PlayStation Now(以下、PS Now)は、ソニー・インタラクティブエンタテインメントによるクラウドゲームサービスだ。インターネットに接続して楽しむストリーミング形式で、本体の容量を気にせずに気軽に楽しめるのが大きな特徴となっている。サブスクリプション(定額制)であるため、対応タイトルを遊び放題である点も魅力だ。
北米では2014年に、国内では2015年からサービスを開始しているPS Nowは、ただいま全世界の19ヵ国で利用可能で、対応端末はプレイステーション4とWindows PCとなっており、プレイステーション4用ソフトはもちろんプレイステーション3向けに作られた計400を超えるタイトルが楽しめる。もちろん、オンラインマルチプレイやトロフィーなど、PlayStation Networkの各種機能にも対応している。
そんなPS Nowがこの10月からサービス内容を拡充した。まずはタイトルの拡充。この10月からは『ゴッド・オブ・ウォー』や『グランド・セフト・オートV』、など、CERO Z(18歳以上のみ対象)タイトルもラインアップに加わっている。さらには価格の改定。これまで1ヶ月2500円[税込](北米19.99ドル、欧州14.99ユーロ)からだったものが、1ヶ月1180円[税込](北米9.99ドル、欧州9.99ユーロ)からと、半額以下の価格になっているのだ。定額制のクラウドゲームサービスとして、さらにお手ごろで利用しやすくなったと言えるだろう。
果たしてPS Nowはどのように変わったのか? ここでは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ネットワークビジネス部の大崎泰弘氏に、サービス内容変更の経緯や、今後の展望などについて聞いた。
大崎泰弘氏(文中は大崎)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
ネットワークビジネス部
部長(サービスビジネス担当)
ハイクオリティーのゲームをクラウドで提供できているのがPS Nowの強み
――日本でPS Nowのサービスを開始してから4年とのことですが、この4年間の取り組みに関してはどのような手応えを感じていますか?
大崎PS Nowの利用者は全世界で約70万(今年3月末時点)とアナウンスさせていただいており、お客様のご利用状況に関しては、計画通りに推移していると見ています。運営する中でいろいろな知見が溜まってきており、家庭用ゲーム機ならではのハイクオリティーなタイトルの数々を、クラウドゲーミングで快適に遊んでいただける環境を我々が提供できているという自負はあります。そういった意味で、家庭用ゲーム機向けのソフトを提供できるということが、PS Nowのひとつの大きな強みであると考えています。
――家庭用ゲーム機のソフトを提供することが強みといいますと?
大崎はい。良質なコンテンツ――それこそ、プレイステーション4の高解像度で魅力あるコンテンツを遊べるような環境を、PS Nowのサブスクリプションサービスで提供できているというところが、私たちにとってのひとつの強みではあります。
――それはつまり、それだけハイクオリティーなコンテンツを提供しなければいけないという高いハードルを、テクノロジーの部分でクリアーできているという自負があるということですね?
大崎そうですね。それを続けてこられているというのが、私たちにとっての手応えのひとつです。実際のところ、プレイステーション4自体が世界中のユーザーの皆様に支持していただいている理由のひとつが、良質なコンテンツであると認識しています。それをそのままクラウドという新しい遊びかたで提供できているというところがポイントです。
――僕たちはあたり前のようにサービスを享受しているのですが、家庭用ゲーム機向けのゲームをクラウドで提供するということは、けっこう難易度が高いことなのですね?
大崎そうですね。音楽や映画などでもクラウドは当たり前のようになっていますが、ゲームはインタラクティブなので、その点における技術的なハードルは非常に高いですね。僅かな遅延でも、プレイ環境を大きく損ねてしまうので。
――インタラクティブ性において、ほかのクラウドサービスとは一線を画しているということですね。
大崎あとは、PS Nowで提供しているプレイステーション4ソフトのほぼすべてを、昨年2018年9月からプレイステーション4でダウンロードして遊ぶこともできるようになりました。これも私たちの強みだと思っています。ダウンロードも、PS Nowのサービスを続けてきた期間に溜められた知見のひとつですね。ダウンロードすることで、パッケージソフトを遊ぶのと同じような感覚でゲームが楽しめる。これは、家庭用ゲーム機向けのクラウドゲームサービスの中で、現在PS Nowだけが唯一提供できているサービスです。
――クラウドゲーミングとは、また少し違った領域になりますね。
大崎そうですね。サブスクリプションという、遊び放題の中のひとつのサービスとして提供しております。クラウドゲームというと、ストリーミングサービスのことを指しますが、その派生サービスのひとつとしてダウンロードという仕組みを取り入れることで、お客様がふつうに家庭用ゲーム機を遊ぶのと変わらない環境下で遊んでいただけるんです。それで、2018年9月からサービスを開始しました。
――これもユーザーさんからの要望に応える形で?
大崎はい。さらに言えば、ダウンロードコンテンツに対応しているゲームであれば、PS Nowでダウンロードすることで、追加コンテンツも含めてプレイステーション4で遊ぶことができるようになるんです。対応タイトルの魅力をフルに堪能することが可能になる。これに関しては、お客様からのご要望に加えて、パブリッシャーの皆様からも、「より充実した環境下で、そのタイトルのサービスを提供できるようにしていただきたい」とのお声もあり、ダウンロード機能を追加しました。
――ちなみに2018年9月にサービスインしてのダウンロード機能の反応はいかがでした?
大崎お客様の反応はすごくよかったです。ストリーミングで遊ぶことと、ダウンロードで遊ぶということで、お客様の選択肢ができたのが大きかったようです。ストリーミングとダウンロードにはそれぞれいいところがありますので。ストリーミングは、それこそPS Nowを立ち上げてタイトルを選んだら、すぐにプレイしていただけます。ダウンロードは、初回プレイまでに待っていただく時間はあるものの、通常の家庭用ゲーム機とまったく変わらない環境で遊ぶことができるので、そのゲームが本来持っている解像度やサービス内容で、そのまま遊べます。それぞれの利点があり、お客様からは好評です。
――そういう意味では、PS Nowは、ストリーミングサービスという枠を超えているということでしょうか。
大崎そうですね。私たち独自のサービス提供ができていると思います。ダウンロード機能が追加されたことで、ひとりあたりのプレイ時間も増加しています。プレイ時間に関しては、ダウンロードゲームのほうがストリーミングゲームよりも2倍になっているんですよ。
ユーザーの要望が高かった、価格とラインアップに応えた
――では、このタイミングでPS Nowの国内サービス内容を変更するにいたった経緯を教えてください。
大崎日本のPS Nowは2015年にサービスインしてちょうど4年になります。その間、これまで続けてきたクラウドゲームの分野での知見がたくさん蓄積されてきた一方で、世の中的にもクラウドゲーミングが盛り上がってきているという認識もありました。さらに、サブスクリプションのサービスも非常に注目されてきているというところを判断して、“ユーザーの皆さんが手に取りやすい価格で、さらに魅力あるコンテンツを多く増やす”というコンセプトのもと、PS Nowのサービスを強化するために、サービス内容を変更いたしました。こちらは、プレイステーションのグローバル戦略の一環となります。
――クラウドゲーミングが浸透してきて、さらにその勢いを加速させるための施策ということですね?
大崎そのとおりです。大きくは、価格面と魅力あるコンテンツを増やすというアプローチでのサービス変更になります。実際のところ、これまでPS Nowをご提供するなかで、この2点がお客様からのご要望として大きかったというのが背景としてあります。
――サービス内容の変更の柱が、価格と魅力的なコンテンツとのことですが、まずはコンテンツについて聞かせてください。なぜ、CERO Zレーティングのタイトルを追加することにしたのですか?
大崎まさに、お客様から“さまざまなジャンルで遊びたい”というご要望をいただいたのが、いちばん大きな理由になります。さらには、プレイステーション4自体が非常に多くのパブリッシャーの皆様からタイトルをご提供いただいていますし、パブリッシャーの皆様とお話をしていく中でも、“幅広いタイトルを日本でも提供できないか?”とのお声をいただいていました。豊富なラインアップを実現するために、今回サービスを改善していくという流れのなかで、CERO Zタイトルも追加することに決めさせていただきました。
――CERO Zタイトルが追加されたということは、PS Nowが18歳以上を対象としたサービスになったということですよね?
大崎はい。そうなります。
――18歳以上のサービスに舵を切った理由は?
大崎CERO Zのタイトルだけに注目しているわけではないのですが、プレイステーション4向けには、非常に多くのタイトルを出させていただいます。その中でも、世界的規模で遊んでいただいているタイトルには、CERO Zが多く含まれています。それで、幅広いゲームを楽しんでいただくという見地から、現在のサービス内容になりました。
――少し細かいお話になるのですが、クレジットカード決済に抵抗がある人もいるかと思うのですが、そんな人たちに対する対応はあるのですか?
大崎まさに、そんなお客様に向けて、今回の改定に合わせて、店頭でPS Nowカードの販売を始めました。1ヶ月、3ヶ月、12ヶ月の利用権カードをご用意させていただいています。
――それは、きめ細かい……。
大崎ありがとうございます(笑)。PS Nowのホームページでも、取り扱い店舗を掲載させていただいているので、そちらで確認いただいてから、各店舗さんに足を運んでいただくのがいいかなと。
――ラインアップ的には『ゴッド・オブ・ウォー』など7タイトルが追加されましたね。
大崎2020年1月1日までの期間限定タイトルが4本と、これまで通り、定常的にご提供していくタイトルとして『フォーオナー』と『Fallout 4』、『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』を新たに追加させていただいています。この3タイトルは、PS Nowのサービス拡充のアナウンスに合わせて、追加させていただいた形になります。
――期間限定にしたのには、何か理由があるのですか?
大崎これもPS Nowの新しい施策になります。サービス活性化の見地から、“限られた期間ではあるけれど、お客様に毎月新しいタイトルを期待していただきたい”とのコンセプトで始めさせていただきました。
――こちらも少し細かい話になってしまうのですが、期間限定タイトルを途中までプレイしていても、期日が来てしまったら遊べなくなってしまうんですよね?
大崎PS Nowの環境ですべてクリアーしていただこうとすると、対象期間内で遊んでいただく必要があります。PS Nowで遊んでいただいたうえで気に入っていただければ、その後ソフトを購入いただくという形で継続してプレイしていただきたいと思います。さらに、プレイステーションフォーマットでは、PlayStation Plus(PS Plus)という別のサブスクリプションサービスを提供しておりまして、このPS Plusにはセーブデータのクラウド保存ができるサービスがあります。つまり、PS Plusと併用すれば、PS Nowのセーブデータをクラウド上に保存できるんです。期間終了後もPS Nowで遊んでいただいていたタイトルをご購入いただければ、そのセーブデータを活かして遊んでいただくことが可能です。そのため、期間限定タイトルも、ゲーム自体は継続的に遊んでいただくことができます。
――それは便利ですね。つぎは価格なのですが、1ヶ月1180円[税込]というのは、従来までの価格と比較すると相当踏み込んだディスカウントかと思いますが、どのような判断からこの価格にしたのですか?
大崎世の中には、音楽や映像など、さまざまなサブスクリプションサービスが存在しています。私たちとしては、それらほかのエンターテインメントサービスと同等の価格帯で、ゲームのサブスクリプションサービスをお客様に提供させていただきたいとの思いがありました。それで、“よりお求めになりやすい金額で”ということで、今回の価格帯にさせていただいたんです。
――2015年のサービスインから4年経ち、いろいろなサブスクリプションサービスがユーザーのあいだに定着してきて、価格帯も、“何となくこのへん”みたいな形で定まってきたということでしょうか。
大崎お客様がお求めになるであろう価格帯と、私たちがその中で提供できるよりよいサービス内容のバランスを検討した内容にもとづいて、決めさせていただいた価格となります。
――ちなみにサービスインして、間もないのですが、価格に対するユーザーの反応はどうですか?
大崎非常に好意的に受け止めていただいています。発表させていただいた直後から、いちばんお声が多かったのは、やはり価格に対する評価でした。そのつぎがCERO Zタイトルが追加になった点だったのですが、いずれにせよ、ポジティブなお声をいただいているところです。サービス内容変更以降、おかげさまで順調なスタートを切らさせていただいています。
PS Nowはプレイステーション5でも提供する
――少し今後のことを聞かせてください。タイトルラインアップに関してですが、今後はどのようなペースでの追加を予定しているのですか?
大崎基本的には、毎月何らかの形で人気タイトルを追加していく計画を立てています。具体的には、期間限定のタイトルを増やしていくことで、今後は運営をしていこうと思っていますので、ユーザーの皆様にはぜひとも期待していていただきたいです。ずっと提供する定常タイトルも、順次増やしていく予定でいます。期間限定と定常の2軸で、タイトルの充実を図っていこうと考えています。
――では、タイトルセレクトはどのような基準で考えているのですか?
大崎発売当時に世界中のユーザーから反響の大きかったタイトルを、ということで考えています。それは、作品に対する評価が高かったものや売上の両方の軸で判断しています。品質を担保できるラインアップを、ということでセレクトしていく予定でいます。ですので、タイトルは、トリプルAタイトルはもちろん、インディーゲームも含んだ、バラエティーに富んだラインアップになると思います。
――ところで、マイクロソフトの“Project xCloud”やGoogleのStadiaはモバイルにも対応しているのですが、PlayStation Nowでは、その予定はありますか?
大崎さまざまな可能性というのは、つねに検討しているのですが、現時点ではご案内できることはないです。
――では、プレイステーション5に対する取り組みはいかがでしょうか?
大崎PS Nowのサービスは長期を見据えて展開しておりますので、もちろんプレイステーション5でも提供していきます。
――わかりました。最後に、PS Nowの今後のビジョンを教えてください。
大崎技術とソフトの両面で、PS Nowをさらに充実させていきたいです。私たちはクラウドゲームの技術に関して、多数の特許も取得していますし、絶対の自信を持っています。私たちはゲーム業界で25年間ビジネスをさせていただいていますが、PS Nowはそんな25年の蓄積があってこそのテクノロジーだと思っています。そのときどきで、“よいサービスを提供したい”との思いから蓄積してきた知見とノウハウが集結したものがPS Nowなんです。PS Nowは技術的にもまだまだいいものにしたいと思っています。
――技術的に、これからまだまだ進化していくということですね。
大崎一方で、ソフト面について言えば、“バラエティーに富んだ良質なタイトルが遊べる”というところが、まさにユーザーの皆様がプレイステーションプラットフォームに期待していただいているところだと認識しています。PS Nowのサービスで私たちの目指すところもそれと同じで、よりたくさんの良質なゲームを、PS Nowという新しいサービスで、お客様に体験していただきたいと思っています。サービスのさらなる充実に向けて、今後もたくさんのタイトルを増やしていけるように努力していきたいです。今後のPS Nowの展開にご期待ください。