2019年10月5日、北海道は札幌にて開催されたゲーム/エンタテインメントの技術カンファレンスCEDEC+SAPPORO 2019より、セッション“ゲーム業界 vs 専門学校業界 -双方歩み寄りの提案”の模様をお伝えしよう。

 なかなかアグレッシブなセッション名だが、こちらはゲーム会社社長であり同時にゲーム系の専門学校の講師もしているというトライコア代表の由比建氏が、ゲーム会社とゲーム系専門学校の双方にヒアリングした要望や事情をもとに問題点を伝えるという、ちょっと変わった切り口のセッションだ。

 ゲーム業界の入り口に横たわる現実的な問題と、それに対する現実的な解決とはいかに。セッションの模様をお伝えしていこう。

ゲーム業界歴12年、講師は4年目という、福岡にある株式会社トライコア代表取締役社長を務める由比建氏。
トライコアでは、クリエイタートライアウトなどの人材育成を行うほか、開発請け負いや自社開発も行っている。
由比氏が実情調査のために訪問やヒアリングをした学校はこちら。

もっと強い人材が欲しい……そもそも若い人口が減っている……講師もきてくれない……。迫る危機に双方歩み寄っての改革が必要!

 まずは、由比氏がヒアリングした“ゲーム会社の現状”について。

 ゲーム制作に求められる技術は高度になり続けていて、それについていけるように社内でも技術研究や教育をしていきたいがコストが高い。また、そもそも素養として技術に関心を持っている人でないとコストをかけても伸びていかないという実情もある。というわけでけっきょくは、“実務をしながら新人を育てよう”ということになりがち。

 そこで、ゲーム会社としては“なるべく学生のうちから学校に技術素養を育ててもらいたい”という要望になっていき、“新しい高度な技術にチャレンジする人材がほしい”という声に最終的に行き着くというわけだ。

 ゲーム会社が人材に求める要望はこのように高いが、実情としてはそれ以前に慢性的に人材不足だ。辞めてしまったり転職したりと離職率が高く、フリーランスや外注に頼る機会が増えてコストがかかるようになっている。そうした背景から、“信頼できて打たれ強い人材がほしい”という気持ちも、採用側には高まっているそうだ。

 一方、ゲーム系専門学校側の実情はというと、生徒不足による経営圧迫が深刻で学生のクオリティーを高める以前の状況に陥っているという。そもそも若い人口全体が小子化で減少傾向であり、それに加えて、ゲーム制作は難しいのではというイメージや、ゲーム専門学校にうさんくさいイメージを持つ人もまだまだ少なくないという。

 専門学校はそもそも経営があるので“倒産しないこと”が絶対的なミッションとなるが、生徒不足の現状では、ゲーム業界へと優秀な学生を輩出することよりも、卒業生をどこからしらに就職させて実績を維持するという、“ゲーム業界のことよりも学生の未来をなんとかする”ことで精一杯なのが実情とのことだ。。

 要求を高めるゲーム会社側からの声と、ゲーム専門学校の実情とでは、かなり厳しい距離感が出ている。

 続いては、そんなゲーム系専門学校にヒアリングした“最近の学生の特徴”について。

 まず“「仕事は人生」ではない”という価値観の学生が増えたそうで、ゲーム会社に勤務することは収入を得るためのひとつの手段でしかなく、私生活とは別なものだと考えている学生が多数とのこと。

 “打たれ弱く、ことなかれ主義”という意見も多かったようで。そうなっている背景には社会への不信感があり、自分とその未来への希望がなく、そのため無力感を抱えていて波風を立てないことを重視するスタイルの人が多いという。

 “デジタル恩恵「享受」ネイティブ”という言葉も挙げられた。“デジタルネイティブ”という、物心ついたときからデジタル機器が身近にあって得意とするという意味の言葉はお馴染みだが、いまはもう一歩進んで“恩恵を享受する”姿勢が感じられるという。

 “情報は誰かから自然ともたらされるもの”と考える傾向が見られ、自分で積極的に探しには行かないところがあり、そうして降ってきた情報の恩恵を享受するという。また、コミュニケーションは自分と感覚が合う人とだけの最低限にとどめるミニマリストな人が多いという傾向も見られるそうで、基本的にあまり積極性を出さないということなのかもしれない。

 ……と、まぁきびしいというか、ちょっとネガティブな捉えかたのヒアリング結果を紹介した由比氏だが、これらの特徴は“見かたを変えれば優れた特徴”とも言えるという。

 “「仕事は人生」ではない”と考えている特徴は、“割り切り上手”と言えるし、“打たれ弱く、ことなかれ主義”なところに関しては“炎上などのトラブルを避ける能力に秀でている”と言える。さらに、“デジタル恩恵「享受」ネイティブ”はそのまま、“デジタルネイティブ”と言えるということで、由比氏は、就労意欲を削がないよう、そうしたいまの学生の特徴にあった方法で長所を伸ばしてあげてほしいと語った。

 そうした“いまの学生”に見られる特徴をふまえて専門学校側からゲーム業界へと求める声は、「もっと就職ハードル下げて!」、「学生をいじめて折らないで!」、「講師として助けて!」という3つにまとまっていくという。

 だが、こうした話をすると大概の場合、ゲーム会社で働く人からは「そんなんじゃ業界生きていけないよ!」、「そんな学生欲しくないよ!」といった声が返ってきてしまうという。前述の今の学生の特徴をネガティブにしか見えない人が多いというわけだ。

 しかし由比氏は、いまの学生さんは前述の特徴が全部ではないものの、どれかひとつは当てはまるという人が9割を越えるわけで、そういった学生を迎え入れていっしょに作業して成長できる業界にならないと、どのみち人材不足が行き着いて業界そのものが終わってしまうと語る。

 話が堂々巡りになるが、ではやはり“ゲーム系専門学校でもっと学生の技術もメンタルも鍛えてよ!”という話になるのだが、それは前述の講師不足にぶつかる。

 では、なぜ講師不足なのかというと、そこには講師料の安さという問題があるとする由比氏。ゲーム会社で実際に働く業界人にとって、そもそも講師まで買ってでるような時間がないのが現実であり、非常勤講師のコマ単価は由比氏が調べたところ平均して1コマ4500円とゲーム会社で働く人材単価の半分以下。これでは協力したくても難しい。よい講師がいなければよい学生さんを育てるのは難しくなり、ジリ貧に陥っている。

 由比氏がヒアリングし調査した結果、ゲーム会社とゲーム系の専門学校それぞれの要望は、このようにお互いが困っているところにより高い要求をしていて、悪い噛み合いかたをしているという結論に至ったそうだ。

 企業側は学生さんの技術向上を求めるが、専門学校側はむしろ就職ハードルを下げてくれないときびしいと言うし、精神面を鍛えてと言うが、むしろ折れてしまわないようにすべきと言うし、講師は足りないが、いまの待遇ではやりたがらないのも必然となっている。

 この現状について由比氏は、「ゲーム業界と専門学校はお互いの現状についてもっと正直に話し合って現実的な策をとらないといけない」と語る。どのみちきびしい現実があり、どちらの側ももう欲張ることはできないし、互いが痛み(出費や労力)を費やした改革をしていかなければ先がない。

 さらに由比氏はこの構造は、“ゲーム業界と専門学校”だけでなく、“ゲーム会社内の現場と経営”にも同じことが言えるし、そこにも同様の歩み寄りが必要だと語る。もちろん会社によって異なるところはあるものの、多くのゲーム開発の現場にも限界がきているので、経営陣からの歩み寄りが必要と考えているということだ。

 由比氏は最後に、まだまだヒアリングをして現状のデータを集めたいという気持ちがあり、とくに学校グループの経営陣に協力をお願いしたいそうだ。このセッションで伝えた問題は即座に答えを出せるようなものではなく、建設的な話し合いが必要だとして、ご意見、ご感想をお聞かせいただきたいと、セッションを締めくくった。