2019年8月10日、エヌ・シージャパンのPC用MMORPG『ブレイドアンドソウル』の対人戦大会“ジャパンチャンピオンシップ2019”が開催された。
日本最強の座をかけた大会であると同時に、世界につながる道でもある。上位2チームには、韓国で行われる世界大会“ワールドチャンピオンシップ2019”への出場権が贈られるのだ。
『ブレイドアンドソウル』は、美麗なグラフィックと自由度が高いアクションが特徴のタイトルだ。豊富に用意された対人戦コンテンツでは、まるで格闘ゲームのように奥深い駆け引きが楽しめる。
派手な技やコンボの応酬が熱いのは当たり前。相手を行動不能にさせるスキルと、それらを無効化して仕切り直せる“抵抗”や“脱出”スキルを使った駆け引きもまた熱い。双方にクールタイムが設定されているので、相手にスキルを使わせるタイミングが重要なのだ。
昨年までは、対戦格闘ゲームのような純粋な対人戦コンテンツである“比武”が世界大会の種目となっていた。だが、今年は日本では2019年1月に実装されたバトルロイヤル型コンテンツ“鉄鎖群島”が新種目として採用。例年とはまったく異なる形の熱戦が繰り広げられた。
まずは新情報から! 新職業“弓奏士”は9月18日に実装
熱戦の模様に移る前に、会場で発表されたアップデート情報についてお伝えしていこう。発表に先立ち、山本プロデューサーから1本のムービーが紹介された。
ムービーに登場したのは、ストーリーでおなじみのアンシー族の弓使い・シーフォン。彼女がピンチになった折、突如として現れた強弓を用いる女戦士が多彩な技を駆使して救い出す模様が描かれていた。
【ブレイドアンドソウル】弓奏士アップデートティーザー
武侠ものやファンタジー世界の弓使いにふさわしい、天から無数の矢を降り注がせる技や巨漢をも吹き飛ばす一撃を放っていたこの人物こそ、9月18日に実装される新職業“弓奏士”だ。
山本プロデューサーによると、弓奏士はFPS(ファーストパーソンシューティング)を意識し、ノンターゲット状態で戦えるようにデザインされているとのこと。従来の遠距離型の職業とはプレイ感覚が異なっているようだ。
他職業と同じように、スキル“武功”の系統によって立ち回りは変化する。初期段階では、以下のふたつのスタイルが用意されているようだ。
【黎明】
自然の力を用いてマップに罠を仕掛けつつ遠距離攻撃を駆使する
【疾風】
隠れ身による透明化やキー押しっぱなしでチャージできる攻撃スキルを駆使して敵の隙を突く
さらに、9月18日のアップデートでは、鳥型の新ボスが登場する6人用の新英雄級ダンジョン“雷呼の谷”と、12人用の新伝説級ダンジョン“太古の王座”も実装予定だ。
後者では“黄昏の聖殿”で戦う状態からはときが遡り、多少弱くなった状態の“太天冥王”と戦える。ライトレイドよりは難しい程度のほどよい難度で、超難関である黄昏の聖殿の練習ができるうえ、くり返し挑戦することで太天装身具も手に入る。
弓奏士のテイザーサイトは大会終了後から公開中。また、BitCash3000円分が当たる新職業実装記念のSNSイベントも3週連続で開催される。山本プロデューサーいわく、新職業や新ダンジョンの続報については、アップデート前に生放送が実施できれば詳しく話したいとのことだ。
“鉄鎖群島”ならではの、目まぐるしい頭脳戦を制したのは……?
アップデート情報に引き続き、決勝大会の模様をお伝えしていこう。まずは今回の大会で採用された“鉄鎖群島”の概要と、大会レギュレーションを解説する。
“鉄鎖群島”の形式自体は、近年の対戦ゲームとしてはオーソドックスなバトルロイヤル型コンテンツだ。本大会では鉄鎖群島で対戦を4回行い、各試合での順位とキル数で順位が決定する。
時間経過とともに活動範囲が狭まっていく(範囲外に出ると大ダメージを受ける)フィールド上で、戦いが有利になるアイテムを集めつつ、3人1組のチームが最後の1チームになるまで戦う。
ただし、冒頭で説明した通り、『ブレイドアンドソウル』には状態異常と脱出・抵抗の駆け引きがある。個人技量や各職業の強みといった、ある種の強力な武器を最初から所有しているような状態での戦いになる。
つまり、高所や強力なアイテムを押さえた側が優位になるというバトルロイヤルの定石も、十分に覆し得るのだ。
また、そんな実力差や人数差をもさらに覆すような、強力なアイテム群が用意されている点も見どころだ。
狭いながらも範囲攻撃で相手の体力を9~10割持っていく“死霊投てき”や、一定時間“師匠”の愛称でおなじみのNPCホン・ドウゲンに変身して大暴れできる“変身”など、アイテムの使いかたも重要。
また、強力なアイテムにはその対抗策となるアイテムが用意されているため、アイテムの有無を読む駆け引きも生まれている。姿を消せる“透明化”に対してそれを暴いて大ダメージを与える“探知”や、相手を乱戦外やフィールド外のダメージゾーンに吹き飛ばす“大槌”と仲間全員を自分の場所に呼び寄せられる“大規模召喚”などは、その代表例だ。
このように、例年の“比武”とは大きく異なる種目ということで、決勝に進出した7チームには毎年の常連強豪プレイヤーの顔ぶれもあるものの、勝敗はまったく読めない状態となった。
中には“MySugerDady”のように、ふだんはあまり比武をプレイしない“狩り勢”のチームも決勝に勝ち上がったケースもある。対人戦のすそ野を広げたモードと言えるだろう。
さらに、僅差が生まれうるポイント制が、勝負の行方を分からなくしていた。
仮に、下位に甘んじることが多かったとしても、一度でも1位に躍り出れば十分に逆転可能。キル数による細かなポイント獲得も、僅差の中では大きく響く。
また、上位2チームにワールドチャンピオンシップへの出場権が与えられる点も駆け引きを生みそうだ。とくに第3試合までで2位と3位をキープしているチームは、どう立ち回るか大いに悩むことだろう。
鉄鎖群島と本大会の概要を頭に入れておいてもらったところで、以降は決勝大会の4試合のダイジェストと、配信視聴者や解説陣もうなった名プレイの数々を紹介していこう。
第1試合
初めての大会形式だけに、どのような展開になるか想像しにくい。注目の第1試合は、MySugerDadyが開始直後からSleepingforestを捕らえ、速攻を仕掛ける波乱の幕開けとなった。奇襲が成功し、Sleepingforestはぬこむすめ選手を残すのみとなる。
その後は強豪チーム同士のぶつかり合いが散発的に発生。NoonsangFanClubのNicoJean選手が空中からの“死霊投てき”でCatena全員を一気に倒すなど、鉄鎖群島ならではの派手な攻防が続く。
しかし、Sleepingforestのぬこむすめ選手は暗殺者ならではの隠れ身能力を活かして戦闘を回避し続けた。周りのチームが壊滅していく中、生き残っているだけでもチームの順位は上がっていく。
時間経過によって戦場が狭まり、いよいよ残った全チームが衝突していく中、ぬこむすめ選手は暗殺者の特性を生かした立ち回りが光った。空中からの“死霊投てき”も炸裂し、あわや一発逆転かというところまで活躍。その生存能力の高さに、実況のNottin TV氏は感嘆の声をもらしていた。
第2試合
開幕から速攻がくり広げられ、EndlesChallengeとLiberty、MySugerDadyとSleepingforestがそれぞれ激突。
仲間がピンチになったらフォローするのが集団戦の基本だが、乱戦になるとそうも言ってはいられない。ほかの相手に邪魔されて助けに行けないことも多いからだ。各チームがメンバー数を徐々に減らす中、NoonsangFanClubが着実にキル数を稼ぐ。
Catena所属の強豪・生みそカツ選手は早めに師匠に変身。敵にプレッシャーをかけていく。各チームともに欠員と消耗が激しくなったあたりで、有利なポジションをめぐる争いは激化していった。目指すは活動可能な範囲中央、木の上。
戦いの中で、乱戦ならではのシーンも飛び出した。Catenaのゆーき爻選手が武功“首狩り”で押さえた水銀燈選手を、MySugerDadyのバップ選手がアイテム“大槌”でダメージゾーンに放り出したのだ。
最後はNoonsangFanClubの仕掛けるタイミングが光った。樹上の高所から乱戦をじっと見守っていた彼らは、絶妙なタイミングで下に飛び込み、残りの選手を一掃したのだ。個人技の高さだけでなく、堅実な準備とタイミングの妙で魅せてくれた。
第3試合
リザルトを確認すれば、順位ポイントだけでなくキル数のポイントも重要だと言う事は一目瞭然だ。そのことを意識したのか、第3試合から選手たちの動きが変わっていった。
開幕、MySugerDadyがLibertyを捕らえて3キルを稼いで以降は、各チームはアイテムを集めつつも交戦は避けていた。こうなると、ひとりが孤立するような状況も起きないためか、誰も無理に仕掛けてキル数を稼ごうとはしなかった。
範囲が狭まりきった決戦の場では、アイテム“空中歩行”で空高く離脱した相手をアイテム“重力”で引き戻すなど、決定打を撃たせない駆け引きが展開していく。
最後に残ったのはNoonsangFanClubのAyn選手と、Catenaのゆーき爻選手。昨年までの決勝大会を見るかのような古強者同士の対決は、打ち上げからのアイテム“鎖投てき”連打でAyn選手が制した。
しかし、結果としては、キル数を大量に稼いでいたCatenaが獲得ポイント量でNoonsangFanClubを上回り、一気に追い上げることになった。
第4試合
Catenaの撃破数による激しい追い上げで、暫定2位のMySugerDadyはおろか、暫定1位のNoonsangFanClubも油断できない状況で、最後の第4試合はスタートした。
MySugerDadyは開幕の戦闘を避けたが、Sleepingforest、EndlesChallenge、Libertyの3チームは開幕直後から乱戦に突入。EndlesChallengeがLibertyに対して3キルを決めていった。
その後は範囲が狭まってきても交戦はなかなか起きなかった。安全地帯を確保するように動くチームが目立つ。
しかし、NoonsangFanClubが霊獣を確保した直後、孤立していたTeamKIRAKUのLvia選手に仕掛けたことで戦端が開かれる。戦闘音を聞いたCatenaがNoonsangFanClubに仕掛け、木の上の高所ではEndlesChallengeがSleepingforestを破り、高所の確保に成功。
キル数稼ぎに積極的なCatenaがSleepingforestの残りメンバーを攻撃するなど、戦闘はさらに激化していく。しばらくは目まぐるしい状況が続いた。打って出るか、それとも高所を確保したまま待つか。この判断が難しい。
CatenaがNoonsangFanClubに仕掛けたところに、EndlesChallengeが横槍を入れる。NoonsangFanClubは鮮やかに撤退して被害を抑えた。その後の乱戦では、師匠に変身した赤髪の滅砕士選手が“大槌”でダメージゾーンに飛ばされたものの、ほかのメンバーはすかさずアイテム“大規模召喚”で引き寄せる。
師匠状態の赤髪の滅砕士選手が戦線に復帰できたことで、NoonsangFanClubの師匠無双が始まった。
狭い範囲内では師匠の範囲攻撃から逃れることは難しい。さらに、師匠が警戒される中で固まっていた他チームメンバーを、Ayn選手が横から“死霊投てき”で一網打尽にしたのだ。
第4試合を終えた時点での累計ポイント数で、第1位はNoonsangFanClubに決定。続く第2位の座は、4ポイントというごくごく僅差でMySugerDadyが勝ち取った。
Catenaの激しい撃破数による追い上げがあと少しでも加速していれば、結果はひっくり返っていたかもしれない。
日本最強のチームとなったNoonsangFanClubと第2位のMySugerDadyには、2019年10月に韓国で開催予定の“ワールドチャンピオンシップ2019”への参加権が授与された。さらに上位4位までのチームには、賞金と副賞も贈られた。
最終的な結果を見ると、大会常連の比武古強者チームが1位で、新進気鋭の狩り勢チームが2位。傾向の異なる2チームが世界大会への切符を手にするという、おもしろい形で幕を閉じたジャパンチャンピオンシップ2019。
従来の比武による大会とはルールも展開も違うため、韓国での世界大会でも、何が起こるか分からない。乱戦が予想される世界大会で日本代表チームがどのように輝くのか、まずは9月のアップデートを楽しみつつ、10月の本戦を待とう!
大会終了後、日本代表チームリーダーと山本Pにショートインタビュー
大会終了後、興奮が冷めやらぬうちに、第1位のNoonsangFanClubと第2位のMySugerDadyの両チームリーダーに加えて、山本プロデューサーに大会を総括していただいた。
第1位 NoonsangFanClub NicoJean選手
――大会を終えての感想をお願いします。
NicoJean選手 感想も何も、僕らは3時間くらいしか練習できなかったので、心配要素がメチャメチャありまして。でも、大会にいつも出ているからか、緊張はしていなくて、落ち着いてプレイできたのが勝因になのかな、と思います。お互い信じ合えていれば、何とかなりますね。
――チームの職業構成が召喚士、リン剣術士、滅砕士。鉄鎖群島では強いとされる拳闘士や暗殺者などがいない独特の構成でしたね。
NicoJean選手 厳しかったですね。ちょっと予選ルールの行き違いがあって、職業が変更できると思ってたらできなくなっていたんですよ!
――それでも戦えたあたり、さすがです(笑)。続いて、強いと感じたチームはありましたか?
NicoJean選手 MySugerDadyです。うちの門派生(いわゆるギルドのようなプレイヤーグループ)もいます(笑)。ふだんはPvEの狩りをしていて、ガチガチの比武プレイヤーじゃないんですけど、思いのほか強くて驚かされました。アイテムをうまいこと使って、キルにつなげていましたよね。
――韓国の世界大会に向けての、抱負をお願いします。
NicoJean選手 比武じゃなくなった分、気楽にやってアイテムワンクリックで相手が倒れたりする対戦になりましたし、ワンチャン勝てるんじゃないかなー? とは思っています。
戦術としては、ほかのチームに争わせておいて横槍入れて、いかに戦わずにキルを取りながら最後まで生き残るかっていう、世界のプロゲーマーもやっている漁夫の利戦法が有効なんでしょうね。
――なるほど、奮戦に期待しています! では最後に、賞金の使い道は?
NicoJean選手 僕は彼女との同棲資金にします(キリッ)。
第2位 MySugerDady 回路選手
――決勝大会の感想をひと言お願いします。
回路選手 いつもの鉄鎖群島と違って生き残ることを第一に考えていたので、それが新鮮で楽しかったです。
――このチームは強敵だったなど、印象に残った相手はいましたか?
回路選手 赤(NoonsangFanClub)とオレンジ(Catena)ですね!(笑) だいたい最後の方になったらこの2チームがどっちから回ってくるか確かめて、かち合わないように逃げていました。最後の方まで生き残ってさえいれば、ポイントは取れますしね。
――チームの職業構成は召喚士、拳闘士、双舞士と回復が厚い構成でしたが、改めて鉄鎖群島で強いと感じた職業などはありましたか?
回路選手 暗殺者です。逃げられるだけでなく、カメラ視野がどうしても狭くなるので、裏から姿を消されて来られたらまったく分からないんですよね。いちばん厄介な職業だと思います。
――韓国の世界大会への抱負と目標を教えてください。
回路選手 出るかどうかは。前向きに検討中です!(笑)
――出たとしたら、今度は赤いあのチームは蹴散らせそうですかね?
回路選手 いやー、無理だと思います……。今回の決勝大会でも、実力的には3位か4位くらいを狙えればと思っていたんですが、4試合ともすべて作戦がうまくはまってくれたので結果2位になれた、という感じでしたから。
――アイテムの使いかたがうまい、とあの赤い人たちも言っていましたが。
回路選手 誰がどのアイテムを取るか、声を出しながらバランスよく集めていきました。ふだんプレイするときも、誰が何個取ったかちくいち確認してバランスをとっています。
――個人技の暴力の赤チームに対して、チームワークで勝利したチームということになりそうですね。
回路選手 正面から赤とぶつかったら、絶対に無理でしたね。そもそも僕たちのチーム構成だと、味方を守れる“保護”武功がほかのチームよりも格段に少ないので、ここまでうまくいくとは本当に思っていなかったです。
『ブレイドアンドソウル』日本運営プロデューサー 山本浩正氏
――大会運営、おつかれさまでした! まずは感想をお願いします。
山本氏 想像以上に楽しいコンテンツだなと、改めて思いました。選手たちがみんな上級レベルでありながら、集まって切磋琢磨して戦うという様子からは、従来の対戦とはまた違うクオリティーの高さを感じました。
――ゲームとしても、従来よりワンランク上に到達できたという感触でしょうか。
山本氏 多人数での対戦をしつつ、アイテムなどで偶発性がある戦いができるというのが、いままでにない新しい楽しみ方だと(2019年1月の)実装時点から思っていました。それが大会で再確認できて、配信もできて、本当によかったと思っています。
――Sleepingforestのように、戦術次第で結果が覆せる点が本当におもしろいですよね。
山本氏 そうですね。最初にふたり倒されてしまっても、残りひとりでがんばって上位に入れたわけで。いままでの比武や武闘乱舞のように、狭いフィールドで戦うコンテンツとは異なるという点と、多様性や新しい強豪……今回で言うところのMySugerDadyの皆さんのように、去年まで大会に名前が出ていなかった方たちが2位になったことで、さまざまな可能性も示してもらえたかと思います。
――最後に、世界大会に向けて代表チームに期待していることを教えてください。
山本氏 日本代表はここ数年の世界大会で上位に食い込めていません。10月開催ですからまだ時間はありますし、このコンテンツの新しさをうまく活かして、上位に名を刻んでもらえればと期待しています。日本運営プロデューサーとしては、日本強くなったなぁと、韓国で波紋を呼んでもらえるとうれしいですね。