“ゲームマーケット 2019 春”のディライトワークスブースで行われたトークショーには、真名隠匿型バトルロイヤルボードゲーム『Dominate Grail War -Fate/stay night on Board Game-』(ドミネイトグレイルウォー ~フェイト/ステイナイト オン ボードゲーム~)のゲームデザインを手がけたBakaFire氏が登壇。
本稿では、5月25日に公開された『Fate DGW』の初報で明らかにされなかった作品へのこだわりや5人のマスターの詳細、2種の宝具カードなどの新情報をトークショーのリポートとともにお届けする。
最大のこだわりは“Fate気分”を体感してもらうこと
もともと10数年前にPC版『Fate/stay night』のファンで、二次創作の小説も読み漁っていたというBakaFire氏。そんな『Fate/stay night』の最高におもしろいところを本作『Fate DGW』に詰め込んだという。
『Fate』のすごさについて氏は、もしあのマスターがあのサーヴァントを召喚していたら? と妄想が広がる“聖杯戦争という最高の舞台装置にある”と考察。
たとえば、遠坂凛が当初の目標通りに最優のサーヴァント“セイバー”を召喚していたら、聖杯戦争はどのような展開を見せていたのか? そういったIFの世界を無限に体験できるように、マスターを決定したあとにランダムでサーヴァントのデッキが配られるように設計したそうだ。
そのうえで、聖杯戦争に自分自身が参加しているような“Fate気分”を感じられる没入感にもこだわったという。
マスターたちの能力もその体験部分を重視して設定し、プレイヤーが衛宮士郎や遠坂凛らしい立ち回りができることで、マスターとして聖杯戦争を戦っている気持ちでロールプレイできる。
では、マスターらしい立ち回りとはどんなものなのか? ここで遠坂凛、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、間桐慎二、間桐桜、言峰綺礼の5人の能力について詳しく紹介された。
なぜか令呪が一画少ない遠坂凛
遠坂凛は、宝石魔術を使う魔術師。最初から所持している有限の宝石トークンを使い、聖杯戦争を有利に戦える能力を発動できる。
BakaFire氏によると、かゆいところに手が届く強キャラとのことだが、なぜか他のマスターよりも令呪が一画少ない状態でゲームがスタートするという。遠坂凛はどんなサーヴァントを召喚したとしても、効果が薄い令呪を使ってしまうという運命にあるのだろうか。
令呪が一画少ないというデメリットをいかに宝石魔術でリカバリーできるかがポイントとなる。それほど宝石魔術は柔軟性に富んでおり、強力なのだとか。
「やっちゃえセイバー」を実現できるイリヤスフィール
宝石魔術の扱い方が重要となる凛とは違い、イリヤはボードゲームに慣れていない初心者でもスムーズに理解でき、安心して遊べるパワフルな性能になっているという。
彼女はアインツベルンの最高傑作として膨大な魔力を所持しており、本作でもそれは健在。サーヴァントの切り札となる“宝具”はとんでもなく強力で必要な魔力も多いが、イリヤはその圧倒的な魔力量によって何度でも宝具を撃ち続けることができるようだ。
強力すぎるため原作でもあまり出番がない“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”を連発できる、「やっちゃえセイバー」プレイも楽しめるという。
負けてからが本番の間桐慎二
一方、もっとも上級者向けのマスターとなるのが間桐慎二。プレイヤーはマスターとして慎二を操作するというよりも、間桐家として聖杯戦争を戦っていくことになるという。
原作では物語序盤の深山町でちょくちょくといやらしい立ち回りを見せた慎二。『Fate DGW』でもそれを彷彿とさせるいやらしい能力を持っているというが、それだけではゲーム後半で各陣営が発揮する爆発力に押しつぶされてしまい、勝利するにはかなりのテクニックが必要なのだとか。
そしてもっとも特徴的なのが、6人以下のプレイ時には、負けることが運命かのような敗北時に間桐桜と交代できるという能力を持っている。
特定条件でとんでもない力を発揮する間桐桜
慎二と交代で聖杯戦争に参加する桜は、進行していく間桐家の陰謀に苦しみながら、中盤~終盤を戦っていく。
しかし、一定ラウンド後に、上位何組かを残して負けている陣営が脱落するクライマックスラウンドで状況は一変。もしもクライマックスラウンドまで桜が生き残り、特定の状態になると、とんでもない能力を発揮するという。
それこそ、“約束された勝利の剣”を毎ラウンド使えるほどだとか。ここでなぜか劇場版『Fate/stay night [Heaven's Feel]』II.lost butterflyの話題になるが……本稿では割愛する。
言峰綺礼は戦わずして“戦果”を得る
最後に紹介された言峰綺礼は、ゲーム開始時にはマスターであるかわからない特殊なキャラクター。聖杯戦争の監督官という立場を利用して、戦闘ではなく、情報を得る“偵察”で勝利のために必要なポイント“戦果”を得ていく。
他のマスターは自由に“偵察”を行えないため、他人の情報を見られる綺礼が有利に思えるが、これだけでは勝利できないため、どこかのタイミングで“真名”を開放し、マスターであることを明らかにする必要があるという。
マスターだと明らかになってしまったあとは、通常のキャラクターと同じくサーヴァントとのコンビネーションで聖杯戦争を戦うことになるようだ。
聖杯戦争=バトルロイヤルへのこだわり
戦闘、偵察、魔力を貯める――勝利への選択肢が多岐にわたる本作。このような仕様になった理由は、“聖杯戦争はバトルロイヤルである”という部分にこだわったためだ。
BakaFire氏は、1対1のバトルが固定で行われるのではなく、聖杯戦争という舞台の中で、それぞれが行動する群像劇の要素もあるところが『Fate/stay night』の素晴らしさでもあるとコメント。
『Fate DGW』には深山町と新都の2つの戦場が用意されており、プレイヤーは移動するか待機するかを選ぶことができる。ある戦場では1対1の、またある戦場では三つ巴のバトルが発生したり、それを無視して魔術工房にこもって魔力を貯めるマスターが出てきたりと、プレイヤーの数だけドラマが生まれるという。
さらにボード上には地の利が存在するため、先んじて戦場に向かって待ち伏せる、サーヴァントの情報を得た後に待ち伏せ中の敵と有利に戦う、といった選択肢も。どう行動するかはプレイヤー次第となる。
もっとも大事な瞬間“真名開放”へのこだわり
BakaFire氏は、『Fate/stay night』のことを何も知らなかった10数年前の初見時に、姿しかわからなかったサーヴァントたちの真名やどのような宝具を持っているのか判明したときが、もっともわくわくした瞬間だったと振り返る。
その体験から、『Fate DGW』でも“謎めいた存在を演じる楽しさ”と“真名を明かして宝具をぶっ放す楽しさ”の2つの楽しさをプレイヤーに味わってもらわなければいけないと、とくにこだわったそうだ。
本作では、誰がどのサーヴァントと契約しているのかゲーム開始時にはわからない。真名を秘匿して立ち回れば、隠しているなりの有利が生まれ、正体不明のサーヴァントとして聖杯戦争にかかわっていくことになる。これが“謎めいた存在を演じる楽しさ”だ。
一方で、宝具を使うためには必ず真名を開放しなければならない。真名を開放すると他のマスターに能力を知られてしまうリスクがあるが、通常のカードのパワーが5に対して、宝具カード“約束された勝利の剣”のパワーは12と極めて強力に設定されている。
さらに、セイバーはクライマックスラウンドでは全サーヴァント最強の力を得て、“約束された勝利の剣”のパワーが16という本作最大の数値になるとのこと。この圧倒的な力が“真名を明かし、宝具をぶっ放す楽しさ”だ。
もちろん、撃てば劇的な影響がある宝具を使うには、ある程度の魔力が必要。通常は発動まで数ラウンド待つことになり、遠坂凛でも連続使用は難しいという。しかし、先述した桜がとある状態になっていれば、毎ラウンドが“約束された勝利の剣タイム”といったこともできるそうだ。
“無限の剣製”は最強カードの一角?
ここでサプライズとして、アーチャーの宝具“無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)”の能力が発表された。
アーチャーは原作通り、セイバーと比べて悲しくなるステータスとなっているそうで、通常のカード群は弱めに設定されている。しかし、宝具“無限の剣製”をひとたび使うと、通常は3枚の手札でやりくりするところを、12枚に増やせるというのだ。さらには、特定のマスターと組み合わせれば14枚まで増やせるという。
固有結界の発動中であれば、無数の手数で敵を圧倒できるアーチャー。残っているカードの中でいちばん都合のいいものを選べる高い対応力により、BakaFire氏は“無限の剣製”を最強カードの一角であると表現した。
風王結界の能力説明も
“無限の剣製”に続く初出し情報として、セイバーの“風王結界(インビジブル・エア)の性能も公開された。
“風王結界”は使用しても真名が開放されない特殊な宝具カードだ。効果は武器が見えず敵が間合いを把握しにくくなるため、力任せに攻撃してくる相手の“筋力属性”の攻撃を無効化できるというもの。
しかし使ってしまうとその時点で敵にセイバーだとバレてしまい、それを踏まえた戦術を仕掛けられてしまうので、使用タイミングで駆け引きが発生する。
なお、真名を伏せていることで有利になるイベントも存在し、言峰は真名を伏せている状態だと“偵察”をしやすくなるなどのメリットもあるとのこと。
『Fate DGW』には3つのBakaFire氏らしさが詰め込まれている
トークショーの終わりに、まとめとして『Fate DGW』に詰め込まれた3つのBakaFire氏らしさが紹介された。いずれも、氏の過去作を知っていれば納得できる要素だろう。
- 2つの要素の組み合わせ:マスターとランダムで配られるサーヴァントを組み合わせることで、何度も遊びたくなる体験ができる。
- 少ない山札:少ない山札を循環させながら有利な状況を作っていくおもしろさ。
- 情報戦:「さっきから強力な魔力で攻撃してくるのは何者なんだ?」などと推察する、強力な宝具を使うために真名を開放する情報戦の楽しさ。
最後に本作のゲームデザインを手掛けたことについてBakaFire氏は、「複雑な感情が絡み合っていると言いますか、10数年前から大ファンで、もっとも愛するゲームの1つに関われて、何を言ったらいいのかわからないほど光栄です。全力で頑張らせていただきました」と本作へかける熱量と愛を語った。
なお、『Fate』シリーズには『Fate/Zero』などさまざまな人気作品があるため、拡張パックの存在が気になる人も多いかもしれない。会場で質問してはみたが、残念ながら現在のところは未定とのこと。発売後に好評であれば、ぜひ検討してほしいところだ。