2019年10月5日、北海道は札幌にて、開発技術者・クリエイター・学生を対象にしたゲーム/エンタテインメントの技術カンファレンスCEDEC+SAPPORO 2019が開催された。

 多数のセッションが行われたなか、そのラストを飾ったのが“xRどうでしょう祭 FESTIVAL in CEDEC+SAPPORO 2019”だ。こちらは、xR(VR、AR、MRといったバーチャル技術の総称)の現状とこれからについて、超豪華なパネリストがざっくばらんに語ってしまうという、まさに“祭”なセッションとなっていた。

 登壇したのは以下の5名。xR関連のキーマンが札幌に勢揃いしたセッションの模様をお伝えしていこう。

セッション全体の進行役を務めたのは、XR技術者のためのコミュニティ“xR Tech Tokyo”の運営責任者を務める諸星一行氏。
プレイステーション VRの開発でもおなじみ、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏。
Oculus Japanの立ち上げに関わり現在はエクシヴィ代表を務める、VR関連ご意見番の“GOROman”こと近藤義仁氏。
HTC NIPPONにてVIVE事業の日本責任者を務めたのち、現在は独立してIntoFree代表を務めている西川美優氏。
バーチャルキャストのCVO(最高事業計画責任者)を務める、みゅみゅ氏。

写真のつぎは“写場”になる!誰でも手軽に現実の空間をスキャンしてVR空間を作れる時代に

 最初の話題は、このCEDEC+SAPPORO 2019より約1週間前に発表された“Oculus Quest”のアップデート“Oculus Link”について。

 Oculus Linkは、QuestをUSB-CケーブルでハイエンドPCに接続することで、PC用VRヘッドマウントディスプレイであるRiftシリーズの対応タイトルを遊べるようにするというもの。xR界隈の人はみなこの発表に「Oculus Questが本気を出してきた」と驚きの声を漏らしていた。

 GOROman氏はこのOculus Linkの専用ケーブルに注目。コネクタこそUSB-Cではあるが内部的には光ケーブルになっているそうで、西川氏も最初は「USB-CでPCと繋ぐって聞いて、どれだけ遅延するんだろう」と思ったそうだが、やはり中身は光ケーブルになっていると聞きつけたという。

 実際にOculus Linkでのプレイを体験した人の声としては、思ったよりも遅延せずRiftとの差を感じさせないという感想が多いそうだが、GOROman氏としては、「横方向はいいけど、縦方向はバッファが大きいから遅れが少しでていた」そうだ。ともあれ、頭の動きが少なめの『BeatSaver』ぐらいなら全然遊べるとのことだ。

 パネリスト全員、接続方式などを技術的な側面を含めて、Oculus Linkには興味津々の様子だった。

 続いてGOROman氏が語ったのは、氏が注目しているという“スマホに空間を3Dスキャンさせてクラウド経由にすぐさまCG空間を作る技術”。そのあたりのプロダクトに積極的に取り組んでいるというサンフランシスコにあるUbiquity6という会社を訪れたそうだ。

 この技術は、写真を複数枚使用してデジタルアセット『フォトグラメトリー』に近いものの、こちらでは写真を撮る必要もないそうで、室内を見回すようにスマホをかざせば空間がスキャンされてVR空間が完成する。そして、そのスキャンした世界へVRで入ることも可能だという。

 この技術は今後のトレンドになると語る西川氏とGOROman氏。写真の技術はもう十分に高まったので、これからは“写場”になっていくのでは……ということだ。

 なお、これには吉田氏もすでに注目しているようで、Ubiquity6が取り組んでいるプロダクトでも、スキャンからのCG化にクラウド経由が必須であるかどうか、また、鏡面反射対策(ガラスなどの素材に景色が反射しているスキャンしづらくデータが乱れがち)などをGOROman氏に聞いていた。

Ubiquity6にでGOROman氏が体験して欲しくなったという社員が集中するためのボックス。
最新世代のiPhoneでは人間のモーショントラッキングもiPhone単体でできる。
画像内の猫は実はAR。手前に人が歩いているが、iPhoneが人間を認識してAR表示のオクルージョンを自然に処理している。
認識した人間の姿にテクスチャを重ねたりなど、カメラを使ったxR的な取り組みがiPhoneではかなり進んでいる。

ハンドトラッキングの精度も次の世代へ。吉田氏はゲーム体験に大事な手触りとの併用を意識

 セッションの流れはOculus Questのハンドトラッキング対応の話題へ。

 GOROman氏が実際に体験したところ、Oculus QuestのハンドトラッキングはHMDの4つの赤外線カメラで手を機械学習してトラッキングしており、Leap Motion(リープモーション)よりも遥かに精度が高かったという。手の複雑な形(指の1本1本まで)も正確に捉えてくれたそうだ。

 これに対し吉田氏は「遅延が気になるんだけど、どうでした」と懸念を投げかける。実際のところGOROman氏からも遅延は感じたようで、「遅延は80msぐらいあった」ということだ。また、遅延以外にも手が重なると検知が消えてしまうなど、まだ弱点がいくつかあるという。だがGOROman氏は、手の検知の精度の高さへの感動が大きくて、それらいくつかの懸念を感動が上回ったそうだ。

 GOROman氏は、「遅延等の懸念は時間が解決するはず」とし、GOROman氏が代表を務めるエクシヴィで展開している“AniCast Maker”でもこのOculus Questのハンドトラッキング機能をフルコミットして使おうと決断させたほどだったという。数年のうちにこれを機にハンドトラッキングのインターフェースがより伸びると力説した。

 西川氏からみゅみゅさんに「バーチャルキャストはOculus Questに対応するの?」と質問が投げられると、みゅみゅさんは「する!」と即答。ただ、ハンドトラッキングについては、「ハンドトラッキングをするとコントローラーは使えないじゃないですか? そこらへんの操作性をどうするか……」と、メニュー呼び出しなどを音声認識で対応させるなど、ハンドトラッキング用に新たに考える必要があるところに悩んでいる様子だった。とはいえ、ハンドトラッキング対応は「やりたい!」と、やはり前向きなことには違いはないそうだ。

 吉田氏としては、ハンドトラッキングをゲームに使うことを考えるもののコントローラーを併用したいという気持ちがあるそうだ。ゲームに大事な押した感、いわゆる手触りを大事にしたいという。GOROman氏もこれには同意し、「片手を銃型コントローラーで片手はハンドトラッキングとかできるといいかも……」と語った。

 メニューやツールをハンドトラッキングで使いやすくするという側面では、西川氏からは腕時計タイプのメニュー呼び出しUIがVRによくある例をもとに、ハンドトラッキングと腕時計型のコントローラーの併用といったアイデアも。

 ハンドトラッキングの精度が一段階高まることで、それを活かしたり併用する前提のUiやデバイスの進化がもうすぐやってくるのかもしれない。そう感じさせるやり取りとなっていた。

Oculus Questのハンドトラッキングの精度の高さにとても感動したというGOROman氏。これからに影響する大きな進歩を感じたようだ。

 Oculus Questに限らずxR全般のデバイスの話題に入ると、GOROman氏は“Nreal Light”を紹介。“Nreal Light”はAR/MRデバイスで、不自然さの少ないメガネ型でかなり軽量なのがポイント。それでいて空中にちゃんとAR/MR映像を見せてくれるし発色もなかなかのものだったという。まだトラッキングがちょっと甘くて頭を動かすとカクつきがあったのが懸念と感じたとはいうものの、このサイズと重さなら、気軽に使える良い未来へ一歩近づいた感触を得たという。

 接続は、メガネのツルの先からケーブルが伸びていて、それをスマホなどに繋げて使うスタイル。GOROman氏はこの方式がしばらくは流行るのではと予想していて、来年あたりからARグラスの勢いが増し、ARグラスがたくさん世の中に出てくるのではと考えているということだ。

小型軽量で、ふつうのサングラスよりちょっと重いぐらいになってきたARグラス。GOROman氏は来年あたりからARグラスの製品がたくさん出てくると予想している。

『マーベルアイアンマンVR』の自由な移動は本当にすごいんですよと吉田氏力説!

 ここから話題はゲームとxRについて。まずゲームと言えばということで話題を振られた吉田氏は「PSVRにはフロントカメラを搭載しなかったのでxRはやっていないのだけど……」としつつ、先ほど話題に出た“現実の空間をスキャンしてVR空間を作る技術”はVRのゲームタイトルにも活かしやすいと、興味を語っていた。

 西川氏から、セッションの数日前に報じられた“PS4のクロスプラットフォームプレイがベータ段階を終了した”という話題について、「これでPSVRでもほかデバイスのユーザーといっしょにに遊べるようになるのですか?」という質問も。

 吉田氏は、「これまではタイトルごとにクロスプレイをやっていたんですけど、たとえば『RecRoom』というソーシャルVRのサービスは、海外ではクロスプレイができているのに日本では提供されていないんです。そういうのは、タイトルごとにクロスプレイさせるかどうかをパブリッシャーさんと話し合ってひとつひとつ決めていたんですよね。今週に発表されたのは、そのひとつひとつ決めていたのをもう話し合いなしに基本的にOKにしようというものです。方針転換ですね」と回答した。

 今後はパブリッシャー次第ではあるが、基本的にPSプラットフォームにおいてクロスプレイは開かれて前向きになると解釈してよさそうだ。

 さらに西川氏からは「プレイステーション5と、それに繋がるPSVRの後継機が気になるんですけど!」とストレートな質問も!

 吉田氏は「それについて公表しているのは“現行のPSVRもつぎのプレイステーションに繋いで遊べます”というだけなんですよー?」と苦笑い。

 話せる範囲として吉田氏からは、「私が嫌いなのはローディングの時間なんです。みなさんも嫌でしょう? VR体験においても邪魔ですよね。それが次世代のプレイステーションならローディングが一瞬! いまちょっとだけ出している情報では、どうもそうなるらしいんですよ!」と、既知の情報の範囲からではあるのだが、次世代プレイステーションでローディングが劇的に速くなることでVR体験も変わっていくことを強調した。

 もうひとつPSVR関連で『マーベルアイアンマンVR』の話題も。海外では2020年2月28日に発売が決定した本作について、吉田氏は「滅茶苦茶すごいんです!VRのゲームでこんなに自由な移動ができるのかとビックリしてもらえるはず」と力説。

 西川氏もこの『マーベルアイアンマンVR』のプロトタイプを2~3年前に体験させてもらったことがあるそうで、移動システム自体はそのときすでに確立されていたという。西川氏はかなりVR酔いするほうだというのだが、『マーベルアイアンマンVR』はすごく自由な移動システムながらまったく酔わなかったそうで、VR酔いにきびしい西川氏としてもオススメできるタイトルになっているとのことだ。

 セッションの締めくくりとして、“xRの未来はどうなるのか?”という話題へ。まず吉田氏からは「Oculus Questはすごい!」と考えているそうで、基本仕様としてはひとつの完成系ではとすら思えているという。あとは時間とともに技術が伸びて製品サイクルが更新され、“Oculus Quest 3”ぐらいになったらすごいものになるのではと予想しているそうだ。

 それについてGOROman氏は、FacebookではARグラスを作っているということも先日に発表されたことから、最終的にはOculus QuestとARグラスの取り組みがマージされて、AR/VR両対応の軽量デバイスになっていくのでは、という展望を語った。

 西川氏からもやはり、xR関連に興味のある若い人がいま買うならOculus Quest一択だとオススメしつつ、今後に新しいデバイスが出ても価格はおそらく10万円を越えることはもうないだろうから、つねにいつ何が発売されてもいいように10万円程度の貯金はしておきましょうと、堅実なコメントで会場の笑いを呼んでいた。

 約1時間にわたってキーパーソン5人によって最新のxR事情や展望が語られたセッション。最後にGOROman氏から「VRを生活の必需品にしたい」と熱い想いが伝えられて、セッションは締めくくられた。