セガゲームスとCraft Egg/Colorful Paletteがタッグを組んで手掛ける新作スマートフォン用ゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。今年(2019年)の8月に発表された同作は、クリプトン・フューチャー・メディアの歌声合成ソフトウェアであり、バーチャル・シンガーでもある“初音ミク”が登場するということ以外は、謎に包まれていた。
同作がそのベールを脱いだのは、2019年10月23日。『プロジェクトセカイ』の詳細を明かす発表会が行われ、衝撃の事実が明かされた。おもなゲーム概要は下記の通り。
- 初音ミクたちピアプロキャラクターズ(※)と、新しいキャラクター20人が登場し、青春ストーリーをくり広げる
- 新キャラクターたちは、“バンド”、“アイドル”、“ストリート”、“ミュージカル”、“アングラ”という、5つのジャンルのユニットに分かれる
- 楽曲は、VOCALOID(ボカロ)曲を中心に収録。一部の楽曲は、ミクと新キャラクターたちがいっしょに歌うバージョンを用意
※piaproは、クリプトン・フューチャー・メディアが運営するコンテンツ投稿サイト。ピアプロキャラクターズとは、同社のVOCALOIDキャラクター、MEIKO、KAITO、初音ミク、鏡音リン・レン、巡音ルカを指す。
これまでの初音ミク関連のゲームとは一線を画す『プロジェクトセカイ』。今回の発表内容を、戸惑いを持って受け止めた従来のファンも少なくないだろう。
これまで『Project DIVA』シリーズで確かな手ごたえを得てきたであろうクリプトンとセガが、今回、新しい方向性を打ち出したのはなぜなのか? また、新たなパートナーとして加わったCraft Egg/Colorful Paletteは、どのように同作に関わっているのか? キーマン3人に詳しくうかがった。
クリプトン・フューチャー・メディア 初音ミク開発プロデューサー/音声チームマネージャー 佐々木 渉氏(ささき わたる)
『初音ミク』の総合プロデューサー。『プロジェクトセカイ』開発においては、ゲームの全体像のみならず、細かい仕様にいたるまでチェックしている。
セガゲームス プロデューサー 小菅慎吾氏(こすげ しんご)
『プロジェクトセカイ』プロデューサー。3Dグラフィックと楽曲関係のまとめ役も担う。
Craft Egg/Colorful Palette プロデューサー 近藤裕一郎氏(こんどう ゆういちろう)
『プロジェクトセカイ』プロデューサー。これまでに『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』などを手掛ける。本作のゲーム開発を担当する。
バーチャルキャラクターが当たり前のものになったからこそ実現できた企画
――まず、この『プロジェクトセカイ』が立ち上がったきっかけを教えてください。
佐々木「スマホで、ミクのリズムゲームを作りたいよね」という話は、もう5年くらい前からセガさんとしていたんです。でも、いい切り口が思い浮かばず、なかなか進みませんでした。
小菅『Project DIVA』とは別の流れで作ろう、と本格的に動き出し始めたのは2年くらい前になりますね。
佐々木えっ、もう2年も経ってますか?
近藤経っちゃいましたね(笑)。
――なかなか切り口が掴めなかったとのことですが、「これならいける!」というブレイクスルーを得たのはいつごろですか?
佐々木『初音ミク』をリリースしてからの数年は、動画コンテンツを楽しむのもPCユーザーが多かったわけですが、その後スマホがすっかり浸透して、動画をスマホで見るのもふつうの時代になりましたよね。『初音ミク』もスマホアプリの展開をしていますし。そんな中、『Project DIVA Arcade』をベースにしたい…というような企画もあったにはあったのですが、時代の狭間だったこともあり、いま一歩攻めきれていなかったんです。ただ、最近改めて、カジュアルなリズムゲームでボカロ曲が人気だったり、たとえばバンドリで『ハッピーシンセサイザ』や『アスノヨゾラ哨戒班』などがすごく人気だったのも知っていました。あと、Vtuberなどの“バーチャルのキャラクターに対して、気兼ねなく接して楽しむ”という風潮が急速に強くなっていたのも大きいですね。このタイミングなら、たとえば『けいおん』のようなスタンダードな世界観に近づくことも、ある程度自然に映るんじゃないか?と考えたんです。逆に、バーチャル・キャラクターとしての“お局感”も活かせるんじゃなかと……(苦笑)。
――確かに以前は、初音ミク以外のバーチャルキャラクターは、あまり目立っていませんでした。
佐々木初音ミクファンからの意見の中で、以前は「バーチャルキャラクターの中で、初音ミクの立ち位置はこうあるべきだ」というお言葉をいただくことも多かったのですが、いまはバーチャルキャラクターたちが自由に共存しているし、超歌舞伎や『新幹線変形ロボ シンカリオン』のように、ミクが別のミクを演じたり、ミクが他のキャラクターと交わるようなシチュエーションが増えてもおかしくないなと思ったんです。
――では、その世の中の流れを汲み取って新リズムゲームを作るにあたり、Craft Egg/Colorful Paletteが参加することになった理由は?
小菅最初はクリプトンさんとセガだけで考えていたのですが、スマホのお客様に向けた企画が、なかなか出てきませんでした。そこで、ちょっと外に目を向けてみようということで、ご意見をいただけそうな方を捜したところ、近藤さんをご紹介いただいたんです。
――では近藤さんは、セガさんから今回のお話があったとき、どう思われましたか?
近藤僕自身、初音ミクのことは2007年から見ていて、VOCALOIDで曲を作ったこともありました。思い入れのあるIPだったんですね。ですので、「やります」と即答はできなかったのですが、「企画を考えさせてください、アイデアが出るかはわからないのですが……」とお答えして、そこから企画を考えて……なんとか出せまして(笑)
――おお!
近藤そこからクリプトンさんも交えて話し合いまして、最初に出した企画からは二転三転どころか四転五転したんですけれども(笑)、ようやくいいものになれたんじゃないかと思っています。
このゲームを入口にして、創作文化に触れてもらえたら
――『Project DIVA』とは別の流れのタイトルということで、やはり、ユーザーも異なる層をターゲットにしているのでしょうか。
近藤スマートフォンのゲームは、家庭用ゲームとはやはりユーザー層が違いますよね。僕自身、ずっと『ガルパ』に関わってきて、若い方に遊んでいただけているなと感じていました。ですので、今回のプロジェクトが始まったとき、「新しい層の方に興味を持ってもらいたい」ということは、3社ですぐに決めました。そういった新しいユーザーの方に、創作文化に触れていただけるとうれしいなと思っています。
佐々木『初音ミク』の曲でトレンドを作ってきたボカロPさんたちは、その時々の若者の皆さんに心に深く響く言葉を使うんですね。そういった楽曲を、若い世代の皆さんもカジュアルに楽しんでいただけるゲームにしたいなと考えました。クリエイターの皆さんに、カジュアルなリスナーターゲットを想定し、曲を作ってもらうためのチャンネルを増やしたいという意図もあります。それは以前であれば、人気曲を集めたコンピレーションCDが担っていた役割でしたが、いまのカジュアル層には、CDより、ダイレクトにスマホのゲーム音楽という形でアピールするのもよいのかなと……。
――キャラクターデザインも、『Project DIVA』とは違う方向性になっていますが、これもやはり若いユーザーさんを意識したもの?
近藤今回はキャラクターをLive 2Dでも動かすことは初期に決まりましたし、3Dモデルもトゥーン調にしたいと思っていたので、そのグラフィック表現に合うテイストにしました。まずはミクたちのグラフィックを決めて、それに合わせる形で新キャラクターを作りましたね。
――新キャラクターたちは、バンド、アイドル、ストリート、ミュージカル、アンダーグラウンドの5つのユニットを構成しています。この5つの音楽性でユニットを作るというのは、すんなり決まったのですか?
小菅いや、すんなり決まっていないです。
佐々木むしろ、すんなり決まったところはないです(笑)。
近藤(笑)。いや、本当にそうですね。
――(笑)。試行錯誤の末に生まれたユニットなんですね。
小菅何度も企画会議をして、確か、佐々木さんがぽろっと、この5つのテーマをモチーフにしたアイデアを挙げたんでしたよね。
近藤ボカロの音楽シーンについて、すごく丁寧に考えたとき、どうしても外せないのは、この5つかなと。“アンダーグラウンド”という言葉がいちばん適しているかはわからないのですが、ボカロの曲を語るうえで、この方向性は欠かせないので。
小菅これだけ、音楽のジャンルがバラけたものをいっしょにしたゲームを見たことがないので。でも、だからこそ、実現できたらすごいなと思いました。
佐々木ボカロについて、知ってはいるけれど詳しくないという方は、「音楽やバーチャル・シンガーが“ごった煮”状態だけど、どこから手を付けたらいいの?」と考えると思うんです。そういう方にも、カジュアルに楽しんでいただくための入口になるタイトルにしたいと思っています。ストリートならストリートの曲を集めて、楽しみやすい順番で案内したいなと。ただ、これはジャンルで縛るというより、入り口としてのわかりやすさを考えた末で出てきた感じです。とにかく、新しいユーザーの皆さんにもリラックスして楽しんでほしいですね。
バンドユニット“Leo/need”
左から
日野森志歩(声:中島由貴)
星乃一歌(声:野口瑠璃子)
天馬咲希(声:礒部花凜)
望月穂波(声:上田麗奈)
アイドルユニット“MORE MORE JUMP!”
左から
桃井愛莉(声:降幡愛)
桐谷遥(声:吉岡茉祐)
花里みのり(声:小倉唯)
日野森雫(声:本泉莉奈)
ストリートユニット“Vivid BAD SQUAD”
左から
東雲彰人(声:今井文也)
白石杏(声:鷲見友美ジェナ)
小豆沢こはね(声:秋奈)
青柳冬弥(声:伊東健人)
ミュージカルユニット“ワンダーランズ×ショウタイム”
左から
神代類(声:土岐隼一)
鳳えむ(声:木野日菜)
天馬司(声:廣瀬大介)
草薙寧々(声:Machico)
アンダーグラウンドユニット“25時、ナイトコードで。”
左から
暁山瑞希(声:佐藤日向)
宵崎奏(声:楠木ともり)
朝比奈まふゆ(声:田辺留依)
東雲絵名(声:鈴木みのり)
――ボカロの入門編としてオススメできるゲームというわけですね。
佐々木はい。皆さんにご説明をしていかなければいけないのは、『プロジェクトセカイ』はボカロのいままでの流れに反するものを目指しているのでは無く、距離感を取りながら、うまく寄り添えるものを作れればよいということなんです。今回、この世界観に限った形ですが、20キャラクターが増えるということで、以前からボカロ文化を楽しまれてきた方はびっくりするでしょうし、「余計なことをしないでくれ」と言う方もいるかもしれませんが……。
――それは、わかります。私も、最初に「新キャラクターがたくさん登場する」と聞いたときは、それを受け入れられるのか少し自信がありませんでした。
佐々木ある種、タブーを犯しているという自覚はあります。我々も、会議のたびに「本当に、この企画、やるの?」と話し合ったりもしました。でも、先ほどお話しした通り、全体バランスを考え、いままでのキャラクターの活躍機会も増やしながら、新しい層の皆さんに遊んでいただくための施策なんです。これを入口にボカロに興味を持っていただけたら、当然、元の曲を楽しんでいただきたいですし、さらには自分で歌ってもらったり、曲を作ってもらえたりしたらいいなと。
――新しい挑戦なくして、新しいユーザーの獲得はできませんからね。とはいえ、20人という数にはびっくりですが!
佐々木過去に、10~15人規模のボカロキャラクターでグループを作るとか、ユニットを作るとか、そんな企画が提案されたこともありますが、実現させたことはありませんでした。そのアイデアを、いま放出させていると言えなくもないですね。ボカロって、いろいろな企画がやり尽くされているように見えて、じつはやっていないこと、やれてなかったことも多いんですよ。
ミクと新キャラクターが歌う楽曲には、クリプトンの最新技術を導入!?
――新キャラクターたちは、新キャラクターどうしでも関係があるし、ボカロキャラクターとも関わるんですよね。
佐々木はい、同じ時間軸にいて、いっしょに音楽に取り組んでいきます。また、このゲームの外側……たとえばリアルなシンガーや、クリプトン以外のボカロキャラクターとも関われるような余地を残しているので、キャラクターがより広がれるように、掘り下げていきたいと思っています。
――ストーリーパートは、どのように展開するのですか?
近藤物語は、音楽を通じてキャラクターが成長するさまと、キャラクターが成長した結果、新しい音楽が生まれるさまをおもに描いています。共通のオープニングがありまして、その後は5つのユニットごとのストーリーを自由に進めていただけます。それぞれの“セカイ(※)”に行けば、ミクたちに会えます。
※セカイ……自分の歌(本当の想い)を見つけたいと願う者だけが招かれる場所。本作におけるミクは、バーチャル・シンガーであると同時に、“セカイ”への来訪者を待つ存在でもある。
――異なるユニットのキャラクターが絡むことは、あまりない?
近藤いえ、イベントストーリーなどで絡みますし、たとえば兄弟のキャラクターたちが、それぞれ異なるユニットに所属していることもあります。
小菅エリア上で、キャラクターたちが会話することもありますよ。
――新キャラクターのキャスティングでは、やはり歌唱力を重視されたのですか?
近藤そうですね。オーディションも実施させていただいて、皆さんには歌を歌っていただきました。
佐々木ただ、何をもって“歌をうまい”とするかは、世代によっても違いますよね。今回は、ミレニアム世代の方たちに向けたタイトルということで、“今風の歌に合う”ことを重視させていただいています。
小菅とはいえ、皆さん、歌唱力が高いのは間違いないです。ボカロの曲を歌うのって、難しいですから。
――ところでリズムゲームでは、ミクたちと、新キャラクターたちがいっしょに歌うとのことですが……。
近藤“セカイ”の中で、ミクと新キャラクターたちがいっしょに歌っています。とはいえ、原曲で遊びたいという方ももちろんいらっしゃると思いますので、2パターンを選べるようにしています。
――つまり、基本的には原曲はすべて収録していて、ミクと新キャラクターの混声バージョンもあるということですね。
近藤一部例外もありますが、ほぼそうです。
――声優さんの生歌と、ボカロの声をうまくミックスするのは、たいへんだったのでは?
佐々木じつは混声バージョンの歌には、来春完成予定のクリプトンの新しいテクノロジーを搭載しています。ミクたちの声が、声優さんたちの声と馴染んでいなければいけませんから。ちなみに、このソフトも来年リリース予定なんです。
――最新テクノロジーの声ですか!? それは楽しみです。
佐々木その技術で、MEIKOたちのトークなんかも流暢に感情表現できるようにしてまして、『プロジェクトセカイ』でもそれ以外でも、最近はミク以外のキャラクターの登場や活躍機会も増やしているんです。『プロジェクトセカイ』は、とくに我々がつぎにチャレンジしなければならない課題に挑むことをテーマとしていますので、この傾向が強いです……その過程の中で、ファンの皆さんが「それは違うんじゃないか」と思うこともあるかもしれません。でも、先に進むためには挑戦しなければいけないことですので、応援していただけるとうれしいです。
小菅ストーリーの中で、新キャラクターのセリフは声優さんが喋るのなら、ミクさんはどうするんだ……と思われるかもしれませんが、そこにも新技術を使っています。
『プロジェクトセカイ』は外に広がるゲーム
――今後、このプロジェクトをどう展開していきたいと思っていますか?
近藤やはり、いろいろなアーティストさんやイラストレーターさんといっしょに作っていきたいですね。楽曲やイラストを公募するという試みもやりたいと思っています。本当に、いろいろなことをやっていくつもりです。
――リリース時期は、いつごろを予定しているのでしょうか。
近藤来年を予定しています。
小菅『Project DIVA MEGA39's』よりは後のリリースになりますね。
――今回ゲーム概要が発表されたので、このまますぐにリリースするのかと思っていたのですが、そうではないのですね。
近藤リリースする前に、丁寧にゲーム内容をお伝えしていきたいと思っていますので。
佐々木『Project DIVA』では、プレイステーション・ポータブル(PSP)の第1弾を発売した後、アーケード版を発表したのですが、匿名掲示板でのユーザーの皆さんの憤りや戸惑いがすごかったんです。たとえば、「ゲームセンターに行かないと遊べないって、どういうことなの? PSPよりフェアじゃない」と。いざアーケード版をリリースした後は、好評だったんですけれどね。今回はそんなに簡単に行かなさそうですが、とにかく皆さんは最初に不安を抱くと思うので、じっくり時間をかけて、ネットからの意見も踏まえていければと話しています。
――キャッチコピーは「一緒に歌おう!」でしたね。
佐々木『プロジェクトセカイ』は、閉ざされたゲームではないんです。“セカイ”はどんどん広がっていく可能性があります。
近藤ミクと新キャラクターたちだけではなくて、ユーザーの皆さんなども含めての「一緒に歌おう!」なんです。
――では、たとえば『プロジェクトセカイ』に興味を持ったIPがあれば、コラボレーションする可能性もありますか?
小菅はい、ぜひお待ちしています。むしろ、こちらからお声がけします(笑)。
プロモーションキャラクターとして、メイコダヨーが登場!
“ミクダヨー”に続くダヨー系キャラクター(?)、“メイコダヨー“が、『プロジェクトセカイ』のプロモーション担当に就任! さっそくメイコダヨーが、インタビューの現場に駆けつけてくれました。今後、どんな活躍を見せてくれるのか……いまから楽しみです。