2019年にSteamで配信されるや高い評価を獲得した『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』は、イタリアのゲームクリエイター クリス・ダリル氏制作総指揮によるホラーアドベンチャーだ。カルト的な人間の狂気を描いたストーリー展開や手に汗握る展開、さらには謎解き要素などにより、世界中のホラーゲームファンを喜ばせた(というか、怖がらせたというべきか)。

 この『リマザード』は、3部作が予定されており、シリーズ2作目となる『リマザード:ブロークン ポーセリン』がこの夏配信予定。ファンにはうれしいことに、1作目と2作目がセットになったパッケージ版『リマザード ダブルパック』が、Nintendo Switchとプレイステーション4向けに3gooから発売予定となっている。

 シリーズ1作目となる『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』は、2019年にNintendo Switchでも配信されているが、この度『リマザード ダブルパック』の発売に合わせて、基本的な内容はそのままに、大幅な改良を加えたリマスター版として蘇生。パッケージ版のリリースに先駆けて、Nintendo Switch版は『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ リマスター』として、プレイステーション4版は『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』として、2020年3月19日に配信されることになった。価格は各3200円[税抜](各3520円[税込])。

 ファミ通ドットコムでは、そんな注目度も高い『リマザード』シリーズを手掛ける、原作者・ディレクターのクリス・ダリル氏と、開発元であるStormind Games(スターマインド ゲームズ) CEO アントニオ・カンナータ氏へのメールインタビューをお届けする。

 ちなみに、記者は『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』リリース前の2018年に、クリス・ダリル氏にインタビューをしていたようで、気になる方はそちらもご一読してみてくださいませ。

『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』

『リマザード』のクリエイターを直撃。とにかく怖いサバイバルホラーはどのようにして生まれたのか?_05

 本作の舞台となるのは、外界から隔絶されたフェルトン家の屋敷。プレイヤーは医師であると偽って屋敷に潜入した女性ローズマリーとして、とある目的のために屋敷を探索していくこととなる。しかし、そこには彼女の命を狙う殺人鬼の姿が……。人間の狂気を描く物語、随所に散りばめられた謎、計算し尽くされた演出など……極限の恐怖がここにある。

 日本のホラーゲームから強い影響を受けたという本作。とくに『クロックタワー』の影響が濃く、基本的に攻撃手段を持たないローズマリーは、頭脳や周囲の環境を利用して、殺人鬼の追跡をやり過ごしつつ屋敷を探索していく。

 サウンドトラックを手掛けるのは音楽プロデューサー戸田信子氏と作曲家ルカ・バルボーニ氏だ。

『リマザード:ブロークン ポーセリン』

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 シリーズ2作目では、不気味なホテル“アッシュマン・イン”を舞台に経営者一家の秘密が描かれる。前作に登場した人気キャラクターに加えて、ホラーの名作にインスパイアされた新たな人物も登場
し、物語は没入感を増しつつ、さらなる深淵へと踏み込んでいく。また、謎解き要素の歯応えが前作から大きく増加していることも特徴のひとつ。より緊張感と満足度の高いプレイが楽しめる。

 本作では、評価の高かった前作以上に、物語に力が入れられている。フルアニメーションのムービーシーンもその演出のひとつで、命を吹き込まれた魅力的なキャラクターたちが、プレイヤーを作品にのめり込ませてくれるはず。

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クリス・ダリル氏。
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アントニオ・カンナータ氏。

クリス・ダリル氏

Darril Arts 『リマザード』シリーズ原作者・ディレクター

アントニオ・カンナータ氏

Stormind Games CEO

サバイバルホラーのキモは、現実にありそうな状況を創造すること

――まずは、『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』を開発するに至った経緯をお教えください。

クリス『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』は『リマザード』トリロジーの第1作目です。メインキャラクターであるローズマリー・リードは、リチャード・フェルトンと彼の屋敷周辺に潜むすべての人物に関わる深い謎を探ることを決意し、絡み合う嘘や悪意、死と血のゲーム、分かれと遠い記憶を見つけていくことになるでしょう。
 このストーリーについて考え始めたのは、かなり前の2009年のころで、当時私はまだ高校生でした。そしてビデオゲームや映画の分野においてスキルを磨き、チームリーダーとして貴重な経験を積んだのち、私は自分の作品を作り始めることを心に決めて、3人の非常に親しい友人とDarril Arts社を立ち上げたんです。そこからすべてが始まりました。まず、プロジェクトの全貌を書き直し、デザインし直してから、Stormind Gamesにいた友人にプロジェクトに参加してほしいと要望をして、パートナーとしてこのゲームのための協業が始まりました。本作は予想を遥かに上回る成功となり、いま第2作目となる『リマザード:ブロークンポーセリン』も仕上げの段階に入っています。

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『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』

――“サバイバルホラー”ということで、とくに注力したポイントはどのへんになりますか?

クリスサバイバルホラービデオゲームは、驚かされるだけの恐怖が体験できるのではなく、日常における何か特別な状況を切り抜けるときの、自分の現実的な能力について考えさせるべきだと思っています。
 ホラー映画やビデオゲーム、マンガなどは、すべて典型的な展開があって、これについて考えてみるとおもしろいのですが、主人公が正しい選択をして単に生き残ることを期待しながらスタンダードなホラー映画を見る人はいないですよね。誰かが愚かな行いをするのを待ちつつ、びっくりする瞬間を期待しているはずです。
 よいサバイバルホラーゲームのポイントは、誰でも共感できる、もっともらしい、現実にありそうな状況を創造することだと考えています。

――ほかのサバイバルホラーにはない、本作ならではの特徴として、注目してほしいポイントは?

アントニオ『リマザード』の優れた点はこのジャンルにおけるユニークな体験を創出することと“ピュアでリアルなサバイバルホラーゲーム”という定義を貫こうと努めた結果です。登場人物たちはとてもユニークで、彼らの行動は現実世界と同じ状況にある場合に実際にできることを反映しています。また、武器で戦うことはできませんが、周囲にあるオブジェクトを使って自分自身を守る必要があります。
 サバイバルホラーゲームを知っている人なら、『リマザード』が属する同ジャンルのほかのタイトルにはない特徴を持っていることに気づいていただけるでしょう。

――“恐怖”を演出するために、とくにユーザーに見てほしい点はどこですか?

クリス私は映画とビデオゲームの両方でホラーのジャンルをつねに楽しんでいるファンのひとりですが、血が滴るような残虐系やビックリさせるような陳腐な表現はあまり好みません。
 人々を心の底から恐怖に陥れるのは、実際に起こってしまうかもと想起させられることです。モンスターやありそうもない空想ではなく、自分にも起こるかもしれないという恐れを感じられてこそ恐怖たらしめると思っています。

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『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』

『リマザード』シリーズは、『クロックタワー』の精神的な後継作

――本シリーズで、クリス・ダリル氏の世界観をゲーム化するにあたり注力したポイントをお教えください。また、とくにクリス・ダリル氏がこだわったのはどのような点ですか?

アントニオStormind Gamesの役割は、クリスのアイデアを形にすることだと考えています。Darril Artsが我々に企画書を見せてくれたとき、我々の目的はその企画のすべてをゲーム内でプレイ可能にすることでした。
 環境からアニメーション、ゲームプレイメカニクスに至るまで、最初はすべてクリスがデザインしました。そしてこれらのアイデアがゲーム開発の段階において、細かい調整を行い、企画書にあったすべてのピースやイラストレーションがベストな形でゲームに再現されるようクリスといっしょに確認をしながら進めていきました。
 私はクリスのこともよく知っていますし、彼がゲームのあらゆる面に理解がある一方で、映画撮影技術と脚本の面で弱点があることも知っていました。これらのふたつのおもな面は彼が非常に重要視している点です(彼はゲーム内のアニメーションのモーションキャプチャーで実際に演じているのです)。
 クリスのおかげで、ストーリー展開における確かなアイデアを形にするためにともに働き、アセットクリエイションとゲーム開発のさまざまな分野でそれぞれの専門知識を発揮できる才能あるStormindのチームが、ゲームプレイのプログラミングを行うことに集中できたのです。イタリアの才能ある人々と作品を作り上げることができたのが本当に素晴らしい体験でした。

――音楽プロデューサーに戸田信子さんを起用した理由をお教えください。彼女のサウンドは、『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』にどのような効果をもたらしましたか?

クリス戸田信子さんは真のプロフェッショナルです。彼女は私をBAFTAアワードの審査員に推薦してくれた人でもあります。私にとってはいくら感謝してもしきれないような存在です。
 彼女とは、『NightCry』でいっしょに仕事をしたことがきっかけで友だちになりました。そして『リマザード』のプロジェクトで作曲家としてコラボしてほしいとお願いしたんです。彼女の仕事は間違いなくこの作品に “魂”を吹き込み、私が求め続けてきたものをカタチにしてくれました。そしてホラーゲーム史上最高のサウンドトラックのひとつとして認知されることができました。それからすぐに彼女は偉大なアーティストであるルカ・バルボーニに合流したほか、アカデミー賞受賞アーティストであるハンズ・ジマー(『グラディエーター』、『インセプション』、『ライオンキング』)とも共演しています。

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『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』

――本作を開発するにあたって、インスパイアを受けたゲームまたは映画などはありますか? あるとしたら、どのへんに影響を受けたかもお教えいただけるとうれしいです。

クリスはい、私は大の映画ファンですので、映画からの影響は否定できません。ホラー映画からの影響についてお話すると、B級ホラー映画や無意味にビックリさせるもの、拷問系を楽しんだことはありません。それより、もっと象徴的なサイコスリラーや複雑なホラー映画、監督作品を好みます。作品で言うと『ジェイコブス・ラダー』、『ナインスゲート』、『ローズマリーの赤ちゃん』、『ヘレディタリー 継承』、『マルホランド・ドライブ』、『サイコ』、『羊たちの沈黙』などですね。
 ビデオゲームの世界において、『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』は『クロックタワー』の後継者として認知されています。『クロックタワー』は『サイレントヒル』、『DEMENTO』、『ルール・オブ・ローズ』とともに、私に大いなるインスピレーションを与えてくれました。

――海外で高い評価を得た本作ですが、どのような点がとくに評価が高かったのでしょうか? また、印象的なフィードバックなどありましたら、お教えください。

アントニオサバイバルホラーの大作登場から長い時間が経っていたためか、ゲーム自体は非常に好意的に受け止めてもらえたと思います。
 発売後、『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』の精神を受け継ぐものとして称賛していただけたことと、いくつかの賞を受賞したことで、史上最も恐ろしいゲームのひとつとして過去5年間で最高の心理的ホラービデオゲームのひとつにリストされました。
 サバイバルホラーを知っているすべての人々は、『リマザード』がそのニッチを探求し、同ジャンルにおいて異なる特徴を放っていることを発見してくれたでしょうし、これからも見つけてくれることでしょう。

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『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』

『リマザード:ブロークン ポーセリン』はさらに不気味な仕上がりに

――前作の好評を受けて、2作目にあたる『リマザード:ブロークン ポーセリン』の開発は、どのようなコンセプトで進められたのですか? 前作から受け継いだ点と、ユーザーのフィードバックを受けて変更した点などをお教えください。

クリスキーコンセプトは、最初の『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』を特徴づけるコンセプトと同じです。ステルスとかくれんぼの要素を備えたアクションアドベンチャーであり、まるで映画を観るような強いインスピレーションと心を揺さぶるドラマがあります。

――両作に流れるテーマをお教えください。

クリスふたつの作品には紛れもなく共通した世界観があります。『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』の謎解決を経験している人は、そこで得た知識を『リマザード:ブロークンポーセリン』での謎解きに生かすことができるはずです。
 とはいえ、このふたつのタイトルは完全に異なる物語で構成されていますから、環境や登場人物、ストーリーをまったく新しいゲームとして楽しむことができることでしょう。
 とにかく、設定は異なるものの、『リマザード:ブロークンポーセリン』の舞台であるアシュマン・イン(ホテル)が『リマザード:トーメンテッドファーザーズ』の舞台であるフェルトン邸よりも怖くないなんてことはありません。どちらかというとアシュマン・インは、この場所の周囲に潜むかなり興味深い人々のおかげでさらに不気味な仕上がりになっていると言っておきます!

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『リマザード:ブロークン ポーセリン』

――少し気が早い話なのですが、3部作に最終作はどうなりそうですか?

クリスストーリーやキャラクター、基本的なゲーム構成についてはすでに構想ができています。ただ、おっしゃるとおりシリーズ3に言及するのはまだちょっと早いですね。こちらについてはさほど遠くない未来にお話できると思います。いまお伝えできるのは、シリーズ1と2同様の世界に設定されており、ステルスとサバイバルが重要な役割を担います。もちろん緊張や恐怖もたっぷり盛り込まれるだけではなく、『リマザード:トーメンテッド ファーザーズ』と『リマザード:ブロークンポーセリン』のスタイルのようにプレイヤーは考えさせられ、逃げ回ることを余儀なくされます。ほかにシリーズ3作目についてチラッとお話できることがあるとすれば、主人公はシリーズ初の男性になる可能性もあると思っている、ということですね。

――『リマザード』の2作がパッケージになって、日本でも発売されます。最後に、本作を楽しみにしている日本のゲームファンにメッセージをお願いします。

クリス本作は日本のプレイヤーから非常に高い評価を得ていると認識しています。私自身も日本の文化を愛してやまない人間のひとりですので、このゲームがついに日出ずる国でパッケージ版として製品化され、デビューすることを非常に誇りに思います。
 発売を控えたいまは、これから本作をプレイするであろう皆さんが、登場人物とともに冒険をしてくださることに心からのお礼を伝えたいと思います。

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『リマザード:ブロークン ポーセリン』