『ドラえもん』のワクワクする冒険感と、『牧場物語』のコツコツ育てる農作業、どちらも楽しめる『ドラえもん のび太の牧場物語』。なぜ国民的キャラクター『ドラえもん』が、『牧場物語』の世界で冒険することになったのか? 『ドラえもん のび太の牧場物語』の主要開発メンバーに、企画の経緯や本作の見どころなどをうかがった。
中島光司(なかじまこうじ)
バンダイナムコエンターテインメント プロデューサー
世代を越えた企画が生まれた経緯とは?
――まず、『ドラえもん のび太の牧場物語』が誕生した経緯を教えてください。
中島僕自身が『ドラえもん』を見ながら育っている世代で、大人になって親世代になったときに改めて、『ドラえもん』のすばらしさを伝えるゲームを作りたいと思うようになりました。それと、もともと僕は『牧場物語 ハーベストムーン』(以下、『ハーベストムーン』)が好きで、めちゃくちゃ遊んでいたんです。自分ががんばった結果がきちんと返ってくる『牧場物語』のゲーム性で、『ドラえもん』が持つ“作品性、メッセージ性などの魅力が詰まった体験”ができるゲームがあるといいな、という思いで、今回の企画を立ち上げました。そのうえで、『牧場物語』を作っていただくなら制作はマーベラスさんにお願いしたいと思い、今回の座組が決まりました。
――マーベラスの中野さんは、この企画を聞いたときの第一印象はいかがでしたか?
中野驚きはありましたが、『牧場物語』としてもこういう話をいただく機会はなかなかないので、「これはおもしろいんじゃないか」と歓迎ムードでしたね。どちらもやさしい世界なので、相性はいいだろうと感じました。
――開発を担当したブラウニーズのおふたりはいかがでしたか?
山下「こうきたか!」と驚きましたが、すごく楽しそうだなと思いました。
杉田中島さんが『ハーベストムーン』が好きというのもあってか、企画内容は『牧場物語』の要素が強いものになっていたので、そこに『ドラえもん』の魅力をどうゲームで実現させられるか、ワクワクしました。
中島みんな『ドラえもん』世代ですからね。
――3社のタッグになりますが、皆さん意思疎通ができている感じですね。
中島みんな共通言語の中で育っているので、話は早かったですね。
家族愛が描かれたやさしい世界
――ゲームの舞台となる“シーゼンタウン”とは、どのような世界なのでしょうか。
杉田シーゼンタウンは自然豊かな町で、ひときわ目立つ大きな樹があります。はるか昔に女神様が大樹を植えたという伝説が残っている、そんな町です。
――もしかして、“自然”のシーゼンですか?
杉田はい。“自然”から名前を取っています。
中島そうだったんですか!(笑)
――とても温かみのあるグラフィックで、自然を表現されていますよね。
山下弊社が得意とする表現でもありますし、『牧場物語』と『ドラえもん』の両方にマッチするような、手書き感のある水彩風の柔らかい印象の絵作りを目指しました。
中島『牧場物語』は自然がないと始まらないですし、『ドラえもん』らしい子どもたちがワクワクするような冒険感も意識しています。たとえば、自分の知らない世界に初めて行くドキドキ感、洞窟で遊んだときに驚きと発見があるなど、そんな世界を作ってもらえるようにブラウニーズさんにお願いをしたら、その通りのものが仕上がってきて「やったぜ!」とうれしかったです。
中野すごく気を使って作られているんだなと感じました。よく見ると景色の中におもしろいものがあったりするんです。
山下ストーリーに直接関係ないところでも冒険感が強まるものが随所に置いてあるので、歩いているだけでも見どころがあります。裏山に何かが埋まっているような痕跡があるとか、過去を想像できるようになっています。
――ワクワクしますね! メインストーリーは、町の大樹や女神伝説がキーになるのでしょうか?
中島のび太たちはなぜシーゼンタウンに来てしまったのか? メインストーリーを進めると、その謎が明らかになっていきます。原作の『ドラえもん』は、“日常の中の非日常”がテーマとしてあると自分は感じているので、それを本作でも再現しています。冒険感があり、かつ物語性のあるメインストーリーがちゃんと1本通っているところが、いままでの『牧場物語』とは少し違うところです。
――ほかにもストーリー作りで意識されたテーマはありますか?
杉田いちばん大きなテーマは“家族”です。メインストーリーは家族愛を中心に広がっていきます。サブストーリーにもところどころ家族の話が絡んでいて、兄弟愛や親子愛、はたまたペットとの愛まであります。
山下サブストーリーも豊富に用意しています。サブストーリーはメインストーリーの5倍以上のボリュームがあります。
――そんなにあるんですか! キャラクターひとりひとりにサブストーリーが用意されているのでしょうか?
杉田町には家族で営んでいるお店が多いので、 お店ごとにストーリーがあります。好感度が関係していて、お店の人と仲よくならないと話が進みません。しずかちゃんやジャイアンたちもお店で手伝いをしているので、おなじみの仲間との交流も絡んできます。
――本作の想定しているユーザー層も、家族がメインになるのでしょうか?
中島『牧場物語』は20年以上の歴史がありますし、『ドラえもん』はそれ以上に長く愛されている作品・キャラクターです。親子はもちろんのこと、男女問わず幅広い年齢層の方々に遊んでもらいたいですね。
『ドラえもん』だけど、牧場作業はしっかりと
――プレイヤーは、のび太になってどのような牧場生活を送るのでしょうか?
中島ゲームのベースとして、いままでの『牧場物語』で行えたことは、本作でもひと通りできるようになっているのですが、恋愛と結婚はできないですね。その代わりに本作は、町の人も含めて登場人物の好感度を上げることで、さまざまなイベントが進むようになっています。誰かを“想い”、そのために努力をするという形に落とし込んでいます。
中野本作はストーリーと合わせて牧場作業をメインコンテンツとして据えているので、序盤はけっこうハードな農作業が待っています。『ハーベストムーン』の序盤と同じ様なイメージですね。
――『牧場物語』と言えば、序盤ではいつもカブを育てているイメージですね。
中島それは『牧場物語』の様式美だと思っています(笑)。
中野『ハーベストムーン』時代のいいところを吸収しつつも、システム面はしっかりいま風に作っています。操作性も直感的にできて扱いやすくなっています。
――本作でいままでの『牧場物語』にはなかった新システムがあれば教えてください。
中島やっぱり“ひみつ道具”ですね。『牧場物語』をやっていてちょっと不便だなと思ったところを、“ひみつ道具”で解決していきます。
中野お約束のものもいっぱい出てきます。僕が大好きな“ほんやくコンニャク”もあります。
中島僕は“石ころぼうし”を絶対入れたいと熱望しました。帽子をかぶると石ころになってしまうので、誰にも気付かれなくなる。ゲーム的には必要のないものですが、そういう遊び心がたくさん入っています。
――原作『ドラえもん』の“ひみつ道具”はたくさんの種類があるので、その中から選定するのはたいへんそうですね。
山下たいへんでしたね。あまり便利になりすぎないように選定しました。たとえばすぐに作物が育つ“アットグングン”は、消費アイテムになっているので気軽には使えないようになっています。
杉田“ひみつ道具”を使って解決するサブストーリーもあります。『ドラえもん』の映画のような骨太の感動的な話ばかりではなく、テレビアニメのようなコメディー要素もサブストーリーには多いですね。
――開発で苦労した点などはありましたか?
山下どこまで便利にしてどこまで不便さを残すのかという点に気を使いました。それと『ハーベストムーン』のようなクォータービューで作っているので、操作性に関しての調整が難しかったです。
中野クォータービューは自分ががんばった成果が広く見渡せるのがいいですよね。
中島ほかにも、作物が育つモーションをつけて、やったことに対してのリアクションがすぐユーザーに伝わるようにもしています。
山下中島さんとの意思疎通が取れていたおかげで、とにかく開発は楽しかったですね。『牧場物語』と『ドラえもん』なので、できることとできないことの想像がしやすくて、作りやすかったです。
中野本作は、いままでの『牧場物語』とは違った感触になるだろうなと思っていましたが、いざプレイしてみたら予想以上にしっかり『ドラえもん』が楽しめました。もちろん『牧場物語』のよさはありつつも、『ドラえもん』らしい。そこが新しい感覚でしたね。みんなの意思疎通が取れて、題材のよさが共有されている中で作られていると実感しました。
――楽しみにしています! 本作に期待を寄せる読者へメッセージをお願いします。
中島『ドラえもん』の『牧場物語』をそのまま作るというよりも、双方が持っている長所をキチンと融合させて、まったく新しいゲームコンテンツとして作っています。どちらのファンにも、新しいものとして受け入れてもらえればうれしいです。
中野『牧場物語』はマーベラスにとって大事なタイトルです。今回の取り組みで、親子でコミュニケーションしながら遊べる新しいタイトルを生み出せたつもりです。現在、本作とは別に『牧場物語』シリーズの新作の制作も進んでおり、ここからさらに『牧場物語』は発展していきます。
山下僕自身が遊んでいた『牧場物語』の楽しいところをすべて拾い集めて、そこに『ドラえもん』のおもしろさを融合させています。「こういう『牧場物語』はいかがですか?」と、自信を持って提案できる作品になっていると思います。
杉田『ドラえもん』らしい要素をたくさん入れつつ、『牧場物語』らしいほのぼのとした雰囲気を出しています。どちらの要素もちょっとずつ取り入れているストーリーがたくさんありますので、家族愛というテーマを楽しんでいただけたら幸いです。