2020年2月3日、新たなインディーゲームパブリッシャーが始動した。その名は株式会社Phoenixx(フィーニックス)。代表取締役社長/CEOを務める坂本和則氏は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)によるインディーゲームレーベルUNTIESの責任者を担当していた人物だ。しかし、SMEはUNTIESのインディーゲーム事業において、今後新規タイトルの販売を行わないことを決定。その事業を一部継続すべく坂本氏が設立したのがPhoenixxとなる。
 不死鳥(phoenix)にその名が由来する新会社は、今後どのように羽ばたこうとしているのか? ここでは、Phoenixxの中核を担う4人のキーパーソンに話を聞いた。

坂本和則氏(左からふたり目)

Phoenixx 代表取締役社長/CEO
インディーゲームクリエイターへの共感からSME在籍時にUNTIESを立ち上げ、2020年にPhoenixxを本格始動させる。

ジョン・デイビス氏(右端)

Phoenixx G&R/イベントプロデューサー
海外タイトルの選定を担当する。海外インディーゲームデベロッパー間で大きな存在感を誇る。BitSummitの理事でもある。

永井敏幸氏(左端)

Phoenixx エグゼクティブスーパーバイザー
大手パブリッシャーに所属するなど、20年以上に渡る渡る豊富なゲーム業界歴を誇る。海外企業の窓口として、Phoenixxをサポートする。

岩崎真理氏(左から3人目)

Phoenixx 執行役員/ジェネラルマネージャー
UNTIES時代に引き続き、オペレーション全般を担当する。開発会社とのあいだに入り、クリエイターからの信頼も極めて厚い。

インディーゲームクリエイターのアツい思いに刺激を受けて……

――まずは、Phoenixx立ち上げのいきさつを聞かせてください。

坂本2017年10月にUNTIESを発足して2年あまりが経つのですが、グループ全体としてのゲームビジネスの兼ね合いもあり、“UNTIESの事業を積極的に拡大しない”という判断になりました。ただ、その時点ですでにUNTIESとして契約していたタイトルも複数ありました。それらのタイトルを放り投げて……というわけにもいかず、 「どうすればいいのか?」ということで、最終的に判断したのが、僕自身が事業を継承して、UNTIESでしていたサポートを新会社でもそのまま継続するというものでした。それで昨年の9月以降、SMEと話し合いを重ねて、円満にPhoenixxをスタートさせることができました。

――坂本さん自身には、インディーゲームから手を引くという判断はなかったのですか? UNTIESを設立する前は音楽レーベルを担当されていたわけで……。

坂本正直、その選択肢はありました。ただ、2年以上事業を展開していると、インディーゲームクリエイターさんとも仲がよくなりますし、彼らがどのような思いでゲームを作っていて、どのような未来を思い描いていたかについても感じるところはありました。できるだけクリエイターを傷つけないようにするにはどうするかを考えている時間が長かったです。

――やはりインディーゲームを!との思いがあったわけですね?

坂本まあ、ちょっと気取った言いかたになりますが、僕もインディーゲームのクリエイターが世界に飛び出す夢を見たくなった……といったところでしょうか。

――それだけ、インディーゲームに魅せられてしまったということなのかもしれませんね。

坂本とはいえ、僕ひとりではどうにもならないんですよ。クリエイターさんはうちのスタッフをとても信頼してくれていて、ジョンや永井、岩崎とだったら仕事をしたいという方ばかりです。これまでいっしょにやってきたメンバー抜きにしては、新会社はありえない。そういう意味では、ほぼすべてのスタッフが継続してPhoenixxで仕事をすることを選んでくれたのは、とてもうれしいことでした。

――皆さんは、UNTIESがそういう方向性を選択されたことに対してどう思ったのですか?

永井始めはただただびっくりしましたし、「残念だな」というところが正直ありました。ただ、「継続してやりたい」といってくださるクリエイターさんも多く、皆さんといっしょに続けられることは非常にうれしいなと、すぐに前向きな気持ちに変わりました。

岩崎私もとても残念な気持ちが強かったのですが、UNTIESでの2年あまりの日々の先を見られる場所があるなら、付き合っていこうと、思っていました。

ジョン突然こうなったことにはびっくりしましたが、僕もこれでいいのかなと思っています。メリットもあるわけで……。たとえば、大きな企業の中では、スピード感が足りないところがあった。契約ひとつとっても、かなり時間がかかってしまったんですね。これは、インディーゲーム業界のやりかたに慣れていないというのもあると思うのですが、海外のスピード感に追いついていかなかった。そのへんに今後対応していけるようになるのではないかと思っています。

――現状UNTIESタイトルとしてアナウンスされているものは、今後どうなるのですか?

坂本それは、開発スタジオさんの判断にお任せしています。ご自身でパブリッシングされる方針の方もいますし、Phoenixxでごいっしょしてくださるデベロッパーさんもいらっしゃいます。いずれにせよ、僕たちとしては、UNITESのときと変わらず、全力を尽くしてサポートさせていただくつもりでいます。一方で、すでにUNTIESブランドで発売されたタイトルのサポートは当面のあいだ継続されますので、UNTIESタイトルを購入された方もご安心ください。

デベロッパーとの信頼関係を糧に

――UNTIESの2年半での日々があってこそ、これからのPhoenixxの展開があるわけですが、この2年半で得た手応えを教えてください。

坂本僕は、数年前にソニー・ミュージックエンタテインメントからソニー・インタラクティブエンタテインメントに出向しているあいだにインディーゲームに出会ったのですが、少人数で独創的なものを作っていくクリエイターさんたちに深い共感を覚えました。一方で、これだけ才能豊かな人たちがいるのに、つぎのステップをどう踏んでいくかわからないのでは……との印象も受けたんですね。クリエイターがステップアップして、2作目、3作目を作れるようにするにはどうしたらいいのか……ということで、“マルチプラットフォームで出す”ことと、“それをグローバルでサポートしてあげること”が、我々にできることだと思ったのが、UNTIESを始めるきっかけでした。ソニー・ミュージックエンタテインメントでUNTIESをやれたことは、画期的なことだったと思っています。
 で、この2年半クリエイターとお付き合いしてきて実感したのは、ゼロからイチを生み出す人たちの凄みです。そんなクリエイターに敬意を表して向き合うことが大事だなと。そうして向き合えばおのずとしっかりとやっていけるということですね。

永井実際のところ、インディーゲームクリエイターはエネルギーの塊ですよね。みなさんとんでもない熱量を持っていて、主体的に自分たちのやりたいことに取り組んでいる。その分、好きなものにワァと行ってしまう傾向があると言えるかもしれません。私自身は20年以上前からゲーム業界に関わっていて、2年前にインディーゲームに興味を持って坂本さんのお手伝いをすることになったのですが、とにかく彼らの熱気に触れて、「これはしっかりサポートしていかなければならないな」と思ったんです。その思いは、Phoenixxでも変わらないです。

岩崎情熱というか、何か返したくなるような熱みたいなものを、皆さんからはすごく感じますよね。ごいっしょさせていただいているサークルさんやクリエイターさんに、引き続き愛情を注いでいきたいです。

坂本岩崎もそうですが、スタッフそれぞれがクリエイターさんからの信頼も厚くて、一作品が終わってつぎをどうするか……というときに、「引き続き同じ担当にしてほしい」と、強く要望されたりも……。クリエイターさんがいないところでもいっしょに戦ってくれるということで絶大な信頼を得ているんですよね。

――それはいい話ですね。お話をうかがっていると“信頼関係”というのがひとつのキーワードとしてあるような気がしますね。

永井そのとおりです。そのために僕が心がけているのは、つねに正直であることです。とくに悪いことこそ、包み隠さずに正直に伝えないといけないです。悪いことも正直に言うことで彼らも信頼してくれるんです。

ジョン何ができて、何ができないのかをはっきり伝えることは大切ですね。そのうえで、デベロッパーさんの希望を聞いてフレキシブルに対応するんです。一方で、パブリッシャーとしての立場から、しっかりとしたアドバイスをしてあげなければいけないとも思っています。デベロッパーは作りたいもののことだけを考えているから、それ以外のことに目が回らなくなりがちです。「どうやってこのゲームをよく見せるか」といったアイデアをしっかりと練らないといけない。そういった方面に対するサポートも行っていきたいです。

坂本UNTIESの件をお話したとき、多くのスタジオの方が継続していっしょにやってくださることを決断してくださったのは、本当にうれしかったです。それとともに責任感も増しました。一層気合いが入ります。

クリエイターズファーストでインディーゲームを盛り上げていきたい

――それでは今後の話を聞かせてください。Phoenixxをどのようにしていきたいですか?

坂本ジョンがさきほど少し話していましたが、インディーゲームではスピード感が大事だと思っています。物事を決定する際の人数をできるだけ抑えて、フットワークを生かしていきたいですね。一方で、もともと僕がやりたかった、クリエイターの認知度の向上にもさらに取り組んでいくつもりです。“ゲームを作っているのが誰なのか”ということを、しっかりと世の中の人が認識できるようにしたいです。そのひとつの軸として僕がいま力を入れたいと思っているのは、クリエイターをマネージメントする事業です。いまでいうと、エージェント契約に近いものなのですが、たとえば中道君(中道慶謙氏。『Last Standard』や『SMASH HOCKEY』のクリエイター)だったら、中道君というクリエイターを、ゲームだけではなくて、そのほかのアプローチでも世の中に出していく方法を考えていきたいです。

――歌手や俳優などに近いスタンスですね。

坂本そうですね。そして、注目を集めるクリエイターが出てくることによって、彼らのような存在になりたいという子どもたちを増やしたいです。そういった役目も、インディーゲームのクリエイターをやっている以上はあるのではないかなと思っています。すごく大きく言ってしまうと、10年後のゲーム業界のために、新しいクリエイターを日本でも育てたいです。“クリエイターファースト”を根付かせてやっていきたいですね。

――それはとても興味深いですね。

坂本僕は、彼らは天才だと思っているんですよ。ひとりでゲームを作ろうと思うと、脚本も書くし、企画もできる。場合によっては絵も描けるし、プログラムも組めるわけです。これってすごい才能ですよね。「これがすごいんだよ」って言ってあげたいですし、「これを目指そうよ」と伝えていきたいです。子どもたちが目指したくなるような職種にしていきたいです。

ジョンたしかに、クリエイターさんの顔とプロフィールを理解してもらうことは悪いことではないと思います。ゲーム業界では、“この人がこのゲームを作った”と明確にするケースはあまり多くありません。それを認知してもらうことは、クリエイターの地位向上という点からも意義のあることだと思いますね。“その人が作ったゲームだから、フォローする”といったファンが増えていければうれしいですね。

巫女さん作法開発による『幻想討幻経』はPhoenixxでのパブリッシングが決定したタイトルの1本。“東方 Project”二次創作作品の3D空中弾幕ハンティングアクションだ。5月1日にSteamにて配信予定。

――では、Phoenixxのタイトルセレクトの基準を教えてください。

坂本前も今も変わらず、基本的にはみんなでゲームをちゃんと見て、みんなでディスカッションします。ただ、最終的にはプッシュする人が、“本当におもしろいかどうか”という判断に委ねます。その人が推したいゲームのタイプも違うので、多数決とかにするとちょっと違ったことになってしまいますし。

――海外タイトルも積極的に?

坂本そうですね。海外パブリッシャーとの付き合いも強いので、それこそ今後はパブリッシャー単位での契約もありえるのかなと思っています。欧米でリリースされたタイトルのアジア展開をPhoenixxに任せてもらうとか、逆にPhoenixxが手掛けるタイトルの欧米でのパブリッシングをお任せするとか。我々としては、よりフットワークを軽くできると思いますし、いまの時代に見合った契約体系もできるのかなと思います。

永井イギリスやドイツ、スウェーデンのスタジオにもどんどんアプローチしていきたいです。開発費を折半するなど、いろいろなやりかたが幅広くあると思うんです。海外クリエイターと日本のクリエイターでいっしょに何か作るというようなことも、将来的に実現できたらうれしいですね。

『Seven: Enhanced Edition』は、Fool’s TheoryとIMGN.PRO開発による3DアクションRPG。プレイステーション4向けに2020年春配信予定。

――最後に、今後に向けての抱負をお願いします。

岩崎まさに“クリエイターファースト”で、クリエイターの皆さんを第一に安心と信頼でやっていきたいです。

永井Phoenixxが世界中から注目を集めるようなプロジェクトが生み出せたらいいなと思っています。

ジョンとにかくかっこいいゲームを出したいです(笑)。日本の尖ったインディーゲームを世界に紹介したい。日本のクリエイターはあまり海外に出たがらないのですが、海外で評価されるだけのポテンシャルはあるんです。海外で、日本のインディーゲームの存在感を知らしめたいです。

坂本ジョンが言った“かっこいいゲーム”っていい言葉だと思うのですが、僕たちが思うかっこいいゲームを世界に広められたらいいですね。「こんなにすごいインディーゲームがあるんだよ」というのを、世界に教えてあげたい。そのためにがんばりたいです。今後のPhoenixxの展開にご期待ください。