沖縄県にある1件のファミリーマートが、プロゲーミングチーム“DeToNator”仕様のラッピング店舗になった。

 東京ゲームショウ2019で、DeToNatorは沖縄ファミリーマートとのスポンサー契約締結を発表している。サポートを受けるだけに留まらず、店舗の“顔”になってしまった。

 オープン当日の2019年11月30日、オープニングセレモニーを実施するというので興味本位で見に行った。

大盛況でした。

満を持してDeToNatorマートが開店

 店舗ラッピングが行われるのは、沖縄ファミリーマートのベイサイド宇地泊店。那覇市のふたつ隣りの宜野湾市にある店舗だ。僕は免許を持っていないので、路線バスで向かうことにした。

 最寄りのバス停は“宇地泊”。ホテル近くのバス停から20分ほどの場所だ(那覇空港からだと1回乗り換えて1時間弱)。時刻表を見てたら地元のおじさんから「どこ行くの?」と声をかけられ、乗るべきバスを教えてもらった。やさしい。

宇地泊のバス停で下車。バスの本数はけっこう多いようで、中途半端な待ち時間は発生しなかった。

 ベイサイド宇地泊店へは宇地泊のバス停から徒歩10分。てくてく歩き、大謝名の交差点で左折する。

 しばらく進むとファミリーマートの看板が見えてきた。那覇空港から少し離れた場所なので、移動がたいへんだなーと当初は思っていたが、そうでもなかった。バスに乗ると適度な旅っぽさが出て気分が高まる。

 バスが苦手ならタクシー移動もいいと思う。店舗の近所には大きなショッピング施設やコンベンションセンターがあるので、タクシーも捕まえやすいはず。

2~3分くらい大通り沿いに歩き、この交差点で左折。
ファミリーマートの看板が見えてきた。あれかな。
風景の切れ目からSHAKA氏(DeToNato所属)の写真が見えて笑った。
DeToNatorマートだ!

 店舗を見た瞬間、ストリーマー(配信者)たちの写真がでかくて思わず笑ってしまった。すごい。DeToNatorが完全にお店を包み込んでいる。

 DeToNatorは創設10周年を迎えたプロゲーミングチームだ。海外の競技シーンにも積極的に挑戦しており、日本においてはプレイの配信を通してゲームを伝える活動に力を入れている。

 沖縄ファミリーマートのベイサイド宇地泊店は、ストリーマー(配信者)たちの写真をデザインに取り入れ、“DeToNatorマート”として生まれ変わっていた

駐車場が広いので、距離を置いた場所から全体像を眺めてみる。ああ、ラッピングしているなあ。それ以外の感情が湧かない。
ゲーミングチームがコンビニの顔になる日が来るなんて。おもしろいやら感慨深いやらで、脳が混乱する。

 こういった店舗ラッピングは、アニメやタレントなど、いわゆる“大人気”のコンテンツと組むものだ。知名度が高ければ高いほどいい。店側はひとりでも多くの人に来店してほしいわけだから当然である。

 沖縄ファミリーマートとDeToNatorがコラボすると聞いた人は、一般的にどういう反応を示すだろうか。無関心な人を除いて、2タイプに大別されると思う。

「(沖縄)ファミマとコラボするのか。やっぱりDeToNatorはすごい」
「どうしてファミマがゲーマーなんかとコラボするの?」

 僕は前者だ。DeToNatorの活動を長く見ているので、彼らが十分に集客できるチームであることを知っている。

 DeToNatorを知らない人は、沖縄ファミリーマートの価値と釣り合っていないように感じるだろう。後者のような感想を抱いても仕方ないと思う。

 だが、ひとつ言わせてほしい。本件はeスポーツが流行っているからだとか、偉い人がDeToNatorのファンだったとか、そういう勢いだけで始まった施策ではないのだ。

 沖縄ファミリーマートの会長や社長といった経営のプロがDeToNatorの実績を評価し、地元の若年層への好影響や将来も期待した結果、大型コラボ施策につながったのである(この辺の経緯は東京ゲームショウ2019での発表リポートに書いてある。あわせてどうぞ)。

 興奮してしまった。冷たい飲みものでも買って頭を冷やそう。

店内に入ると、ストリーマーたちの写真が目に留まる。
奥にはDeToNator関連の商品が陳列された特設コーナーが儲けられていた。
リストバンドやタオル、Tシャツなどの定番グッズ。
マウスやキーボード、ヘッドセットなどのゲーミングデバイス類はいまのところ展示のみ。準備ができしだい販売するそうだ。また、ガレリアのゲーミングノートPCも展示されていた。

 見た瞬間に「わー!」と声が出たのが、これ。

この本は!

 なんと、DeToNator代表・江尻勝氏による著書『DeToNatorは革命を起こさない』も入荷されていたのだ!

 つい“!”をつけるほど興奮してしまった。僕が編集した本なのでうれしかったのだ。沖縄県民は全員ここで買ってほしい。

待っていたらDeToNatorの面々が到着した。もうすぐセレモニーが始まる。

シンボルや観光目的地のような店舗を目指して

 オープニングセレモニーの開始時間になると、大きなパネルのDeToNator代表の江尻勝氏に加え、ストリーマーのSHAKA氏、『Apex Legends』部門のAlelu選手(沖縄県出身)が登場。

 Alelu選手は2019年10月に加入したばかりだ。ファンの前に出るのは今回が初めて。緊張しつつも、地元でファンサービスデビューを飾った。

DeToNator代表の江尻勝氏(左)とストリーマーのSHAKA氏(右)。
『Apex Legends』部門のAlelu選手(右)。ふたりともしかめっ面なのは、ちょうど真正面から直射日光を受けてまぶしいからです。

 このラッピング店舗について、沖縄ファミリーマートの社長付特命部長 比嘉智氏は「テーマのあるお店を作りたかったんです」とコメント。

 コンビニは、自宅の近所や通勤(通学)の途中にある店舗が利用されるもの。そうではなくて、「あのお店に行ってみたいと思うような、シンボルや観光目的地になってほしい」と期待する。

沖縄ファミリーマート 社長付特命部長 比嘉智氏。

 地方の活性化や地域密着は、ここ最近のDeToNatorが掲げるテーマのひとつ。ひとつの象徴がこの店舗というわけだ。

 SHAKA氏は「恥ずかしいですね」と、少々くすぐったそう。それでも、「コンビニって身近なもの。昔から利用しているお店に自分たちの写真を使ってもらえるなんて」と感動を隠しきれない様子だった。

 なお、“DeToNatorマート”は短期的なコラボ店舗ではなく常設店。両社の協力関係が続く限り継続予定とのこと。今後も店頭デザインや取り扱い商品は変わっていくので、Alelu選手の写真が加わる可能性もありそうだ。地元の星だもんな。

Alelu選手は「沖縄という場所をアピールして、世界大会で優勝できるような選手になりたいと思っています」と決意を表明。
フライドチキンの引換券争奪のじゃんけん大会も実施。見事に勝ち取った小学生男子がすごくうれしそうだった。いっぱい食って大きくなれよ。

本邦初公開の“ゲーミングレジ打ち”

 ミニトークショーを挟んでイベントの舞台は店内へ。SHAKA氏とAlelu選手が店員体験をすることになった。マウスをバーコードリーダーに持ち替え、すごいエイム力でつぎつぎと商品をキルしそうである。

 せっかくだからゲーミングレジ打ちをしてもらおうと、駆けつけたファンたちも入店。彼らが当然のように向かう先は店内奥の特設コーナーだ。

 ステッカーやTシャツを選ぶファンが目立つ中、ひとりの少年が江尻氏の著書『DeToNatorは革命を起こさない』を手に取った。(買ってくれ!)と念を送ったが、このときは見送った様子。またつぎの機会にお願いします。

レジ待ちの行列はすごかった。コミケの壁サークルみたいだ。
けっこういいこと書いてある本なので、またの機会にぜひ。
お金の取り扱いは店員さんに任せて、DeToNatorのふたりはおもに商品の袋詰めと受け渡しを担当。
ただ商品を渡すだけだと味気ないので、ファンと世間話。神対応ならぬ釈迦(SHAKA)対応である。
店員さんは沖縄ファミリーマート仕様の白いユニフォームを着用。いいな。

 店員体験を終え、イベントはふたたび屋外へ。時間が許す限り、握手・サイン・写真撮影会が実施された。

 日差しがきつかったので落ち着いて交流するなら室内のほうがいいのだが、外に出るしかなかった。だって集まったファンの数は100人ほどにも及んだから。店内がみっちりしてしまう。

 和気あいあいとした雰囲気に踊らされて、僕も数人に話しかけた。20代くらいの若者のほか、親子連れの姿も目立つ。

 とあるご家族はお母さんが『DeToNatorは革命を起こさない』を買ってくださっていて、つい「その本、僕が作ったんです」とアピールしてしまった。

 話を訊くと、お子さんが“プロゲーマー”などの世界に興味を持っているそうなのだ。それで、「少しでも勉強になればと思って」とのこと。

 このひと言はほんとにうれしかった。1000冊売れた分くらいの価値がある言葉だ。「ゲームは遊びだからNG」でも「夢があるからOK」でもなく、「わからないから勉強しよう」。冷静な感覚を持ち、お子さんといっしょにプロゲーマーを目指す意味を考えてあげてほしい。

子どもたちにとって、彼らはヒーローなんだよなと実感。

 本を買うのを見送った男子とそのお母さんとも話す機会があった。お母さんとしてはゲームを一生懸命やるのは構わないが、勉強のことも考えてほしいそうだ。たしかに、勉強は大切である。

 DeToNator代表の江尻氏は「親は最初のスポンサーみたいなもの。ゲームにしても何にしても、やりたいことがあるんだったら、きちんとプレゼンして理解を得るようにしないとね」と、男子にアドバイスを送った。この考えかたに、お母さんも納得していた様子。

 こういう役立つ見解も記されているのが『DeToNatorは革命を起こさない』。ぜひお買い求めください。

那覇市の店舗を選ばなかった理由

 ところで、どうして宜野湾市の店舗を選んだのだろう。

 リアルの場(オフラインイベントなど)に人を呼ぶのはすごく難しい。仮に交通の便がいい都心で人気ゲームの無料イベントを開いたとしても、人があまり集まらないなんて、よくある話だ。

 今回のイベント会場は沖縄県。しかも空港からアクセスしやすい那覇市内ではなく宜野湾市である。お世辞にも“日本全国どこからでも行きやすい場所”とは言えない。

それなのに、この客入りはすごいよなーと思う。

 コラボを仕掛けた関係者に話を訊いたら、ふたつ大きな理由を教えてもらえた。

 ひとつはパッと見の印象やインパクト。店舗の候補はいくつもあり、国際通りのような繁華街での実施も不可能ではなかった。だが、どうしても使えるスペースが限られてしまう。

 その点、ベイサイド宇地泊店のような広い駐車場があれば、来店したファンは大きな写真を存分に眺められる。バーンと全景が目に入ると、気分が高まるものである。

こんなに空の抜けがきれいな握手会の写真ある?

 もうひとつの理由はスケールが大きかった。比嘉氏の「観光目的地になってほしい」という発言にもあるように、沖縄県全体に関係する話だ。

 沖縄県の観光パターンってどんな感じだろう。詳しくないなりに頭をひねると、国際通りで買いものして、首里城公園を見学して、ビーチに行って、美ら海水族館を見学して……。とにかく、定番のルートはあるだろう。

 コラボ店舗を仕掛けた側としては、ゲーマーの観光ルートの一部にDeToNatorマートを加えてほしいそうだ。だから、あえて多少の移動を挟むようにしたのかな、と思う。

 また、DeToNatorマート以外のコラボ店舗を展開する案もあるらしい。格闘ゲームやソーシャルゲームなど、ファンの愛が深いジャンルはたくさんある。

 仮に、コラボ店舗を複数展開することになったとする。その際、たとえばDeToNatorファンは格闘ゲームのコラボ店舗を訪れるだろうか。正直なところ、難しいとは思う。

 それでも、きっかけのひとつにはなるはずだ。近所に観光ポイントがあるような店舗なら、ついでに行ってみたくなる可能性もある。スタンプラリーにするのもいい。

 個人的に、スタンプラリーをやるとしたら、それぞれの店舗は少し離れた位置に配置してほしい。冒頭で書いたとおり、適度な旅感があったほうが楽しいからだ。

 過程も含めてこその旅。すぐに全店舗回れたら楽だけど味気ない。公共の交通機関やレンタカーで県内をめぐってもらえば、それだけ沖縄県が潤うわけだし。

「あなたと、コンビに、DeToNatorマート」という歌が聴こえてきそう。

 先日、貴重な観光資源である首里城が火災でたいへんなことになってしまった。沖縄県としても大打撃だろう。今回のようなコラボ施策で観光客の減少をほんの少しでもフォローできるようなら、ゲーマーとしてすごく誇らしい。

 “ゲームを活かした地方の活性化”が叫ばれて久しい。沖縄ファミリーマートとDeToNatorの関係は今後も続いていく。第2第3の取り組みが楽しみだ。

おまけ 神は細部に宿る

 オープニングセレモニー前日、ラッピング施工を終えた作業員が難しい顔をしていたそうだ。どうも写真のつなぎ目に納得がいかないらしい。

 現場に立ち会った担当者の目には「気にするほどのことかな?」と映ったらしいが、施工業者は写真素材を別途用意。きれいに補修したのだという。

 華やかな舞台は職人の実直さに支えられているという話でした。

そうとう近寄らないと写真のつなぎ目が見えないレベル。こういうのを“神は細部に宿る”と言うのだろうな。