現地時間2019年8月20日から24日の期間中、ドイツのケルンメッセにて開催される欧州最大級のゲームイベント“gamescom 2019”。

 本イベント会場にて、2019年11月19日発売予定の『シェンムーIII』について、ディレクターの鈴木裕氏を直撃した。そのインタビューをお届けする。

※gamescom 2019試遊版のプレイレビューもチェック!

鈴木裕(すずき ゆう)

YS NET代表取締役。1980年代~1990年代にかけて『ハングオン』や『スペースハリアー』、『アウトラン』などのヒット作をつぎつぎと世に送り出し、『バーチャファイター』シリーズは社会現象ともなった。1999年にドリームキャスト用ソフト『シェンムー 一章 横須賀』、2001年に『シェンムーⅡ』をセガ(現・セガゲームス)から発売。現在、18年ぶりの発売となる続編『シェンムーⅢ』を開発中。文中は鈴木。

現在はデバッグ、最後の調整中

――今回の試遊版というのは、E3 2019のものと同じ内容ですか?

鈴木前回よりブラッシュアップされています。E3のときは、プレイ時間が15分という設定で、ゲームのサイクルがわかりづらかったので、今回はそのプロセスをスムーズにするとともに、試遊時間も45分ほどに拡大しています。

――内容としては、『シェンムーIII』の物語の冒頭部分、白鹿村(はっかそん)でのプレイを体験できる。

鈴木そうですね。白鹿村でのイベントやゲームサイクルをプレイすることができます。ただ、体験版ということで、製品版とは少し違った内容になっています。

 『シェンムーIII』はいわゆるオープンワールドゲームであるとは思いますが、ほかのオープンワールド作品と同じような視点でプレイしてしまうと、おもしろさが理解できないくらい異なっていると思います。“違ってる=悪い”となってしまうかもしれないなと。

 『シェンムー』を理解するにはゆっくりとプレイしてもあらうのがいいと考えています。ですから、今回は45分~1時間程度と長い時間にしてもらったのですが……まだぜんぜん足りないと思います(笑)。

――ええっ。

鈴木本当は、ゆっくりとプレイしてもらって初めて魅力が伝わると思っています。だから、「こういう遊びなんだ」とわかるまで、2時間か……4時間くらいプレイしていただければいいんですけど。

ーーどんどん増えていきますね。

鈴木なかなかそこまでは難しいので、1時間程度にしてもらっていますが(笑)。本来はそのくらいのプレイ時間があれば、涼の体力が減ったからご飯を食べてみようとか、お店に並んでいるものを買ってみようとか、本筋をただ進めるだけではない『シェンムーIII』のおもしろさがわかりやすくなると思います。のんきにゆっくりプレイしてもらえればいいんですけどね。

――11月の発売に向けて、現在の開発状況はいかがですか?

鈴木いまはデバッグとチューニングが中心で、仕上げるっていう感じです。

――開発を延期されたことで、ご本人としても納得の行くクオリティーに仕上がっていますか?

鈴木開発期間っていうのは、時間があればあるだけいいんですけど(笑)。期間の中で精一杯ベストを尽くしています。

――先日、PC版では体験版の配信がアナウンスされましたが、プレイステーション4での体験版は配信されないのでしょうか。

鈴木プレイステーション4での体験版配信の予定は、現状ありません。PC版の体験版は、バッカーへのリワードということもありますし。

――今回、ドイツのイベントでの出展ですが、ヨーロッパでの『シェンムー』人気はどのようなものでしょうか。

鈴木『シェンムーIII』はなぜか、モナコやヨーロッパ地域で行われるイベントでの露出が多かったのですが、イベントに足を運んでいただけるファンは、非常に濃い、熱烈な方が多いですね。サイン会をやったときは、ドリームキャスト本体を持ってきたり、『アウトラン』筐体のコンパネ(コントロールパネル)部分を持ってきて、それにサインをしたりしました(笑)。あと、『アウトラン』の筐体をまったく新しく作るというプロジェクトも動いていたりしますね。

――昔の作品なのに、熱量がすごいですね(笑)。そうだ、昔の作品と言えば、こちらの動画はご覧になりましたか?

鈴木動画?

――1999年に発売された『シェンムー 一章 横須賀』の隠し要素を、ファンが約20年越しに発見したというものでして……。

シェンムー 隠し要素 原崎参戦

――本来は“幼なじみの原崎望を守るために、涼が番長(榎)と公園で戦う”というイベントなのですが、いろいろと隠し条件を揃えて、隠しコマンドを入力すると、なぜか原崎といっしょに戦うことができてしまうという(笑)。しかも、原崎がひとりで番長を打倒してしまうほど強い。超強い。この隠し要素については何か覚えていますか?

鈴木1作目の開発は相当昔のことなので、忘れてしまっていることも多いのですが……。

――開発は20年以上前になりますもんね。

鈴木これは……知らなかった(笑)。

ーー知らなかった!(笑)

鈴木初めて見たように思いますねえ。ビックリしたなあ(笑)。

――(笑)。現場の方がイースターエッグ(隠しプログラム)的に、こっそり実装したものだったのかもしれませんね。

鈴木プログラムは、やろうと思えばどこまでも複雑にできて、普通の人がプレイしても絶対に見つからないようにはいくらでもできますから。僕自身もこういう隠し要素は好きで、いろいろと仕込んだこともあります。

――イタズラ好きの裕さんらしいと言いますか……。

鈴木たとえば『ハングオン』では、途中で道の脇に“HANG・ON”って看板が立っているんですけど、その真ん中で看板にわざとぶつかると残りのタイムが増えたり。『バーチャレーシング』では、時間が経つとウシが子どもを産んで、増えていたり(笑)。出荷時から半年なら半年、時間が経って初めて動くプログラムなんかもできますからね。

――とすると、仕込んだけど、じつはまだ世の中にバレていない隠し要素もあったりするかもしれませんね。

鈴木『アウトラン』あたりはけっこうありそう(笑)。

――ええっ!?(笑) 1986年に稼動した『アウトラン』ですらあるかもしれないなら、『シェンムー』シリーズではなおのこと、まだまだ発見されていない要素があってもおかしくないですよね。

鈴木どうでしょうねえ……(にこにこ笑っている)。

プレイ時間は35~40時間。藍帝との決着は……?

――思わず話がそれてしまいましたが、『シェンムーIII』に話を戻しましょう。以前、インタビューで「総プレイ時間は50時間ほど」と発言されていましたが、このあたりは変わっていないでしょうか。

鈴木じつは、調整を経て変わりました。というのは、全体的に難度を下げまして、ストレスを減らして、現在では35~40時間程度になるのではないかと思います。ただし、“チャレンジモード”を選ぶと、難しくなるのでおそらく50時間くらい、逆に“イージーモード”だともっと早く進められると思います。もちろん、寄り道をしたり、プレイスタイルによって様々ですが、本筋を追っていくとそのくらいになるかなと。

――また、『III』では物語は完結しないともおっしゃっていましたが、こちらは?

鈴木そうですね、まだ完結はしません。

――では、『III』の物語としては、全体の構想の何割くらい進むのでしょうか。

鈴木うーん、それはすこし答えかたというか、捉えかたが難しいんです。というのは、『シェンムー』の物語は、小説のような全体の下敷きがあるのですが、『シェンムーIII』では「その何章から何章まで入っています」というのではなく、ゲーム体験をおもしろくするために、本来はもうすこし後の出来事だったことを入れ込んでいたり、逆に、ここで起こるはずだったことをカットしたりして、組み替えて再構築しているんですね。シリーズを続けていくためには、遊んでおもしろいものにしないといけないですから。

――一概に「『III』までで、物語の○%を消化した」とは言えないと。しかし、『シェンムーII』が終わった段階で、多くの要素が伏線として残っていますよね。まず大きな目的は藍帝に父親を殺された敵討ちであり、さらにそれと密接に関わっている“鳳凰鏡”、そして“七星剣”。また、父親の巌が中国で何をしていたのかという過去なども……。

鈴木『シェンムー』は話が進めば進むほど“謎”が増えていくんですよ(笑)。この調子だと終わりませんから、『III』では父親の痕跡とか殺された真相とかが白鹿村でわかりますし、鏡や剣の謎についても徐々に具体化して、明かされていくと思います。

――おお。

鈴木主人公の涼は、父親の仇討ちで旅をしているわけですから、仇をやっつけて終わりたいですよね?

――おおっ! それは『III』でついに藍帝と決着がつくという意味ですか!? えっ、でも、物語は完結しないんですよね?

鈴木そうですね。やっぱり、言うのやめておけばよかったかな……。

――ちょっと! どっちなんですか!(笑)

鈴木(笑)。答えをはぐらかすようで悪いのですが、もちろんストーリーは『シェンムー』の魅力の一部ですが、私としては、もっとその“世界”そのものが魅力だと考えています。

 物語を進めるだけでも一応遊べますが、ストーリーだけを追いかけると、どうだろう、作ったものの3割も味わわないままに終わってしまうんじゃないかなと思いますね。ストーリーだけを追いかけるのではもったいない遊びかたと思うんです。

 “世界”というものを大切に考えて作っていますので、世界に浸って、ゆっくりとプレイしてほしいなと。“旅”みたいなイメージです。

 実際の旅でもそうじゃないですか、お金がある旅とお金がない旅では体験が違う。お金がないなら宿をどうしようとか何を食べようとか考えなくちゃいけない。『シェンムー』というのはひとつの旅だろうと思うんですね。

 それで30時間から40時間くらい、その世界に身を浸す。そうすると、なんて言うんですかね、ゲームの世界が体に染み込んでいく。

 “物語”がいいというよりも、“体験”がおもしろいというゲームではないかと思うんです。小さな体験の積み重ねがシェンムーらしさを生む。

 物語は共通ですが、体験はプレイヤー次第で変わりますから、その人の『シェンムー』はその人にしかないのかもしれない。

 ひとり旅のようなプレイ体験を生み出したいと思っているんです。ひとり旅を終えた後に何が残るのか、プレイを終えた後に何が残るのか。それが『シェンムー』なんですね。

――プレイヤーが『シェンムー』のプレイを自身の体験として捉えるからこその感慨というか、感動がある。

鈴木たとえば東京から北海道に移動するにしても、お金のある人は飛行機で行くし、お金のない人はヒッチハイクをしたり、歩いて行く人もいますよね。目的は同じなのですが、手段が異なると思うんですね。

 いろいろな工夫をしながら、やりかたを発見しながら、目的に向かっていける。それが『シェンムー』だし、そういうゲームはやっぱり珍しいと思うんです。

 だからというか、比較できるタイトルもないですし、その魅力を言葉で伝えたり説明するのが難しい。比較検討できないゲームなんですよ。

――まさにそうですよね。体験してみないと、伝わりづらいというのはとてもよくわかります。

鈴木だから本当は今回の試遊も4時間やってほしい(笑)。

 ほかのゲームではまったく体験できない『シェンムー』ならではのおもしろさが詰まっていると思いますから、ぜひ『シェンムー』の世界を体験してほしいですね。一家に一台『シェンムー』があってもいいんじゃないかな(笑)。

――(笑)。最後に、11月の発売を心待ちにする日本のファンへメッセージをお願いします。

鈴木日本人が作っているゲームなので、ぜひ日本の方に遊んでほしいです。まだ詳細は決まっていませんが、東京ゲームショウ2019でも何かできればと考えていますので、楽しみにしてください!