両作のクリエイターが集結した超貴重なトークショー!

 2019年6月1日〜2日、東京の大田区民ホール・アプリコにて開催された“東京ゲームタクト2019”。ここでは、『かまいたちの夜』シリーズと『逆転裁判』シリーズのクリエイター陣が一堂に介した“かまいたちの夜×逆転裁判 ミステリーアドベンチャーの作曲技法”をリポートする。

同プログラムはその名の通り、ミステリーADVゲームの二大巨頭である両作を、音楽の観点から紐解いていくもの。“東京ゲームタクト2019”の音楽総監督を務める坂本英城氏(ノイジークローク)念願の企画だったそうだ。

 『真かまいたちの夜 11人目の訪問者(サスペクト)』で音楽を手がけた坂本氏のほか、『かまいたちの夜』からは麻野一哉氏(ディレクター)、加藤恒太氏(音楽担当)が登壇。『逆転裁判』からは、巧舟氏(『逆転裁判』生みの親)、杉森雅和氏(『逆転裁判』音楽担当)、岩垂徳行氏(『逆転裁判3』『5』『6』など音楽担当)が登壇したが、観客として会場を訪れていた江城元秀氏(『逆転裁判』シリーズプロデューサー)も急きょ飛び入り参加することに。立ち見が出るほど盛況のなか、貴重なエピソードが多数明かされた。

左から、坂本英城氏、麻野一哉氏、加藤恒太氏
左から、杉森雅和氏、巧舟氏、江城元秀氏、岩垂徳行氏

いままでにないゲームだから、作曲家のイメージに委ねる制作スタイル

 最初のテーマは“ミステリーADVの音楽はどうオーダーするの?”というもの。通常、ゲーム音楽は企画書や“このシーンでこんな曲がほしい”というリストがあった上で音楽担当者に発注されるそうだが、『かまいたちの夜』は「リストが一切なかった。ある日ポンと我孫子(武丸)さんのシナリオを渡されて、『これを読んで作って』って」(加藤氏)とのこと。
 これに対して麻野氏は「当時はそんなもんだったんですよ!」と、某RPGタイトルのプログラムに携わったときのエピソードを交えて反論。ただ「身体の大きい美樹本の曲は象のような感じ」というようなキャラクターごとの指定はあったそう。香山誠一のテーマは演歌風だが、加藤氏は「なんで演歌にしたのか覚えてない(笑)。たぶん、悪ノリで作ったら採用されちゃったんだと思います」と話していた。

 それでは、『逆転裁判』の音楽はいかにして作られたのか。巧氏は「リスト、出したような気がするんですけど……」と言いつつ、杉森氏は「捜査パートと法廷パートのふたつがある、というのは聞きました」と、こちらもあまり詳細な発注はなかった模様。制作にあたって、たとえば休憩室では開廷直前の緊張感を出す、推理シーンではプレイヤーの思考の邪魔にならない音にする、といったように、「場面場面で何が必要かを考えました」(杉森氏)とのことだ。

山野がカツラを投げる演出は、巧氏いわく「デザイナーが自発的にやった」。ゲーム制作にはクリエイターの遊び心も必要!

 そんな杉森氏は「『かまいたち』の曲はそれまでのゲーム音楽にない感じの楽曲だった。“こういう曲でもいいんだ!”と知ってゲーム業界を目指した」と、『かまいたちの夜』に大きな影響を受けたことを明かす。
 ちなみにフュージョンを『逆転裁判』にも取り入れようとした杉森氏だが、「開廷で挫折した」そう。けれどそのエッセンスは残っており、岩垂氏は「『逆転裁判』のコード進行はフュージョンで、リズムがテクノなんですよ」と話していた。
 『逆転裁判』はメロディのない曲も多いが、それは「全曲メロディにすると際立たなくなる。際立たせたい曲以外を抑えるために、シークエンスだけの曲を作ったりした」という意図があってのこと。これには加藤氏も「エモーショナルなメロディはゲームにひとつふたつあればいい。あえてミニマルな曲を基本に据えることが多いです」と同意していた。
 一方、岩垂氏は「僕はRPGなどの曲を作ることが多かったので、(続編でアレンジする際に)メロディがないのが怖かった! 僕が作るとメロディが立った曲になっちゃうんです。ミステリー系の作品は、ユーザーに感情や思考を委ねるために音楽で感情を出しちゃいけないと言われた。僕は大苦手(笑)。杉森さんも加藤さんもスゴい!」とふたりを絶賛していた。
 すでに親しまれている曲をアレンジする苦労は、坂本氏も『真かまいたちの夜』で感じたところ。「『かまいたちの夜』と『悪夢』の2曲を合わせて、と言われて“無理でしょ!?”と思ったけど、やってみたらできた(笑)。弦の生音で収録したんですが、譜面を書くのが難しかった!」と、『真かまいたちの夜 Nightmare 2011 MIX』を振り返っていた(加藤氏「もともと生でやる曲じゃないですからね……」)。

「ホラーやミステリーは“間”が命」!

 さて、先の通り詳細な発注がないまま『かまいたちの夜』の音楽を制作することになった加藤氏。どのようにして制作に取り組んだのだろうか。
加藤氏「シナリオを読んで、ふたつのキーワードを決めました。ひとつは『introduction』のように、キレイなものとしての“雪”。『かまいたち』で雪はいろいろな表情を持っていて、キレイだけど怖く、そして切ない。もうひとつが“恐怖”。サスペンスものにふつうのメロディをつけると2時間ドラマみたいになっちゃうので、“メロディじゃないな”って思ったんです。そこで思い出したのが映画の『ターミネーター』。♪ダダッダッダダッって、リズムだけで『ターミネーター』だとわかる。何度もくり返しプレイするゲームだから、インパクトを出す意味でも『悪夢』の♪ダンダン、ダダダダンダンが生まれました」
 ……と制作秘話が明かされると、麻野氏は「全然知らなかったよ」とまさかの回答。坂本氏から「もっと交流してください!」とツッコミを受けていた。

 そんな麻野氏だが、制作にあたっては「イントロをつけないようにしてほしい」と依頼をしたそう。「イントロがついて、展開すると曲のイメージが変わっちゃう。“聞いた瞬間、その曲の雰囲気に変わるように作ってくれ”とお願いしました。『ひとつの推理』とかは全部、曲が変わった瞬間その世界に入れるようにしたかった」と、その意図を明かしてくれた。
 さらに、麻野氏いわく「ひどいシーンで使ってる」という『すてきな宝物』は本来、隠しシナリオ“不思議のペンション”用に作られていたことが明らかになった。
 当時は音楽に割ける容量が少なかったという『かまいたちの夜』。その分さまざまなアイデアが凝らされており、たとえば『introduction』や『遠い日の幻影』に使われた子どもの声のコーラスのような音色。これは加藤氏が学生時代ファンだった『世にも奇妙な物語』のメインテーマから着想を得たものだが、コーラスをそのまま使うと容量が大きくなってしまうため、頭とお尻をばっさり切り、子どもの声のニュアンスだけを残すという、容量の制約を逆手に取る事で生まれたそう。
 また『せまりくる恐怖』という曲ではパーカッションが使われているが、これはもともとふつうのタンバリンの音。ピッチを下げるとガラッとイメージが変わることから採用されたものだ。

 「『かまいたち』は、ドアを開いたときに“ドアを開いた!というテキストは出さないんです。ガチャッと音がするから」と加藤氏が語れば、麻野氏も「ホラーやミステリーは“間”が命。『逆転裁判』も音と絵とシナリオのテンポがめちゃくちゃいいですよね」と『逆転裁判』チームにパスを出す。

 探偵を主人公にしたタイトルはすでにあったため、巧氏がアメリカのドラマから着想して“裁判”をテーマに生み出したという『逆転裁判』。制作にあたっては裁判所へ傍聴に行くなど、リサーチを重ねたそうだ(巧氏「けっこうイメージと違うんですよ。まず裁判長が木槌を持っていない(笑)」)。
 さらに劇中での展開に絡め、綾里千尋・真宵姉妹のテーマソングは「もう少し明るめに作っていたけど、シナリオを読んでそれでは合わないと思い直し、半音進行を付け加えました。切なさをスパイスとして入れようと」(杉森氏)とのこと!

 ちなみに、坂本氏が『逆転裁判』で衝撃を受けたのは『サスペンス』という楽曲。ダダダダダダダダダ……と、ひとつの音が連発されているだけなのに恐怖を煽られる。これを続編でアレンジすることになった岩垂氏は「最初のバーションですでに完成しているので、“どうしたらいいんだろう!?”って」と苦戦したそう。巧氏もこの曲を「これこそ、杉森くんの“自発的に作った”シリーズの最高傑作。『逆転裁判』史上最大のヒット曲で、流れる時間はいちばん長いかも。困ったときに流せる曲(笑)」と絶賛していた。
 これを受けて杉森氏は、「音楽的にミステリー感を出しやすいコードとして“ディミニッシュ”というコードがありますが、じつは『逆転裁判』では『序章』とジングルの『ディミニッシュ』(注:不審点に気付いたときの音)にしか使っていません。全体のミステリー感、緊張感を上げるためにこの『サスペンス』と『捜査 ~核心 2001』を制作しました」と答えていた。
 またナルホドくんのテーマ(『成歩堂龍一 〜異議あり!』)は、杉森氏いわく「『逆転裁判』そのもののイメージで作りました。追い詰められたところをひっくり返したときの、いちばん気持ちいい曲」。音楽でもミステリーというよりは相手を叩き伏せる気持ちよさが重視されているそうで、「アクションや格闘ゲームみたい」という評価を受けることも多かったという。

ちなみに『大江戸戦士トノサマン』のテーマも杉森氏が“自発的に作った”なかの1曲。『逆転裁判』コンサートでも定番の人気曲だ。

 さらに音に関しては、ハードの都合も考慮する必要がある。初代『逆転裁判』のゲームボーイアドバンスは低音が出づらいため、「ベースを効かせるために1オクターブ上げたりしていた」(杉森氏)とか。またハード備え付けのスピーカーとユーザーがつけるイヤホン、どちらに向けて調整するのかも悩みどころのひとつ。江城氏によると「ニンテンドー3DS以降はスピーカーとイヤホンで音の調整を変えています。それまではずっとスピーカー優先でした」とのことだ。

スタッフ一丸となって作り上げるゲーム作品

 トークショーのなかでは、意外な制作秘話も連発! その一部を紹介しよう。

  • 『かまいたちの夜』で窓ガラスを突き破って現れる血まみれの手は麻野氏のもの
  • 『かまいたちの夜』の男の悲鳴は、当時のグラフィッカーのもの(会議室で収録したそう)
  • 『かまいたちの夜』悪霊編の、電話越しに聞こえる亡霊の声は加藤氏のもの(「PS版で名前を真理にすると、“真理〜”と言ってます」)

 また『逆転裁判』で巧氏みずからナルホドくんを演じたエピソードはよく知られるところだが、杉森氏が狩魔豪の声を担当していたことが明かされると、会場からは驚きの声が。巧氏とともに、ナマ「異議あり!」を披露してくれた。

 坂本氏が「どういう音楽ならゲームがもっと怖くなるのか、その礎を築いたのが加藤さんと杉森さん。いまあるミステリーやホラーゲームは必ずふたりの影響を受けている」と語った通り、貴重なエピソードや制作秘話がつぎつぎと飛び出した本トークショー。和気あいあいとした雰囲気ながら、音楽という要素を通じてミステリーADVの核心に迫るかのような、貴重な時間となった。