2020年3月23日、room6よりiOS、Android用ソフト『薔薇と椿 ~伝説の薔薇の嫁~』の配信が開始された。 ほのかに格調高いタイトルを持つ同作は、『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』シリーズで知られるNIGORO・楢村匠氏の最新作。楢村氏が2007年にフラッシュゲームとして配信したタイトルを、スマートフォン向けに展開したものだ。

※『薔薇と椿 ~伝説の薔薇の嫁~』Google Playサイト
※『薔薇と椿 ~伝説の薔薇の嫁~』App Storeサイト

[2020年3月23日]配信日の記載に誤りがあり修正させていただきました。お詫びして訂正します。

 『薔薇と椿』の内容をざっくりと説明すると(それは極めて簡単なのですが)、女性どうしがビンタをくり広げるという、ターン制のアクションゲーム。ビンタというテーマに微妙にミスマッチな設定が相まって(高貴な椿小路家の家族による華麗なる愛憎劇が展開される)なかなかにインパクトのあるタイトルとなっている。プロジェクト自体は、フラッシュゲームを遊べる環境がなくなることを危惧していた楢村氏に対して、『サリーの法則』などで知られる京都のデベロッパー、room6から「何かいっしょにやりましょう」と声がかかり、『薔薇と椿』の移植を決めたのだとか。記者がこのタイトルを初めて知ったのは東京ゲームショウ2019の会場においてだったのだが、『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』とのテイストの違いにちょっと驚かされたものだ。

 そんなこんながあって、いよいよ配信日を迎えた『薔薇と椿』だが、楢村匠氏にメールインタビューをする機会をいただけたので、その模様をお届けしよう。

楢村匠氏

NIGORO ディレクター

すべて手書きのアニメーションで、キャラがより生き生きと

――以前ファミ通ドットコムのインタビューに答えて、「子どものころに見た映画やアニメで女性が毎回順番にビンタをしていたのを見て、子どもながらに「何かルールでもあるのかな」と思ったことがきっかけになった」とおっしゃっていましたが、ビンタのどのような点に心惹かれたのですか?

楢村別に心惹かれてはいません(笑)。
 ビンタに限らず、世の中の、ふだんの生活から「おかしいな」と思ったことがいっぱいストックされていて、何か物を作るときにそのいくつかが繋がって形になる感じです。『逆転検事』の御剣が使うロジックみたいな感じ。
 ビンタについてのアイデアは、映画やドラマで見る女性どうしの喧嘩が律儀に一発ずつ交代でビンタしているのがおかしくて。ルールでもあるのか、不意をついて足出せばいいのになんて考えていたものを形にしてます。

――ビンタをゲームに落とし込むにあたって苦労したポイントは?

楢村『薔薇と椿』はビンタよりも先にゲームのシステムのほうが先に思いついています。
 もともとはマウスで遊ぶブラウザゲームとして開発を始めたので、マウスを横に動かすだけで遊べるぐらいシンプルなゲームを作りたい、右手を振る動きが自然に理解できるような設定ってないものかと思っていると、さっきのビンタのアイディアがハマった感じです。
 なので、ビンタをゲームに落とし込む苦労はないのですが、ゲームとしての駆け引きを成立させるのはいろいろと考えました。

――ぶっとんだストーリーは、どのような発想のもとに生まれたのですか? そもそもなぜ、“薔薇と椿”なのですか?

楢村ビンタを交互にやりあって戦うことが不自然に見えない世界観はないものかと考え、まぁ、そんなものはあるはずがないので無理やり作り上げるしかないわけです。取っ組み合いにならずルールを守って交互にビンタするということは、おしとやかな、女流階級の淑女たちがよいのでは……となり、いまのような設定にが生まれました。『薔薇と椿』というタイトルは……自然発生したような記憶がありますね。当時流行っていた『薔薇と牡丹』というドラマは見ていなかったので知らなかったですし。女どうしの戦いってところから出てきた名前だと思います。
 ストーリーのほうはタイトルが『薔薇と椿』に決まってから、自分が薔薇で敵が椿と自然に決まっていったのかな? せっかく聞かれているのに申し訳ないですが、『薔薇と椿』に関してはあらゆるものが自然発生したとしか言いようがなくて。
 確か最初のコンセプトは少女漫画のような絵、昼ドラのような愛憎劇で行こうと思ってがんばってその世界観でストーリーを作っているのですが、3人目あたりで僕の中の少女漫画容量を超えてしまったみたいで。あとは少年漫画のノリに変わっていってしまって、結果変な世界観が生まれてしまったわけです。
 本を読まずに育ってきたので、ストーリー作りってあまり得意ではないです。

――本作のゲーム性はスマホに極めてマッチしているように思われますが(スワイプ操作でビンタをするという操作方法など)、そもそもフラッシュゲームだったものをスマホ向けゲームに落とし込むにあたってはいかがでしたか? 苦労した点などありますか?

楢村自分は職業柄マウスで絵を描くこともあるぐらいで、マウス操作というのは、パソコンを使う人が自然にマスターしているものだと思ってたんです。でもFlash版の攻撃ボタンをクリックして相手の頬までドラッグする動きって難しいという人が多かったみたいで。
 それがスワイプでできるようになると、それこそ誰でも直感的に操作できるようになるわけで、おそらくFlash版と同じ仕組みのままだとゲームとしておもしろくならないと最初から考えていました。
 たとえば敵の攻撃を回避する操作はFlash版では回避ボタンをクリックしてから右にドラッグでしたが、スワイプだとただ右に指を払うだけなので、攻撃回避が誰でもできてしまって、簡単になりすぎると考えました。なので、スマホ版では相手の動きを見てビンタが届く手前のタイミングで回避しないと避けられないようにしました。Flash版に比べてアクション要素が強くなるだろうと予測してシステムを作りました。

――クリエイター目線で、「とくにここは注目してほしい」というポイントをお教えください。

楢村すべて手書きによるアニメーションですかね。
 『薔薇と椿』は十年以上も前の作品で、いまの作品としてリリースするには多少アニメーションさせるぐらいはしないとなぁと思ってました。そこから「主人公がキャラ立ちしてないから時々振り向かせよう」とか「アニメできるなら攻撃パターンを増やせるぞ」とアニメが増えていきました。止め絵でしかなかったFlash版に比べてキャラが生き生きしてるのがわかると思います。

――ちょっと変化球のご質問を。『薔薇と椿』の中で、もっともビンタされたいキャラクターは? その理由ともども教えてください。

楢村大学のころ、芸術祭の出し物で女性にビンタされる役割になった経験があるんですが、痛いです。痛いのキライ。だいたい女にビンタされるって何事か。俺はやり返す。男女平等。左の頬は差し出さん。

――ずばり、ビンタとは?

楢村イエス=キリストは右頬をビンタされて左もビンタされたそうですよ。ビンタは紀元前から続く長い歴史を持つのだ。

『3』までは何とか世に出したい

――本作のさらなる展開などは予定していますか? 続編とか。

楢村Flash版では『薔薇と椿2』がありますし、企画とキャラだけでお蔵入りになっている『3』もあります。ネタレベルでよければ『4』だろうが『5』だろうが、いくらでも作れます。
 ただアニメーションを描く量がものすごいので、すぐにできるわけじゃないですが。それでも不本意に眠ることになった『3』までは何とか世に出したいですね。もともとは『薔薇と椿』本体にシナリオ追加で対応しようと思ってたんですが、アニメデータが大きすぎるので1作ごとにバラバラにリリースすると思います。それもあって今回は“伝説の薔薇の嫁”というサブタイトルがついてます。『2』は“復讐の白い椿”、『3』は“ワールドユース編”です。

――せっかくの機会なので、質問させてください。以前本誌の取材に対して「『薔薇と椿』のスピンオフ作品についても今後展開していくことを検討している」とのことでしたが、いかがですか? 差し障りのない範囲でお答えいただけますと。

楢村言いましたっけ。アニメ作るの大変なもんで。検討するとはいったが実行するとはいっていないッ。
 幻の『3』もそうですが、『LA-MULANA1』のSwitch/PS4版の発売もあるので、セルフスピンオフの『薔薇と椿とLA-MULANA』は何とか形にしたいですけど。
 そんなことより誰かにドラマ化してもらいたいですけどね。藤田ニコルと滝沢カレンクラスのモデルさんがマジビンタしてるようなドラマ。ラスボスはマツコ・デラックスで。

――最後に、本作を楽しみにしているユーザーにメッセージをお願いします。

楢村NIGORO初のスマホゲームで、『LA-MULANA』なんかに比べたら随分小粒な作品です。でもスマホだからと手を抜くことなく、誰でも簡単にできるような難易度にしていないなど、結局いつものNIGORO作品に仕上がってます。今作、ビンタ対決の結果が画面付きでSNSに投稿できるようになっているので、ぜひ勝ち負けの姿を晒してください。