大ヒットを飛ばしている『ヒューマン フォール フラット』のパブリッシャーとして、いま注目を集めるテヨンジャパン。同社は、ポーランドの会社テヨンが、2011年に設立した日本法人となる。遠い日本の地で、テヨンはいかにしてこれほどの成功を成し遂げたのか……? キーパーソンふたりに、設立からいまにいたるまでの成り立ちなどを聞いた。

ミカル・タトカ氏(写真左)

テヨン/テヨンジャパン 代表取締役CEO

三浦光広氏(写真右)

テヨン/テヨンジャパン マネージャー

5人の仲間で作った会社、家庭用ゲーム機への展開が転機に

――まずは、母体となるテヨンのことから教えてください。

ミカル私はもともとゲームが好きで、子どものころからPC-286(※)などでゲームを遊んでいました。その後、親がプログラマーだったこともあり、中学生のころからプログラムをするようになったのですが、高校時代に同じような趣味を持つ友だちと意気投合したんですね。テヨンは、そのときの仲間5人と2006年にポーランドで設立した会社です。会社はいまでは70人程度の規模になっていますが、いまだに5人は仲よく働いています。

※PC-286……セイコーエプソンから1987年に発売されたPC-9800シリーズの互換機。

――どんなゲームを開発してきたのですか?

ミカル設立当初は、パズルやアクションなど、小さなゲームをたくさん作りました。雑誌に付録として付く、CDに収録されたゲームを手掛けたりもしていましたね。そのうち、家庭用ゲーム機向けゲームも手掛けるようになりました。最初のゲームは2009年にリリースした、ニンテンドーDSiウェア用パズルゲームの『ARC STYLE: ロボットレスキュー 〜トラップだらけの迷路パズル〜』です。この作品は、日本でもアークシステムワークスさんから発売されています。いまから思うと、家庭用ゲーム機に参入したのが、テヨンのひとつの転機となったと言えるかもしれません。

――なぜ家庭用ゲーム機向けにゲームを作ることにしたのですか? ポーランドでは、PCが圧倒的なシェアを誇っていると聞いたことがありますが……。

ミカルPCと家庭用ゲーム機はまったく違うプラットフォームです。「私たちが家庭用ゲーム機向けに何か新しいことができるのではないか?」ということで、チャレンジしたいと思ったんです。私自身が子どものころからファミコンなどを遊んでいて、家庭用ゲーム機の魅力に触れていたということも大きいかもしれません。ベルリンの壁が崩壊したのが1989年で、当時私は6歳でした。あの時代くらいから、ポーランドにも家庭用ゲーム機が入ってきたという印象があります。

――家庭用ゲーム機は、西側の文化の象徴のひとつだったということですかねえ……。

ミカルそうかもしれません。当時は相当高価で、なかなか手が出せなかったですが。

――そのあとの家庭用ゲーム機での展開はどのようなものだったのですか?

ミカル大きかったのは、『ヘビーファイア』(2010年)シリーズですね。本作は、Wii ウェアでリリースしたオンレイルシューターで、当時Wiiユーザーで遊ぶのはお子さんが多かったのですが、あえて大人をターゲットにした激しいシューターを投入したんです。コーラとポップコーンを片手に楽しめるシューティングを目指したんですよ。それが好評を博して、ランキングの1位も獲得しています。『ヘビーファイア』シリーズは、これまで4作を重ねていますね。

――ちなみに、テヨンという社名の由来は?

ミカル答えはとてもシンプルです。5文字で響きのいい名前を探していたんです。かつ、 “.com”のドメインで、インターナショナルで5文字でフリーで取得できる名前にしたかった。覚えてもらいやすいですからね。それで5人で片っ端から当たっていったのですが、けっこう取られていて……。ようやく見つけたのが“Teyon”でした。ポーランド人にとっては、アメリカや日本を思わせる響きがあって、私たちはとても気に入っています。

日本展開は試行錯誤の日々、着実に一歩一歩前進したい

――では、日本に支社を設立するにいたった経緯を教えてください。

ミカル一度日本でタイトルをリリースしてみて、「やはり自分たちで開発したタイトルは自分たちでパブリッシングするほうが何かとやりやすい」ということに気づいたんです。当時はデジタル版のパブリッシングに関しても、現地法人を設立したほうが何かと利便性が高かったので、日本法人を設立することにしました。2011年のことですね。

三浦これはポーランドの国民性なのかもしれないのですが、“やりたいと思ったらとりあえず動いてみる”という気質があるようです。

――日本法人ではどのような展開を?

ミカル2012年のニンテンドー3DS用『バードマニア3D』が最初のパブリッシングタイトルになります。本作は、シリーズを合わせると世界で70万本を超えるヒットを記録したのですが、日本ではそれほどでもありませんでした。そこからなかなかに苦労の日々が始まりまして……。

三浦私がテヨンに入ったのは2014年でした。当初は翻訳担当として入社したのですが、入社してすぐに気づいたのが、当社のローカライズがとても雑だということでした。まあ、知識がないので仕方ないのかもしれないのですが、直訳に近い形で、日本人に親しみやすいものではなかったんですね。チームの体制も整っていなくて……。極端な話、言語を外部の方に翻訳してもらって、それをそのままゲームに載せて出すという、いまなら絶対に考えられないことをやっていたんです。

――ノウハウがなかったんですね。

三浦ローカライズの質がよくなくて、日本のゲームファンからはネタにされてしまったりもしていました。“テヨンのゲーム=クソゲー”みたいな言われかたもされましたね。私はゲーム業界に対して何の経験もなしにテヨンに入ったのですが、「これはいけない」ということで、ローカライズの質を上げるために動き出しました。盛り返したのはそこからです。

――いかにローカライズのクオリティーを上げるかが、テヨンジャパンのブランドイメージを高めるために必須だったのですね?

三浦そうですね。タイトルのクオリティーにはある程度自信はあったので、あとはどうやって、クソゲーのレッテルを剥がすかというのは、大きな課題でした。ただ、その一方でタイトルセレクトにも問題がありました。「これは日本人には気に入ってもらえないのでは」というタイトルも、平気でリリースしてしまっていたんです。

ミカル最初のうちはテヨンで開発していたタイトルを日本でパブリッシングしていたのですが、そのうち欧米のパブリッシャーやデベロッパーから、「どうやって日本でタイトルを出しているの?」という問い合わせをたくさんいただいたんですね。それで、当社が自社でパブリッシングしているということを知ると、「うちのタイトルも日本で出してほしい」という引き合いがたくさんきたんですよ。ちょうどインディーゲームが盛んになって、日本でソフトを出したい欧米のデベロッパーが増えてきた時期でもありました。お付き合いの兼ね合いもあり、その要望にある程度応えているうちに、どうしてもクオリティーの担保ができなくなってしまったんです。

三浦さすがにそれはよくないということで、スタンスを改めまして、徐々にタイトルを厳選する体制にして、少しずつクオリティーの高いタイトルだけを手掛けるようになっていきました。その流れのなかで、私が見つけてきたWii U用ソフト『タロミア』や『キューブライフ:ピクセルアクションヒーローズ』が日本でも高い評価をいただいて、だんだんと手応えを掴んだんですよ。

――『ヒューマン フォール フラット』を手掛けるようになったのも、そういったいい流れがあってこそですか?

三浦そうですね。『ヒューマン フォール フラット』はリトアニアのNo Brakes Games開発のタイトルで、海外でのパブリッシャーであるCurve Digitalさんから、「日本で出しませんか?」というオファーをいただきました。私たちとしても、「こういうゲームをうちで出すべきだ」と考えて、日本でのパブリッシング権利をなんとか勝ち取りました。結果、大ヒットとなりまして、Nintendo Switch版、プレイステーション4版ともに、リリース以降ロングセールスを記録しています。

ミカル『ヒューマン フォール フラット』は、日本のファンにも気に入ってもらえるだろうという自信はありましたが、ここまでヒットするとは思ってもいませんでした。いまは、プレイヤーさんが長期で遊べるように、継続してコンテンツを追加していけるように、パートナーさんと話しています。

『ヒューマン フォール フラット』は、主人公は夢の中に入り込んだ主人公のボブ。体はぐにゃぐにゃしており、思うにまかせないのが特徴。

――最近だと『ムーンライター 店主と勇者の冒険』もスマッシュヒットを記録しましたね。

三浦開発はスペインのDigital Sunで、パブリッシングを担当しているのはポーランドの11 bit studiosですね。『ムーンライター 店主と勇者の冒険』もひと目見た瞬間に、「これは絶対に出さないといけない」となりました。さらにジワ売れしてほしいタイトルですね。現在ダウンロードコンテンツも開発中で、なるべく早くリリースできればと思っています。

『ムーンライター 店主と勇者の冒険』は昼間は道具屋の店主として、夜は冒険者としてダンジョンで冒険をする。

――ちなみにいま自社開発タイトルのパブリッシングというのは?

ミカルほとんどやっていないです。いまはほかのパブリッシャーさんやデベロッパーさんのお手伝いが中心になっています。ただ、自社パブリッシングタイトルは、いろいろと企画していますよ。

――最後に、今後の目標をお教えください。

ミカル『ヒューマン フォール フラット』の成功もあり、当社にはいろいろなオファーが来るのですが、とにかく“ベストな”インディーゲームを日本のファンの皆さんにご紹介したいと思っています。じつは現在パッケージ版の販売も計画しているんですよ。まさに、ステップ・バイ・ステップ(一歩一歩)で展開していきますので、今後にご期待ください!

『ヒューマン フォール フラット』とは?

 物理演算を駆使した3Dアクションパズル。粘土のような体になった主人公のボブが、オブジェクトを動かして、オープンワールドでさまざまなパズルを解いていく。最大8人によるマルチプレイも可能。実況配信などで人気に火がつき、2018年Nintendo Switchダウンロード専用ソフトの年間ダウンロード数ランキングで第1位、2019年上半期でも2位に輝く大ヒット作となった。

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