インディーゲームを発信するPC向けプラットフォーマーにして、近年はパブリッシングにも積極的に取り組んでいるPLAYISMが2020年早々から元気だ。年明け2020年1月14日に配信されたSteam用ソフト『Orangeblood』を筆頭に、この1、2月だけでも6タイトルをリリース予定。現時点でも2020年リリース予定タイトルが12本ラインアップされているのだ。果たしてPLAYISMの2020年の戦略は? PLAYISMを一手に取り仕切る水谷俊次氏に聞いた。

水谷俊次氏

PLAYISMの事業を取りまとめる。

今後の生き残りのカギは“投資”と“育成”

――まずは、2019年のPLAYISMを振り返ってみての手応えを教えてください。

水谷PLAYISMは、ここ数年積極的にパブリッシングに取り組んできたのですが、個人的には「このままでいいのか」というためらいもあったんです。いまって、パッと出てきたタイトルを獲得して売るという構造が主流で、言ってみれば、たまたまいいゲームが出てくるのを待っているという状態なんです。さらには、この“たまたま出てくるものの奪い合い”が、パブリッシャー間でけっこうたいへんで……。

――たしかにここ数年インディーゲームのパブリッシャーが増えていますね。

水谷さらに言えば、日本のインディーゲームシーンは、海外に比べるとまだまだ層が薄い。海外はインディーゲームの分母が大きいので、トップのほうもすごいタイトルが多い。さらに聞いてみると、海外では助成金を出したりする国もあり、投資の仕組みがしっかりしているんですね。オフィスも無料で貸してくれたりするし、パブリッシャーも投資をしている。「これは、PLAYISMも投資をしないといけないのかな」と思い始めたんです。PLAYISMはお金のない会社なのですが(苦笑)、ここ数年で出た多少の利益を活用すべきではないかと。

――つまり、インディーゲームクリエイターの育成をすべきだという発想ですね?

水谷はい。ちょうど2年くらい前ですね。日本のインディーゲームを見ていると、「もう少し時間をかければいいモノができるのでは?」と思われるタイトルも多々ありました。ただ、ホビークリエイター的な立ち位置の方もけっこういて、その人たちは逆に投資をされても迷惑なだけだったりもするんです。そんなときに、Twitter上でたまたまとあるゲームを見つけたんですよ。当時そのクリエイターさんはコンビニでバイトをしながらゲームを作っていたのですが、「これはハマるかもしれない……」と思って、その人に2年間の生活費をPLAYISMが出して、ゲーム開発に専念してもらったんです。大した額ではないのですが……。それでできあがったタイトルが1月にリリースした『Orangeblood』です。

――ああ、そうなのですね。

水谷ワールドワイドでリリースしたのですが、おかげさまで日本国内での評判がとくによくて、売上的にも期待以上の状態になりました。“日本のインディーゲームシーンのレベルを上げる”と言うと相当おこがましいのですが、「我々ができることって何だろう?」という葛藤に対するひとつの成果が得られたと手応えを感じています。それとともに、ある程度時間をかければゲームはよくなるということがわかってきたので、つぎに来るべき作品にも活かしていきたいと思っています。“PLAYISMがインディーゲームシーンに何か貢献できる可能性がある”とわかってきたのは正直うれしいです。

『Orangeblood』は世界とキャラクターが緻密なドット絵で描かれたJRPG。1月にSteam版が配信され、Nintendo Switch版とプレイステーション4版、Xbox One版は2020年発売予定だ。

――それにしても、Twitterの映像を見ただけで、その人に張るというのはすごい勇気ですね。

水谷Twitterの映像を見ただけで8割方「投資する!」と決めていましたからね。ふつうの企業できないことなので、社長には感謝しています(笑)。勉強になった今回の『Orangeblood』ですが、いろいろと気づきもあって、開発を手掛けたgrayfaxsoftwareさんはすごく孤独に作っていたんですね。翻るに海外では開発のノウハウは共有されているのですが、当然情報は全部英語なので、日本語になると当然資料なども減りますよね。『Orangeblood』は『RPGツクールMV』で作っているのですが、こちらからノウハウの共有をもっとしていけば、もっと早くよりよいものができたのではないかと思ったりもしました。

――つまり、育成に力を入れていかなければいけないということですね?

水谷そうですね(笑)。どのように育成していけばいいかというのはまだわからないのですが、“何をしたらいいか”というのは何となくわかってきました。

――ちょうどPLAYISMが家庭用ゲーム機向けのパブリッシング事業を始められた2017年にお話をうかがったときに、「パブリッシャーとしてやっていくか、違う道を模索するか悩んでいる」といった趣旨の発言をされていて、「PLAYISMだからこそのプラスの要素」を模索しているとおっしゃっていましたが、それに対する答えのひとつが、投資であり、育成ですか?

水谷いまや、海外のインディータイトルを持ってきて、日本語化してNintendo Switchやプレイステーション4向けにパッケージで出せる会社はかなり増えてきたので、同じことをしていたら死んでしまうというのは、当時から危惧していました。育成というのは、ひとつの答えであるかもしれません。

――プロデュース的なことも方向性としておっしゃっていましたね。

水谷昔『LA-MULANA』をリリースしたときって、そもそも“神ゲー”としてやってきたので、プロデュースも何もなかったんですけどね(笑)。『LA-MULANA』はリリースのサポートだけをやっていたのですが、いまはいろいろなゲームが出るようになって、来たタイトルをただ単に出すだけではダメになって、より広い方向からインディーゲームシーンを支えていかないと、2~3年後がすごくしんどくなるんだろうなとは思います。そういった意味で言うと、今後はクリエイターに対しても、助言とかはすべきなのかなと考えています。

――これまでゲームクリエイターに対して助言とかは?

水谷あまりしてきませんでした。ここへ来て、しなければいけないなと、やっと思い始めました。

――これまであまりしてこなかったのは、やはり作り手のクリエイティビティーを大切にしたいとの思いによるものですか?

水谷そうですね。僕らにしても、いちプレイヤーとして遊んだときの触り心地やユーザービリティというとは少なくともあって、「オプションはこうしたほうがいいですよ」に始まり、「ここが急に難しい」とか、「システムが分かりづらい」といった、手触り部分のフィードバックはお返しするようにしています。

――それは、今回『Orangeblood』を展開してみて、得たノウハウのひとつということですね? ちなみに、パブリッシャーがたくさん出てきているという状況は、日本のインディーゲーム業界にとってプラスなのかどうなのか、水谷さん的にはどう判断されていますか?

水谷市場が成熟してる証拠ですからインディーゲーム業界にとってはいいことですが、我々にとっては難しくなる一方ですね……。昔は、「このゲームをアメリカで出したい」となったときに、英語もできないし、コンソールの開発機材もないし、移植のツテもないし……でどうしようもなかったのですが、いまは翻訳会社さんもありますし、フリーの翻訳者さんもたくさんいらっしゃるし、ハードメーカーも積極的にサポートしてくれるしで、セルフパブリッシングでリリースされる方もいます。パブリッシャーの仕事自体がパブリッシングだけだと、いらないわけですね。ですので、みんなどうやって生き残ろうかなということは、皆さん割と困っているのではないかなと思っています。

――存在意義が問われているということですね。

水谷そうです。ちょっと前までは「ウチはパッケージ版を出せるぜ」という手があったのですが、それもちょっとブームになって、いまふつうになってしまいました(笑)。では、どうやって差別化していくのだろうというのは、みんな困っていると思います。

――その差別化のひとつの方法論が育成だということですよね?

水谷そもそも僕らはインディーゲームシーンに貢献し続けないと存在意義もないし、僕らはそっちに行くしかないと。たぶんこのままふつうにやっていくと、ミニマムギャランティーの払い合いみたいなことになると思うんです。我々はそれに乗れないのと、そういう話になった瞬間に個人的に気持ちが冷めてしまうので、そういう戦いではないところで生きていきたい。当然、お金の戦いで勝ち残れる会社もあるのでしょうけれども。僕たちはそこでは戦えないから、違うところで勝負していきたいです。

――『Orangeblood』は2002年リリースのタイトルになるわけですが、2019年はPLAYISMにとってどのような年だったのですか?

水谷投資や育成の仕込みというのは言えるかもしれません。『Orangeblood』のほかにも、『OUTRIDER MAKO ~露払いマコの見習い帖~』も同じような座組みのタイトルで、その流れで言うと、『Bright Memory』が売れたのはかなりうれしかったですね。

――『Bright Memory』も投資したタイトルになるのですね?

水谷当初投資は日本のタイトルだけにしようと思っていたのですが、「国内タイトルだけにこだわっていても……」ということで試しに実施した形ですね。

――『Bright Memory』はどのような経緯で見つけたのですか?

水谷中国のインディーゲームは、いま急角度でぐんぐんとクオリティーが上がっていて、中でもSteamで話題になったのが『Bright Memory』でした。とにかくずば抜けてすごくて、しかもあのクオリティーのタイトルをほぼひとりで作り上げているという。「この人と何とか連絡できないかしら」と、うちの中国人スタッフにお願いして、なんとかコンタクトが取れました。『Bright Memory アーリーアクセス』が大ヒットしたのは、2019年で手応えが感じられたことのひとつでしたね。

――中国は、インディーゲームの人材の宝庫みたいなところはあるのかもしれないですね。

水谷ちなみに、『Bright Memory アーリーアクセス』は、PLAYISM側で初めて声優さんを起用して入れたタイトルなんです。

――あら。石川由依さんですよね?

水谷はい。オリジナルの中国語版『Bright Memory アーリーアクセス』にボイスが付いていたのですが、それが、僕が聞いても何かちょっと弱いなというか。聞けば、開発のFYQD-Studioさんは知り合いをたどって音声収録ができるところを探して、そのころはお金がなかったから、格安で受けてもらったとのことだったのですが……。

水谷それで中国以外でなかなか売れなくて困っているという話だったので、中国語ボイスだけだとそりゃきびしいから、まともな英語と日本語ボイスを入れたらいいんじゃないかということで、日本語は石川由依さんにお願いしました。僕はこれまでゲームにボイスはあまりなくてもいいかも……と思っていたのですが、石川さんの音声は『Bright Memory アーリーアクセス』の完成度を高めてくれたので、あっさりファンになりましたね。

2019年に配信された『Bright Memory アーリーアクセス』が好評を博したFPS。中国人クリエイターがほぼひとりで作り上げた。2020年には完全版となる『Bright Memory: Infinite』がリリース予定。

海外展開も視野に入れつつ2020年は“飛躍の年”に!

――そんなPLAYISMですが、2020年はどんな年になりそうですか? なんて改めて聞くとお答えしづらいかもしれないですが……。

水谷ベタですけど、“飛躍の年”ではないでしょうか。

――おお、勇ましい! 今年は何タイトルくらい予定しているのですか?

水谷20タイトルくらいですかね。現時点で発表されているタイトルで、とくに個人的に楽しみにしているのは『OMORI』です。『OMORI』はロザンゼルスの新進気鋭のサブカルチャークリエイター集団“OMOCAT”が手掛ける初のゲームタイトルなのですが、印象的なことがあって、「PLAYISMなんですが、パブリッシャーをやらせてくれませんか?」とオファーしたらすごく喜んでくれたんですよ。PLAYISMというブランドの知名度が、パブリッシャーとして海外でも上がっているんだなと。

――それは、海外タイトルを獲得しやすくなってきたということですね。

水谷そうですね。これはユーザーさんにはほとんど関係ないのですが、いままでPLAYISMは海外タイトルに関しては、日本でのみ販売権利を持っているという契約だったんですね。それが『OMORI』にしても『Bright Memory』にしても、グローバルでのパブリッシング権利を取得しているんです。これはもともとPLAYISMが“日本人が作ったタイトルを世界で売り出す”という方針だったことの延長線上にあることだと思うのですが、世界に向かって展開できる。最近では、ヨーロッパや南米で開発されたタイトルもワールドワイドでのパブリッシングの権利が取れているので、世界的なヒット作が生まれる可能性もあるのかなと期待しています。

奇妙で夢のような精神世界が映し出されたホラーJRPG。ロサンゼルス新進気鋭のサブカルチャークリエイター集団“OMOCAT”が開発を手掛ける。

――世界に展開する“飛躍の年”でもあるというわけですね。ちなみに、パッケージ化にも積極的に取り組むのですか?

水谷はい。チャンスがあればやっていきたいです。「これがお店の棚に並んだらおもしろいだろうな」というのを出そうかと思っています。現段階では、3月19日にリリースされる『Subnautica サブノーティカ』のプレイステーション4版を筆頭に、4タイトルほどが決まっています。

3月19日にパッケージ版が発売されるプレイステーション4用ソフト『Subnautica サブノーティカ』。とある海洋惑星に不時着したプレイヤーが、広大な海を探索して脱出することを目指す海中オープンワールドサバイバルゲームだ。

――ところで、さきほど20タイトルとおっしゃいましたが、まだまだ未発表のタイトルもたくさんあるということですね?

水谷はい。とくにワクワクしているのが、夏くらいにリリースを予定しているタイトルで、すごくおもしろいです! それはすごく期待していていただきたいです。

――ちなみに、日本のゲームファンからの期待値も高い『N1RV Ann-A: Cyberpunk Bartender Action』はいつくらいにリリースされますか?

水谷あれは、2020年には出ないんじゃないかなと……(笑)。

大ヒットを記録した『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ): Cyberpunk Bartender Action』の続編となる『N1RV Ann-A(ニルヴァーナ): Cyberpunk Bartender Action』。発売は2021年以降になりそうな……。

――2020年で何か新しい取り組みなどは予定していますか?

水谷じつはデベロッパー向けのカンファレンスをやりたいと思っています。CEDECのインディーゲーム版みたいな感じですね。そんなに大規模なものにはならないとは思うのですが、カンファレンスをやったらデベロッパーさんに喜んでいただけるのかなと。

――おお、それはすばらしい。

水谷東京ゲームショウ2019で出展したときに、何人かのデベロッパーさんからそういったご要望をいただいたんです。

――それは育成にもつながってきますね。

水谷なかなか踏ん切りがつかなかったのですが、こうして明言したことで、やろうという気になりました(笑)。

――(笑)。最後に、2020年に向けての抱負をお願いします。

水谷PLAYISMのパブリッシングタイトルは、1~2月が新作ラッシュで、3月が少し落ち着いて、4月くらいからまた新作ラッシュと……まあ、考えてみると2020年もつねに新作ラッシュですね(笑)。とにかく、まじめにがんばろうと思います。この業界いろいろとありますが、謙虚にがんばろうと。それがいちばんかもしれません。

PLAYISMリリース予定タイトル(2月22日現在)

1月14日『Orangeblood』Steam
※Switch版とPS4版、Xbox One版は2020年発売予定
1月21日『DEEEER Simulator アーリーアクセス』 Steam
1月30日『Ministry of Broadcast(ミニストリー・オブ・ブロードキャスト)』Steam
※Switch版は2020年発売予定
2月13日『Everything』Steam/Switch/PS4
2月18日『ジラフとアンニカ』Steam
※Switch版とPS4版は2020年発売予定
2月下旬『Soundart』Steam
3月5日『タイニーバン・ストーリー』Switch
3月13日『 ロードス島戦記ーディードリット・イン・ワンダーラビリンスー 』(アーリーアクセス)Steam
3月19日『Subnautica サブノーティカ』PS4
2020年『OMORI』Steam
※Switch版とPS4版、Xbox One版は2020年発売予定
2020年『Necrobarista』Steam
2020年『Bright Memory: Infinite』Steam
2020年『OUTRIDER MAKO ~露払いマコの見習い帖~』Steam
2020年『かおなしのダブル』Steam
配信日未定『N1RV Ann-A: Cyberpunk Bartender Action』Switch、PS4、Steam