2020年2月、クラウディッドレパードエンタテインメントが、オンラインにて発表会を実施。『イースIX(繁体字中国語版/ハングル版)』を始めとする日本ファルコムタイトルをアジア向けに展開することを明らかにし、大きな注目を集めた。同社は角川ゲームスの『Root Film』やディースリー・パブリッシャーの『お姉チャンバラORIGIN』のアジアローカライズ版、さらには新規IPのグローバル展開なども予定しているという。

 クラウディッドレパードエンタテインメントを設立したのは陳云云氏。陳氏は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)にて20年にわたりローカライズ事業を手掛けており、クラウディッドレパードエンタテインメントは、そんな陳氏の業務を発展させた形となる。同社には、SIE時代から陳氏と長きにわたる付き合いがある、伊東章成氏らが集う。

 ここでは、陳氏と伊東氏に、クラウディッドレパードエンタテインメント設立の経緯や今後の戦略などを聞いた。

陳云云氏(チン・ウンウン)

クラウディッドレパードエンタテインメント
代表取締役
1998年ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)に入社後、20年以上にわたり日本タイトルの中国語ローカライズを手掛ける。台北のローカライズセンターは、ソニー・コンピュータエンタテインメント在籍時に陳氏が設立したもの。2019年に現職へ。

伊東章成氏(いとうあきなり)

クラウディッドレパードエンタテインメント
事業戦略統括
16年間在籍したソニー・インタラクティブエンタテインメントでは、インディーゲームの国内事業展開などを手掛ける。2017年に設立されたUNTIESを経て、陳氏に乞われて2019年にクラウディッドレパードエンタテインメントへ。

日本のゲームを中国語で遊んでほしいとの学生時代の熱烈な思いが出発点に

――会社設立の経緯をお聞きする前に、とても気になっていたことから教えてください。“クラウディッドレパードエンターテインメント”の社名の由来はどこから来ているのですか?

わかりづらいですよね(笑)。“クラウディッドレパード”というのは、英語でウンピョウという、動物のことなんですよ。なぜ、このネーミングにしたかというと、自分はソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に20年以上在籍していてずっとアジア担当だったのですが、みんながやらないことを自分がやっていまして、自分の名前が“陳(ちん)”であることをかけて、“アジアのちん獣”と呼ばれていたんですね。

――おもしろいニックネームですね(笑)。

独立するときに、いろいろな方から、「あなたの会社は“陳ドットコムでいいよ”」と言われたのですが、さすがにそれはイヤだったので、自分がやりたいことがイメージできるものを探していたら、ウンピョウにたどり着いたんです。
 “ウンピョウ”は、台湾に生息している絶滅危惧種なんですよ。珍しい野獣であり野生で生活しているという。単独で木の上で生活していて、獲物を見つけたら即座に牙で襲うんですね。ふだんは温厚な性格なのですが、目標を定めたら遠慮なく向かっていく動物で、自分とすごく似ている。自分もいつもそうなんですよ。これをやると決めたら何も考えずに向かっていって、周りに何と言われようと止まらない性格なんです。

――まさに、ウンピョウが陳さんのイメージにぴったりということですね。

伊東陳は、ものすごく猪突猛進感のある人で、SIEでも有名だったんですよ。陳といえば「言うこと聞かないよね」みたいな(笑)。やりたいことやユーザーにとってプラスになると思ったことを絶対にやる人なんです。通いあげて通いあげて、相手が折れるまで交渉する人ですね。

クラウディッドレパードエンタテインメントのロゴ。台湾に棲息している絶滅危惧種ウンピョウをモチーフにしている。

――どうやら、名物社員みたいな感じだったようですね。たとえばどのような武勇伝が?

少し古い話ですと、『Demon's Souls(デモンズソウル)』をアジア展開するときは相当揉めました(笑)。そのころ、日本発のタイトルは、あまり欧米では展開していなかったのですが、「欧米でもやっていないタイトルを、なぜアジアでローカライズするのか?」と、上司と毎日のようにケンカしていましたね。社内でも、欧米でリリースすべく調整していたようなのですが、最終的に欧米の担当がギブアップしてしまいまして。「だったら、英語版も僕(注)がやります!」ということで、中国語版やハングル版はもとより、英語版まで自分が担当しました。おかげさまで、英語版まで実装したアジアバージョンはものすごい勢いで売れましたね。

※注:陳氏はご自身のことを「僕」と呼んでいる。

――何かとやろうと思って突き動かされると、猪突猛進する感じですね。

僕がSIEに入社したのも、突き動かされた結果と言えるかもしれません。自分は台湾出身なのですが、学生のころは中国語版のソフトはほとんどなくて、海賊版が幅をきかせていたんですね。正規のソフトを買おうと思うと、日本の倍くらいの価格で日本語版や英語版の輸入品を買うしかなかったんです。自分は当時から日本のゲームが好きで、『ファイナルファンタジー』シリーズなどは、辞書を片手に持ちながらプレイしていたのですが、そうなると、友だちとは楽しさを共有できないですよね。「このソフトおもしろいよ」という話をしても、みんな日本語がわからないから興味を持ってくれない。それで、「絶対にいつか家庭用ゲーム機で、中国語版のソフトを出したい!」と思っていたんです。

――それで、SIEに入社されたのですか?

そうですね。僕は1998年にSIEに入社したのですが(当時はソニー・コンピュータエンタテインメント)、あのころ、アジアに積極的に興味を持っているハードメーカーがSIEでした。SIEに入社してすぐに、当時アジア統括を担当されていた安田さん(安田哲彦氏)に、「僕は中国語版が作りたいのでやらせてください!」と直談判しました。

伊東ただ、当時はアジアは海賊版が横行していたので、正規品はまったく売れなかったんですよね。そのため、「ローカライズしても売れないから意味ない」と社内的には思われていたんです。だけど、陳はそこが大事だとわかっていたので、ずっと熱意を持って取り組んでいましたね。

会社にはとりあえず「ひとりでやりますので、1本だけでもいいからやらせてください」と言って、翻訳からQA、マーケティング、生産管理まで全部やりましたね。ただ、さきほども話にありましたが、そのころは海賊版全盛の時代で、『サクラ大戦 ~熱き血潮に~』や『テイルズ オブ デスティニー2』など、いくつかのタイトルを中国語版にローカライズしたのですが、ユーザーさんからは高い評価をいただきつつも、残念ながらまったく売れませんでした。会社からローカライズ事業を継続してもいいということにはなったのですが、なかなか売上の成果がでずに、何年間もずっとひとりで全部やっていました。

――とはいえ、海賊版問題ともなると、陳さんだけの努力でどうこうなるものでもないですよね……。いつか時代が変わるという信念を持って、取り組んでいたのですか?

いつか絶対にユーザーさんの意識が変わって、正規品を買う時代が来るとは思っていました。そんなときに、ソフトがないと受け皿がなくなりますので、地道に取り組んではいましたね。
 意識が変わってきたのは、プレイステーション3の代になってからですね。ようやくビジネスとして成立してきたんです。それで、会社のほうも、「サードパーティーさんにもお声かけして、もっと幅広く展開しよう」ということで、手掛けたのがスクウェア・エニックスさんの『ファイナルファンタジーXIII』でした。

伊東プレイステーションのアジア展開をしていただくためのスペシャルサポートのような感じで、サードパーティーさんからタイトルをお預かりして、ローカライズするというのを事業のひとつの柱にしたということです。

――なるほど。いまだとSIEはアジアに力を入れていて、台湾にローカライズセンターを設立したりもしていますが、その礎を築いたのが陳さんということですか?

台北にローカライズセンターを作ったのは僕です。『ファイナルファンタジーXIII』がアジアでたくさん売れましたので、「これはいける!」と判断したのですが、そうすると僕としては、「もっとタイトルをいっぱい出したい」という気持ちになったんですね。けれど、さすがに中国語ができる現地の人を日本に連れてくるわけにはいきませんので、それで会社に「台湾内にローカライズを専門的に手掛けるチームを作って、サードパーティーさんにサービスを提供したい」と掛け合ったんです。それで2011年にローカライズセンターを作りました。ローカライズセンターには、小島秀夫監督や堀井雄二さんなど、たくさんの方がいらっしゃってくださいました。

伊東台北ゲームショウの折などにお連れして、実際にローカライズセンターを見ていただいたんですよね。“アジアに出ることが大事だ”と思っていただくことが大切だったので。

やはりパートナーさんが心配なのは、ローカライズ版を出すのはいいものの、中国語がご自分たちが意図しない内容になるのは困るということでした。僕たちとしては、「皆さんの思いをしっかりと汲み取って、いちばん自然な感じで翻訳しますので、ご心配しないでください」と安心していただきたかったんですね。そのためのローカライズセンターだったわけです。

――アピールの意味もあったということですね。

ちなみに、SIEでは日本からたくさんのクリエイターさんをお招きしているのですが、会場でステージイベントを行うのは、ファンサービスの一環もありますが、クリエイターさんに、「台湾のゲームファンは、こんなにあなたの作品を待っているんですよ」ということをお伝えするためでもあります。外に出ないと、「自分のファンがこんなにいるんだ」ということを、なかなかリアルに感じられないので、「ではお見せしましょう」という意味合いもあります。台湾のファンの熱意に触れて、クリエイターさんにも「中国語版を作らないといけない」という意識がでてくるわけです。

台北ゲームショウ2015のSIEブースの模様から。当時記者はイベントを取材して、来場者のあまりの熱気に感動した記憶がある。

伊東ローカライズ業務が本来の担当だったはずが、イベントのほうもケアしたりと、ファンの方々といっしょに広がっていくというイメージを、はっきり持ててしまうんですよね。イベントなどに関しても、必要だと思ったら自分で飛び込んでいっていろいろと仕掛けるというのは、陳さんの“ちん獣”たるゆえんですね(笑)。

そんなこんなで、アジア地域でも中国語版の日本ソフトが売れてきたんですね。となると、パートナーさんからも、日本や欧米と同じように、マルチプラットフォームで展開したいという声をよく聞くようになってきたんです。
 「プレイステーション4のローカライズのために翻訳したテキストをほかのプラットフォームに使ってもいいですか?」という要望も多くいただいて、それは構わないのですが、僕はSIEの人間ですので、マルチプラットフォームには積極的にサポートできないわけです。
 それは、どうしようもないことなのですが、自分はコンテンツが好きなので、よりコンテンツを広げられるにはどうすればいいのか……ということで悩んだんですね。そこで、「私たちがいままでやってきた良質なコンテンツをすべてのユーザーさんにご提供できる」ということで、SIEを退社して、新たに会社を設立することにしたんです。

――パートナーの要望に突き動かされる形で、会社の設立を決意したのですね。

そんなこともあり、SIEさんとは良好な関係を築いていまして、たくさんのタイトルをサポートしていただいています。SIEさんにサポートをしていただくことで、僕たちは得意な分野に集中できているので、すごくありがたいです。

――それにしても、SIE在籍時に、プレイステーション4向けに用意した翻訳を、ほかのプラットフォームでの使用を許可したのは、何とも豪気ですね。

伊東そういったお手伝いは、陳はずっとやっていましたね。僕も、陳のこのエピソードは大好きなんです(笑)。

日本と海外をつなぐ役割として、良質なタイトルを世界中のユーザーに届けたい

――(笑)。では、設立した会社の方針を教えてください。

自分は、ただソフトを出すだけ……というのは好きではありません。しっかりとしたマーケティングをした上で、しっかりとローカライズしたタイトルをユーザーさんにお届けしたいと思っています。そのためには、できることはなんでもやりたいですね。いちばんは、“質のよいものを提供したい”ということでしょうか。

伊東タイトルの質に対するこだわりに関しては、陳は僕の想像よりも上のことを言いますね。そこまでのものを提供できるようにサポート体制を整えるというのが、弊社のモットーになっているとは思います。陳のマインドが、そのまま会社の方針であり、骨格となっています。

――たとえばですが、ローカライズにはどのようなところにこだわっていますか?

キャラクターの統一性はものすごく大事にしています。たとえば、大型RPGともなると、たくさんの翻訳者さんが関わることになるのですが、同じキャラクターでも、AさんとBさんの翻訳とでは解釈に違いが出てしまう。物語の冒頭ではふつうにしゃべっていたキャラクターが、中盤では凶悪な人物になっていたというのは、かつて経験したことでした。誤字脱字をしないようにというのは当たり前ですが、“クリエイターが表現したい世界観を、言語が変わってもしっかりと伝える”ということを大事にしています。

――それは、陳さんが子どものころからゲームがお好きだったからこその視点かもしれませんね。

自分の小さいころには、翻訳の統一性といった発想はなかったかもしれませんね。僕も日本語ができるようになって、プレイしながら「自分だったらこの言葉はどう翻訳するかな」という、イメージトレーニングをしていました(笑)。ちなみに、そんなときに、「このタイトルはローカライズしないといけない!」と思ったのが、バンダイナムコエンターテインメントさんの『テイルズ オブ デスティニー2』でした。まだ、ローカライズ文化自体が根付いていない時代で、「このタイトルのローカライズは絶対にやりたいです!」と、主張したんですけど、当時は全員「はい?」となっていましたね(笑)。
 僕自身が『テイルズ オブ デスティニー2』に感動して、日本のユーザーと同じようにアジアのユーザーにも受け入れられると思ったから、絶対にやるべきだと判断したんです。

――ちなみに、陳さんはローカライズに強いこだわりをお持ちとのことですが、ご自身がそれを思っていても、実際にそれを形にしてもらうのはたいへんなのでは?

そうですね。ですので、ローカライズセンターを作ったときは、基本的には全部自分で翻訳をチェックしていました。自分がいちからチェックして、気になる箇所は修正を出して、それを全部担当にフィードバックしていました。「ここはだめです」、「これはおかしい」というのを逐次伝えていきましたね。

――それはすごい。育成していったということですね?

はい。台北のローカライズセンターは、2011年の設立時は3人でスタートしたんですよ。それが徐々に規模を拡大していって、30人前後になりました。コアメンバーをしっかりと鍛えたうえで、そのコアメンバーに新しく入ってきたスタッフを教えてもらうという形でやっていきました。

――“陳イズム”が引き継がれていくということですね。その成果もあって、ここ10~20年で、アジアのローカライズ市場はすごく豊かになったと言えるのですね。

そうですね。スタッフはみんなゲームが大好きで、「ゲームに恩返しをしたい」とか、「自分が好きなタイトルをみんなに遊んでもらいたい」という想いが強い方ばかりなんです。みんな、どうすればローカライズが根付くのか……ということで、僕が思いつかないようなアイデアを出してくれることも多いですね。そしてそれを日本のスタッフにフィードバックしたりもしました。

――ローカライズ作業自体はクラウディッドレパードエンタテインメントさんが?

はい。基本は弊社でやっています。自分はクオリティーにこだわりたいので、クオリティーをチェックできるスタッフをつけています。ローカライズディレクターとして、各国語の翻訳に問題がないかどうか、適宜チェックしています。現状サポートしているのは、英語と中国語繁体字、簡体字、ハングルです。あと4月からは欧州言語とタイ語もサポート体制を整え始めました。

――アジアだと、陳さんが作ってきた体制があるので、クオリティーは保証されるとして、ほかの言語はどうしているのですか?

伊東信頼のおける翻訳会社さんに発注してローカライズしています。ただ、翻訳は監修が大事なんですね。ちゃんとタイトルの内容にあった現地語かどうかを把握できて、それに合っているのかどうかをチェックしていくことが重要になってきます。SIEのときは、それを陳がやっていたので、“陳クオリティー”という状況が維持されていました。ネイティブスピーカーで、ユーザー目線に立てて、タイトルのイメージをちゃんと伝えられる人がローカライズには重要で、弊社でも、ようやくそれが実現できる体制になってきました。そんな“陳クオリティー”を、ほかの言語にも広げていくというのが、当社の今後の展開ですね。

これはゲーム業界に限らないとは思うのですが、ローカライズは簡単と言えば簡単です。翻訳会社に発注すれば翻訳はできますし、言ってみれば自動翻訳機械だってあります。ただ、クオリティーがよいか悪いかは翻訳会社さん任せになってしまって、それをチェックできる人が日本のメーカーさんにはあまりいない。クオリティーが担保されていないんですね。万が一ローカライズのクオリティーの低いタイトルをリリースしてしまったら、パブリッシャーとしてのブランドイメージが下がりますし、ユーザーさんはつぎからそのパブリッシャーのタイトルを買わなくなってしまう。そういった事態はアジアや日本、欧米でも発生していて、自分からすると、それはもったいないなと思います。
 「自分たちの表現したいことをちゃんと翻訳できているのか、という不安を持つのであればやらないでおこう」、「自分たちのブランドイメージを崩すことになるのだったらやらないほうがいい」という考えかたをするパブリッシャーさんもいらっしゃいます。僕たちは、そんな不安を払拭するために、クオリティーが保証できるような体制作りに取り組んでいます。

――ローカライズは本当に大切ですよね……。ただ最近は、デジタルパブリッシングができるようになって。海外メーカーさんでも気軽にパブリッシングができるようになってきた分、「このローカライズでいいのか?」というケースもけっこう増えてきていますよね。

日本語にローカライズされた海外のゲームがあって、ぜんぜん日本語になっていなかったら、友だちにはオススメできないですよね。それはもったいないことですよね。ソフトの内容がよければ口コミ効果だって期待できるのに、ローカライズがよくないとユーザーの輪が連鎖していかない。それはすごくもったいないと思います。

――ちなみに、設立時に公開されたリリースによると、“日本の各パートナー企業のタイトルを、現地のニーズに合わせた内容に調整しパブリッシュを行っていく”とのことですが、それはつまりカルチャライズも行うということですか?

はい。カルチャライズもそうですし、アジアのユーザーの好みに合わせていろいろなものを作っていきたいと思っています。

伊東たとえば、オリジナルコスチュームを現地用に用意して、ダウンロードコンテンツとして販売という取り組みなどもしていきます。

SIEの時には日本ファルコムさんの『英雄伝説 閃の軌跡II』では、台湾の人気イラストレーターさんに、ヒロインであるアリサのコスチュームを描いていただいたりしました。そういった取り組みはクラウディッドレパードでも行っていきます。

――こういった取り組みをすると、アジアのファンにも、“自分たちが大切にされている”という意識が出てきそうですね。

そうですね。2月6日にアジア市場に向けて発売した『イースIX -モンストルム・ノクス-』でも、アジア地域のみの初回限定特典を付けていますね。自分たちにアドバンテージがあるとしたら、現地の人たちの生の声をしっかりと聞いて、そのようなものが好まれるかを分析できることですね。『イースIX -モンストルム・ノクス-』に関しては、キャラクターをしっかりとピックアップしたうえで、ユーザーさんが長く使えるものにしようと思って各キャラクターをフィーチャーしたしおりにしました。

伊東『イースIX -モンストルム・ノクス-』に関しては、限定版の中に小説が入っていたりするんですね。『イース』シリーズは主人公アドルの冒険日誌がストーリーの軸となっていることもあり、本にまつわるアイテムを、といったところからの着想もあって、ちゃんと世界観に合うもので、お届けしやすいものを……と考えていったときに、しおりというアイデアが浮かんだんです。それで、特典の内容を具体化していきました。作品性や意図をしっかりと咀嚼して提供していくように心がける。ファンの皆さんに納得していただけるものを……ということで取り組んでいますね。

――それは各国ごとに行うのですか?

伊東『イースIX -モンストルム・ノクス-』は、アジア全域で同じ特典だったのですが、国単位で効果的なアイテムがあるようなら、それは考えていきたいです。少なくとも、コミュニケーションやマーケット、プロモーションの観点で行くと、現地ごとに担当を設けてやっていくことは大事にしています。

ローカライズという観点で言うと、『お姉チャンバラORIGIN』に関しては、中国語とハングル、英語でボイスオーバー(吹き替え)も予定しています。『お姉チャンバラORIGIN』はアクションゲームなので、主人公がアクションをしているあいだにいろいろなセリフをしゃべるじゃないですか。それを字幕で表示すると見逃してしまうかもしれないので、ならば……ということで音声対応をすることにしました。

――音声も対応となると、また手間がかかりますね。

いままでアジア地域では、ボイスオーバーはあまりしてこなかったんです。アジアの方は、ボイスオーバーに対応することによりリリース日が延びるよりも、少しでも早く遊びたがるので(笑)。『お姉チャンバラORIGIN』に関してはボイスオーバーをやる価値があると判断したんです。プロデューサーの岡島さんからもボイスオーバーの話をいただいて、ちょうど意見が合致したのでその場で即決しました。

“世界中に自慢したくなるような個性の突出したタイトル”をお届けしたい

――では、これからの話を聞かせてください。今後どのようなタイトルを手がけていく予定ですか? 先日の発表会では、「海外タイトルを日本やアジアで展開する」とおっしゃっていましたが、基本は日本のタイトルをアジアを含む海外に展開していくのが、クラウディッドレパードエンタテインメントさんのおもな業務に?

会社を設立したのが昨年の8月だったのですが、「まずは会社を1年存続させるためにはどうしたらいいのか」ということを考えたときに、自分が20年間取り組んできて、1番得意な分野である“日本のコンテンツをアジアに持っていくこと”をしっかりやろうと思ったんです。まずはそこをしっかりとやって、経営の柱になれるコンテンツを作った上で、ゆくゆくは自分がやりたいことを徐々に広げていこうと。実際のところ、欧米のタイトルを日本やアジアに紹介するプロジェクトも動いています。まもなく発表できるので、日本の皆さんも楽しみにしていてほしいです。実際のところ、会社を設立以降、欧米メーカーさんからのご提案は思いのほか、多かったです。

――あら!

伊東これまで陳が培ってきた、現地の文化を理解しながらオリジナルと遜色のないクオリティーを維持するというノウハウは、アジアのみならず、どこでも通じる本質的なものだと思うんです。まずは、スタッフ相互でそのノウハウを共有しながら、着実に展開していきたいですね。

――発表会では、“III(トリプルアイ/Independent IP Industry)”として、独創的なタイトルの発掘に取り組むということも明言していましたが、その狙いを教えてください。

ゲーム業界に新しい風を吹かせたいです。自分はこの業界に20年いますが、何か新しいものをいまのユーザーさんに届けたいという気持ちがあります。いま、インディーゲームが盛んですし、若くて才能を持った方がたくさんいらっしゃいます。自分もSIEにいたころは、若い才能をたくさん見てきたのですが、「もうちょっと手助けできれば、若いクリエイターたちのコンテンツにより注目していただける機会を増やせたのではないか」と、つねに思ってきました。こうして会社を設立してみて、これまで自分が培ってきたノウハウを、若いクリエイターに提供していきたいと改めて実感したんです。

伊東陳はすごくクリエイティブ寄りで、クリエイターに対するシンパシーを強く感じます。IPとして新しいコンテンツや独創的な発想を見つけていくことに加えて、「いっしょに作っていきたい」との思いもあります。インディーだけに留まらず、小規模でも芸術性の高い作品なども含めて、サポートしていけるインディペンデントコンテンツを創出する場所にしようということで、“III(トリプルアイ)”を立ち上げたんですね。

――“III(トリプルアイ)”というのは、インディーゲームだけに留まらないのですね。

伊東そうですね。インディーゲームという概念も多様性が出ていると思っています。ひとり、または複数のクリエイターが小規模な環境で、自分がやりたいことそのままに作ったコンテンツに対して、注目が集まっている状況が続いていますが、個人的には、その中でも突き抜けてゾクッと来るような個性を持つコンテンツのことを、勝手に “III(トリプルアイ)”って呼んでいました。AAA(トリプルエー)に対抗して(笑)。

――(笑)。“III(トリプルアイ)”というのは、尖りぶりが突き抜けたタイトル……ですかね。

伊東 陳とはSIE時代に同僚だったのですが、同じフロアでお互い最後まで残って業務を何とか前に進めているような状況で、「陳さんすごいなあ」と感心していたんですよ。僕もまあまあ帰りが遅い人間だったのですが、どちらかが最後に退社するときにフロアの灯りを消すみたいなことをやっていました(笑)。その熱心さを目の当たりにしていたので、当時から陳に対してはすごく共感性があって、クラウディッドレパードエンタテインメントに誘ってもらったときも、「やれることはやりたい」って思ったんです。で、陳から「最終的には自分たちでもオリジナルタイトルを発掘していきたい」という目標を聞いて、“III(トリプルアイ)”という発想を持つにいたったんですね。

――今回、“III(トリプルアイ)”のタイトルとして、『Shaolin5/少林五祖』と『有翼のフロイライン Wing of Darkness』が発表されましたね。

伊東『有翼のフロイライン Wing of Darkness』は、もともと僕がUNTIESで担当していたプロジェクトだったのですが、残念ながら新規コンテンツ展開が難しい状況になったんですね。そんなときに、ちょうどクラウディッドレパードエンタテインメント設立の話があって、陳に相談したところ、「やりましょう!」と即決でした。陳の考えていた方向性とビジョン、クオリティーに対するこだわりなどを考えると、『有翼のフロイライン』は、クラウディッドレパードエンタテインメントの展開と合致しているのではないかと判断したんです。「世界で売っていく覚悟や自信のある人たちには声をかけたい」との陳の希望にも叶うものでした。

プレイステーション4とSteam向けに2020年に発売予定の『有翼のフロイライン Wing of Darkness』。 経験豊富なスタッフが集結したProduction Exabilitiesによるシューティングゲームだ。

――『Shaolin5/少林五祖』とは、どのような縁で?

『Shaolin5/少林五祖』は、僕が独立したときに、いままで付き合いがあったサードパーティーの皆さんにご挨拶にまわってときに、紹介していただいたタイトルですね。“III(トリプルアイ)”をやりたいと思っていたときに、たまたま運よくご紹介いただきまして。

伊東陳がこの雰囲気のレトロのゲームのテイストを持った作品が好きということもあり、クリエイター陣と気も合ったので、「じゃあ、いっしょにやりましょう」となりました。

僕は、いまでもファミコンの『スーパーチャイニーズ』が大好きですし(笑)。

Nintendo SwitchとSteam向けに配信予定の『Shaolin5/少林五祖』。個性的なシャオリン=ロボットたちを駆使し、コンボや必殺技で敵をなぎ倒していくカンフーアクション。

――今後、どのような“III(トリプルアイ)”タイトルを予定していますか? セレクトの基準はあるのですか?

伊東あります。それは、ちょうどクラウディッドレパードエンタテインメントが目指すところと合致するかもしれません。端的に言うと、“世界中に自慢したくなるような個性の突出したタイトル”です。メンバーで相談しながら、作品性であったり、メッセージ性などの部分で共感できる作品に対しては、広くサポートしていく予定でいます。ですので、逆にジャンルは絞っていません。

いちばん大切なのは、「自分たちの手でそのコンテンツに何を与えられるか」ですね。自分たちが加わることで、ユーザーさんにより楽しんでいただけるようになるのかという点を重視しています。それで自分たちにできることがあったら、関わっていく感じです。

――ローカライズに関しては、社内でクオリティーコントロールできる人が専任でいらっしゃるとのことですが、“III(トリプルアイ)”ではどうなのですか?

同じです。“III(トリプルアイ)”も全部見ています。自分は、ローカライズをやっていたときはクオリティーにうるさくて、ちゃんとしたものじゃないと絶対に発売させなくて、昔は上からけっこう怒られていたのですが(笑)、そのスタンスは変わらないです。

伊東“III(トリプルアイ)”に関しては、タイトルのクオリティーを上げるための提案は積極的にしていきたいです。社内にゲーム開発歴のある専任のプロデューサーに入ってもらいましたので、そのためのバックアップの体制も整えました。

社内には技術陣もいますので、開発に関してもサポートしていきます。小規模開発で開発するにあたって困ることのひとつが、プレイステーション4版やNintendo Switch版を作るときにどうすればいいのかという状態になることが多いのですが、そういった、家庭用ゲーム機での展開に対するアドバイスもしっかりとやっていきます。クリエイターの皆さんが作りたいものに専念できるサポート体制に注力したいですね。

――2020年はこれくらいパブリッシュしたいといった目標はありますか?

あったんですけど、会社を設立して半年間はひとりでやるつもりだったので、ささやかなものでした(笑)。

伊東状況としては、1年経たずにかなり進んでしまいましたね(笑)。

まずは、自分ひとりで『イースIX -Monstrum NOX-』ができれば御の字だと思ってスタートしてみたら、たくさんのスタッフが会社に入ってきてくれまして、予想以上に早いスピードで進んでいます(笑)。

――想定していなかったのに、たくさんの人が加わってくれたんですね。

やっぱりご縁があったからですね。スタッフはもちろんですが、日本ファルコムさんや角川ゲームスさん、ディースリー・パブリッシャーさんといったパートナーとなってくださった皆さんにすごくよくしていただきまして、SIEさんからも流通やマーケティングなど、たくさんの面でご支援いただきました。僕は貪欲な人間なので、「やれると思ったらやる」みたいになって、2月の発表会では立て続けに11タイトルを発表させていただいたのですが、当初はそこまでタイトルを増やしていいものかどうか、全員から反対されました(笑)。

伊東「対応する体制は大丈夫かな?」という点で心配だったのですが、幸い優秀なメンバーが集結してくれているので皆のノウハウを総動員しつつ、人員を増やしてカバーするつもりです。

――いま、スタッフはどれくらいなのですか?

いまは10人ですね。今後も順次増やしていく予定でいます。

伊東SIE時代もそうだったのですが、陳はやりたいことに対して、本当に貪欲なんですよ。ただ、コンテンツに対する理解も深くて、陳を頼ってくれるクリエイターさんも多かったんです。SIEのときも「陳さんだから……」ということで、IPを預けてくれるパートナーさんもたくさんいました。それが、いまの会社の骨格になっていることは間違いないです。

――最後に、今後に向けての抱負をお願いします。

伊東僕自身は、SIEの時から約20年間にわたってゲームをプロモートする仕事を中心にゲームのビジネス化に向けた仕事をしてきたのですが、大事にしてきた信念は変わりません。クラウディッドレパードエンタテインメントでも、そのノウハウを活かして、斬新なタイトルや個性的なクリエイターさんにスポットライトが当たる手助けをしていきたいです。

僕は子どものころから、こんなにもたくさんのゲームを気軽に遊べる日本のユーザーさんをうらやましく思ってきました。いつかアジアのユーザーにもそのような環境を提供したいとの気持ちから、この20年間SIEでがんばってきたという一面はあります。いまようやく、アジアでも現地の言語によるタイトルがラインアップされるのが、当たり前の時代になってきました。今後はさらにワンステップアップして、今度は日本のユーザーの皆さんに、欧米や中国、アジアの新しいコンテンツをお届けしたいと考えています。何を提供するかはまだお話しできませんが、とにかく日本のユーザーの皆さんに楽しんでもらえるゲームを紹介できればという思いで準備をしています。自分たちも自信を持ってお届けしていきますので、応援のほど、よろしくお願いします。