五十嵐孝司氏が手掛ける横スクロールアクションRPG『Bloodstained: Ritual of the Night (ブラッドステインド: リチュアル・オブ・ザ・ナイト)』の全世界累計出荷・ダウンロード販売本数が、100万本を突破した。

 2015年のKickstarter成功を受けて、じつに4年という開発期間を経て2019年6月18日にワールドワイドでリリースされた本作だが(日本語版の発売は2019年10月24日)、まさに世界中のユーザーからの支持を受けての達成となった。

 そこで今回は、505 Gamesの協力の元、本作のプロデューサーであるArtPlay代表取締役 五十嵐孝司氏に、100万本達成を記念してのインタビューを実施。本作の反響や、発売後に登場したコンテンツの制作秘話、そして今後のアップデートなどについて話を伺った。

『ブラッドステインド:リチュアル・オブ・ザ・ナイト』100万本突破記念・五十嵐孝司氏インタビュー「おもしろいものをしっかりおもしろく届けられた」。そして旅路はまだまだ続く_10

五十嵐孝司氏

『ブラッドステインド:リチュアル・オブ・ザ・ナイト』の開発を行うArtPlayの代表取締役であり、本作のプロデューサー。ファンからはIGAの愛称で親しまれている。

100万本達成は目標だったのでうれしい

――まずは『ブラッドステインド:リチュアル・オブ・ザ・ナイト』(以下、『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』)の全世界累計出荷・ダウンロード販売本数が100万本突破したことに対する率直な感想をお聞かせください。

五十嵐100万本というのはひとつの目標ではあったので、達成できたのは本当に嬉しいですね。

――五十嵐さんとしては、この販売数は想定されていましたか。

五十嵐この100万本には、バッカーさんの分は入っていないんです。「バッカーさんの分を足して、何とか100万本行くといいな」とは、少し思っていました。ですが、その予想を超えた100万本なので、とても嬉しいですね。

――PC、プレイステーション4、Xbox One、Nintendo Switchという4つのハードで発売されていますが、とくに反響が大きかったプラットフォームはありますか?

五十嵐思った以上に本数が多かったのがNintendo Switch版ですね。他機種版に比べて、発売が1週間後になったので、「Switch版はあまり期待できないかな」と思っていたんですよ。それが想像した以上の販売状況でした。

――Switch版がとくに好調だったのは、やはりハードの普及台数の多さからなのでしょうか。

五十嵐それもあるかと思いますが、私が過去に手がけたシリーズタイトルは任天堂のハードで展開することが多かったので、そういう部分も大きいのかなと思います。あと、今回リリースしたプラットフォームの中では、唯一携帯しても遊べるハードなので、そういう意味では『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』を持ち運んで遊びたい人も多かったのかなと分析しています。

――たしかに、『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』は“携帯して遊ぶ”というスタイルとの相性がよい作品だと思います。

五十嵐過去に携帯ゲーム機でタイトルを出したときは、「据え置き機で出してほしい」と言われたこともあったんですけどね(笑)。

――(笑)そういう意味では、両方の需要に答えられるのがSwitchということなのかもしれませんね。では、とくに販売状況が好調だった地域などはありましたか。

五十嵐一番多かったのは、やはり昔から僕のファンが多い北米ですね。比率はさらに増えて、昔だと北米が5割くらいの売上げだったのですが、『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』ではそれ以上でした。続いて、日本、中国、イギリス、という形です。

――それはすごいですね。五十嵐さんの作品が北米でいかに待望されていたかがわかりますね。

五十嵐僕らとしては、日本人が楽しめるように作っているつもりなのですが……。北米のファンが喜んでくれるのはもちろん嬉しいのですが、もう少し日本の方にも刺さってくれたらいいなと思います(笑)。

――本作に対する、日本のゲームファンの反響はいかがでしたか?

五十嵐発売日が遅れたりして、けっこうご迷惑をおかけしてしまったので、お叱りを受けつつも、「ゲームがおもしろい」と言ってくださる方も多かったです。「こういうものを待ち望んでいた」という反響もあって、とてもよかったです。

――いままで五十嵐さんの作品にあまり触れてこなかったユーザーも、SNSなどで「おもしろかった」とおっしゃっている方が多くいたように感じました。

五十嵐僕らとしては、「おもしろいものはいま遊んでもおもしろい」というコンセプトで作っているので、嬉しいですね。過去の私の作品を遊んでいた方も「これが遊びたかったんだ」と反響をいただいているイメージは強いです。

――五十嵐さんの過去の作品を遊ばれていない方もいるなかで、やはりゲームとしてのおもしろい部分を突き詰めた作品だからこその評価だと思います。

五十嵐あとは、いっしょに開発していたスタッフとの共通認識として「理不尽にしない」というのがありました。理不尽な死にかたをしてしまうと、(ユーザーは)ゲームのせいにしてしまうんです。そうではなくて、自分が死んだ原因が分かると、「では、今度は違うやりかたでやってみよう」といった、つぎへのモチベーションに繋がるんです。その部分は昔から変わらなくて、かなり注力して作っているので、そういう部分が新しい人が遊んでも楽めるところなのかなと思います。

――新規の方にもファンの方にも好評を得た要因は、五十嵐さん自身はどう分析されていますか。

五十嵐基本に忠実ということですね。今回は「おもしろさがわかっているものをしっかりおもしろく届けよう」と思っていて、基本システムのところで大きなチャレンジはしていないんです。だからゲームプレイも理不尽にならないように気を付けながら、「これを倒したら、これが手に入るから、つぎはこういうことができる」とか、レベルデザインを含めて設計の部分がよかったのかなと思いますね。

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DLCで登場した“IGA BOSS”は外国人スタッフの説得によって誕生

――『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』のDLCで、個人的にとくに印象的だったのが“Iga's Back Pack”でした。五十嵐さんがボスキャラクターとして登場しましたが、あれはどういう経緯で生まれた企画でしょうか。

五十嵐Kickstarterのキャンペーン中に、外国人スタッフから「(五十嵐さんが)ボスで出たらおもしろいいから、やろう!」と言われたんです。でも、僕はクリエイターが作品に出てくるのはあまり好きではないので、断固断っていたんですが、押し切られまして(笑)。これが、現代をテーマにした作品のなかにモブで私が出てくるのならばまだ分かりますが、本作は架空の世界観ですよね。ですので、僕が出てきても違和感しかない。そこで、とにかく断ったのですが、「アメリカ人にはこれが刺さるんだ!」と丸め込まれまして……(笑)。

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――五十嵐さんとしては不本意だったのですね(笑)。

五十嵐あと、当時Kickstarterの集まりかたがとてつもなく速くて、新しいストレッチゴールを考えないといけない時期ではあったんですね。どうするか困っていた部分もあって、押し切られた感じですね(苦笑)。音声収録もしましたが、プロの声優さんに混じって自分がやるのが本当に嫌でした。ひとり素人が混じっていると、やはり浮いてしまうじゃないですか。

――個人的にはかなりおもしろいなと思っていたのですが、反響的にはいかがでしたか。

五十嵐僕の友だちからは「凄く難しい」と言われて、倒したときには自慢されましたね(笑)。「DLCのボスとしてアレを入れるのはどうなんだろう」と、いまだに疑問に思っていますが、遊んでくれた方が喜んでくれたらいいなと思っています(笑)。

――かなりの高難易度ボスとして登場したわけですが、あの辺の調整はやはり海外スタッフの独断だったのでしょうか。

五十嵐難易度に関しては、僕は「めちゃめちゃ弱くしてほしい」と頼んでいたのですが、できあがったときに「強くしておきました」と言われたんです(笑)。まあ、たしかにDLCとして買っていただいたのに、凄く弱いボスだったら、それはそれで嫌ですよね。

――では、 “ローグライクモード”の代わりとして、5月から6月にかけてアップデートで追加された“ランダマイザー”はどういった経緯だったのですか?

五十嵐いまのシステムだとランダムのマップ配置換えはかなりきびしくて、これを作るためには根本から作り直さないとダメということが判明したんです。そこでもともと考えていた、“ランダマイザー”に変更させていただきました。日本ではそこまでメジャーではないですが、海外だとけっこうメジャーなんです。これであれば対応可能ということで、申し訳ないですが、変更させていただきました。ただ、(“ローグライクモード”に関しては)あきらめきれない部分ではあるので、いまも研究だけは進めています。今回は苦渋の判断でこういう形になりました。

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新たなアップデートではボスたちが主人公たちに逆襲! 今後のアップデートの内容も……?

――100万本達成とあわせて、今後のロードマップが公開されましたが、何か方針があったりするのでしょうか。

五十嵐もともとKickstarterで約束したものを本当は最初から入れる予定だったのですが、作るのが困難なものもあって、けっきょくダウンロードで時間をかけて作るしかないということで、こういう形になっています。ですので、Kickstarterでお約束したものを、まずは先に出していくという方針になっています。

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――その第一弾として“ボスリベンジモード”と“カラー変更機能”が追加されますが、“ボスリベンジモード”では4体のボスが使っていた攻撃をプレイアブルで使って戦えるモードになるのでしょうか。

五十嵐ゲームにならないような攻撃は一部変更していますが、基本はそういう形です。あとは本編のときとは仕様が変わっているものもあります。そのままだと強すぎてしまうので。触ってみると分かるのですが、「ボスはこういう状態で戦っていたのか」というのを実感していただけるといいかなと思います。

――“ボスリベンジモード”では、敵はミリアム、斬月、ドミニクになるのですか?

五十嵐そうですね。その主人公側の3人に、ボスたちが復讐していく形になります。クリアータイムが表示されるようになっているので、友だちやSNSでぜひクリアータイムを自慢してほしいですね。

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――続いて、今後のロードマップにあった予定についてもお聞きしたいのですが、“カオスモード”はストレッチゴールにあった、ふたりで遊べるようなモードになるのでしょうか。

五十嵐はい。オンラインで遊べるようなモードになっています。

――あと、今後追加される新キャラクターは、以前追加されたプレイアブルキャラクターの斬月のように、キャラクターを変更してストーリーモードを遊べるような仕様になるのですか?

五十嵐そうですね。斬月と同じように別のプレイヤーキャラクターで遊べるような感じになります。

――“クラシックモード”は、本編の中で登場した8ビットステージや『Bloodstained: Curse of the Moon』とはまた違う雰囲気のレトロなモードといった感じなのですか?

五十嵐そのとおりです。「なぜこんなに8ビットふうなコンテンツを作っているんだろう」と思いますが(笑)。『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』に出てきたキャラクターで、ステージクリアー型のアクションを少しやる、といった感じです。

――ちなみに今回公開されたロードマップが現状予定しているアップデートのすべてということなのでしょうか。

五十嵐そこはまだ検討中なのですが、現状は「ここまではやりますよ」というロードマップになっています。

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こちらは2019年に実装されたプレイアブルキャラクター斬月。

『ブラッドステインド:リチュアル・オブ・ザ・ナイト』は大きな作品。今後はシリーズ化も

――Kickstarterからすると5年におよぶ付き合いとなるわけですが、五十嵐さんにとって『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』はどういう位置づけのタイトルになりましたか?

五十嵐いままでずっとゲームを作ってきましたが、大手を出て初めてしっかり手掛けたタイトルとして、僕の中でも大きな作品のひとつになっています。今回100万本を達成したということもありますので、この先フランチャイズ化できるように、もう少しがんばっていかなければならないなと思っています。

――100万本を突破して、フランチャイズ化に向けて手応えをつかめたということですね?

五十嵐そうですね。しっかりフランチャイズ化するために慎重にやっていきたいです。

――『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』のシリーズ化とともに、一方で以前「新作も作りたい」というお話もされていましたよね。

五十嵐はい。ArtPlayという会社を経営していて、ひとつのタイトルだけではなくて、いくつかのラインを同時に持てるようになればいいなという、会社としての野望のようなものですね。『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』は、ArtPlayにとってひとつの柱になりつつある作品なので、今後シリーズ化できるならばきちんとやっていきたいですし、一方で、同じくらいの熱量で新作もやれたらいいなと思っています。

――新作を作るとしたら、どのようなものになりそうですか?

五十嵐私のいままでのノウハウは『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』に詰め込まれていると思いますので、新作を作るとしたら、もう少しチャレンジングな作品にしたいですね。

――いずれにせよ、『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』での開発の日々は、五十嵐さんにとって大きな糧となりましたか?

五十嵐はい。「やっぱり大手の会社は痒い所に手が届くんだな」というのがいちばん感じたところです(笑)。大手にいたときであれば、自分がやらなくてもよかった仕事をやらないといけなかったりするので。あと、大きな会社は教育がしっかりしているので、基本的な知識がある。今回はそういった知識の共有から始めなければいけなかったので、そういう意味ではたいへんでした。

――得られた知見も多かった?

五十嵐大きなチャレンジをしなくてよかったとは思いました。Kickstarterでの制作はストレッチゴールとして約束していた要素があるので、作っていて「おもしろくないな」と思った部分でも変更はできないじゃないですか。新しいものを作っていると、必ずしもそれがおもしろいという確証はないので、みんなドキドキしながら作っているはずなんです。通常のゲーム開発であれば、チャレンジしてみて、結果的におもしろくなかったものを別プランに変えるという手が取れますが、Kickstarterだとその手は使えない。

――大きな試行錯誤は、確かに難しそうですね。

五十嵐Kickstarterの皆さんはゲームの根幹の部分に対してお金を払ってくれていたはずなんです。ですので、今回は“このやりかたでよかった”というのが正直なところです。発売して、反響として「こういうのを待っていたんだ」という声も多かったので、今回これをやれてよかったなと思う反面、もうユーザーのノスタルジーに訴えかけるやりかたはできないですね(笑)。ですので、つぎの作品は新しいネタを入れてながらやっていかないといけないとは思っています。

――新しいネタと言えば、プレイステーション5やXbox Series Xの情報なども順次公開されていますが。

五十嵐個人的には『Horizon Forbidden West』が凄いなと思いました。早く遊んでみたいです(笑)。ただ、ゲーム制作側としては「これだけグラフィックのクオリティーがとんでもない作品と戦っていくのは大変だぞ」とは、正直思いました。でも、ハードとしての性能が上がったことで、逆に手を抜くことができる部分も出てくると思うので、グラフィックにかける労力をもう少しゲームの内容に向けられたらいいなというのは見ていて思いました。

――やはり次世代機のグラフィックについていくのは、正直しんどいなと思う部分もあるのですか。

五十嵐しんどいなと思います。一時期、すべてのハードがスーパーファミコンくらいに戻ればいいのにと思っていましたから(笑)。あのころは絵を作るのはたいへんはたいへんでしたが、よりゲーム内容の吟味にリソースを回せたんです。いまは表現のほうに時間と労働力をより注がなければいけない時代になってきていますが、ハードの進化によって、手を抜ける部分も増えていくと思うので、どこまでゲーム内容のほうに資産を回せられるのか、というのは考えています。

――最後に、アップデートを楽しみにしているユーザーの皆さんへのメッセージをお願いいたします。

五十嵐まずは、Kickstarterでお約束したものをきっちり制作しつつ、もう少し『リチュアル・オブ・ザ・ナイト』を盛り上げていったうえで、つぎはどういう展開にしようかと考えています。つぎの報告をご期待ください。

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