すきなこんだては? 『MOTHER』で思い出す8つのこと
今日からさかのぼること30年前、1989年7月27日、1本のRPGが発売された。真っ赤なパッケージと、真っ赤なカセットが鮮やかだったそのタイトルは、『MOTHER』。
当時、すでにコピーライターとして名を馳せていた糸井重里氏がディレクターとして開発を手掛け、いまでも熱烈なファンが多いRPGシリーズの第1作だ。
本稿では、めでたく30周年を迎えた『MOTHER』がどんなゲームだったかを振り返るとともに、本作が愛される理由でもある、印象的だったことを8つ思い出してみる。
(どうして8つなのかはすぐ下に書いてあるよ!)
8つのメロディーを探し求める冒険
本作では、それまでのゲームでは単なるBGMとして使われることの多かったゲームサウンドを、物語のカギとして、そしてシステムの中で大胆に取り入れていた。
冒険を進めるうちに、主人公たちは世界に散らばったメロディーを少しずつ覚えていく。そのフレーズは8つに分けられており、すべてを覚えたときに物語は大きく動き出す。
その曲、『エイトメロディーズ』はストーリーのクライマックスでも大きな役割を果たし、プレイヤーの胸に深く刻みつけられる名曲となった。ちなみに、後に小学生向けの音楽の教科書にも掲載されたりもした。
サウンドは、ロックバンド“ムーンライダーズ”のリーダー鈴木慶一氏と、任天堂(当時)の田中宏和氏(『バルーンファイト』やアニメソング『めざせポケモンマスター』などの作曲を担当)が担当。
当時のゲームサウンドとしては珍しくボーカル曲のように際立ったメロディーが特徴で、サウンドトラックには実際にボーカル入りの曲が収録された。
そうして覚えた『エイトメロディーズ』が、物語上とても重要な役割を果たす。
“サウンド”と“ストーリー”、“演出”、“システム”が一体となるクライマックスからエンディングにかけての展開が、プレイヤーの胸を強く打ち、本作は長く愛される名作となった。
当時の広告に使われたキャッチコピーは“エンディングまで、泣くんじゃない。”
冒険の結末に涙しながらそのフレーズを思い出したプレイヤーも多かったことだろう。
舞台は現代、アメリカの田舎町
当時、RPGと言えば中世ヨーロッパなどが舞台となっている作品が多かった。その中で『MOTHER』は、アメリカの田舎町マザーズデイで暮らしていた少年を主人公としている。
突如、ぼく(主人公)の家の家具や人形が動き、暴れ出すようになった。なんとか鎮めた“ぼく”は、ママと妹を守るべく、原因を探る旅に出る。
1980年代にブームを起こしたPSI(サイコキネシス)やオカルトチックな要素、さらにSF要素も含んだ世界設定は、非常に新鮮にプレイヤーに受け止められたのだ。
ポップな色使いで描かれる町は、斜め方向から見た立体的な描写になっているのも特徴。町とフィールドは区別されておらず、フィールドがひとつなぎになっていた。
かわいい仲間キャラクター
ぼく(主人公)は12歳の少年。過去に曽祖父がPSIを研究していて、ぼくもなぜかPSIが使える。野球が大好きで帽子がトレードマーク。
アナは、スノーマンの町に住む12歳の少女。“ぼく”よりも強いPSIを持ち、テレパシーで“ぼく”を呼んだ。
メガネが目立つロイドは、サンクスギビングの町に住む11歳の少年。気が小さく臆病だが、機械工作が得意で光線銃を使いこなす。
バレンタインの町を根城とする、不良グループ“ブラブラ団”のリーダーがテディだ。パーティーの中では肉弾派で、ナイフで攻撃する。
いたずらごころ溢れる世界
ゲームを開始すると、主人公と仲間たちの名前に続き、なぜか“すきなこんだて”を聞かれる。そこで入力したメニューがゲーム中に実際に登場し、ママが主人公に作ってくれたりするのだ。
こういった一風変わった仕掛けは世界のそこかしこに仕込まれており、たとえば、アイテムにある“キャッシュカード”を選び“たべる”コマンドを行うと
◆やめてください。
と表示されるなど、思わず笑ってしまうようなギミックがところどころに用意されていた。いまで言う“脱力系”に近い(?)、本作ならではの雰囲気を持っていたのだ。
ゲーム中に満ちる糸井重里節
上にも書いたとおり、本作を開発したのはコピーライターの糸井重里氏。ジブリ映画のポスターなど数々の名コピーを生み出してきた糸井氏がシナリオを手掛けているだけに、ゲーム内に流れるさりげないテキストにも、印象的なものが多い。
ファミコン用ソフトなので漢字は使えず、演出効果も限られているのに、プレイヤーの心に記憶が強く刻まれているのは、やはりなんと言っても、このテキストの力が大きい。
◆とにかく おまえだけがたよりだ。
いまこそ ぼうけんのときだ。
すすめ (主人公の名前)!
◆みんなを まもってくれ。
◆ガチャン ツーツーツー
(物語冒頭で主人公が冒険に出発するときのパパからの電話)
とつとつと語られるテキストは児童文学風でもあり、素朴にプレイヤーの胸を打つ。なんでも、『MOTHER』制作時は、糸井氏が実際に発声したものをテキストに起こして制作されたのだという。
独自の雰囲気が生まれているのはそういったユニークな作りかたにも由来しているだろう。
ひと目見たら忘れられない敵キャラクター
敵キャラクターにも、なんとも言えない独特の味わいがある。序盤に現れる敵は“ねずみ”や“スネーク”、“ムカデ”に“のらイヌ”といった小動物系が多い。物語を進めると、“おじさん”や“おにいさん”とも戦うことになる。
敵と言っても、倒したり殺したりするわけではなく、戦闘に勝利した際には、“おじさんは われにかえった”や、“タイガーは おとなしくなった”といったメッセージになるのでちょっと安心だ。
それにしても、何しろ初めて戦う敵は“でんきスタンド”だ。当時遊んだプレイヤーはかなり驚いたというか、面食らったのではないだろうか。ちなみに、でんきスタンドを倒すと
「でんきスタンドは もう うごかない」
というメッセージが出る。
少年の武器は“バット”だ
“ぼく”が使う武器は“バット”。強さは“ボロのバット”、“ふつうのバット”、“いいバット”、“さいこうのバット”で表される。アナの武器は“フライパン”であり、最強の武器は“とびきりのフライパン”。くり返しになるようだが、それまでのRPGに出てきた武具と言えば、剣であり盾や鎧だった。
こういったアイテム名など細かな部分からもポップな雰囲気が醸成され、ユニークな味わいを生み出している。
ほかにもPSI(いわゆる“呪文”)の強さがα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、Ω(オメガ)という表現になっていたのも印象深い。
続編も愛されている
1989年に発売された『MOTHER』に続き、1994年にはスーパーファミコン用ソフト『MOTHER2 ギーグの逆襲』が、2006年には(一度、開発中止のアナウンスを経て)ゲームボーイアドバンス用ソフト『MOTHER3』がリリースされた。
どちらも1作目同様に熱烈なファンが多く、とくに『MOTHER3』の開発が中止されるとアナウンスがされたときには、非常に大きな衝撃を持って受け止められた。
……というわけで、本日めでたく30周年を迎えた『MOTHER』の魅力を振り返ってみた。現在、本作を遊ぶなら、ファミリーコンピュータの実機で遊ぶか、ゲームボーイアドバンス『MOTHER 1+2』(2003年発売)があるが、どちらもプレミア価格となってしまっている。
Wii Uを持っている人ならば、Wii Uバーチャルコンソールで『MOTHER』〜『MOTHER3』がプレイ可能。だが、現在はWii Uは生産終了。
Nintendo Switchで過去作品が遊べる“ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online”のラインアップに本シリーズの名が並ぶことを期待したい!
[2019年7月27日12時20分修正]
バーチャルコンソールについて誤りがあったため、該当の文章を修正いたしました。読者並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。