ゲームセンターのアーケードゲーム機を巡って、興味深いサービスが開始された。“アケシェア”と名付けられたそのサービスは、アーケードのゲーム筐体をオフィスに貸し出すというものだ。ゲーム筐体は1台から月単位で貸し出し可能で、月10000円~という、低価格でサービスを利用できる。オフィスへの搬出入や月1度のメンテナンスもゲームセンターのスタッフが行い、企業は気軽にオフィスに導入できるようになっている。同サービスを展開するのは、ゲームセンターを専門にマーケティング/PR支援するGCG。ここでは、代表のおくむらなつこ氏に、“アケシェア”の狙いや今後の展望などを聞いた。

おくむらなつこ氏

GCG代表。文化としてのゲームセンターを広めるべく活動。ゲームセンターを女子視点で紹介するブログ“ゲーセン女子”などでおなじみ。別名“年間330日ゲーセンに通うOL”。

ゲーセンに自分の居場所を見つけて……

――まずは、おくむらさんの人となりから教えていただてもいいでしょうか。

おくむら“好き”ということを大事にしています。

――“好き”を大事にするのですか?

おくむらはい。物を選ぶこととか、生業にするとか、何かを通じて分かり会いたいとか、“好き”という媒介を大事にしています。

――好きになるものには、何か傾向があるのですか? 感性に合う、合わないとか?

おくむらそこでいくと、自分の“好き”はコントロールできないので、傾向は把握できないかもしれません。むしろ、“なぜ好きなのか?”といったことは言語化したいとは思っています。“私はなぜゲーセンが好きなのか?”とか、“私はなぜビールをこんなに好きなのか?”とか……。

――なるほど。となると、何が好きかを教えていただくことが、おくむらさんの人となりをするうえで、ひとつのヒントになるかもしれないですね。何がお好きなのですか?

おくむら人が好きですね。

――おー、なるほど!

おくむら人がとても好きですね。そして、人が、“好き”を持ったときに生まれてくる強さみたいなものが好きです。

――ああ、人は何かを好きになると強くなるということですね?

おくむら私はそうだと思っています。たとえば、週末に好きなバンドのライブがあるから、その1週間をがんばれるとか、行きつけの店で楽しい時間を過ごすためにがんばるとか……。

――おくむらさんの場合は、その“好き”なものの中にゲームセンターがあるわけですよね。ゲームセンターに対する愛はどこから生まれてきたのですか?

おくむらもともと、小学1年生のころからゲーセンに通っているんですね。“好き”の前の話なんですけど。なぜかというと、私の家はファミコンやスーパーファミコン、プレイステーションを買ってもらえなかったんです。親には親の教育方針があったのでしょうが、私はゲームが遊びたかった! それでゲーセンに行きだしたんです。

――たぶん、親には内緒で……ですよね?

おくむらもちろんバレていましたよ(笑)。子どもが100円持って出かけていくから……。とはいえ、小学生なのでお金もそんなにないので、基本は人のプレイを見ているんですよ。そうしたら、そのうちゲームをプレイしていたおじさんとかが話しかけてくれるようになって(笑)。「そこで立っていないで横で見なよ」とか、「おっちゃん、おかんに怒られるから帰らなあかんねん。残りをやっていいで」って途中で交代してくれたりとか。

――交流が生まれたんですね。

おくむらそうなんです。そこで、“ホーム”と言われるゲーセンができたんですね。それが原体験です。で、ゲーセンが“好き”ということを意識し出したのは中学生からなんですね。私、中学校でいじめにあったんですよ。それが、いまとは認識が違って、“いじめに合うのはいじめられるほうが悪い”だったんです。先生にも「学校の来ないのが悪い」と言われたし、親にも「絶対に学校に行かないとだめ」ということで、居場所がなかったんです。家を出ようとしたらストレスで謎の熱が出たりしたりして……。本当だったら「道から外れていたかな」とも思うのですが、そんなときに救いの場となったのが、行きつけのゲーセンでした。
 学校に行くと、“◯年◯組のおくむらなつこです”というところが、ゲーセンだと関係ないんですよ。好きなゲームを中心に何となく集まっている人たちがコミュニケーションを取っているだけなので、年齢も職業もバラバラで本名も知らないくらい。「中学校の外にはこんなに広い世界が広がっているし、いろいろな人がいるんだ!」ということがわかって、すごく助かったんです。それで引き籠もらずに済みました。で、高校からは違うところに通いだして楽しく過ごせたという経験が大きくて。あのときゲーセンがなかったら、中学生の私はどうにかなっていたかもしれない。それで、いま潰れそうな中学生にでもできることがひとつでも世の中には多いほうがいいと、私は思っているんです。それがゲーセンなのであれば、それを地域からなくしたくないと、強く認識しました。

――それが、いまのGCGの活動につながっているのですね?

おくむらはい。ゲーセンのよさは、“好きなものを中心に話す”ことだと思っています。名刺から入らないんです。取り繕わずに、自分を出せる場ですね。私は家庭用ゲーム機も好きですが、ゲーセンのゲームがいちばん好きです。大きな声を出しても平気だし、体も動かせるし(笑)。

ゲーセンの圧倒的な強みはコミュニティ

――では本題に入りましょうか。なぜ“アケシェア”を始めることにしたのですか?

おくむら根底にあるのは、ゲーセンを活性化したいという思いです。実際のところ、アーケードゲーム機のシェアリングサービスに近いレンタル事業は、ゲームセンター運営企業各社がこれまでも展開されていることです。ご存じの通り、ゲーセンはゲーム筐体の在庫をたくさん持っていて、その有効活用のひとつの方法として展開しているのが商業施設などにゲーム筐体を貸し出しするレンタルでした。“アケシェア”は、そのレンタルに着想を得たサービスとなります。

――レンタルは、そこまで有効ではなかったのですね?

おくむら横のつながりがあまりなくて、ゲーセン1対企業1でやっていたので、あまり広がりはなかったということは言えるかもしれません。あと、私としては、BtoCではなくてBtoBに可能性を感じていました。ゲーセンの圧倒的な強みのひとつは、コミュニティだと思っているのですが、“企業をコミュニティと考えることが大切”、と言われています。人の集まりなので。それで「企業コミュニティにゲーム機を置いたらよいマッチングなのでは?」と思ったんです。そんな視点に立って市場調査をしてみると、オフィスにゲーム筐体を置くことに関して、ある程度のニーズはあるけれど、やりかたがわからないという意見が多かったんですね。

――つまり、企業としてもゲーム筐体を置きたい気持ちはあるけれど、いざ借りようと思ったらどうすればいいのかわからないということですね?

おくむらそうなんです。そこで、貸したいゲーセンと、借りたい企業のマッチングをしてあげればいいのではないか……と発想したんです。提携するゲーセンから在庫リストをいただいて、希望する企業に提供する。“アケシェア”は、ゲーセン業界を横につなぐサービスですね。1年くらい前からゲーセン運営企業の方たちとディスカッションし、「これはいけるのでは」ということでスタートしました。

――基本、全部おひとりでやりくりしているんですよね?

おくむらそうですね。最初はパワーポイントの企画書を1枚作って、ゲーセンに話を持っていって、とりあえずお話して……みたいなところから始めました。とくに注意したのは、“ゲーセンに負担をかけないように”ということでした。テストマーケティングを実施したり、シェアのプラン作成も都度ゲーセン運営企業に相談したり。そんな恩恵もあり、利用料もリーズナブルな価格になっているんです。そういった兼ね合いから、“アケシシェア”は会社法人様のみを対象としているんですよ。

ゲーセンにはポテンシャルがある

――昨年末からスタートして、反響はいかがですか?

おくむら大きいです。いまはお問い合わせをいただいていた企業さんに打ち合わせに出かけたりしているのですが、「こういうのを待っていました!」みたいな感じで、打ち合わせの時間そのものも、ワクワクする時間になっています。お問い合わせの時点で「この機械を入れたい」と決めて下さっている企業さんもおられます(笑)。

――好きな人が多いんですね(笑)。

おくむら担当者の方がすごく楽しそうなんですよ。「待っていました!」とか「どれを入れたらいいか、迷っています」とか(笑)。中には、昔はゲーセンに通っていたけど、いまはなかなか時間が取れないという方もいらっしゃって、いまゲーセンに行けていない人に届けられるのはうれしいです。学校からの問い合わせもあったりするんですよ。

――あら! ちなみに、企業さんはどのような理由で導入するケースが多いのですか?

おくむら社内で従事する職種の方に対する福利厚生が多いですね。オフィスコンビニなどからスタートされ、続けてお昼寝スペースなどの整備をされ、食べる・寝るなどの安全衛生要因を満たした次の施策として、検討される感じです。

――人気ゲームの傾向とかはあるのですか?

おくむらやはりビデオゲームは多いですね。ピンボールとかも人気ありますよ。あとは、小さいクレーンゲームとか。受付に置いておいて、来社された方が獲ったりということもありますね。あとは、社内で“ありがとう制度”があって、“ありがとう”と言われた分だけ就業時間中に遊べるとか、”社長と超豪華ランチ”とか”ギフト券”進呈とかの紙が入ったカプセルを入れたクレーンゲーム機を置きたいとか(笑)、さまざまにあります。

――いずれにせよ、ゲーム筐体1台あるだけで、いろいろなことができるということですね。日々の仕事での心を豊かにしてくれる有効なツールというか。

おくむら私はそう思っています。もともと企業はそういう文化があると思うんですよ。好きなことを仕事にしているから。ふだん見過ごしているような何かを可視化できるツールかなと思っています。社内の運動会をeスポーツに切り替えている企業もいくつかあって、社内のフロアにゲーム筐体を置くというところもありましたね。

――そんな展開もあるんですねえ。

おくむら世の中にはこれだけアーケードゲーム機で楽しんでおられる人たちがいるんだということは、うれしい気づきでした。

――それはうれしい気付きですね。

おくむらうれしいです。全部が全部“アケシェア”がベストという話でもないので、ケースバイケースで、通常のレンタルがよい場合などはそういう話をさせていただいています。別に、GCGが儲かる儲からないの話ではなくて、少しでも“ゲーセンのゲームは楽しい”という感覚を感じていただける機会が増えればうれしいですね。そのうち、会社帰りに「ゲーセン行こうぜ!」とか、お子さんと「これ、知っている? 今度対戦しようよ」となったらいいですね。

――最後に、“アケシェア”も含めた、今後のGCGの展望をお教えください。

おくむらいま、日本人が“ゲーセン”と聞いて連想する単語というと、“暗い”、“うるさい”、“タバコくさい”の3つだと思うんです。これだとなかなか人は行きたいとは思わないですよね。そうではなくて、明るい単語が似合うようにしていきたいです。実際のところ、ゲーセンにはポテンシャルがめちゃくちゃあるハズなんです。

――ほう。

おくむら現代はソーシャルエコノミー時代と言われていて、農業経済から産業経済・サービス経済を経て、いまは企業に完璧にお膳立てされた舞台で最高の経験を味わうのではなくて、ほかの消費者と経験を共有して楽しんだり、企業やほかの消費者といっしょに価値を創り上げていくプロセスを楽しむ特徴があるといいます。コーヒーを例にお話しますね。そもそも人類はコーヒーを飲むためにコーヒー豆を生産して……という農業経済からスタートしました。それが、缶コーヒーを飲んだり、喫茶店で淹れてくれたコーヒーを味わい豊かに飲みたいというサービス経済になった。それが、“コーヒーを飲む”という行為ではなくて、これは経験経済であり、ソーシャルエコノミーではありません。ゲーセンはまさにこのソーシャルエコノミーに適合していると思っています。リアルな場で、人の熱気を感じながら楽しさをともに作るコミュニティ。ゲーセンはまさにこれからです。eスポーツにしてもそうですが、目の前で展開されるゲームを楽しむ世界がこれから到来するのだと思っています。

コミュニケーションツールとして導入。スタッフ間の会話も大いに弾む

 引き続き、カーツメディアワークス 代表取締役 CEO 村上崇氏に、 “アケシェア”にてゲーム筐体を導入した効果などを聞いてみた。カーツメディアワークスは、“伝えよう世界へ”を社是に、広報業務をマーケティングを請け負う企業だ。

カーツメディアワークス
代表取締役
CEO
村上崇

――“アケシェア”を導入した理由を教えてください。

村上 ひとつにはおもしろそうだから……という単純な理由もありますが、「コミュニケーションツールとして機能するのではないか」との思いがありました。ゲームに『ぷよぷよ』を選んだのもそんな理由からで、世代や男女を問わず話題にできるというか、いっしょに熱くなれるゲームかなと。

――拝見させていただくと、とても遊び心があるオフィスなのですが、そういうスペースにしたいとの思いがあったのですか?

村上 あります! この部屋にはお酒も置いていますし、午後6時以降は自由に飲めます。まあ、昼から飲んでいるスタッフもいますが……(笑)。とにかく社内のコミュニケーションスペースを作りたいと思っていたんですよ。当初は、VRを導入する予定だったのですが、VRだとどうしてもひとりでプレイすることになってしまい、コミュニケーションが取りづらそうだ……と悩んでいたところに、“アケシェア”のことを知りまして。まずは導入してみようかと。VRからゲーセンの『ぷよぷよ』というと、一気に時代を遡った感じですが(笑)。VRを体験できるスペースも、いずれは実現したいんですけどね。

――村上さんご自身は、学生時代とかにゲームセンターには通っていたのですか?

村上 そもそも僕もゲームセンターで力いっぱい遊びたかったタイプだったのですが、お小遣いに制限があって、若いころはあまり行けなかったんですよ。それが20~30年を経て、会社で自由に遊べるということでうれしさはあります。

――大人買いみたいなものですね(笑)。

村上 ただ、『ぷよぷよ』だけは自信があったんですよ。ご覧の通り、スーパーファミコン版ではけっこう強かったのですが、いまでは若いスタッフにも負けてしまうという体たらくで……。

――ゲーム筐体を導入されてみての効果はいかがでした?

村上 スタッフとしゃべるきっかけになりますね。昨日も昼休みに遊んでいたのですが――昼休みは眠気覚ましに『ぷよぷよ』を遊ぶようにしているんです――スタッフが覗きにきて、一戦交えました。あっさり負けましたけど。なぜか練習の成果がでていないんですよね……。いま炭水化物抜きダイエットをしていて、おそらく糖質が脳に行っていないのかもしれません。

――いずれにせよ、社内コミュニケーションのきっかけにはなったということですね?

村上 そうですね。そもそも弊社にはゲーム好きが多いんですよ。で、スタッフによっては、「なぜ『ぷよぷよ』なんですか?」と聞かれることもあります。ゲームの好みは人それぞれですからね。“アケシェア”は適宜ゲームを変えられるらしいので、今後は社内の希望を取ってみて、判断したいと思っています。じつは、『ぷよぷよ』日本一を目指しているんですよ。

――はい?

村上 やるからにはせっかくなので日本一を目指そうと。せめてこのバージョンでの1位にはなりたい。最新のものはきびしそうなので。

――あはは(笑)。それはなれるかも……。

村上 もしくは、『ぷよぷよ』虎の穴を作るものいいかもなあ。僕が日本一になれなくても、スタッフの誰かが日本一になって、プロに勝てるようになってくれればうれしいです。

――それくらい気持ちが盛り上がってきているということですね(笑)。ちなみに、今後こうしたいという予定はありますか?

村上 そうですね。受付に置いておいて、勝たないと誰も出てこないとか(笑)。まあ、冗談はさておき、もう1台入るスペースがあるので、『ストリートファイターII』を置きたいなと思っています。いずれにせよ“アケシェア”は効果上々といったところです。