ゲーマーが自由に遊ぶイベントを見学

 ゲームのオフラインイベントが好きでよく参加している。

 取材で行くこともあれば、ふらりと遊びに行くこともある。どちらかというと後者のほうが多い。「取材するぞ」という意気込みは遊びにとって邪念だ。

 地方のイベントにもわりとよく行く。編集長に「記事を書くので出張として行っていいすか?」と交渉して、出張費が出なくても「まあ、いいか」と、自費で行く。

 「地方の盛り上がりを伝えなければ!」みたいな使命感はとくにない。地方のゲームイベントに参加するのもこうして記事を書くのも、何となくおもしろいからである。

 ゲーマーってけっこうそういうものなんじゃないかな、と思っている。

で、みんなでゲームを遊ぶようなイベントに顔を出す。

 大切なのはおもしろそうな空気。少し前の話になるが、その空気感を具現化させたようなイベントが、2019年6月14日~16日にかけて夜通し開催された。

 その名も“瀬戸内LAN”。3日間にわたって、ひたすらゲームをする(だけの)イベントである。会場は広島県の商業施設・mitte宇品。

 広島県にはおいしい日本酒がたくさんある。よし、行こう。

来ました。自費です。

ひたすらゲームを遊ぶイベント形式“LANパーティー”

 瀬戸内LANは“LANパーティー”と呼ばれるタイプのイベントだ。参加者は席付きのチケットを購入して自分の席を確保し、好きなゲームを自分で持ち込む(席なしの入場券もある)。そして、時間が許すかぎり遊ぶ。

 ステージイベントも用意されるものの、主軸はあくまで“ゲームを遊ぶこと”。ゲームのイベントとしてこれ以上ないほど純粋である。

 自分の席でゲームをして、人が遊んでいるゲームがおもしろそうだったら触らせてもらい、疲れたら休憩して、体力が戻ったらまた遊ぶ。

 それを数十時間も続けるうちに、ゲームはまるで気体のように姿を変えて会場内に充満する。

 そんなの楽しいに決まってる。

mitte宇品は飲食店やイベントホールを備えた複合施設。入ってすぐに瀬戸内LANののぼりがあった。

 僕が参加したのは6月15日(土)~16日(日)の2日間。LANパーティーの初日は自席のセッティングに追われるものなので、ある意味では2日目が本番だ。

 会場に入ると、みんないい感じにできあがっていた。飲み会に1時間くらい遅れて参加したときみたいだ。お酒ではなくゲームに酔っている。

会場入りして最初に目に飛び込んできたのが、この光景。

 入ってすぐの席で『太鼓の達人』をプレイするこの人は、高知県eスポーツ協会の谷本さん。中四国のコミュニティーを盛り上げたいと考え、そのためにはまず自分が現場に飛び込むべきだと、本気を出して遊んでいた。

 高知県と言えば、ご当地キャラのしんじょう君がガチの格闘ゲーマーであることが判明して話題になった。高知県がぐいぐい来てるぞ。

受付ではPC用オンライン対戦ゲーム『Dota 2』グッズが売られていた。これは伏線なので覚えておくといい。

 会場内を歩くと、ゲーム中のいい顔が視界に入る。そして、見知った顔がいくつも視界に入る。きみたちの自宅、たしかこの辺じゃなかったよね?

 オフラインイベントに参加しているうちに顔見知りは増えた。中でも日本最大のLANパーティー“C4 LAN”で知り合った連中は「おもしろがってやろう」という意志が強い。

 彼らは瀬戸内LANからにじみ出るおもしろそうな空気を察知して、関東から、関西から、他県から、集まってきたのだ。自慢のPCとゲーム機を持って。

 「南総里見八犬伝みたい!」と興奮したが、ただゲームをしているだけである。

ゲームのイベントが好きで、どこでも足を運ぶ人はけっこういる。
格闘ゲームがあるとコミュニケーションを図りやすい。対戦相手はわんさかいるし。
広島感の強い席。
広島東洋カープのマスコットキャラ・スライリーがいました。
アナログゲームも楽しい。お祭りの定番・型抜きをやっている娘がいたのだが、これはアナログゲームというくくりでいいのだろうか。

最高のPCでやるべきことは何か

 ちなみに、LANパーティーには“愛機(おもにPC)を見せびらかす場”としての意味合いもある。

 世間にはPCのデコレーションを楽しむ“MOD PC”という文化があって、そういうのを嗜む人たちからすると、LANパーティーは我が子の発表会みたいなもの。

 C4 LANには毎回きれいなPCがたくさん集まるのだけど、瀬戸内LANはどうか。

いるよね。

 ここでもMOD PCを見られてうれしかった。LEDがきれいだし、イベント写真が華やかになって助かる。

 PCMODer(MOD PC愛好家のこと)はPCを見られることに快感を覚える人たちなのだが(個人の感想です)、PCゲーム愛好家も多いと聞く。彼らのPCはスペックも高いのだ。厳選パーツで作るPCなのだから、当然と言えば当然である。

PCの中にかわいいキャラがいる。よく見たら上にも3体乗ってた。
『Overwatch』プレイ中。ぎらぎらなLEDライトがゲームの雰囲気にもマッチしてますね。
派手なパーツに囲まれてちょこんと佇むスライムベスがかわいい。どんな最新ゲームやってるのかなと思ったら、
『クッキークリッカー』だった。

 モニターの中では、おばあちゃんが異常なペースでクッキーを焼いていた。6年ほど前に流行ったブラウザゲーム『クッキークリッカー』である。

 最高のPCを、みんなが集まるLANパーティーにわざわざ持ち込んで、満を持してプレイするのが『クッキークリッカー』。どれだけ心に余裕があったらそんな贅沢な使いかたができるのか。富豪か?

 LANパーティーの過ごしかたは人それぞれだ。『PUBG』や『Overwatch』、『ぷよぷよ』などのステージイベントがあったので、見てもいいし、出てもいい。もちろん見なくてもいい。

 僕はゲームをしたり世間話をしたり、若者にご飯をおごって偉そうな顔をしたりして、自由に時間を過ごした。

 そんなこんなで夜は更けていく。

ステージイベントも見学した。こちらは初心者プレイヤーによる“初めてのDota 2”。
協賛のゲーミングチェア・DXRACERがたくさん。疲れたらここで仮眠を取る。

深夜にはしゃぐ大人たち

 深夜。

 知人の博多だいらすくん企画によるステージイベントがあるという。彼は「本当のeスポーツってやつを見せてあげますよ」と美味しんぼの山岡士郎みたいなことを言っていた。

 企画の名称は“元祖e-sports”。有名ゲームを用いた3本勝負だ。eスポーツ自慢たちが続々とステージ上に集まっていく。

 競技種目はコマ、フラフープ、にらめっこだった。

 さんざんeスポーツeスポーツとあおっておいて、やるのは伝統的アナログゲーム。出落ちみたいなもので、正直に言うとそんなにウケなかったのだが、みんな気にせず勝負に臨んだ。ハートが強い。

コマ回し対決。動きが速くて写真がぶれる。
スクリーン奥に無限に続いていくフラフープ。表示がバグっているみたいである。
それを冷静に撮るカメラマン。

 コマは手首のスナップが重要。余計な力が入るとおかしなところに飛んでいく。深夜のテンションが作用して、見ている分には意外とおもしろい。

 第2種目はフラフープ。必死でがんばる姿に、会場内にはZARDの名曲“負けないで”が響き渡った。歌い出したのは僕だ。

 ラストはにらめっこ。誰が言い出したのか覚えていないのだが、かわいらしい女子スタッフ2名も参加することになった。人前で変顔させることを何ハラと言うのだろう。しっかり写真に収めた。

もっとひどい写真もあったのだけど、彼女たちの名誉のためにこの1枚だけ。
騒がしいステージを無視し、すーんとした様子でゲームをする人たち。

 深夜のステージで大人たちがはしゃぐ。参加者の多くはそれをとくに気にすることなく、自分が持ち込んだゲームをしていた。この雰囲気はLANパーティーの特徴のひとつ。

 ステージ中心のイベントはみんなで一体感を持つことがよしとされる。ゲームに限らず、そういうものだと思う。とはいえ、自分のペースで遊びたいときだってある。

 一体感があるわけではないけど、ゲームという共通言語で薄くつながっている。お互いを邪険に扱うこともない。このぬるま湯みたいな空気はイベントの居心地を決定づける重要な要素だ。

 だが、いま思うと、ステージではしゃぐ僕らがうるさくてひんしゅくを買っていた可能性はある。ごめんなさい。

最終日の朝。まだまだゲームは続く

 協賛のゲーミングチェア“DXRACER”で仮眠を取り、最終日の朝を迎えた。

 朝ごはんは同じく協賛の谷本牧場による“肉苦しいスパイスカリー”。肉の甘みがスパイスの刺激を包み込む。そして主張してくる肉。肉。肉。つい朝からビールを飲みそうになってしまった。

 僕は鉄の意思の持ち主なので我慢できたが、一般人だったらビールの誘惑に勝てなかったはずだ。

うまいカレーの写真をどうぞ。
疲れを感じさせずに、参加者は朝も早よからゲームゲームゲーム。

 3日目は撤収作業をする日なので、さみしさを感じてしまう。昔から祭りの後が苦手だ。

 席を取ってゲームを持ち込んだ参加者は手際よく荷造りしていく。ゲームはもう終わりかなと思ったら、大物を片づけた後にSwitchなどで遊ぶ人もけっこういた。ぎりぎりまで遊びたいのだ。気持ちはわかる。

C4 LANで知り合った荒くれたち。『スーパー マリオパーティー』で遊び、「Switchすげー! みんなで遊べるし持ち運べるし!」と感動していた。うん、それみんな知ってる。

 瀬戸内LANの主催者はゲーム系の企業ではなくゲーマーたちだ。

 岡山県でカキ養殖業を営む小笠原修さん(通称maraさん)が中心となって実行委員会を組織。電機設備やネットワークの技術者も招集して、自分たちが理想とするイベントを作り上げた。

 小笠原さんは少しでも自分の周囲やゲーム業界を盛り上げようと、西へ東へ奔走している。2018年7月には自身が好きな『Dota 2』の大会を開催。開発・運営メーカーの米Valve社側から取材を受けた。

 協賛企業に助けてもらっているとはいえ、これまでに投じた私財は100万円や200万円ではきかないらしい。なぜそこまでやるのか、話を訊いて記事にしたこともある。

 そんな彼と仲間たちが作るイベントだからこそ、瀬戸内LANは居心地がよかったのだと思う。

 16日11:00、閉会式が始まる。

協賛各社を紹介し、みんなでお礼を言う。

 これで終わりかと感慨にふけっていると、maraさんがステージに登壇。得意のラップでリズミカルに宣言した。

 ゲームを遊び倒したら、つぎは観戦の時間。『Dota 2』のオフライン大会“まらカップ2019 -in 瀬戸内LAN-”が待っていたのだ。

どーん!

好きなゲームの大会を自分で開催。『Dota 2』まらカップ

 『Dota 2』は世界的に人気の高いオンライン対戦ゲームだ。ジャンルはMOBA。100人以上いるキャラクターからひとりを選び、5人で協力して敵陣の制圧を目指す。

 公式のeスポーツ大会“The International”は世界で最大規模。2019年大会は8月20日~25日に中国・上海のメルセデス・ベンツアリーナで開催中だ。

 ビッグタイトルだが、日本にはパブリッシャーがない。待っていても大会やイベントが開かれるとは限らないので、maraさんは自分で大会を開く。シンプルな話である。

ゲストとして、プロゲーミングチーム・Cloud9に所属するSingSingさん(中)がオランダから来日。The Internationalにも出場経験のあるトッププレイヤーだ。

 まらカップ2019の決勝戦では、オンライン予選を勝ち抜いた“TeamMay”と“Irusu Gaming”が広島の地で激突した。

 決勝戦は2本先取。試合は白熱し、第1ゲームはIrusu Gamingが、第2ゲームはTeamMayが勝利。決着は第3ゲームの結果にゆだねられた。

 せっかくだから最後まで見たかったが、新幹線の時間が迫っていたので途中で退席することに。

 後で結果を確認したら、最終的にはTeamMayが優勝したようだ。第3ゲームのラストは大乱戦だったらしい。

 TeamMayと言えば、試合前に写真撮影を頼まれたので撮っていた。

後ろのマスクマンはTeamMayの人ではない。

 あらかじめ優勝チーム写真を撮っていたので逆説的に勝利できた可能性がある。

 おれが勝利の女神であるとばれてしまった。

ゲーム好き仲間のイベントだから人が集まる

 瀬戸内LANのゲーム持ち込み席チケットは完売。当初は48席の予定だったが、いろいろあって60席に増やしたそうだ。

 席付きの全日程入場チケットの価格は1万円。参加費無料のゲームイベントが多い昨今において、安くはない金額だ。だが、瀬戸内LANにそれだけの価値が見出されたからこそ席が埋まった。

協賛各社も瀬戸内LANをおもしろがっていたように思う。そのうちのひとつ“やきとりスタジアム”は『Dota 2』プレイヤーが経営する居酒屋。山口県から駆けつけ、仮設店舗でやきとりを販売していた。めちゃくちゃうまかったです。

 ここ最近はよくゲームイベントが開催されている。LANパーティーの話題を聞くことも増えた。イベント好きとしてはうれしいかぎりだが、必ずしも大盛況ではないのが現実だ。

 イベントを開催すれば、大会を開催すれば、人が集まる。そんなことはあまりなくて、そこに参加したくなる空気をどうやって作るかが重要なのだと思う。

 日本最大のLANパーティー・C4 LANですら、最初はチケットの売れ行きが怪しく、関係者の知人にチケット購入をお願いしていたそうだ。少しずつLANパーティーの楽しさを広め、いまでは有料にも関わらず述べ2000人以上が参加するイベントに成長。ここまでに3年ほどかかっている。

 泥くさい努力や赤字覚悟で続ける勇気を抜きに、賑わうイベントを作るのは難しい。

 今回の瀬戸内LANで言えば、maraさん始め実行委員会の面々が自分たちで行動したのが大きい。

 大企業でも何でもない、ふつうのゲーム好きが時間をかけて信頼を積み上げていったから、瀬戸内LANは成功に終わった。実行委員会と参加者の関係は主催側とお客さんではなく、ゲーム仲間だったのだと思う。チケット代はカンパみたいなものだ。

 maraさんの行動力は高く評価されている。昨年は米Valve社側から取材を受け、今年にいたっては『Dota 2』世界大会“The International 2019”の公式配信に出演し、およそ20万人の視聴者の前でラップを披露した。何なんだ、この人。

 僕個人としても、自分で行動する人を好ましく思う。100勉強する人より、100発信する人より、ひとつ行動する人のほうが見ていておもしろい。信頼できる。

 そういう人が作るイベントを、もっと見てみたい。