『Fate/Grand Order』などでおなじみのディライトワークスが、インディーズゲームメーカーへの支援やパブリッシング業務を行うインディーズゲームレーベル“ディライトワークス インディーズ”を立ち上げることを発表したのはこの3月のこと。BitSummit 7 Spiritsの開催にあたっては同ブランドの第1弾タイトルとなるNintendo Switch版『タイニーメタル 虚構の帝国』を擁して大々的にブース展開し、大きな存在感を放った。そんな同ブランドをアピールすべく会期2日目にはステージイベントが行われた。本稿では、そのステージイベントの模様と、その後に実施したインタビューをお届けしよう。

いっしょに作っている感覚があって楽しかった

 ステージイベントに登壇したのは、“ディライトワークスインディーズ”の責任者である猿渡晴義氏と、『タイニーメタル 虚構の帝国』の開発元AREA 35の代表、由良浩明氏のふたり。由良氏が2017年に配信された前作の『タイニーメタル』(PS4/Switch/Steam)に比べて、新作『タイニーメタル 虚構の帝国』はUIが見やすくなったり、チュートリアルがやりやすくなったりと格段に進化したことをアピール。それに対して猿渡氏も「ディライトワークスインディーズ側の提案を汲んで、できるかぎりのことを対応していただきました。AREA 35のメンバーは4人でたいへんだったと思いますが、前作に比べて格段に遊びかたがわかりやすくなっています」と、ゲームの進化ぶりを語った。

ディライトワークス 猿渡晴義氏。

 実際のところ、ディライトワークスのQA(品質管理)チームには大いに助けられたようで、由良氏も「おかげさまでゲームを“ポリッシュ(磨くこと)”できました。私たちだとポリッシュに時間がかけられないのですが、私たちは私たちでしたいことをやって、それをディライトワークスさんに磨いていただけるのはありがたいことでした」とコメント。それに応えるように猿渡氏も「長いあいだ開発に取り組んでいたり、開発人数が少ないと客観的な判断ができなくなることがあります。そういうところをディライトワークスが加わることによって、クオリティーアップすることができました」と大いに手応えを感じているようだ。「パブリッシャーとしてソフトを売ってもらうだけではなくて、いっしょに作っている感覚があって楽しかった」という由良氏のコメントが、両社の良好な関係を象徴していると言えそうだ。

 そんな良好な関係性も手伝ってか、前述の通り、とにかく新要素を盛りだくさんに詰め込んだ『タイニーメタル 虚構の帝国』。「本作にはメカが出てきます。ひとつだけではなくて、登場するのはブリッツメカ、ガランドメカ、バスターメカ、長距離攻撃の4種類」「難易度のセッティングやカメラをぐるぐる回せる視点を実装」「コマンダーパワーが出てきます。パシリティー、スペシャルアビリティー、スペシャルパワーがあります」「1作目からのリクエストで、弾薬と燃料という概念が追加された」「それに付随して、弾薬と燃料を支給するユニット、サプライプレイン、APC、装甲車を足しました」「対空専門ユニットのバイパーがあり、攻撃機だけにアタックできる」「コマンダーがユニットに乗り込むこともできる」「ストーリーは前回の2倍、スカーミッシュも充実」などと、実装される新要素を立板に水のごとく語る由良氏の表情は、大好きなおもちゃに触れているかのようで、どことなくうれしそうだ。

AREA 35 代表 由良浩明氏。

 さて、今回のBitSummitへの出展にあたっては、『タイニーメタル 虚構の帝国』の紹介と合わせて、インディーゲームデベロッパーに対して“ディライトワークス インディーズ”を訴求する目的もあったようで、猿渡氏は、「“ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。”という当社の理念のもと“ディライトワークス インディーズ”を立ち上げました。パートナーとして興味のある方はブースに足を運んでほしいです」とアピール。

 最後に、配信日が“2019年春”となっている『タイニーメタル 虚構の帝国』に対して猿渡氏は、「すごく近い未来にリリースできる」と明言しつつ、「まだいろいろと仕込んでいるタイトルがあります。それらのタイトル群も近いうちにご紹介できればと思っています」と今後にさらに期待させるコメントを残して、ステージイベントを締めくくった。

『タイニーメタル 虚構の帝国』は幅広い層に遊んでもらうための戦略的な価格設定

 ステージイベントのあとで行われたインタビューに対応してくれたのは、ディライトワークスの猿渡晴義氏とプロデューサーの林 真理氏のおふたり。

猿渡晴義氏

ディライトワークス 第3制作部 ジェネラルマネージャー(写真右)

林 真理氏

ディライトワークス 第3制作部 プロデューサー(写真左)

――海外メディアからの取材もたくさん受けられているようで、“ディライトワークスインディーズ”の設立は、海外でも反響が大きそうですね。

ディライトワークスに興味を持っていただいていることに加えて、『タイニーメタル』の新作ということで興味をもってくださっていますね。

――『タイニーメタル』はとくに海外で人気が高いそうですね。

そうですね。とくに北米には、戦略シミュレーションファンが多いですからね。

――今回、BitSummitに出展しましたが、手応えを教えてください。

まだ1タイトルしか出展しておらず、かつ初めてのBitSummitへの参加のために急ピッチで出展を準備したのですが、試遊のためにとたくさんのお客さんにお越しいただき、結果多くの方に遊んでいただけたので、想定以上に実りの多い出展となりました。

――一方で、今回のBitSummitは、インディーゲームデベロッパーに対するアプローチの目的もあったとのことですが、そちらのほうがいかがですか?

新しいパブリッシャーが出たということで、開発をされている方々は興味を持ってくださったようです。たくさん声をかけていただきました。もともと僕は個人でインディーゲーム業界を支援する活動をしていたので、「林さん始めるの?」って気軽に声をかけてくれて、本当に嬉しかったですね。知り合いばかりではなくて、初めてお会いする方からお声がけいただくこともありましたし、海外の方々からもご連絡がありました。

――海外からもですか?

欧米の方々らしく、個人開発者の方が積極的に直接話しかけてくださるケースや、「海外でイベントをやっていて、日本のクリエイターで登壇してくれる人を探している」というご相談までさまざまですね。

――海外クリエイターが日本で出したいとなったときにサポートする可能性はあるのですか?

タイトル次第が前提としてありますが、もちろんそういったこともあります。ゲームの中身で判断させていただきたいと。

――洋の東西を問わず、コンテンツで判断ということですね。話をしていて、「こんなところが期待されているんだな」と感じる部分はありますか?

話していると、開発者の方々もまだ探り探りなんじゃないかなと感じます。ディライトワークスというと『Fate/Grand Order』の会社というイメージをお持ちだと思うので、「何をしてくれるのかな?」というところで、まずは1回話を聞かせてという段階かもしれません。まだまだ僕らも自分たちの色を表現できていないですし、これからだと考えています。

――おふたりともBitSummit自体には何回も参加されていると思いますが、今年のBitSummitをご覧になったうえでの、日本のインディーゲームシーンに対する感触を教えてください。

猿渡BitSummitには何回か来させてもらっていまして、イベントとして年々充実し、盛り上がっているなというイメージがあります。自分が最初に来たころはいい意味で手作り感の強いイベントだったと思います。

――手作り感が強い(笑)。

猿渡それがだいぶオーガナイズされて、ユーザーの皆さんが来場される敷居が下がってきているような気がします。かつては、「手作り感も含めて、インディーゲームが大好きだ」という、ある意味で選ばれた人しか参加できないような雰囲気があったのですが、今年は、一般の方々がふらっとご家族連れで来られても十分楽しめ、いろいろなゲームに興味を持ってもらえるイベントになっているという印象です。

――イベントとして成熟が進んだということだと思うのですが、個々のコンテンツに対してはいかがですか?

猿渡数年前に比べて、しっかりしたゲームが増えたように思います。自分が初めてBitSummitに参加したころは、「これってゲームなの?」と感じるタイトルもあったのですが、今年は、「ここまで作れるんだ!」と驚かされるようなゲームが増えたというのが、率直な感想です。

――気になるタイトルとかありました?

猿渡ありますが、ここではまだ口に出せないですね(笑)。

――まあ、そうですよね。差し障りがありますよ(笑)。林さんはいかがですか?

インディーゲームは少数で開発されていたりするので。開発に2~3年かかることがあるんですよね。BitSummitをずっと見てきて、“第1期”の方々はローンチし終わったような印象を受けます。最近は、若い“第2期“の方々の挑戦のフェーズに来ているように感じます。

――それは興味深いですね。

このタイトル前も見たよね……というようなことが、減ったように思います。

――“第1期”を見て育った層が“第2期”になって登場している?

若い人が多いような気がしますね。前に比べると。

――“第1期”と“第2期”を比べて、傾向に違いがありますか?

モバイルオンリーではなくなっているという傾向があると思います。とくにNintendo Switchが多いですよね。それに加えてSteamもあり、もちろんモバイルもありという。やりたいことに合わせてプラットフォームも選んでいるというのが、“第2期”の傾向のように感じます。

――ステージイベントに関連してお聞きしたいことがありまして。由良さんが“ポリッシュ(磨くこと)”をいう表現を使っていたのですが、ちょうど僕が先日Indie MEGABOOTHのケリーさんにインタビューをさせていただいたときに、日本のインディーゲームクリエイターに足りないものとして、“ゲームをボリッシュすること”という発言があったんですね。奇しくも由良さんが同じことを言われていて、もしかしてディライトワークスインディーズの真髄は、このポリッシュにあるのではないかと思ったのですが、そもそもディライトワークスインディーズにとっての“ポリッシュ”って何でしょうか?

猿渡どのゲームでも、誰のために作っているのかということを定めて開発に入ります。ターゲットユーザーが、より望むものに近づけることが“ポリッシュ”だと思っています。インディーゲームって、尖っているものはだいたい最初から尖っているので、その尖った部分を大切にしながら、ユーザーの立場に立ち返ってゲームをよくしていくことが“ポリッシュ”です。
 『タイニーメタル』で言うと、“わかりやすさ”を高めることでした。わかりづらかったら遊んでもらえないのではないかという考えがありました。誰もクリアーできないような難易度の高いミッションがあったときに、もし仮にクリエイターさんが、「それがデザインだ」と言ったとしても、それは決してデザインではないと思うんです。それはどの角度でもいっしょで、UIを見やすくするのも”ポリッシュ”だし、操作説明をわかりやすくするのも “ポリッシュ”になります。

――デバッグ作業ということでもないんですね。

猿渡デバッグ作業もその中に入っています。少人数で作っているゲームって、やはりどうしてもデバッグの手が足りなくなるんですね。ユーザーさんの手元に届いたところで、ちょっと触っただけで動かないということもよく起きるので、そのあたりもサポートしています。インディーゲームのバジェットだと、QAの費用をいちばん削りがちなので、ディライトワークスはそこもしっかりとサポートしていきます。

難易度とかもそうです。『タイニーメタル 虚構の帝国』は数人で作っているのですが、自分たちで何回もプレイしているので、難易度がわからなくなってしまうんですよね。そこで当社にいるQAチームにやってもらうと、何十人かのデータが出てくるんです。彼ら(AREA 35)の考えている難易度カーブに比べると、だいぶズレが出てくるんですね。それが明確になることで、彼らが修正することもできる。急に難しい箇所ができるのに、開発者が気づいていなかったりすることを修正できる。それが、ある意味で“磨く”作業になるのかなと。

――QAチームが、ディライトワークスインディーズのキモでもあると言えるかもしれませんね。

QAも含め、これまでに培ってきたものが強みですね。技術的なことでもいっしょで、たとえばオンラインを作りたいという希望があった場合、当社にいるオンラインまわりをサポートするエンジニアから知見を共有することができます。そういう積み重ねを、ディライトワークス インディーズではやっていきたいです。

――一方で、先ほど猿渡さんがおっしゃったように、尖ったところを大切にしないといけないということでいうと、磨きかたも問われるわけですよね。尖ったところまで削ってしまっても本末顛倒になるわけで。

そうですね。先ほどいった難易度カーブの例で言うと、開発者が思い描く難易度カーブの予定があるなかで、僕らは「こうしたほうがいい」ではなく、「最初の目的とずれてないですか」という情報を提供するようにしています。それに対してどうするかは開発者の方が考える。そのつぎの考えを聞いて僕らもまた考えるというくり返しになります。

――尖ったところを残しつつのさじ加減は、ディライトワークスインディーズの経験豊かな方たちがいるから磨きかたはうまくいく?

猿渡経験値は大切ですね。「このゲームは何がおもしろいのか?」ということをこちらも理解しないといけない。自分の好き嫌いだけだと、その判断がぶれてしまうので。「このゲームだったら、ここは残したほうがいいよ」「ここは変えようよ」と判断する。ゲームは長い時間をかけて作るので、そういった話は、QAが始まる前からスタートしています。世の中のおもしろいゲームは、いろいろな人が参加してチームで作られています。『タイニーメタル 虚構の帝国』の場合は、AREA 35にユニークなメンバーが揃っていて、みんなそれぞれの意見を言い合いながら作っているんです(笑)。

クリエイティブでのぶつかりあいは、僕は健全なことだと思っています。

――しみじみ思うのですが、いろいろとたいへんそうですね。

猿渡そういった点でのサポートも含めてインディーだと思っています。手がかかるからイヤだという発想だと、大きなところに丸投げして、出てきたものを「私たちが売ります」というビジネスしかできなくなってしまう。そのほうが投資する側からするとラクだとおもいます。ただ、インディーゲームの世界はそうではないと思っています。やっぱり開発の皆さんが一生懸命作っているタイトルのなかに、自分たちも入っていって、いっしょにタイトルをよくして、さらに多くのユーザーさんにお届けするというのが、インディーのパブリッシャーの仕事なのかなと。

――まあ、話を聞いてもらえるだけのバックボーンがないと、インディーゲームクリエイターは話を聞いてくれないというのはあるかもしれませんね。

『タイニーメタル』の開発においても、4人で開発していてたいへんなので、修正のオーダーをすると最初は難色を示されることあります。それでも丁寧に説明すれば「林君の言っていることは正しいですね。じゃあ、いつからやります?」と言ってくれるんですよ。そこは多少おじさんふたりのベテランのさじ加減はあるかもしれない(笑)。

――ステージイベントで、由良さんが「いっしょに作っている感があって楽しかった」と発言されていて、ああいい関係なんだなと思いました。

そういうふうに言っていただけるとうれしいですね。

猿渡私たちは自分たちの“仲間”を求めています。極端な言いかたをすると「ただ、資金提供してくれ」「とにかく売ってくれ」というお話だったら、ほかの方と組んだほうがいい。そこは変わらなくて、いま何本か準備しているのですが、どのチームの方々とも、そういうふうにやっていけたらいいなと思っています。

――『タイニーメタル 虚構の帝国』の発売日は近日中に発表されるとのことですが、価格に関しても狙いがあるとか?

猿渡価格もチームと話し合いながら設定したのですが、前作の経験も踏まえ、ほかのタイトルとの兼ね合いも見つつ、かなり下げたんですよ。

前作って、戦略シミュレーションが好きな層に訴求したいんだけど、少しライトにしたいというテーマで作っているんですよ。その結果、戦略シミュレーションがガチガチに好きな層からすると物足りない。わかりやすいゲームしか遊んでいない層からすると難しいということになってしまったんです。であれば、ここを広げて、幅広い層に買っていただきたいというのが今回のテーマなんですね。このテーマだと値段は安くあるべきだという結論になって、UIはわかりやすいものを、難易度はさらに難しいものを用意して、そのぶん価格は安くしてたくさんの方に遊んでいただくというのが、今回の作戦なんです。

――戦略的な価格ということですね?

そうです。ゲームの中身と金額がイコールになっているんですね。ライトから超コアまでという広い人たちにあててのものなので、価格が下がっていっぱい遊んでくれさえすれば、制作費が回収できるという。

――それはまた攻めの価格設定ですね。いくらでしたっけ?

猿渡本作は1800円[税込]ですね。

いちプロデューサーからすると、あれで1800円は安すぎると思うんですよ。パッケージ版と遜色ない物量にもかかわらず、1800円です。それは、広い層の方々に遊んでいただきたいというテーマがあったので、そこはある意味で“考え”ですね。

猿渡チャレンジさせていただいています。

『タイニーメタル 虚構の帝国』は、クオリティーもさらに上がっていますし、開発も楽しんでいるタイトルなので、手に取って遊んでみていただければと思っています。

猿渡BitSummitでブースを出させていただいたのですが、試遊機はほぼフル回転でした。つねに台が埋まっている状態です。今回出展して、いろいろな人に触っていただいたのが、すごくいい経験でした。これを契機にさらに多くの方々に本作を知っていただけるような施策を打っていきますので、楽しみにしていてください。発売日は、「そんなに近いの?」という時期に発表させていただきますよ。