2019年9月4日~6日まで、パシフィコ横浜で開催された日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンスCEDEC 2019。同カンファレンスよりソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、『SIE』)による“PlayStation VR の振り返り”のセッションの模様をお伝えしよう。
2016年10月13日の発売より約3年が経過したプレイステーション VRだが、このセッションでは、3年間の振り返りと積み重ねられてきたデータの分析、VRコンテンツを楽しむユーザーの傾向、開発における事例やノウハウなどが語られた。
登壇したのは、SIE 東京グローバルデベロッパーテクノロジー部の秋山賢成氏。
秋山氏はSIEにてゲーム・コンテンツ制作コンサルティング及び技術サポートに従事しているだけでなく、プレイステーション4 および プレイステーション VR の技術講演も実施しており、ユーザー動向のデータを分析しつつも、さらにVRコンテンツ制作のノウハウも持ち合わせているという人物だ。
ワールドワイドのPS VRユーザーと、日本のPS VRユーザーを分析!日本のユーザーには独特の特徴が
秋山氏がまず触れたのは、PS VRコンテンツにおける“データから見る世界のトレンド・動向”。ワールドワイドと日本のユーザーの傾向の違いなどを解説した。
まずは2018年から2019年7月までの最新1年ほどの北米のPS VRコンテンツのTOP Downloadsを紹介。2018年はおもに『Superhor VR』や『Job Simulator』の2タイトルが上位にい続けるが、2018年11月に『Beat Saber』が発売されると、そこからは3強に。この3タイトルはいまも継続的に売れ続けている。
北米のPS Storeでは、プレイステーション Moveを使うタイトルがとても人気で、上位のタイトルは長期間にわたってコンスタントに売れ続けるという傾向があるという。また、PS VRでもシュータータイトルが根強い人気がある。
続いては、PS VRユーザーのデータをもとに、ワールドワイドと日本におけるユーザーの傾向を分析したという、興味深い内容が語られた。
データ分析の項目はそれぞれ“PS VR本体に対するアタッチレート(装着率・所有ソフトの傾向)”、“累計起動時間”、“1回のプレイ時間”にわけられている。これはPS VR発売からいままでの3年間のデータだ。
なお、この分析については、具体的なタイトル名やコンテンツ名は伏せた表現でまとめられている。
まず、ワールドワイドのPS VR本体に対するアタッチレートだが、無料コンテンツを入手している人が多いのは当然と言えば当然なところ。有料コンテンツでは、プレイステーションのタイトルがPS VR化・または対応したコンテンツが高い人気を誇っているそうだ。また、ノンゲームコンテンツも人気があり、VR内で動画を再生するコンテンツはとても多くプレイされているという。
つぎにワールドワイドの累計起動時間。こちらも当然ながらVR入門的なコンテンツの累計プレイ時間が最も長いということだが、意外なことにシナリオがあってボリュームのあるコンテンツのプレイ時間も長いのだという。
秋山氏も印象としては、VRコンテンツは疲れない程度に1プレイが短いものが相性がいいのかなと思っていたということだが、VRに慣れた人が増えたためか、いまは1プレイが長くてボリュームがあるものの方が遊ばれる回数が多いそうだ。
ワールドワイドの1アカウントあたりの1回のプレイ時間について。こちらではユーザー間でコミュニケーションが取れるあるコンテンツが上位を占めている。くり返し長く楽しめるコンテンツが多いが、シューターコンテンツはあまり上位にいないそうだ。
続いては日本のPS VRユーザーの傾向について。ワールドワイドの傾向と比較すると、日本はだいぶ異なるところがあるのだという。
日本のPS VRユーザーのPS VR本体に対するアタッチレートは、動画コンテンツなどのノンゲームコンテンツの人気が高く、人気アニメコンテンツのDL数がとても多いという。一方で、ゲーム自体はフルボリュームのコンテンツが人気で、VRモードががっつり作りこまれているものや、1プレイの時間が長かったり、クリアーまで長くかかるコンテンツが人気とのこと。
日本のPS VRユーザーの累計起動時間は“動画コンテンツ”が圧倒的。ノンゲームコンテンツで激しいアクション性がないものが人気ということで、ゆっくり眺めるもの、疲れないものが人気だという。ゲームコンテンツでは、ワールドワイド同様に既存のゲームがVR対応したもの、もしくはそれを活かしたVRゲームが遊ばれているそうだ。
日本のPS VRユーザーの1アカウントあたりの1回のプレイ時間では、RPG要素が強いコンテンツ、役割を演じるものがダントツ。また、戦略的な駆け引きがあるコンテンツも上位とのことだ。
動画コンテンツはこの項目でも上位だが、秋山氏いわくワールドワイドと比較すると日本はここが特殊だという。DL数はあまり多くないのに、累計プレイ時間が滅茶苦茶に長いというコンテンツが、日本にはたくさんあるのだそうだ。つまり、あまり認知されていないけど、プレイしてみるとおもしろいので、すごく遊ばれているコンテンツが多いのだという。
そうしたところから秋山氏は、“日本のPS VRユーザーは1プレイをじっくり遊んで自分の好きなものを見つけていくという傾向の強い人が多いのでは”と分析しているそうだ。
発売から3年の累計データを分析したのに続いて、ここ半年のデータで同様の分析が紹介された。つまり、最近のPS VRユーザーの動向だ。
まずワールドワイド。ワールドワイドのユーザーはリリース日に依存せず、ストアの人気コンテンツがそのまま毎月多く遊ばれている。入門タイトルも根強いので、新規ユーザーがコンスタントに入ってきているのも感じられるとのことだ。
ユーザー間コミュニケーションのあるコンテンツはさらにプレイ時間を増やしていて、ほぼすべてのコンテンツが累計の起動時間を伸ばしているのだとか。
つぎに日本のPS VRユーザーのここ半年の動向について。動画コンテンツ利用が累計起動時間でも圧倒的な1位で、最近の半年ではその傾向がさらに高まっているそうだ。
ただし、日本のPS VRユーザーは動画コンテンツを連続再生している時間そのものは短いのだとか。でも、動画コンテンツ利用の累計はダントツで多い。つまり、1回あたりの連続起動時間は短いものの、こまめに動画コンテンツを見ているユーザーが非常に多い、ということになるのだとか。
ゲームではワールドワイドでも人気なアクションゲームは日本でも人気があるとのこと。ただ、日本のPS VRユーザーはコンテンツ消費が非常に早くて、離脱率が高い、つまりつぎの新作コンテンツへとすぐに移ってしまう傾向が見て取れるという。
そうした傾向がある一方で、1プレイあたりの起動時間が長いという傾向もあり、ワールドワイドと比較すると倍以上になっているらしい。この点については、日本のユーザーは趣向が特定の分野に偏るという傾向を感じるとのことだ。
というわけで、このデータ分析からは、日本のPS VRユーザーが短時間で終える動画再生に用いているユーザーが多いこと、そのこまめな再生が累積して、累積起動時間でも動画コンテンツがトップになるという、かなり独特な傾向にあることがわかった……という結論となっていた。
VRに慣れたユーザーが増えたいま、改めて気をつけたいPS VRコンテンツ作りのポイントとは
セッション後半には、秋山氏からPS VRコンテンツ制作のノウハウとして、“コンテンツ制作時にハマったポイント”や“制作時のちょっとした小話”が語られた。
SIEでは“VRコンサルテーション”というVRタイトルのチェックやコンサルタントサービスを提供しているということで、そのVRコンサルテーションでよく指摘される事例を紹介。
事例の多くには、いわゆるシステム機能の問題や黒染みなど、VR開発者の人にとっては「あぁ、あれね」と思う項目が並んでいるということだが、そうしたなかで、昨今ではVR中でのカメラ操作にチャレンジングな実装をしがちという問題もあるという。
これはVRコンテンツを長く遊んでいる人が増えてきて、彼らが耐性がついてVR酔いをしなくなったことで、よりアグレッシブな体験を求めるようになったこと、そして、クリエイターがそうした人たちの声に応えようとした結果、VRに慣れていない人にとって激しすぎるものになってしまう。つまり行きすぎをしてしまうという現象が起きているわけだ。
これに対し秋山氏は、そうしたアグレッシブなカメラ操作モードを実装するのなら必ずWarning(警告表示)を出しすよう提案。アグレッシブなユーザーの声に応えつつも、いろんなユーザーに配慮したほうが、絶対的に好ましいと考えているということだ。
立ってPS Moveを持って遊ぶタイトルが増えたことについて、プレイに夢中になって目の前の机や周囲のものにあたるということを、改めて意識すべきとも語られた。PS Cameraでユーザーの向きを検知しているので、センターから外れた場合はこちらも必ずWarning(警告表示)を出すようにして欲しいということだ。こういう基本的なことが意外と忘れがちになっているので、改めて意識して欲しいのだという。
メニューをどう表示するのかも、意外と難しい。メニューを目の前に張り付いて表示させるタイプだと、3D空間の奥行きとメニューが手前にある距離感の違いがコンフリクト(ぶつかりあい)を起こしてしまい酔いやすくなってしまう。メニュー表示はコンテンツ次第で適したやりかたが変わってくるところではあるが、“VRコンサルテーション”ではこれを指摘することが多いそうだ。
VRコンテンツの開発ノウハウの数々も、時間の限り紹介された。