは?」と思ったりしました。

小清水昨今、若い世代を中心にアプリなどを使ったライブ配信をする広がりが見えますが、その中でゲームクリエイターがDiscordを使いゲームファン向けにどのような配信やコミュニケーションを取るのか興味深かったのですが、全体的にはライブ配信をされていた方は多くはなかったものの、ゲーム実況者のような慣れた感じでゲームをしっかり紹介されていたり、うまくコミュニケーションを取られている方も見られたので、それは印象的でした。

村上印象だった点は、人によって感想が大きく違うということです、とてもよかったと言う人もいれば、ぜんぜんよくなかったという意見もありました。評価が分かれる理由をしっかりと分析し、次回以降のイベントの参考にしたいと思っております。

ジョン先ほども申し上げましたが、出展者の方々には本当に喜んでいただけました。彼らは私たちが提供したツールをフルに活用してくれました。Go Live (Discord ストリーミング) セッション、開発者とのトーク、景品、TwitchやYouTubeでのストリーミングなど、開発者とパブリッシャーがそれぞれのチャンネルを介して主催したものがたくさんありました。私たちが想像する限りの、“バーチャル”なブースに近いものでした。

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BitSummitおなじみのクリエイターたちも多数ビデオ出演。メッセージを寄せてくれた。写真は飯田和敏氏。

東京ゲームショウ2020 オンラインでも何かやりたい!?

――BitSummit Gaidenを受けて、来年のBitSummitに向けて、「こうしてみたい」といった展望などありましたら、お教えください。

富永BitSummitは国内外から多くの人が集い、不特定多数の人がコントローラを使ってゲームをし、対面で話をするというのが通例です。したがって、来年までに、ワクチンが世界的に普及する、特効薬ができるなどしないかぎり、例年のような形式でBitSummitは開催できないと思っています。ですので、リアル会場で開催できるとしても限定的なもの(たとえば国内出展者のみとか)になる可能性が高いと考えます。そのデメリットを、オンラインがカバーできたらいいなと考えています。いまのところ、定期的なオンライン開催は考えていませんが、BitSummit GaidenのDiscordサーバーはまだしばらく公開しておこうかと考えています。そして、その使いかたを模索していければと考えています。

小清水BitSummit Gaidenが終わったばかりですし、来年のことはまだまだ考えるべきことが多いのですが、BitSummit The 8th Bitは開催寸前まで進めていながらお披露目できなかったものですから、これをなんとか来年にはお届けしたいと願うばかりです。

村上BitSummit Gaidenは、運営チームにとって非常によい経験になりました。オンラインでゲームイベントを実施した経験の中に、次回以降の実イベントに使えそうなヒントがたくさんありました。 公式チャンネルで実施していた、出展タイトルを開発者さんといっしょにプレイしてストリーミング放送することや、学生とのゲームジャムの様子を配信することなどは、今後も続けていきたいと考えております。 オンラインでの、定期的なイベント開催もぜひ試してみたいと思います。

 短い準備期間で実際にどうなるか不安な中、実施したBitSummit初めてのオンラインイベントでしたが、実際に開催して本当によかったと思っております。参加いただいたすべての方々にとても感謝しております。来年は、現在の状況が少しでも改善され、また京都でパワーアップしたBitSummit The 8th Bitを開催できることを運営チーム一同心より祈っております。

ジョン今回のイベントで、どちらのスタイルのイベントも絶対にありだということが証明されたと思います。できれば今年の東京ゲームショウ2020 オンラインでも何かやりたいですね。

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BitSummitクリエイティブディレクターのジェームス・ミルキー氏も公式ストリーミングチャンネルにビデオ出演。

※写真は配信番組をキャプチャーしたものです。